24話
始まりは、森の中
僕は鬱蒼とした木々の間にうつ伏せで倒れていた。
耐寒のアクセサリーのおかげで寒くはないが、現在は秋の終わりである。体がカチカチになっていた。
「うぅっ」
しゃべることもできない。リュックも水浸しであったが、ポーションは無事である。こわばった体を動かし、HPポーションを探る。ゆっくり飲んで行き、神殿での出来事を思い浮かべる。
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予定通り渦の中心まで行った僕は、思い切って飛び込んだ。
思った様に目の前には、建物が存在した。
渦の中心を通ればそのまま建物に到達することができそうだ。ただ流れが速く、帰ることが出来そうもない。
「やっちまったな」
男は度胸、このまま進むしかないと思い、神殿へ向かって泳いで行く。
神殿は氷で作られており、入口は一つしかない様だ。そこへ向かって泳いでいく。
徐々に息が苦しくなって行く。酸素が足りない。
入口までたどり着き、中に入るが迷路の様になっているようだ。
また、入ったとたん頭の中に声が聞こえる。
『資格なきものよ、立ち去るがよい』
『資格はあります』
『お前に資格はない、残念ながら資格のないものを助けることはできない』
息が切れ、体がままならない。
カウンターを見ると猛烈な勢いでHPが減ってゆく。
そしてHPが0となり、僕は死んだはずだった。
「はー、生き返った。死んだかと思った。っていうか、一回死んだんだろうな?よく生き返れたな」
この世界に来る前、HPが0となれば死んでしまうと聞いていたはずだ。なのに生きている理由が分からない。可能性としては、老婆が嘘をついていたか、知らなかったということだ。嘘をつく理由としては、あまりHPを0にし過ぎて、攻略を簡単にするのを避けたとかだろうか。知らなかったことは、異世界に行った人についてはあまり詳しくなかったことなどか。
また、生き返れた条件も分からない。
今回たまたま、神殿に挑んだため生き返れたのか、あるいはいつでも生き返れるのか。生き返れる回数に制限があるかもしれない。
「何にせよ、もう死ぬのはごめんだな」
タイムリープという訳でもない、ゲームの様に今回は恐らく近くのセーブ地点へ戻されたのだろう。ただ、死の苦しみは慣れることはできないだろう。2度と味わいたくないと思った。
しかし、貴重な情報は手に入った。攻略の方法を練らなければならない。
「まずは渦だな。突入すれば帰ることはできない。そこをどうにかしないと死への一本道だな」
渦をどうにかできても呼吸ができない。酸素ボンベがあれば大丈夫だろうが、この世界で聞いたこともない。そして入口に入る条件、恐らくスキルが足りてないことだろう。スキルをカンストさせなくては。最後に迷路である。慎重に進めば行けるのだろうが、時間との戦いも待っているだろう。
「とりあえず帰るか」
宿へ戻ることとした。
翌日は、後片付けが待っていた。
女将さんや旦那に謝罪しにゆき、船を取りに行った。
船を置きっぱなしにして帰ったことについては、かなりいろいろ嘘を言わなければならなかった。とりあえず潮に流され、命からがら帰ったことにした。よく無事だったなと、逆に褒めてもらった。
パールへ行き、酸素ボンベになるようなものがないか確認したが、やはり呼吸を長引かせるような魔道具は存在しなかった。鰓魔法や空気を生み出す方法などもないようだ。ということは、スキルでなんとかする必要があるということであろう。モーゼの様に海を割ったりすることが出来ないといけないのだ。
海に近づき、手を向ける。
「海よ割れろ!」
水魔法の影響もあるのか、割りと簡単に水が分かれて行く。
「おー、すごいすごい」
そのまま沖に向かって歩いて行く。
暫く行って、帰って来る。
水との相性が良い為か、自分の近くの水は割ることができる様だ。ただ空気の通り道は作れなかった。渦対策はできたが呼吸対策を考えなければならない。
数日、宿で対策を練ることとなったのである・・・




