13話
リョウのレベ上げは、最初は見学だ。パーティープレイでパワーレベリングとした。
僕がはぐれスケルトンを見つけ、討伐する。強そうなやつや数匹いる場合は逃げる。時間がかかるが、それでも午前中に4匹狩れた。
リョウのレベルはするするとのび、レベル2からMPが増えていった。
魔法を覚えた方が効率がよさそうなので、レベル5になってからギルドへ一度戻った。勿体ないが、HP・MPポーションを使い、上がったHPMPを補う。
リョウの魔法は、なんと火魔法が使えるようだ。早速覚えてもらい、狩りに戻った。
はっきり言って、無敵だった。木刀は要らない様だ。
「ファイアー」
「どぉん」
威力がすごい。森の中なので、飛び火が怖いが、僕の水魔法で消していった。僕の水魔法でだ・・・。
レベルがどんどん上がるんだが、MP枯渇が早い。買ってあったMPポーションが少なくなってきた。
ただ、討伐数はリョウが魔法を使い始めてからうなぎ上りで、採算は充分とれた。
MPポーションが後1本となり、日も傾いて来たので、町に帰ることとした。
「ありがとうございました。こんなにレベルが上がりました」
「・・もう十分一人でやっていけそうだね。はは・・」
「そんなことないです。ジュンイチが守ってくれるから、安心して攻撃できるんです」
なんてええ子やぁ。少し立ち位置を失いかけていた僕を励ましてくれた。
ギルドで換金し、晩御飯を食べに行き、宿に向かった。女の子なのでリョウは中レベルの宿屋にして、僕は最低の宿屋へ別々に寝ることとした。決して、稼ぎがリョウの方がいいからではない。本当は一緒の宿屋へ泊まることを勧められたが、まだ出会って1日目である。ここは男の矜持である。
「じゃあ、明朝ギルドの前で。充分体を休めてください」
「はい、今日はありがとうございました。また明日もよろしくお願いします」
こうしてまた僕のひも生活が再び始まったのであった。でも今度は女の子だしー、いいもん。
数日スケルトン狩りが続く。
リョウの火魔法は、連荘ができるようになり、MP量も増えてきた。
スケルトン数匹もあっという間に倒せるようになった。
稼ぎの量が増えたので、リョウのレイピアを購入した。
スケルトンが1匹の時は、積極的にレイピアでの攻撃に切り替えた。
最初は僕が牽制で動き、スケルトンの気を引いてからリョウが攻撃する。
始めは数回攻撃しなければ倒せなかったのだが、彼女は才能があるらしい、あっという間に一撃で倒すことができるようになった。
そうするとますます僕の出番が減ることになった。
彼女の荷物は自分が持つこととし、MP残量がなくなったらポーションを渡す。
付き添いというより、執事のような状態である。
「お嬢様、汗をお拭きください」
「・・・ありがとうございます。だけどお嬢様は止めてください」
「ではリョウ様と」
「それも止めて!怒りますよ」
「はは、ごめんごめん。ちょっとそんな感傷になっちゃって」
「ジュンイチは今は最弱なんだけど、固有武器を持ってから無双できるから。くさらないでね」
「そうなの?」
「・・・多分」
絶対ではない様だ。
ただ、未来があるということは素晴らしいと思う。
未来に向かって突き進むのだー・・・
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今日の夕ご飯を食べている時、リョウから話があった。
「・・・今まで内緒にしていたことがあったんだけど、怒らず聞いてくれる?」
「ん、何、僕が最弱の異世界冒険者が決まっているっていうこと?」
「いや、違うし、そんなんじゃないから。ジュンイチは充分強くなれるから」
真剣な顔をしたリョウをからかいながら、心では真面目に聞こうと思った。
「ジュンイチがここに来るときに、実は私が誘導したの。正確には誘導を頼まれたの」
「・・・ドーユーコト?」
ここからはダイジェストでお送りいたします。
話しは荒唐無稽のお話でした。
綾波涼は美人だったがいじめられっ子だったそうだ。
小学生の頃から男子に人気があるのを他の女子に嫉妬され、特にクラスのボスの女の子に目をつけられた。
それからはいじめの連続だったそうだ。髪型も変え、眼鏡をし、おとなしく隅で過ごす毎日を送っていたが、奴隷のようにその女の子に使われていたそうだ。
学校は持ち上がりで小学校、中学校、高校1年までその子と一緒だったそうで、関係も変わらなかったようだ。
そこに立花が転校してきた。
彼は不思議なことに、すんなりクラスに打ち解け、リョウに話しかけてくるようになった。
ある日のこと
「君は自分を変える気はあるかい?」
