33話
「・・・ということで、西に向かおうと思います」
「いや、まてまて、何がということなのかが分からん」
「ちっ」
「いや、舌打ちするなし。他のみんなもうなずくなよ。知らないの僕だけ?」
5人が食堂に集まり、情報の共有とこれからの行動検討を行っているのだが、レーコが突然仕切り出した。
「いちいち私から説明するのは面倒なので、トーベさんお願いします」
「あー、・・・っま、そういうことで西の大陸に行くんだ」
「いや、説明になっていないし。あれだろ、西の大陸に向かうんだろ?そこからしか魔王城に行けないんだよね?その為にはゴールドプレートにならないと行けないから途中でクエストを受けるんだよね?」
「分かっているじゃないですか」
「説明を省くな!読者に分かりやすくするんだ!」
「いや読者が誰なのかは置いといて、後2・3回シルバークエストをこなせばみんなゴールドプレートになれるはずです。トーベは暫くランクアップできないから、ソロでの活動になりますね。ただ、俊敏が使えるからそんなに遅れることはないでしょう。まずはパールに向かいますね」
「あー、パールに向かうのは向こうで護衛クエストを受けた方が、往復になるため都合がいいからだよね」
「説明ありがとうございます。西の大陸の情報や、渡った後の行動予定は4人がゴールドプレートになってからということでいいかしら?」
皆一斉にうなずく、僕以外。
僕をはねて、4人で相談していたの?
ま、納得できるからいいけど、ちょっといらつく。
「ジュンイチもいいよね?」
「・・・うん」
リョウに言われれば納得できるジュンイチであった。
レーコに仕切られるわけにはいかない。
青春の一コマである。
早速4人で馬車に乗り込み、メイプルの町で買い足しをする。
御者は相変わらず僕だ。
他の3人は幌の中で、キャッキャッと騒いでいる。
ケーゴ、お前もか。
途中のモンスターはみんなを呼ぶのはめんどくさいので、さくさく僕が片付ける。はっきり言って無双だー。
飛んでいる鳥がいれば狩り、向かって来る豚がいれば狩り、踊っている牛がいれば狩る。いや、冗談ですが。
とりあえず肉は確保できるので、道中の食事は相変わらず豪勢である。
料理はリョウと一緒に行う。この瞬間と食事の間が一番楽しいひと時である。
王都で購入した紅茶を沸かし、食後のひと時を楽しむ。この間のモンスターの警戒はレーコにお願いした。まあほとんど出てこないため、警戒しているかどうかは不明だが。
レーコの風魔法でさくさく進み、パールの町に着く。
早速ギルドに行き、護衛クエストを受けるのであった。
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トーベはすぐには王都を出ず、異世界の門をくぐった。
俊敏で偶像のあった洞窟に向かい、中に入る。
しばらく行くと、隠されている部屋の扉を開けた。
「やあ、久しぶり。動けるようになったかい?」
「ええ、お陰様で、もう普通に動けるようになったわ」
「それじゃあ、そろそろ帰ろうか?」
「ええ、お父様、お母様に会うのも久しぶりな気がするわ」
「実際久しぶりだろ?」
「ふふ、そうね」
中には色白金髪で妙齢の美人がベッドの上に座っていた。
トーベの話が終わると、立ち上がり、トーベに向かって両手を向けた。
「あまり急がないでね?以前の様に激しくされると、気を失ってしまうわ」
「気を付けます、お姫様」
恭しく跪くと、お姫様をお姫様だっこし、洞窟を出ていくトーベであった・・・
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護衛クエストはすぐ受けられた。
ギルドで確認すると、前回のレッサードラゴン討伐により今回のクエスト完了でみんなゴールドプレートになれるらしい。
護衛クエストを受けたのは自分たちのパーティーと、もうひとグループのパーティーであった。
「さあ、さっさと荷物を積んでくれ。気を付けて運ぶんだぞ、貴重品も入っているんだから」
荷物を積むところからが依頼に入っているそうだ。
つよさはもはや10人力なので積み荷など小指で持てる位だが、そんな訳にはいかず丁寧に荷作業を行う。
ケーゴに持たせればいっぺんに終わるのであるが、僕たちは粛々と荷物を積んで行く。よく見るとレーコだけが風魔法で浮かせてずるをしている。しかも自分も浮いているようだ。
まじめに働きなさい!
「あー、こんにちは。前回は助けてもらってありがとうございました」
荷作業が終わり、もうひとグループのパーティーと顔合わせを行った。
どこかで見た顔だと思ったら、サンドラへ行く途中助けたパーティーであった。
「あれからまたメンバーを募り、活動を再開したんです。頂いた魔石は1000万ゼニーもしまして、壊れた武器や防具より数段高い装備が購入できたんです」
よかったね。
とりあえず、僕らのパーティーが先行し、間に商人達を挟み、殿をそのグループに任せた。
道中はさくさく進む。
モンスターが出現すれば、僕がさくさく狩る。
肉は飛んでいる鳥を捕まえる。
食事は相変わらず豪勢な食事を作っていたが、うらやましがられたので、もうひとつのパーティーも誘った。商人は呼んでない。
野営は流石にリョウのドラゴンを出すわけにもいかなかったので、交互に行う事となった。ただ、もう一つのパーティーの力量はいまいちっぽかったので、僕とリョウ、レーコとケーゴが交代で行う事とした。
レーコはぐっすり休んでおり、モンスターが近づくとケーゴが対処していたようだ。リョウは僕に休むように言っていたが、2人きりとなって寝付くこともできず、夜明けまでひそひそ話をしていた。もちろんモンスターは僕の攻撃で対処した。
「・・・ぽちはいいました『はなさんかじいさん!』」
「・・くっくっくっ」
ひそひそ話で小話をすると、大笑いできないので全身を振るわせてリョウは笑った。
「・・もう、ゆるして・・」
「ぇー、もうひとつ面白い話があるんだけどなー」
下らない小話をしながら、夜は更けて行った。
メイプルの町に着き、積み荷を降ろして別の品を積み、またパールの町に帰る。
途中まで何事もなく、一行は進んで行く。
すると、前回襲撃に会った同じ場所でまた山賊の襲撃に会った。
「レーコ!山賊だ!シールドをよろしく!」
「りょーかーい」
気の抜けた返事とともに、レーコの風のシールドが全ての馬車をシールドする。
僕は飛んでくる矢の襲来を避けながら、山賊の直上まで飛来する。
しゅしゅしゅと氷の苦無を飛ばし、矢を射た前方の山賊を全て無力化する。
崖の上からも矢が飛んで来たので、そちらに向かう。矢は全てレーコのシールドで弾かれた。崖の上の山賊も同様に氷の苦無で鎮圧する。
後方からも山賊の一行が確認できたが、他が全てやられた後は踵を返し逃げて行った。それを見届けた後、御者席に戻る。後ろの商人や、殿のパーティーは襲われたことに気づいていない様だった。
「おつかれー」
そういうとレーコはまた幌の中に戻って行った。
「・・・不毛だ」
首を刈るのも気持ち悪いので、死体はそのままにし、パールへ向けて進むジュンイチ達であった・・・




