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僕らの冒険1  作者: じっつぁま
第四章 固有スキル
22/59

22話



パールの町、西の玄関と云われる美しい街だ。

モンスターが湧く前は防壁がなく、全貌を見渡すと向こうの海に照らされて、夕日が沈むころは幻想的な街並みが見えたそうだ。今は近くに行けば武骨な防壁に遮られて見ることができないが、少し遠くの丘から見ればまだ名残が伺える。家並みはレンガ造りで、全体的にはオレンジがかっている。街道沿いには落葉樹が整列し、植樹されている。今は秋なので紅葉が美しく、町の色とマッチしている。区画整理されており、家々も整然と立ち並ぶ。景観を損なう高い建物は、恐らくギルドと思われる建物以外には見当たらなかった。


僕らは山賊討伐の報酬をもらう為、ギルドへ向かうこととなった。

僕自身は乗車させてもらっただけなのだが、ミル達の熱い勧めで一緒に行くことになったのだ。ギルドに入ると、ギルマスの部屋へ連れていかれた。


「いやあ皆さん、このたびは感謝致します。ここ最近山賊の活動が活発になっていまして、こちらも対策を取っているのですが中々討伐しきれなかったんです。今回あなたたちが倒してくれたのは、最近特に派手に暴れているグループで、アスリートと言われる山賊でした。顔を確認し、リーダーが討たれていたので、これで大人しくなるんじゃないかと思っています」


「それで報酬はどのようになっているのですか」


「今回アジトは見つからなかったので討伐報酬のみになりますが、懸賞金が現在一人平均500万ゼニーでして、リーダーを含め5000万ゼニーとなります」


「うぉ、すごいな」


「それから、護衛を受けていたあなた方パーティーには討伐クエスト完了となりますので、全員ゴールドプレートになります」


「待ってくれ、今回の戦いではここに居るジュンイチも貢献してくれたんだ。ジュンイチにもクエスト完了の手続きをしてくれ」


「ええそうです。道中の水補給もしてくれましたので、護衛クエストも完了したことにしていただけませんか」


端の方で静かに聞いていたジュンイチであったが、何かすごいことになってきた。


「分かりました、ジュンイチさんにもクエスト報酬を上げることと致します。どうも最近シルバープレートになったようですので、今回のクエストだけではゴールドにはできませんが、後1・2回のシルバークエストを完了すればゴールドプレートにさせて頂きます」


「あっあぁ、どうもありがとうございます」


いきなりゴールドプレートにリーチがかかった様だ。

自分としては特にゴールドプレートにする気がないのだから、そんなにうれしくはなかったが、ここは大人しく頂いて置くこととした。


「じゃあ、気をつけてな。何かあったら俺を訪ねてくれ。俺のパーティー名はバスターズだ。まだ名は売れていないが、ギルドで聞けば分かると思う。護衛クエストの為、数日後メイプルの町に一旦行くが、又戻って来るから」


「お世話になりました。そちらこそお気をつけて」


「今後会ったとき、俺らのパーティーに加入することを検討しておいてくれな」


世話になったミルのパーティーとも別れ、自分のすることを探すことにした。

リョウの言うには、この町の近くに自分の固有武器があるという。ミルから以前聞いた話の中では、その場所は確認できなかった。情報を収集するためにもう一度ギルドに入り、受付嬢と話した。しかし、この町の近くにそれらしい場所はないようだった。


「パールの町は西の玄関と云われてまして、西の大陸との交流が盛んです。現在西の大陸ではモンスターの行動が盛んになっており、向こうへ渡るには冒険者ランクがゴールド以上とならなければいけません。この町の周囲は特に鉱山もなく、採取する場所もありません。ですから、ほぼ貿易に頼っているのが現状です。漁業はこの町ではなく、もう少し北に行ったハルツールの町で盛んであり、海産物はそちらから流入されています」


「ハルツールの町はどれ位離れているのですか?」


「ハルツールの町は直ぐ近くです。この町の港がほとんど貿易に使われるようになったため、漁民がそちらに流れたことからできた小さな町です。1時間もかからず行くことができます」


