25話
始まりは毛布の中
硬くなった身体を伸ばし、水場で顔を洗う。いつもの様に演舞を行い、鍛練をする。最近は最後に海へ行き、海を割る練習を加えた。もう一度水場へ行き、汗を拭う。
結論として、神殿攻略の方法は考えつかなかった。
パールの町で魔道具を探したり、作成依頼を持ちかけたが、呼吸方法に関する回答は得られなかった。続けて神殿の渦に行き、渦を割る練習を行う。ある程度は割れたが、神殿までは届かない。
結局スキルレベルが上がるまで、解決方法は見つからなかった。が、レベルが上がったとたん、神殿に行く方法は解決できたのだ。
スキルレベルが上がったその日、さっそく僕は渦の上までやって来た。
渦に向かい手を翳すと、簡単に神殿が露出した。
「・・・簡単に行けるじゃん」
今までの苦労は何だったのだろう、海は割れ渦の外側まで水は引いていた。
ゆっくりと神殿の入り口まで降りて行く。入り口に入ると前回同様頭に声が響いた。
『資格を持つ者よ、進むが良い』
迷宮だった壁は奥まで割れ、道ができる。ゆっくりそのまま進んで行った。最奥の場所にブレーサーと2匹のドラゴンの偶像が存在した。
『私は双頭のドラゴン、双竜とも呼ばれている。そこにあるブレーサーを嵌めるが良い』
ブレーサーは誂えた様に僕の腕にぴったりと嵌まった。
『そのまま腕を私に向ければ、私の力が手に入る。その前に左側にある鞘を持って行ってくれ。以前炎竜に頼まれた物だ。炎竜に届けて欲しい』
鞘をベルトに差し、両手を偶像に向けた。
『私が中に入ればこの神殿が崩壊する。入り出したらすぐ逃げるのだ。逃げ道は作ってやろう』
ずるずると偶像が動き、ブレーサーに向かって来る。そのまま入り込んでくると同時に神殿の屋根が崩れる。更に柱に皹が入り、ぴしぴしと音が鳴り出した。
竜が完全に入るまではまだかかりそうであったが待つ暇も無く、僕はその場から逃げることとした。
宙に浮かび海の上を目指す。神殿を出たとたん崩壊が始まった。更に海が崩れて来る。この光景を見ることができる人があれば、きらきらとした美しい光景だったことだろう。しかし僕にはそんな余裕はなかった。前後左右から海が迫って来る。
すぽんっという感じで海から飛び出す。そのとたん勢いのついた海水は水柱となり更に迫って来た。逃げることは可能だが、へたをすれば津波が発生する恐れがある。僕は当然の様に両手を向け水柱を凍らせた。
「このままにしておけば徐々に溶けるから、大事にはならないだろう」
それにしてもスキルを使い過ぎた様だ。全身に疲労感が感じられた。このままでは海に落ちてしまいそうだった。力を振り絞り、舟に戻ると共に僕は意識を失ったのであった・・・
気がつけば、もう真夜中であった。
綺麗な星空を眺めながら、舟を町まで動かすのであった。
宿に戻り、毛布にくるまり、泥の様に眠った。
翌日女将と旦那に調査が終了したと伝え、別れの挨拶をした。
ようやくリョウに会える、逸る気持ちを抑え、僕はメイプルの町へ向かうのであった。
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さかのぼること3ヶ月前、王城に向かった3人は異世界の門の前にいた。
「もう時間がないんだよねー。ジュンイチにも説明したかったんだけど、納得させるのには時間がかかるからね」
「・・そうですよね」
「まあ、帰った時には立花がいるから、きちんと説明できるし、その時には少し時間があるから、ゆっくり話をしましょう」
「・・そうですね」
会話をしながら門をくぐる3人の姿があったのだった。
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ハルツールの町を出たジュンイチは、人気がないことを確認した後、空へ浮かんだ。パールの町に寄らずショートカットでメイプルを目指すことにしたのだ。
固有武器の影響か寒さに強くなった為、アクセサリーを外す。売るか譲るか解らないが、捨てることだけはもったいないのでリュックにしまう。
念力スキルがカンストした影響で、手のひらを下に向けなくても浮ける様になっていた。まるで足の裏に手のひらがある様だ。その為いろんな格好で飛ぶことができた。
「ららら、そーらーをこーえてー」
アトムのポーズをとったり28号やガメラの格好をもしながら飛ぶ。少し浮かれている様だ。
固有武器の扱い方は、すんなり理解できた。使いこなせるかどうかは別であるが。両手に水を生み出し、念力で剣の形にする。それをブレーサーの力で固める。片手剣の出来上がりである。空中で演舞をする。
その後は、今度は苦無を生み出す。投げると同時に次の苦無を作り、連続で投擲を行う。もはや購入する必要がなくなった。薬入りは注入しなくてもそのまま作れば良い。作成する武器の温度を下げれば下げるだけ強度がました。
メイプルの町を目指し、飛んで行く。疲れたら降りて休憩する。まだ2時間しか連続飛行はできない。
休憩は氷のシールドを展開し、周囲の魔物よけとした。丸いシールドを作る、まるでエスキモーの家の様に。ベッドを作成しても寒くはないが、硬くて寝にくい為、毛布を敷きその上で休む。
食事は鳥鍋だ。狩った鳥を捌き、鍋で煮る。火は作れないが熱い湯は産み出せる様になった。また水に手を近づければ、時間はかかるが沸かすこともできる様になっていた。
「・・調味料を買っておけばよかったな」
微妙な味の鳥スープを食べ終え、毛布にくるまり眠りに就くのだった。
メイプルに着いたのは、出発してから3日目の昼だった。直接王都に行くには人目につき過ぎる為、避けたのだ。
メイプル北西の森へ静かに降り立ち、街道へ出る。そのまま走って門へ向かった。
「うひゃー、久しぶりー」
久しぶりのメイプル料理を堪能してから、王都に向かう決心をするジュンイチであった・・・




