38話
始まりは領主の屋敷の中で
その後、完全に襲撃がなくなったことを確認するため、数日町に留まることとなった。
宿に行きたかったが、集団行動を乱すなと言われ、しぶしぶ屋敷で寝泊まりした。
もちろんリョウは女部屋である。
公爵のお抱えの料理人が作っているため、脂肪が多そうだが、おいしい食事が3食食べれた。
「このままじゃ、太っちゃう」
『太ってもかわいいよ』
心の中でつぶやくジュンイチであった。
数日間襲撃がなくなったことで、ようやくクエスト完了が言い渡された。
3パーティーでギルドへ行きクエスト報酬をもらい、ようやくパーティー解散となった。
「このままパーティーにいてくれればいいんだがな」
「いえ、これから向かうところがありますので」
「そうか、俺らはメンバーの里帰りが終わるまで、数日この町に留まった後レーベに帰るつもりだ。また再会できればいいな」
「その時はお願いします」
ミルと握手をし、別れた。リョウも仲良くなった女性メンバーと挨拶していた。
その後雑貨屋へ行き、買い物を行った。数日分の食材のみ購入する。
「馬車は結局いらないかな?」
「ジュンイチに乗って行けばいいからね」
『僕はあなたのロプロスです』
心の中で誓うジュンイチであった。
南の砦まで、馬車で約14日位かかるそうだ。
リョウを乗せてショートカットできれば、3日位で行けそうである。
乗り心地がいいように座布団もどきを購入し、僕の背中にマッチするよう裁縫した。
リョウと体が密着しないことは、決して残念ではない。決して。
「・・・3つのしもべに命令だー」
歌いながら空を飛んで行く。ちなみに荷物は腹に巻き付けてある。
近くから見ると、ちょっと残念な格好である。
「かーいちょーロプロスーそーらーをとべー」
リョウも合わせて歌いだす。今日は天候もいいし、絶好の飛行日和だ。
空から時折来る魔鳥は、交代交代で瞬殺していった。
「どーん」
今回はリョウの番である。
おいしそうな魔鳥は捕まえに行くが、基本は放置である。
夜間は少し広い場所に寝床を求め、炎竜を番犬にする。
まだこの周辺でも炎竜の効果は絶大だ。夜間襲われたためしがない。
椅子になりそうな石に座り、食後の紅茶を楽しむ。今夜は星が綺麗だ。
「それでねー、桃太郎が真剣白羽どりをしたんだー」
「あっはっはー」
相変わらずくだらない小話でも喜んでくれるリョウであった。
「じゃあ、次の話ね」
「・・くっくっ、もう笑い過ぎてお腹が痛い。もう終了・・」
「分かった、じゃあまた明日ね」
「明日もするのー?」
リョウとの時間は楽しい。この時間が永遠であればと思うジュンイチであった。
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その頃トーベは
「あー、姫さん、ゴールドプレートになるのは時間がかかるなー」
「それはそうですよユーマ、特に私はあまり役に立てませんから」
「あー、俺は今トーベと名乗っているから」
「駄目です。せっかくユーマという素敵な名前があるんですから」
「・・いや、その名前、きらきら過ぎて俺には似合わないから」
「い・や・で・す」
「分かりました、姫さん」
「私のことはちゃんとソフィアと呼んで下さる約束でしたよね?」
「あー、分かりました、ソフィア姫」
「ソ・フィ・ア・で・す」
「・・・分かった、ソフィア」
「//ふふ、ユーマ、様・・」
とてもいい雰囲気を醸し出す、2人であった。
現在シルバープレートとなり、ゴールドへのクエストをこなしている途中である。まだ数回のクエストをこなさなければランクアップできない為、暫くは西の大陸へ行けない2人であった。
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その頃レーコ達は、
「もう少し、のんびりしましょー」
「・・・」
中央の町で喫茶店に入り、フルーツジュースを飲みながら、まったりしていた。
「私忙しいのは苦手なのよねー」
「・・・」
無口ながら目線で相づちをうつケーゴであった。熟年のカップルを想定させる雰囲気であった。
町を襲撃しているモンスターとは、まだ戦っていない。
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結局5日かかって砦にたどり着いたジュンイチ達であった。
砦は地表部分がドーム状となっており、明らかに地下が存在している構造となっていた。入り口には石の門があったが、閉鎖させてはいなかった。
門を開き中に入る。人気がまったく感じられなかった。
「すいませーん」
中は天井の隙間からの木漏れ日が、薄暗い砦内部を照らしていた。リョウのファイアーボールをライター代わりに浮かべ、僕は中に向かって叫んだ。
「みみず・・・」
しーんとした砦内部から、確かに声が聞こえた・・・




