36話
「こっこれは!非常に貴重なアクセサリーです」
鑑定を依頼した魔道具屋の主人が叫んだ。
「効果は無属性魔法のシールドを生み出すことができます。魔力を込めれば込めるだけ強い防御力を生み出し、前衛はもちろん後衛職にとっては垂涎の逸品です。今なら数千万、いや、数億の値がつくでしょう」
「いや、売りませんから」
「えー、そんなことを言わず売って下さいませんか?公爵家に仕える魔法職の方が、10億懸かってもいいから探して欲しいと頼まれているんですー」
お願いしますーという声を後に、僕らは店を後にした。
「いやー、むちゃくちゃラッキーだね。本当にトントン拍子で必要なものが手に入ったよ」
「でもあの店のご主人さん、泣いてて可哀想だったね」
「でも僕らにも必要なものだからねー、しょうがないよ」
これでレッサーデーモン対策はできた。後は使いこなすだけである。
さっそくその日から訓練をすることとした。
ギルドの訓練場に行き、シールドを発現する。そこへ僕が投擲することでシールドの強度を確認していった。
徐々に投擲の威力を高め、最後には巨大な剣まで作り試して見た。
僕の最高強度の剣には一度は耐えれたが、そのまま壊れてしまった。
その後は、受け流す訓練に切り替えた。
一度壊れると再作成するのに若干のタイムラグが発生する。受け流しの練習は数日間続けた。
ある程度形になった頃、ようやくクエストメンバーが揃ったと連絡が入った。
顔合わせの為、予定された時間にギルドへ向かった。
中に入ると会議室へ案内された。
「ゴールドパーティーの皆さん、今回はクエストを受けて頂きありがとうございます。それではそれぞれ自己紹介をお願いします」
「・・もうすぐプラチナに手が届くアクソンパーティーリーダーのボルシェだ。お前ら足を引っ張るなよ」
いきなりの強者発言をするパーティーがいた。
レッサードラゴンを討伐したこともあるらしく、このクエストを完了すればゴールドの次のランクになるらしい。
面倒だったので、そのパーティーをリーダーチームに決定した。
出発する準備を整える。といっても今回はバスターズがほとんどものを購入した為、僕らは食材だけ買った。
そのまま町を出発する。
隊列は、僕らが先頭を任された。
何もしないのは心苦しかったので、御者を申し出た。申し訳無さそうにしていた為、その代わり夜営を免除してもらった。
リョウは僕の横に来たがったが、女性のメンバーに幌の中へ引きずりこまれていった。
今までと同様にモンスターを索敵したら、さくさく倒していった。
途中でイェローボアーの様なモンスターを発見したので、仕留めて置いた。貴重な食材をゲットした。
東の王国にいた種類より3ランク上の魔獣であり、その味は黄金の豚に匹敵するらしい。
おかげでおいしい食事を作ることができた。
作り終わってからボルシェがやって来て、
「おい、それを分けろ!」
と言って来てので、仕方なく分けてやった。
まだ味付けをしてない状態だったので、鍋ごと渡してやった。微妙な顔で食っていた。
僕らはきちんと味付けをして、購入した野菜等も投入し、非常に贅沢な逸品を味わった。
食後の紅茶を飲んだ後、片付けもささっと終え、幌の中で休ませてもらった・・・
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始まりはリョウの寝顔の前で
朝起きると目の前にリョウの顔があった。
いつの間にか僕の毛布に潜りこんで来たようだ。
びっくりしたが起こさない様に、毛布から出る。
「おはようございます」
夜営をしていたメンバーに声をかけ、顔を洗い、朝食の準備を始める。今日の朝ご飯はサンドイッチだ。昨日の肉をスライスし、買い込んだ野菜とチーズをパンに挟む。マヨネーズはないので肉汁に塩胡椒で味付けしたものを振りかけた。後は紅茶を作るだけの簡単なものとした。
バスターズだけに配り、それぞれが適当に食べ出した。好評だった。
リョウは相変わらず起きて来なかったので、彼女の分だけ取り分けて置いた。起きてから、幌の中で食べていた。