聞くこともなくなったので、ギルドを後にする。

パールの町での情報収集は困難であり、大体の冒険者や商人は貿易のことや西の大陸のことしか知らないらしい。

することがなくなったので、ハルツールの町に行くこととした。


北の門から出て、歩いて向かう。

馬車は午前の便しかない様だ。

ハルツールの町とパールの町の間では、ほぼモンスターの出現はないそうだ。

主に午前中の内に討伐隊が組まれているのだが、パールの町の衛兵がこぞって道沿いのモンスターを討伐しているらしい。

既に夕方近くとなっているので、人通りも全く見当たらない。

面倒くさくなったので、飛んで行くこととした。


「しゅわっ」


両手を下に向け、空に向かう。

緯度が低いためか、風が冷たい。


「さぶっ」


あまりにも寒かったので、直ぐ道に降りて、やっぱり歩いていくこととした。

てくてく歩いていくと、小さな漁村が見えてきた。

パールの町より低いが、防壁は存在した。

町の門は閉まっていたが、門兵に頼み込んで入らせてもらった。


日はすっかり落ち、あたりは暗くなっていた。

灯りを目指し、歩いてゆく。宿を探さなければ。


「早まったかな。一泊してから来ればよかったか。まず宿の確保と食事だよな。泊まれなかったら野宿?寒くて死んじゃいそうだな」


少し歩いたところで、宿屋を見つける。小さな宿屋で真っ暗だ。

ノックをするが、返事がない。隣は食事処となっているのでそちらで聞いてみることとした。


「がっはっはー」


「いーぞー、歌えー」


「おーそーれみーおー」


村人たちが陽気に歌い、飲んでいた。

カウンターには誰もおらず、みんな席について飲み食いしていた。


「すみませーん。すみませーん。すみm」


「がっはっはっはー」


声が届かず、誰も聞いてくれない。


「ちょっとすいませーん」


仕方がないので、一番近くの酔っ払いに話しかけた。


「おーのめのめえ。がっはっはあ」


「すみません、旅のものなんですが、食べ物と宿泊をお願いしたいんですが」


「おー、飲めや歌えや、がっはっはー」


話しにならなかった。

そこへ奥から、少し年配の女性が出てきた。


「こらー、あんたら明日も漁があるだろーがー。そろそろお開きにしなさーい」


女性は右手に竹ぼうきを持ち、腰に手をやり、今にも叩かんとする勢いで吼えた。

それでも、酔っ払いは聞いちゃいないため、竹ぼうきを振り回し、みんなを外に追い出してゆく。

僕もついでに追い出されてしまった。


「すみませーん、旅のものなんですがー」


「ん?あんた誰だい?見かけない子だね」


「あぁすみません。今さっきこの町に来た冒険者なんですが、食事と宿泊がしたいのですが」


「へー、珍しいね。この時期にこの町に来る奴なんていないんだけどね。わたしゃこの飯屋のおかみで、さっき追い出したのが宿の主人さ。私の夫だから宿泊は私に言ってくれたらいいよ」


「ありがとうございます。泊めていただけますか。あと食事もお願いできたらと思うんですが」


「今は誰も来ないから、漁師飯しかないけどいいかい?部屋も掃除していないから埃っぽいけどね」


「いいです。お願いします」


お金を払い、食事を持ってきてもらい、ようやく晩御飯にありつけた。

麦雑炊と魚の煮込みであった。酒は未成年なので断った。

割と濃い味付けで、酒のつまみには丁度良さそうであったが、少し辛かった。でも充分おいしく頂いた。


「はあ、おいしいです」


「そりゃよかったね。ところで何でこの町に来たんだい?」


「ちょっと探し物があるんですが、パールの町で情報がなかったんで、この町で何かあるかなと思ってふらっと来たんです」


「この町には魚しかないさ。あんたの探し物があるとは思わないけどね」


食事をしながら、おばちゃんと話す。この人はおばちゃんでいいようだ。

お姉さんと云ったら喜ばれたが、おばちゃんでいいと言ってくれたのだ。


「何か、民話みたいなものでもないですか?」


「そうさねー、この町には限らないけど、漁師の話の中にはいろんな話があるさね」


「できれば教えていただけませんか?」


食事をゆっくりする間、漁師仲間で話される海の逸話を聞いた。

定番の人魚の話やクラーケンの話、海の王の話などがあったが、一番気を引いたのは海の神殿の話だった。


「その話をもう少し詳しく」


「っていっても、神代の話のようだからお伽噺だけどね」


かいつまんでまとめれば、ある海の中には神様がいる神殿があるそうだ。


「ちなみにその場所は?」


「知るわけないだろ、お伽噺なんだから」


これ以上は情報がないようだ。諦めて宿に泊まらせてもらうこととした。

宿は6畳一間の一軒家で明かりも布団もない部屋であった。

リュックから毛布を取り出し巻き付ける。今日はこのまま寝ることとした・・・




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