32話
数日の旅路を終え、王都にたどり着くジュンイチ達であった。
帰りはレーコの風魔法も使い、ありえない速度で馬車は進み、行きの半分の日程で帰って来たのだ。
「さて、王都に着いたけど、みんなはどうする?」
「・・しばらくはトーベの帰りを待たないといけないよな」
「私は王都の図書館に行って、文献をあさるわ。魔王の弱点や城の位置の確認なんかをしようと思うから」
「・・・私は元の世界で用事があるから、一度向こうに戻るね。多分数日で戻れると思うけど・・・」
「うっ、そうか、ケーゴはどうするんだ?」
「・・僕は魔法スキルの練習がしたいので、ちょっと山籠もりしてくる。僕の魔法を近くですると、多分地響きがするから少し離れなくちゃいけない」
「うーん、だったら僕はどうしようかな?」
みんな大体することが決まっているようで、ジュンイチだけが予定のない状況であった。王都でみんなと遊ぼうと考えていたため、いきなりすることがなくなったのだ。
「ジュンイチは騎士の人に剣を教えてもらったら?確かリーヘイさんだっけ?出発する前に手ほどきしてもらった人がいたよね?」
「・・うん、そうすることにするよ」
リョウからの提案を受け、暫く双剣の腕を磨くことにしたジュンイチであった。
レーコとはその場で別れ、ケーゴを城門まで見送り、リョウと異世界の門に向かった。
「じゃあ気を付けてね」
「うん、ジュンイチも頑張って」
「・・・僕もついていこうかな?」
「・・ごめんなさい。今してることはちょっと秘密なの。一緒には行けない」
「そうなんだ、いや、冗談だよ。頑張ってね」
「もし、さみしくなったらジュンイチの武器に話しかけて見て。もらった鞘と交信できると思うから。この前炎竜がそう教えてくれたの」
「そうなんだ。分かった、そっちからも連絡くれよな」
「うん」
こうしてリョウを見送り、ジュンイチは訓練場に向かうのであった。
リーヘイはジュンイチを覚えてくれていたようである。
「おー、久しぶり、ジュンイチじゃないか」
「久しぶりです、リーヘイさん。また稽古をつけてもらおうかと参りました」
「そうかそうか、いいぞぉ、たっぷりしごいてやるから覚悟するんだな」
「うっ、お手柔らかにお願いします」
若干失敗したなっと思うジュンイチであった。
そして、双剣の修業が始まったのである。
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リョウは日本に帰り、素早く行動を開始していた。あまり時間をかけられないのだ。
「頼んでいたことはできていますか?」
「はい、賛同者は今や10万人を超え、組合員も5千人を突破しました。リョウ様が帰られましたことを幹部に伝えましたので、今晩中には敵対組織との会合も開けるかと思います」
「他の組織の主だった幹部は全員揃うのね?」
「一部マイナーな組織は来ませんが、ほぼ全ての主だった組織には連絡を付けてあります。危険はありますが、きちんとした会場を設けましたのでレーコ様やケーゴ様をお呼びしなくても大丈夫かと思います」
「分かりました。ではその前に総理官邸へ参ります」
日本での組織活動の状況を素早く確認しつつ、リョウは車に乗り込むのであった・・・
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リーヘイの教え方は上手であった。
最初なれない腕の動きや足捌きなどを教わったが、理解できなかった。
その後リーヘイが他の騎士との組手をジュンイチに見せ、動きの理論を教えたのだ。やってみせ、させてみせて間違った動きを指摘する。ジュンイチは徐々にリーヘイの双剣の型をマスターして行くのであった。
「それにしてもリーヘイさん、教え方が上手ですね。なんで双剣が流行らないのかが不思議です」
「あー、それは隊長のせいだね」
「悪者なんですか?」
「いや、そうじゃなくて、逆にカリスマなんだ」
近衛騎士の隊長であるドランは英雄である。聖剣を持ちドラゴンバスターの異名を持つ皆の憧れなのだ。大抵ドランに憧れて入隊する騎士たちはドランに教えを乞う為、両手剣を習うのである。
「へー、そうなんですか」
「ああ、それでも隊長に教えてもらうことは、忙しすぎてあまりできないんだがね。ああそうそう、今度模擬戦があるんだが、ジュンイチも出て見ないかい?」
