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僕らの冒険1  作者: じっつぁま
第四章 固有スキル
21/59

21話



始まりは、訓練場


あれから1か月が立ったと思う。

早くリョウ達に会いたいが、念力のスキルは驚くほど応用が効き、全ての検証に時間がかかった。


基本はどちらかの手の中にあった方が動かし易く、手の中から発射したものは、狙ったところへ自由に飛ばせることが分かった。ナイフを的へ当てることもスムーズとなった。投擲と同じく右左両方の手で投擲、命中させることができた。

自分より大きなものはあまり動かすことができなかったが、小さなものは数m離れていても動かすことができるようになってきた。また、壁を挟んでいても動かせることが分かった。ただその場合は距離は短くなった。


飛行することもできるようになった。基本は自分を飛ばすことに気づいたのだ。

手は自分と逆方向に向けるが、意識は自分に向け、「飛べ」と念じることで飛ぶことができた。今は空中での方向転換を行っている最中だ。


念力レベルは5となり、疲労感もなかなか感じることができなくなった。それでも宿に帰り、最後使い切って気絶はしていた。朝は変な格好で寝ていて、寝違えをしていたこともしばしばあった。


検証も大体済み、念力レベル6となった後、ようやく次の町に行くこととした。


「いろいろお世話になりました」


「気をつけて行っといで。また帰ってきたら泊まってくれよ」


「はい、それでは」


宿の主人に挨拶をし、町の馬車に乗り込む。次の町へ行く定期便が今日出るのだ。数人の護衛とともに馬車へ乗り込む。馬車の中には商人の積み荷でいっぱいだった。はっきり言って狭い。特に僕は護衛のクエストは受けなかった。大体が往復のクエストであるので、次の町で降りる僕はクエストが完了できないと思われたからだ。


「おい、兄ちゃんよろしくな。俺はミル、今回の護衛を頼まれたパーティーのリーダーだ」


「よろしくお願いします。ジュンイチといいます」


「兄ちゃんは冒険者なのか?」


「ええ、この町に来るまでパーティー組んでいたんですが、理由があって今ソロでやっているんです。一応シルバーです」


「そうか、俺はゴールドなんだが、ほかのメンバーがシルバーなので今みんながゴールドになるために、護衛クエストを受けているんだ。今回のクエストが終われば、大体皆ゴールドプレートになるんだ」


「そうなんですか。ベテランなんですね」


「まあ、途中での戦闘は任しておいてくれ。道中は楽にしていればいいさ」


「ありがとうございます。ところで、道中にはどんなモンスターが出るんですか?」


「目的のパールの町とメイプルの間では、オーガ、ワイバーンの他にワームなんかが有名だな。他に時折ハーピーなんかがやってくる。街道は割と衛兵の見回りが多いが、それでも時々山賊が現れることがある。また、遠くの山からレッサードラゴンが出たことがあるが、その時は全滅したらしい」


「結構危ない道のりなんですね。大丈夫なんでしょうか」


「ほとんどの場合は大丈夫だ。大きな商隊の場合は多少の損害がでることがあるが、小さな乗り合いの方は狙われることが少ないらしい。俺らも今回で5回目だが、今まで危なかったことは経験ないな」


長閑な初秋の季節の中、馬車に揺られながら僕はミルと話し込んでいた。

ミルは親切な冒険者であり、今までいたメイプルの歴史や今度行くパールの町の話、更には自分の家族のことやパーティーメンバーのドジ話などいろんな話をしてくれた。


護衛の中には女性のメンバーもあり、食事はその人が作ってくれた。保存食を煮込み乾燥野菜とともに乾パンを食べるものであったが、僕が水魔法で多量の水を作れることが分かってからは、どんどんうまい食事を出してくれるようになった。桶に水をたっぷり出すことで、全員が毎日体を拭くことができるようになってから、僕への待遇がますますよくなった。


