26話
「夕べはお楽しみでしたね」
道中剥ぎ取りをしたものがあったのだが、疲れの為交換することもせず、昨夜は速攻で食事に行って宿で寝たジュンイチであった。特に変なことをしたわけではない。
「あー、お世話になりました」
変なことをいう宿の主人に挨拶して、ギルドへ向かう。邪魔な討伐証明などを換金しておくつもりだった。
しかしギルドはなぜか、喧騒に包まれていた。
「君も冒険者かい?悪いが強制クエストだ。すぐに集まってくれ」
少し強面のおっつぁんに、いきなり引っ張られた。換金する間もなく、2階の会議室へ放り込まれた。仕方なく席につき、暫くするとおっつぁんの説明が始まった。
「あー、諸君、集まってくれてありがとう。今から強制クエストの説明をする。静かに聞いてくれ」
要するにモンスターのスタンピートが起こったそうだ。珍しいことに王都とメイプルの間で発生したらしい。おおもとは王都の北で、突然発生した火山が原因らしい。ちょうど3ヶ月前に噴火し始めたそうだ。
街道沿いは衛兵によって討伐されたが、周囲にはまだたくさんのモンスターがおり未だ危険を排除できていない。今までもギルドに依頼が来ていたのだが、ここに来てようやく強制クエストが発動されたのだ。運悪く、その日にジュンイチは帰って来たらしい。
「ではみんな、よろしく頼む」
爽やかにおっつぁんは締めくくった。
「えー、面倒くさいー」
と小さな声でつぶやくジュンイチであった。
とはいえ強制クエストを断ることはできない。断ればランクダウンか、へたをすればギルド排斥になる。渋々討伐に向かうのであった。
モンスターの主体はオーガであり、希にオーガロードやワイバーンが混じる。今のジュンイチには楽勝であった。
面倒なのは数が多い為、剥ぎ取りができず、いくら狩っても報酬はいっしょということだ。その為無双する気にはなれなかった。
人の後ろをついて行き、人目がない時に小さな、非常に硬い氷の礫を急所に当てる。気がつけば、ほぼ瀕死のモンスターが目の前におり、前衛がとどめをさすということが続いた。氷の礫は、後に残らない為、弱った原因は他のモンスターに攻撃を受けていたということにされた。
少し憤慨したが、説明するのも面倒なのでそのままにしておいた。
強制クエストは数日続いた。
結構多量に経験値も稼ぎ、ジュンイチのレベルも50になった。
10日後、ようやく強制クエストから解放された。報酬をもらい、王都に向かう。衛兵とたびたびすれ違うが、モンスターとは出会さなかった。
メイプルと王都の距離は、徒歩で半日である。衛兵の目があるので、あまり急ぐことができず、少しはや歩き程度で王都に着いた。時刻はもはや夕方である。本日は宿で食事をし、さっさと寝た。
翌日ギルドから王城に使いを出してもらい、リョウ達と会う段取りをつけてもらった。
王城から使いが来て王城へ向かう。
貴賓室の様な部屋へ通され待たされる。
するとリョウ達が入って来た。
「ジュンイチー、久しぶりー。さっそくだけど北の山に武器を置いて来たので、一緒に取りに行こー」
「犯人は、お前だ」
スタンピートの原因は、リョウだった様だ。原因に気付き、頭を抱えるジュンイチであった・・・
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王城は堅牢の都であった。
北から東西に向けて山脈が連なり、自然の要塞となっている。唯一南の出入り口には、今まで見たことのない数メートルにも及ぶ城壁が存在し、モンスターの侵入を阻んでいる。
メイプルから王城までには大概モンスターは駆逐させているので、ここまで堅牢な状態は不必要と思われる。過剰防御であり、まるで将来何か大変な敵が現れることを想定している様だ。城壁に入ってからも迷路状になった町並みや、3重になった城壁等、不自然な程何かから守る様になっていた。
王城も耐火レンガを積み重ねて防御力を上げていたが、その有り様は美しく、燃える夕日に照らされ、幻想的な光景を醸し出していた。
リョウ達と再会し話を聞くと、彼女達は王城に存在する門をくぐり元の世界に戻っていたそうだ。そしてついさっき、この世界に戻って来たらしい。
向こうの世界に行く為には、炎竜の武器だけ(まだ鞘がない為に)持って行くことができず、北の山に置いて来たんだそうだ。
「ジュンイチが来るのを待ってたんだよー、一緒に取りに行きたくて、テヘペロ」
かわいこぶってもだめです。
「・・んじゃ、取りに行こうかー」
・・・リョウには弱いジュンイチであった。
北の山は、火山になっていたが、特に問題なく武器の回収はできた。
「この鞘を使ってみて」
双竜にもらった鞘を渡す。
「ありがとう」
さっそくレイピアを鞘に入れ、話かける。
「ぎもっぢいーー」
炎竜の声が響く。気にいった様だ。
今までの状態は硬く壊れないだけであったが、ようやく武器本来の力が出せる様になったみたいだ。
再度レイピアを取り出し、空に向かって‘’うつ‘’と盛大な炎がレイピア先端から放出された。
「ジュンイチ、ありがとう」
「どういたしまして」
久しぶりの二人きり、言葉少なく北山から下りて行った。
「ところで立花はそろそろ来るの?」
「うん、もうすぐ王城に着くんじゃないかな?」
「今回は立花の命令なの?」
「命令って言うか、依頼かな?」
「そろそろ僕にも状況を話してくれる?」
「・・・うん、いいよ。立花君が来てからでもいいかな?」
「もちろん」
今となってはあまり重要ではないが、話すネタがない為気になることを聞いてみた。
会話は続かないが、この沈黙は僕には悪くなかった。
隣を歩くリョウの存在が、そこにいるだけで、僕には嬉しかったのだ。
デートと言ってもいい時間を過ごし、僕達は王城に帰って来た。
時刻は既に夕方となっていた。
その日は夕食をみんなと一緒に取り、楽しく馬鹿話で盛り上がって、風呂に入り、王城に泊まらせてもらったのであった。
翌日は、すっかり寝坊してしまった。
朝練をしなかったのは、忙しい日を除いて久しぶりだった気がする。
水桶で顔を洗い、新しい服に着替え、食堂を探した。
メイドさんに案内してもらい、朝食を頂く。他のみんなは、既に食べ終えており、現在は各々部屋で休んでいるそうだ。
みんなのところへ行くのも少々憚られたので、少し身体を動かす為に訓練場へ案内してもらった。今は近衛騎士が訓練しているらしい。僕は邪魔にならない様に、隅で演舞を始めた。
「こんにちは、変わった動きだね」
ある程度動いていると、騎士の一人が話しかけて来た。
「あっ、どうもこんにちは、独学なのでいいかげんなんです」
「動きはいいけど、所々不合理なところがあるね。よかったら騎士の剣を教えようか?」
彼は、騎士団の副団長、リーヘイと名乗った。
多くの騎士団員は両手剣を使用するが、彼は入団する前から双剣を使っており、今でも双剣の使い手なんだそうだ。
双剣を使っている騎士はほんの数人であり、副団長のリーヘイは人に教えたくてうずうずしていたようだ。
リーヘイの実家は、由緒正しい双剣の使い手であり、本来秘伝だそうだが、
「剣法というものは人が使ってこそ意味をもつ。秘伝なんて意味がない」
という考えの元、がっつりと双剣を教えて貰うことになった。
暫く、リーヘイに学んでいると、立花が城へ着いたらしい。
修練を終了し、みんなが集まったところへ行く。
そこで僕はとんでもない話を聞くことになるのであーるー・・・