「えっ・・・」
いきなり2人きりとなり、そう告げられた。
「僕は君を変えることができる。君は変化を望むかい?」
「・・・できれば」
はっきりいって、現状は最悪だった。直接のいじめは減ったが、機嫌次第ではどんなことをされるか分からない。
毎日びくびくと生きてゆく、この生活は最低だった。
もはや自分の感情をどっか他へと置いておく、まるで2重人格の様に過ごしていた。
「この眼鏡をかければ、君は変わる。他人の気持ちが分かるようになり、最後には他人の感情を動かすことができるようになるんだ」
何を言っているか分からなかった。
自分がフリーズしているのを理解した。
立花君は私の眼鏡をとり、自分の眼鏡をかけさせた。
眼鏡が自分自身に吸い込まれる。・・・
ふと気づくと立花君は消えていた。その日はそのまま家へ帰った。
次の日からも立花君はクラスから居なくなっていた。
でも自分の環境は少しずつ変わっていった。
最初は人の目を見れば、どんな感情なのかが分かった。
ふと悪意のある目を見たとき、『怖い!あっち向いて』って思ったら、その目はもはや自分を見ていなかった。
自分に無関心にさせることができるようになった。
それから、少しずつ他人の精神のコントロールができるようになった。
もちろんまだまだ、その人の感情を少しいじることぐらいしかできないけれど、少なくともリョウをいじめることはなくなってきた。
数日たって、また立花がリョウの前に現れた。
「少し手伝ってくれないかな」
異世界があり、そこでの冒険を手伝って欲しいと言われた。
数名でパーティーを組み、その異世界の”魔王”を倒す手伝いをしてくれということだった。
この話も荒唐無稽であったが、自分の環境を変えてくれた人だ。素直にうんと言えた。
「そのパーティー予定の人の中にジュンイチがいたのよ」
ジュンイチには無意識であるが中学の時に数回いじめから助けてくれたことがあったそうだ。
それも、泣きたい位つらいいじめを受ける直前だったようだ。
ジュンイチはそれを知らない。たまたま遭遇し、いじめの現場とも思わず、ちょっとした偶然の産物だらけであった。
それでも助けられる方にとってはヒーローだった。ある種のあこがれがあった。
今回異世界に来るに当たって、ジュンイチ以外の3人はいじめられていたり、他人から無視されるような生活の中で立花に助けられ、すんなり異世界への参加を承認した。
ただ、ジュンイチを誘うには時間が足りなくなっていたことと、環境を積極的に変える理由がなかった。
「それでね・・・ちょっとあなたの気分を操作したの・・・」
立花がジュンイチに接触するとき、リョウも隣にいたそうだ。
異世界に気分を向かせ、リョウの存在のイメージを消した。
「本当にごめんなさい・・・」
女の子の土下座である。
「あー、今は感情コントロールしていないの?」
「もちろんしていないわ・・・ちょっとしか・・・」
「ちょっとしてるの?」
「・・・おちこんでいるとき、少し上向きにしただけ・・・」
「はぁ、これからは頼まなければしないでくれるとありがたい」
「分かった。約束する。それで、これからも一緒に続けてくれるの?」
「まあね。とりあえず冒険を続けるか、元の世界に帰るのかはさておき、続けていかないと帰れない様だし。ここでパーティー離脱すると、ソロプレイはマゾプレイになりそうだから。もうしばらくは一緒にするよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「来る前の記憶が一部おかしいんだけど、君の操作のせいなの?」
「そうかもしれない。ちょっと覗いてもいいかな?」
あー、彼女の顔が近い近い。
少し顔が熱くなってくるが、我慢してみる。
すると、立花にあった日のことを思い出してきた。
「・・・確かに君がいたね。あの日むしゃくしゃしていたのは君のせいじゃないんだ。そういえば立花から手袋をもらったっけ」
両手を見てみる。綺麗な手だ。すぐ付けた後、手に吸い込まれたと思われる。
何らかのスキルをもらったみたいだが、説明もなかったし、やり方も分からない。
「立花って、いったい何者?」
「私もよくわからない。悪い人ではなさそうだけど」
問題は先送りにすることとした。
その夜は悶々とした夜だった。
だけど、だまされたわけでもないし、はっきり異世界に来たくなかった訳でもない。あのままでもそのうち異世界に来ていたとすれば、誘導されたとしても結果は一緒だったんだろう。
若干もやもやした気分のまま、魔法の練習をして、MPを枯渇させて、藁のベッドに沈むのであった・・・