途中はぐれたオーガやワームなどが出現したが、危なげなく護衛のメンバーが退治した。暇なときは、念力スキルを人に分からないように鍛えていた。

馬車の中で浮遊を使う。床から約1cm位浮いて置くのだ。この状態を保つのが結構難しいので、スキルの訓練にはちょうどよかった。


道程の2/3位進んだとき、それは起こった。

最初はワームが道をふさいでいたのだ。すぐミルたちが飛び出し、ワームの討伐を始めた。

ワームへの攻撃が終わりそうになったとき、一斉に矢がミルたちに飛んできた。


「くそっ。山賊の襲撃だ。みんな集まれ、結界を張れぇ」


前衛以外は数本の矢を受け、結界師が結界を張ったが傷を数人負った。

前後から合わせて20人くらいの騎乗した山賊が迫ってきた。


「馬車に戻り、守るぞ。後衛、魔法を打てぇ」


馬車に戻りながら魔法職が火魔法を放つ。

リョウと比較すれば数段劣る火魔法が山賊に当たる。

数人馬から落ちるが、死んだ気配はない。まだ7~8人は無事に向かって来る。また後方からは10人、無傷の山賊が迫ってきていた。


僕は馬車の中でリュックを開き、苦無を上着ベルトに差し込んで行く。そして馬車から降り後ろの山賊に向かって苦無を投擲していった。


「しゅっしゅっしゅっしゅっ」「とすとすとすとす」


狙いは腕の付け根だ。武器を持てなくすればいい。正確に刺さった山賊は武器を落としてゆく。

近づかれた後は、ジャンプして宙を飛んだ。空中からの射的を行う。真上から利き腕の肩関節に苦無を打ち込む。

空に大ジャンプした僕を見上げ、残りの2人が驚いたように止まる。

落下中に残りの2人に向かって苦無を投げつける。しびれ薬入りだ。1人は腰に、1人は臀部を狙う。


「ぐわっ」


痛みの為に振り返るが、直ぐ僕の方に向き直り走り出してくる。が、薬が回りそのまま落馬していった。

ダガーに切り替え、峰打ちの要領で武器を落とした山賊の意識を削って行った。

後方の山賊は全員負傷したため、そのまま後ろに退却していった。

僕は前方の山賊に意識を切り替えた。


ミルたちのパーティーは劣勢であったが、相手も6人位に減っていた。

向こうから弓を放っていた山賊が武器を変え走ってくるのが見えた。

リュックから更に苦無を取り出し、前方に向かって空を飛ぶ。空中から苦無を投げ、まず6人の山賊の肩を穿ち無力化した。



「っぐ」


「おーりゃー」


ミルは苦無が刺さった山賊に止めを刺し、次々と倒していった。

盾職の人も自分の前の敵を倒し、後衛を守っていた結界師の元へ向かった。

僕はそのまま前に進み、弓部隊に苦無を投げる。少し距離があるため、数人に当たったのだが、劣勢を悟ると弓部隊は踵を返し、逃げていった。


「ぎゃー」


ミルは次々と山賊の首を切り、止めを刺した。僕は流石に殺人はできなかったが、ここで山賊を捉えても町まで引っ張ってゆく手段もない。

山賊討伐はその首を持って帰り、報奨をもらうのだ。


気づかれないように苦無を回収する。しかし、投擲をしたこと自体はばれていた。


「いやー、助かったよ。数人倒してくれたみたいだね。君が加勢してくれなかったら、この人数では危なかったな」


「いや、本当に助かりました。この馬車を狙う山賊なんて、今までなかったんですが。死ぬかと思いました」


「いやいや、まぐれで当たってよかったです。でもやっぱり皆さん強いですね。僕はびくびくしてました」


「いや、運がよかったよ。でも、ここはさっさと移動した方がいいな。残党が出てくるかもしれない」


荷物の確認をし、僕らは再び馬車に乗り込んでこの場を離れることとした。

外傷を受けた数人は、商人からHPポーションを受け取り、傷を治していた。

ミルも数か所傷を受けていたが、ポーションを使うまでもないようで、水洗いをした後包帯しただけで創処置を終えた。


「君は苦無を使うんだね。投擲のスキルを持っているのかい?結構練度が高そうだね」


「逆に投擲のスキルしかないので、護衛クエストが受けられないんです。剣のスキルがあればよかったんですけど、残念ながら僕には向かない様なんで」


「いや、それ位の練度があれば十分だよ。俺のパーティーに入らないかい?」


ありがたいお誘いだった。正直少し心が揺れたが、リョウの顔が浮かび断ることとした。


それからは数日、まったりとした日々が続き僕はパールの町に着いたのだった・・・




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