23話
次の日、夜明け前からの喧騒で目が覚めた。
日も上がらない前から漁に出る準備で辺りは騒がしい。
冷え切った体を伸ばし、部屋の外へ出た。
ほぼ一斉に出向するらしい。
見送りの女性がちらほら見えた。
目が覚めてしまったので、いつもの鍛錬をすることとした。
少し離れた空き地で演武を行う。ここでは投擲は止めることとした。
その代わり、空中での攻撃も演武に加えることにした。
未だ念力レベルがそこまで高くないので、高いジャンプの様なものを追加し、回る。両手に武器を持った状態では浮遊することが難しい、ダガーをベルトに戻し、ジャンプする。空中でダガーを持ち、回転する。降りるときはダガーを戻し、手を下に向け速度を緩める。ダガーの抜き差しがまだ必要である。念力レベルが上がれば手に持ったまま浮遊することができるだろうか。
いつも通り約1時間の鍛錬を終え、宿に戻る。
水場へ行き、体を拭く。寒さが身に染みる。
ようやく朝日が昇った。隣の食事処に行き食事ができるか聞いてみた。
「おはようございます。ご飯もらうことできますか」
「ああ、簡単なものなら上げれるよ。旦那の弁当の残りもんだけどね」
「それで結構です。お願いします」
少し硬めのパンとあったかいスープ、塩漬けの野菜をもらい食べた。
昨日寝る前に気が付いたことを話す。
「この近くの海で、船が近寄れない場所なんかあります?」
「ああ、潮が早くて漁をしてない場所なら数か所あるさ」
「場所がどこか分かります?」
「私にゃよく分からん。旦那が帰ってきたら聞いてごらんよ。少なくとも昼前には戻って来るさ」
方針は決まった。
恐らく海の神殿がこの近くにあり、浮遊、念力でしか行くことができない場所があるはずだ。船では近づくことはできず、鳥類は潜ることはできない場所だろう。魚も恐らく潮で流されるはずだ。
問題は場所の同定と、入る手順だろう。
情報を収集し、必要な物品を揃え、スキルを上げなければならない。
まずは宿の旦那を待つことにする。
旦那が帰ってくるまで時間がかかりそうなので、空き地でスキルの訓練を行う。
最近はどうやればスキルレベルが上がるか分からない。とにかく使ってみるしかない。
人目がないことを確認し、空へ向かう。鳥へめがけ飛んで行く。
片手でダガーを持ち、鳥に切り付ける。しかし空中では相手の方が有利だ、簡単にかわされる。それでも方向転換をし、追いかける。上へ行ったり、反転したり、錐揉みしたりして鍛錬を行う。
SPの量も増えた様で、長い間飛ぶことが出来るようになってきた。
空中でのバトルもだんだん慣れてきた。ただ、なかなか鳥に当てることはできなかった。疲れを感じたら地上に戻り、しばらく休憩をとり再度空へ向かう。
約4時間程度の後、海の向こうに船が帰ってくるのが見えた。
地上に戻り、宿へ帰る。水場で体を拭き、宿の主人が帰ってくるのを待った。
今日も大漁の様で、漁師が続々と海から帰って来る。
船の近くには馬車が列をなし、魚を持ってゆく準備をしている。
女性たちは恐らく一夜干しにするのであろう、馬車に持って行かない魚をより分け、魚を干す場所へと持って行っている。
片付けが済み、漁師が歩いて戻ってきた。
宿の主人も周囲の人と笑いあいながら帰って来るのが見えた。
「こんにちはー」
「ん?誰だお前」
「すみません、昨日から宿を借りていますジュンイチといいます。冒険者です」
「おう、そうか。よろしくな。そういえば母ちゃんが言っていたな。俺は安宿の主人のガッハというんだ。まあほとんど母ちゃんに任せているから、金なんかは母ちゃんと相談してくれ」
「分かりました。お金は昨日払いました。しばらく泊めて頂く予定です」
「変わったやつだな。今の時期に来てもなんもないところだぞ。夏は海水浴に来る奴もいるんだがな」
「それで、ちょっと聞きたいことがあるんですが・・・」
食事処に入り、おかみさんに昼食を注文し、旦那と話す。
ガッハは昼から酒を飲むようだ。酔っぱらう前に話を進めないと、昨日の様に話にならなくなりそうだ。
「・・・ということで、この辺の調査をしてまして、女将さんに聞いたんですが、船が近寄れない場所があるそうですが」
「そんなこと聞いてどうすんだ。ま、確かに危ない場所が何か所かあるんだが、近寄らないだけで行けないことはないところも多いんだぞ」
「非常に危険な場所はあるんでしょうか?」
「ああ、2か所ある。1つは浅瀬になっていて、潮の流れも速い場所だ。流れが速いから海苔なんかも生えてない。もう1箇所は昔から近寄らない方がいいと言われてる場所だ。そこは流れが早くなっているだけなんだが、水温が冷たいから魚がよりつかないんだ。わざわざ無理して行っても、漁にはならない場所だ」
「その2か所の場所を教えてもらえないでしょうか?」
「んーまあ、いいが、近寄るなよ。死んでもしらんぞ」
海図がなかったのでパールに戻り、海図を購入してからガッハに場所を聞いた。
近寄るなと言われても、恐らくそこが武器の場所だろう。まだスキルがカンストしていないので、神殿に行くことはできないだろうが、調査に近くまでは行くこととした。
一人用の船を賃借し、漕いで行く。
人目がつかなくなってからは念力で船を動かす。まずは船に慣れることからだ。
町の位置が見えなくなった後は、日の位置を頼りに進む。今日は日が沈む前には町に帰るつもりだ。
波が高くなり、船が揺れる。
船の操作も思った以上に難しい。
約1時間で町に戻った。
それからはしばらく同じことの繰り返しをした。
朝は鍛錬、午前中はパールへ行き、必要な物品の買い物、昼過ぎに海へ向かい、船の操作の練習を行った。徐々に目標の場所に近づくことが出来るようになった。町から船で、約3時間のところである。
聞いた通り潮の流れが速く、また方向がめちゃくちゃで、じっとしていることが出来ない場所であった。そこから宙に浮かぼうと思ってもなかなか難しい。少し離れた場所から行かなくてはいけない様だ。離れた場所から宙に浮かんでも、ほっといたら船が流されてしまう。さすがに今の段階ではここまで飛んでくるのは難しい。
また、近辺は異様に寒い。冷気対策をしなければ、恐らく凍えてしまうだろう。
パールに行き、耐寒のアクセサリーを購入する。1個つけて行ったが、足らないようで、結局4個購入した。数百万ゼニーかかった。船の位置を固定するのに錨を購入した。
少し離れた場所の浅瀬がある場所で固定することができた。そこから目標のところまで飛んで行く。上から見ると潮の流れで中心がちょっとした渦となっており、その下に神殿があるのではないかと思われた。渦の中心に近づき底を確認する。濁っては居ないが、中まで見通せなかった。
数日たち、念力スキルもLv9となった。
そろそろ、海の中に確認しに行ってもいいころと考えた。行く手順の情報を仕入れなければいけないだろう。
風魔法の魔道具で、MPを送れば救命道具となるものも購入した。
「さぁて、行ってみよー」
ノリ軽く、神殿に向かうこととした。
そして、僕は、死んでしまった・・・




