14話
始まりは森の中
「おーい、MP大丈夫かぁ」
「もう、少しは手伝ってよ」
「悪りぃ悪りぃ、剥ぎ取りするから」
打ち明け話をされた翌日から、なんとなく僕らは身近になった。
向こうの負い目と自分の負い目、気分誘導とひも生活が打ち消しあい、リョウへの当たりが柔らかくなった自分がいる。彼女を許す許さないという話ではなく、おんぶにだっこという現実でもないことに気が付いてだけである。
今はパーティーを続けた方がお互いの為なのだ。
それに彼女は良い性格をしており、話しやすく、一緒に居て落ち着くのである。
見た目もかわいいし、”彼女”になればいうこともないだろう。
恋愛感情があるかどうかは分からないが。
とりあえず、お金と経験値稼ぎを続けている。
リョウの火力はどんどん上がり、ここいら辺のスケルトンはリーダー、ジェネラルであっても狩ることができるようになった。
集団で来られても大丈夫になり、実際僕はひも生活なんだが、荷物持ち、剥ぎ取り、気配りなのでパーティーを維持している。
町に帰り、そろそろ次の行動を相談してみる。
「この町の北側に私の固有武器があるの。そろそろ取りに行きたいんだけど」
「また君だけが強くなるの?」
「ジュンイチの固有武器は次の次の町なのよね」
「はあー、先は長そうだなぁ」
「がっかりしないで、サポートしてくれる?」
「はいよ、お姫様。お付き合い申し上げます」
リョウの固有武器は北にある火山の中のダンジョンに存在するらしい。
道中に湧くモンスターは、鳥類が主だそうだ。
HP・MPポーションを山ほど持って行き、自分用の護身武器も多めに持って行った方がいいようだ。
投げナイフを数十個位は買えるほど稼いでいるので、それも購入することとした。
「何日くらいかかるの?」
「道らしい道がないので、約1週間くらいはかかりそう」
「水はいいけど、寝袋や雨具なんかも必要だね」
購入しなければいけないものをリストアップしてゆく。
行き帰りを考えないといけないので、大変な大荷物になりそうだ。
「がんばってポーターします」
「私ももつわよ?」
「攻撃の要に荷物は持たせられません」
2人分の2週間の荷物を持つことを考えるだけで、少し憂鬱になる。
他の異世界話の様に、空間魔法などがあればいいのに、などと思ったりする。
ただ、筋力だけは大人10人分位にはなっているので、ちょっとやそっとの大荷物でも運べる気がする。
巨大なリュックサックを購入し、雨具、携帯食、ポーションなどを詰めてゆく。
水だけは水魔法で賄えるので、水筒2つあれば充分である。
数日後、北の火山に向けて出発することとなった・・・
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そのころ立花は、とある洞窟に居た。
「もうじき戒めが解けるな。ここから出られる日も近い。俺もそろそろ準備を始めなければならないな」
立花が佇む前には、5つの戒めの内4つまでが取れた偶像が立っていた。
女神像である。
残りは足だけであった。その足の戒めにも、よく見ると小さなひびが入っていた。
女神像は今にも動きだしそうな雰囲気を出していた。
「食事や寝床なんかの手配もしておかなくちゃな」
戒めの状態を確認した後、蹲った状態から立ち上がり、立花は洞窟の出口に向かって行った・・・
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レーコとケーゴのパーティーは、予定通りケーゴの固有武器を手にし、ウォーレンからヘンゼルに向かっていた。
しばらくウォーレンで狩りを行い、お金を稼いだ後、ヘンゼルで数日泊まり、次の町に向かうことになる。
「次のヘンゼルではあまりすることがないから、ほぼ素通りね。ジュンイチたちの状況も確認したいけど、それはまたの機会でいいわよね」
「・・・んむ、ほんとは少し話したいんだが」
「また、みんなが集まる機会はあるよ。というよりその内、多人数のパーティー練習をしないといけないし。それにはみんなが固有武器と固有スキルを使いこなしてからだわ」
「・・・立花君も交じってからか?」
「そうね・・・」
馬車に乗るよりレーコの風魔法を使う方が移動が速いため、徒歩で2人はヘンゼルへ向かうのだった。
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火山までの道のりは、なかなかに困難なものであった。
この周囲には目に留まるような鉱物もなく、モンスターも鳥類が多いため討伐のし難さと、経験値の少なさが問題であった。
羽はお金稼ぎにはなるのだが、羽毛布団よりも矢羽に適しており、弓を使うものが少ないため需要が少ないのであった。
「ファイアー」
リョウの火魔法でどんどん討伐する。火なので羽は燃えてしまい、お金稼ぎにはならない。もちろん持つ量はこれ以上増やせないので、剥ぎ取りしても置いておくしかないのだが。
ただ、鳥肉はおいしい。1日1羽で充分だが、毎食肉が食べられる。
香辛料はしっかり持ってきた。火魔法と水魔法のペアであるので、食事はしっかり作れる。鍋とフライパンは購入したので、気になる野菜類のみ周囲で採取し、贅沢な食事を毎日とっていた。
「あー、物があんまり減らないな」
「今のところMPポーションだけが順調に減ってるだけだからね」
夜は2人で交代の番をする。
ただ周囲のモンスターは鳥なので、鳥目で夜間襲ってくることはない。
野獣はこの辺りは鳥類の餌なので、火山までの開けた道沿いに現れることはないようだ。
「明日には火山に着くね」
「もう山がすぐそこに見えるからね。山登りしないといけないんだね」
「そうそう。登っている間も襲われるから、気を付けていかないとね」
火山のダンジョンは火口にあるらしい。
あまり高い山ではないのだが、それでも丸1日かかると思われる。
「上に登ったら僕は待っておけばいいんだね」
「多分そうなるよ。あのダンジョンの中には、多分私しか入れないから」
ダンジョンの中はどうなっているかは分からないが、最終火炎のドラゴンの住処に行かなければいけないらしい。
不適合者が入った場合、一瞬で燃え尽きてしまうという噂もあった。
2人で火口まで行き、ジュンイチはそこでリョウが帰ってくるのをひたすら1人で待つことになるのだ。
「がんばってね」
「そっちこそ」
ジュンイチは不安を感じながら、最初の眠りに着くのであった。
火山の道なき道を進む。
遠くからのモンスターを確認しながら、時々リョウの火魔法で迎撃しつつ、夕暮れ時には火口に着いた。
「じゃあ、この辺で待ってるから。終わったらひもを引っ張って」
「うん、分かった、行ってくる。待ってる間気をつけてね」
「そっちこそ、無理しないように」
「うん、じゃあね」
ダンジョン入口までロープを伸ばし、レイピアだけベルトに差し込み、小さなリュックにポーションを詰めて、リョウは少しずつ火口を下って行った。
「はぁ、大丈夫かな。僕も大丈夫かな」
夕暮れの空を見上げ、長い夜を迎えるジュンイチであった・・・




