15話
ダンジョン内部はシンプルな作りであった。
火口付近ということで、暑さは相当であるのだが、火魔法を取得しているため暑さに強い。火属性防御が高いというわけである。
道なりに進んで行くが、特に罠の類も、モンスターとの遭遇もない。
楽々ダンジョンの最終地点に着いた。
そこはもう一つの火口となっており、中央の島へと続く道以外は全てマグマが流れていた。
実際の温度は、加護がなければ一瞬で燃えてしまう様な環境である。
しかしリョウは涼しげな顔をして、中央の島へと歩いてゆく。
島には大きい洞窟があり、少し薄暗かった。
ひょいとのぞき込むと、中には真っ黒なレイピアと、ドラゴンの顔の偶像があった。
「こんばんはぁ」
誰に話しかけてるのか分からないが、とりあえず話しかけてみた。
「ぐぉんぶぁんわぁぁ」
すると、地の底から漏れるような低い声で、偶像の方から音が漏れてきた。
少しずつ偶像の目が開いてくる。
「お前が、わしの主になるものかぁ」
「ええと、そうだと思います」
「ならば、わしの目を見るのだぁぁぁ」
リョウはドラゴンと目を合わせた。
ドラゴンの目は金色をしており、縦の瞳であった。
見つめあう間、ドラゴンの感情が流れてくる。
威圧的で、見つめあうものを屈服させる感情が流入する。
これくらい強い感情は初めてであったが、リョウにはそれを受け流すことができると思われた。
まともな精神の攻撃を少しずつ受け流してゆく。強くなったり弱くなったりする流れを読む。
すっと弱まった瞬間に、今度は自分の感情を押し付ける。
自分に好意を持つように、自分に敵意を抱かぬように。自分の助けになるように。
どれ位見つめあっていたのだろうか。もはやドラゴンからは威圧的な感情が流れてこなくなった。
「わしの主の資格を確認した。お前の武器を刺し、この武器を手にするのだ」
どちらが主導権を持っているのか分からない状況だったが、言われるがままドラゴンの前のレイピアを抜き去り、自分のレイピアを代わりに刺した。
「そのまま、武器をわしに向けておくのだぁ」
取ったレイピアをドラゴンに向けた。
かっと目が光り、ドラゴンが動き出す。
ずるずるとレイピアに向かってドラゴンが移動する。
レイピアの先端に引き込まれるように、ドラゴンがレイピアへ吸収されていった。
「ずるずるずるずる」
どんどん吸収されていく。どれくらいの長さなのであろう。
胴体部分は少しずつ熱を持ち、しっぽの部分は鉄を熱したような状態であった。
火属性防御を持っているとしても、マグマが2m先のところにあるようなものだ。火傷をしたようにひどく熱く感じた。
最後の尾の部分が吸収され、あたりが静かになる。
レイピアは熱せられ、全てが真っ赤になっていた。
『適切な鞘に入れない限りは使いこなすことができない。しばらくわしは眠りに就くこととする。鞘が見つかったら話しかけるのだ』
頭に響くように声がし、レイピアはまた元の黒い状態に戻って行った。
洞窟からでると、島の周りのマグマがなくなっていた。周囲のマグマはドラゴンの体の一部だったようだ。
冷えていることを確認し、ベルトにレイピアを挟んで、ダンジョンを出ることとした。
ダンジョンの出口を出ると、ちょうど夜が明けたころだったようだ・・・
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ジュンイチは火口に向かって座って待っていた。
じっとダンジョンの入口を眺めながら待っていた。日が落ち、当たりが薄暗くなっていったが、火口付近なので寒さは感じなかった。
モンスターは出現しない。
鳥類しか出ない場所であり、夜間は静かさに満ちていた。
でも寝る気にならなかった。
何を考えるでもなく、何をするでもなく、じっとダンジョンの入口を眺めている。
すると”ぞくっ”とした何かが通り過ぎていった。
「何だったんだろう?」
厄介なことが起きなければいいがと考えながら、その気配の方向に目を向ける。
ずっと、同様の感覚が流れてくる。
ふと、その感覚が弱くなり、ついには無くなった。
しばらくすると、火口に変化が起きた。下にあるマグマの量が徐々に減ってきているのだ。
どんどん枯渇して行き、ついにはなくなってしまった。
夜も更けていったため、徐々に周囲が寒くなってくる。
すると朝日が昇った。一瞬ダンジョンから朝日に目が行く。
「ジュンイチー、終わったよー」
また、ダンジョン入口に目を向けると、リョウが手を振っているのが見えたのである・・・




