30話
「モンスター発見!トロール約5匹、左前方から襲撃、先行します」
サンドラまでの道沿いではあまり討伐がされていないようで、度々モンスターと遭遇した。しかし、僕らにとっては丁度いいフォーメーションの練習台であり、特に脅威を感じることなく討伐可能であった。
「5匹全て足止め完了!」
「了解!ケーゴ接敵して!リョウは右側から首上を狙って遠距離攻撃!トーベは左側に待機して」
「「「了解」」」
今回はメイジが居ない様で、リョウの攻撃で3匹が倒れ、ケーゴはシールドを張るまでもなく一振りで全滅させた。トーベはモンスターの奥を警戒し、僕は周囲の警戒を空中から行う。連携がスムーズに取れてきた。これまでの数回で、ようやくフォーメーションのリズムが取れてきたようだ。
最初の頃はリョウが被弾したり、ケーゴに後ろから攻撃を当ててしまったりしたこともあり、必ず回復が必要だった。その都度ミーティングを行い、声掛けの重要性や指示を出す指令の一本化など、パーティーの役割について反省会を行った。
今回の様にスムーズに撃破した場合も必ず反省会は行った。ただ、徐々に確認事項は少なくなってきた。
「ジュンイチの位置はちょっと高すぎるわ、もう少し低い位置で飛んで。それから馬車を止めるときは、もう少し静かにしてもらいたいわね」
「・・・はーい」
だんだん細かい指示になり、少しずつうざくなってきたが、こういうことも大事なのだと心を戒める。
「ジュンイチはよくやってるよ」
リョウは潤んだ瞳で僕を見つめる。どうも少しアゲアゲのマインドコントロールをしてくれているのか、気持ちがちょっとほっこりする。
こんなやり方なら、どんどんしてほしいと思うジュンイチだった。
「・・別にコントロールはしてないよ、・・意識的には」
無意識でしてくれてるらしい。ええ子やのぅ。
今のところレッサードラゴンはまだ遭遇していない。剥ぎ取りが出来ればおいしい稼ぎになるので、一回くらいはお目見えしたいと思っている。ただ、リョウの炎竜の見張りが強いため、もしかすると近づかない様にしているのかもしれない。今晩も、トロールの腿肉を食材においしい食事を作り、がっつり食べて、風呂を沸かして寝た。
ここに来て、リョウとケーゴの魔法スキルはカンストした。後はみんなのレベル上げだけである。リョウの攻撃は更に段階が上がり、なんと炎竜そのものを呼び出し、全体攻撃ができるようになった。また、レイピアを相手の急所に当てることさえできれば、内部から破壊することもできる様だ。ただ、接敵の問題があり、なかなかその技を使用することはできなかった。
ケーゴは全身をダイヤモンドの様に硬くすることが出来るようになり、敵に最接近ができる頼もしい前衛となった。盾は特に必要でなく、全体の防御を要するときには自分の武器を地面に突き刺すことで、巨大な城壁ともいえる土壁を作ることが出来るようになった。ただ、今はあまり必要な敵と出会っておらず、戦闘時にまだ見せたことはない。
もともとスキルカンストしてるトーベだが、今はあまり目立った活躍はない。しようと思えば一瞬で接敵が可能なのだが、武器が脆いため相手を削ることができない。闇魔法も相手の視力を奪う程度で、そこまでの脅威がない。ただ影の中に物を入れることが出来るようで、剥ぎ取り素材などを入れて置けるのは便利だった。レベルが上がるにつれ、徐々に収容能力が上がっている様だった。
レーコといえば、的確な指示を送っているのは流石である。人のスキルを完全に理解し、知識にあるモンスターであればどの様な陣形を組めばいいか瞬時に判断できる様だ。また、回復魔法や防御魔法、移動魔法も的確に使用しているようだ。
その中で、僕はレーコに叱られながら、リョウに慰められながら、ケーゴやトーベの邪魔をしながら、フォーメーションに慣れるよう苦労していた。人と交わることが少なかったため、頭で理解しても体が慣れるまで時間がかかったのだ。
そうこうしていると、遠くでレッサードラゴンと戦っている人が居ることを見つけた。
「レッサードラゴン発見!現在他のグループが戦闘中!」
馬車の中に叫んだ。
「まずは様子見よ!トーベ、確認しに行ける?」
「分かった、ちょっと行って来る!」
トーベが斥候するらしい。
あまりみんなで近づくと、モンスターが逃げたり、戦闘の邪魔になるかもしれない。僕らはその場で待機となった。
レーコだけが、少し離れてついて行った。
『応援要請!馬車を置いて、至急集合!』
遠くからレーコの大声が聞こえる。風で拡声している様だ。
僕は空に飛びあがる。シュミレーション通り、翼を凍らせるのだ。
トーベは馬車まで戻り、ケーゴをおぶった。距離があるため連れてゆくらしい。
レーコはそのまま他のグループの元に向かう。回復魔法やシールドをすると思われる。
「スノーレイン!」
別に言わなくてもいいのだが、作成するイメージを分かりやすくするため声にする。
雪の様に小さい粒を両手に生み出し、吹雪の様にレッサードラゴンの翼へ叩きつける。
徐々に翼が重くなり、飛べなくなるレッサードラゴン。
そこへようやくケーゴがたどり着く。
「ウオール!」
多分これも言わなくていいと思うが、叫ぶケーゴ。言いたい気持ちはよくわかる。
大きな壁がレッサードラゴンの前に出現する。これでブレスは防げる。
ケーゴは壁の上に乗っており、飛び降りながらドラゴンへ攻撃を加えた。
「ふんっ!」
がこーんという音がして、レッサードラゴンの頭へケーゴの棒が食い込んだ。
「ぎゃあーんあぁあー」
たまらず泣き叫ぶレッサードラゴン。
そこへレーコが下から風を送る。
頭が上がり、腹が露出した。
トーベが切りかかるが、武器の強度が足りない。
そこで僕が、大きな氷剣を作成し、心臓へ突き刺した。
貫いた後、直ぐ剣を壊す。ぷしゃーと心臓から多量の血が流れ出てくる。
どすんとうつ伏せでレッサードラゴンは倒れ、しばらくぴくぴくと動いていたが、数分後動きがなくなった。どうやら討伐できたらしい。
初討伐である。
「ありがとうございましたぁ」
戦闘していたパーティーは半壊しており、数人無くなった人もいる様だ。けがをしていた人はレーコが治癒魔法を行った。
僕とケーゴ、トーベは剥ぎ取りを行う。レッサードラゴンの皮、牙、肝などは高値で売れる。肉もそこそこの味なので、慎重に剥ぎ取りを行う。また、魔道具に使用する魔石もとれる為、心臓も採取する。割と大きな魔石が採取され、それは戦っていたパーティーに上げた。遠慮していたが、立て直す為にはお金が必要だ。無理を言って引き取ってもらった。
他の素材は馬車に乗せ、僕らがもらうこととした。
「この後どうするんですか?」
「さすがに帰ります。できればサンドラまで送っていただければありがたいんですが」
半壊したバーティーは馬車もつぶれており、トーベの収納も満杯であり、レッサードラゴンの素材が山と積まれた中でみんなで小さくなってサンドラへ向かうことになったのである・・・