ずっと先頭を任されたので、やはり索敵したモンスターはさくさく倒していった。
小型の魔鳥を見つけたので、本日の食材として仕留めて置いた。こちらも3ランク上の強さと味わいを持ったモンスターの様だった。
昼ご飯を作っていると、またボルシェがやって来て、
「それをこっちによこせ!」
と言って来るものだから、中身を乾燥肉に取り替えたものを渡してやった。塩味がついていたので昨日より美味しそうに食べていた。
僕らは魔鳥のスープに舌鼓を打った。
途中でモンスターに邪魔をされなかったので、オランの町まで順調にたどり着けた。通常であれば10日から2週間かかる行程を、1週間で着いたのである。出迎えた領主はびっくりしていた。
ボルシェは自分の手柄にしていた。
そんな些細なことはどうでもいいので、僕らはみんなの後をゆっくり着いて行った。
その晩は歓迎会を模様してくれたが、アクソンのパーティーを置いて僕らはさっさと退席した。
次の日に領主から現状の説明がなされた。
日によって襲撃の個数は違うが、ほぼ毎日レッサーデーモンは現れるらしい。
壁際での攻防で現在はしのいでいるそうだ。
負傷者の数が少しずつ増えて来ており、10匹以上纏まって襲われた場合、陥落の可能性も出て来ていた様だ。
「俺のチームに任せておけ!」
ボルシェのビッグマウスが飛び出す。
作戦は、町の外へ打って出ることとなった。
我々冒険者チームと騎士団チームに分かれ、それぞれ別の個体に当たることになったのである。
個数が4匹以上になった場合は、撤退することになった。
「お前らは遠巻きで牽制しろ。決して邪魔だけはするなよ」
と言われたので、僕とリョウは遠くから小魔法を当てることにした。
レッサーデーモンの襲撃が始まったと報告が入った。アクソンパーティーを先頭に、町を飛び出して行く。僕らも後ろから着いて行った。
左側の1体に向かって駈けて行く。
「お前らは回り込めー、行くぞー」
予定通りアクソンパーティーが接敵し、他のものは周囲をぐるっと取り囲んだ。
小魔法を顔に向かって当てて行く。
前衛職は弓に切り替えていた。
「おーっ!」
ボルシェは敵の正面に大盾を構え、攻撃を牽制する。少し離れたところからアタッカーが攻撃し、更に後ろから魔法職が火魔法をぶつける。
回復職が、ボルシェを回復させる。
するとレッサーデーモンは、広範囲の火魔法を吹きかけた。
「ジュンイチ、彼ら危なくない?」
「大丈夫だ、まだ目が死んでない」
「そう?何か濁った目をしている様にも見えるんだけど」
そうはいっても、まだ介入はできない。
今討伐してしまうと後で何言われるかわからないのだ。
そうこうしている内に、背後にもう1体現れた。
「リョウ、あいつを片付けよう」
「分かった、了解」
ボルシェ達はほっとき、僕らは新たに出現した1体に向かった。
「スノーレインー、今だ、リョウいけ!」
「えーーい」
「どーん!」
宙を飛び、レッサーデーモンの頭上から氷魔法で凍らせる。ある程度動きが鈍くなってから、リョウを突っ込ませる。もちろんシールドは念のため展開させておく。レッサーデーモンの陰部をレイピアが貫き、その後レッサーデーモンは破裂した。
「ジュンイチ、まだ後ろにいる見たい」
「どんどん行こうか」
次の1体も凍らせ、リョウの1突きで瞬殺する。
すると更に後方に3体のレッサーデーモンが現れた。他のパーティーからかなり離れたので見えなくなり、めんどくさくなったので、凍らせてからリョウの最大火力で一編に片付けることとした。
「リョウ、やっちゃってー」
「どーん」
凍らせた後、リョウがレイピアから炎竜を出し、一気に3体纏めて倒した。
さすがに最早後方にはいなかったので、最初の場所に戻ると、まだ戦っていた。
呆れてしまって、先端をかなり尖らせて強固にした苦無を作り延髄に打ち込んだ。
動きが止まり、踞いたレッサーデーモンにアタッカーが留めを刺した。
「やったぞぉ!」
こうして僕らの初戦は終了したのであった・・・