月に1度トーナメント方式の騎士団剣闘大会があるらしい。今度の大会はドランも出場するため優勝はドランに決まってしまっているらしいのだが、手合わせをしたい騎士たちはこぞって参加を表明しているらしい。
「いや、僕は見学でいいです。まだ型を充分把握していないので」
「そうかい。大会は3日後なんでよかったら見においで」
ドランとの手合わせにも興味があったが、現状はそこまで戦いたくもない。スキルを使えばそこそこ戦えると思うが、勝つことには興味が湧かなかった。逆にリーヘイの戦い方に興味があったので、大会には見学に行くこととした。
朝起きてから軽いストレッチを行い、すぐ訓練場へ行く。スキルや魔法の練習は今はおいて置く。ゆっくり型をなぞりながら両手に持った短い木刀を動かす。徐々に素振りを早くしながら、習った全ての型を反復する。
小一時間、切りのいいところで一旦体を拭き、朝食をとってから又訓練場に向かい、リーヘイの教えを受ける。大概リーヘイは午前中だけ時間が開いており、その間今までの型の復習や新しい型を教えてもらう。
午後は訓練場の隅で習った新しい型をなぞる。
両手剣と違い双剣は多種多様の型が存在し、覚えるのは至難の業であったが、実は基本動作の応用なのだ。基本を教え、応用を伝える。どの時にどの様に動けばいいかを懇切丁寧に教えてくれる。覚えきるまで3日かかったジュンイチだった。
「これで全ての型は教えたつもりだよ。後は基本を反復し、応用を覚えて行けばいいだけだ。ジュンイチはこれで免許皆伝だね」
「いやいやいや、まだまだ全然です」
「忘れたらまた教えてあげるから、暫くは一人で型の練習してみなさい」
「はい、数日間ありがとうございました」
「明日は言ったように大会がある。僕もでるから応援してくれ」
「ええ、僕もリーヘイさんが模擬戦でどう動くのか、見させて頂いて勉強したいと思いますので、しっかり応援しますね」
「ははは、一回戦で負けたりして・・・」
「いや、そんなことはないでしょう」
その後はまた一人で鍛錬を行う事になったのである。
トーベやリョウ、ケーゴはまだ帰って来ない。
リョウとはブレーサーを通し、毎日その日の出来事などを話している。向こうは細かいことは教えてくれなかったが、今日はどこに行ったなど場所は教えてくれた。後数日はかかるようだ。
レーコとは時々食堂などで出会う。まだ調査中なのでまとまった話はできなかったが、魔王の城は西の大陸から行くことになるという。ゴールドプレートが必要になりそうだ。
翌日となり、大会を見に行く。
そこには修羅が2人居た。
ドランの無双は予想できていたが、リーヘイの動きも素晴らしかった。
ドランの剣は一撃必殺とも言うべき正面からの縦切りであり、剛剣により相手の武器を弾き飛ばして行った。対戦者が前に来ようが、後ろに引こうが、薙ぎ払いで来ようが、ほぼ相手と一定の距離で決着がつく。先の先をとるとはこのことだろう。
リーヘイはそれに対して剣を捌き、頸部に寸止めを行い決着をつけて行った。後の先である。動きは今まで教えてもらった型であり、相手の動きにより応用の型を用いる為非常に勉強になった。
2人とも特に疲弊せず勝ってゆくため、あれだけいた対戦相手はさくさく消化され、ついに2人の対戦となった。
隊長、副隊長の模擬戦なので会場は大盛り上がりであった。
ポップコーンとコーラが欲しい。
2人とも特に発語することもなく向き合う。
しーんとしたにらみ合いが続く。
先に動いたのがどちらかが分からない。
「かーん」と軽い音がし、決着がつく。
互いに相手の急所へ自らの武器を寸止めしていた。
「参りました」
言ったのはリーヘイであった。
「うむ」
ドランは一言だけ話す。
えっ!ドランが勝ったの?引き分けじゃない?なんて思ったが、周囲は納得しているらしい。
納得できん!
後でリーヘイに確認したが、リーヘイの武器が首筋に至るより先にドランの武器が頭へ到達したらしい。速度もドランの方が早く、いわゆる剣勢がドランの方にあったということらしい。
ふーん?なるほど、分からん。
まあ、僕にとってはリーヘイの動きが参考になったので、それで充分だったのだが。
その後、数日してトーベ、リョウ、ケーゴが城へ帰って来たのであった・・・




