11話
僕、佐藤潤一は高校2年生である。
特に特技もなければのめりこんでいる趣味もない。
成績は中の下、運動も得意ではないが、ウンチでもない。
友達はいるけれど、親友と呼べるものもいない。
両親との仲は普通、溺愛されているわけでもないし、放任主義とゆうわけでもない。いじめを受けてはいないが、こちらから話しかけなければ話しかけてくる人はいない。部活動には入っておらず、帰宅部である。
家ではインターネットが使える。パソコンも買ってもらって、家に帰るとすぐ机に向かう。
最近は特にすることがない。ニコ動も見飽きたし、MMOもつまらない。
「あー、暇だなー」
かと言って、勉強する気も起きない。
そんなけだるい毎日を送っていた。
2年生の6月、珍しいことに転校生がやってきた。男子だ。
名前は立花、それ以外は興味なく、聞いてなかった。
ある日、その日は何故かみんなから軽くハブられることになった。
「おーい中山、帰ろうぜ」
「・・・立川君、ここの所教えてくれ」
「なんだよ勉強かよ。おーい清水、帰ろうぜ」
「あー、ごめん今から生徒会の会議なんだ」
「しょうがないなぁ、おー岩田ぁ帰ろうぜー」
「・・ごめん、ちょっと用事が・・」
「なんだよ、一人で帰るわ」
帰る方向が一緒の3人に声をかけたが、みんな用事があるようだ。
少しむしゃくしゃしながら玄関に向かう。
靴を履いているときに、立花に話しかけられた。
「佐藤君は異世界に興味ないかい?」
・・変な奴、と思った。
「異世界ってゲームの?ラノベ?ないことはないけど」
「異世界を体感できるところがあるんだけど、行ってみないかい?」
正直言って、暇で鬱憤がたまっていた。胡散臭いが、時間つぶしにはなるだろうと場所を聞き、行ってみることとしたのだ。
路地裏の、少し薄暗い場所に”占いの館”と書いた店屋があった。
黒い緞帳のようなカーテンをくぐり、入ってみた。
「ひっひっひっ、いらっしゃい」
いかにもな老婆が机と水晶の向こう側に座っていた。
「異世界に行きたいのかい、3千円だよ、ひっ」
財布の中には何故かちょうど3千円あった。
高いとも思わず、お金を払う。
「この後ろに門がある。今は3人向こうに送ったところだよ。用意が出来たら門をくぐりなひっ」
「その前に聞きたいことがある」
異世界とはどんなところか、門をくぐった後はどんなところに着くのか、行った後すぐは何をすればいいのかを聞いた。
なぜ僕が異世界に行かなければいけないのかとは考えなかった。
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
今は馬車の中である。
スケルトンの倒し方をだいたい学んだあとに、次の町へゆく途中である。
ほどほどのお金を稼ぎ、移動の準備をした後、ちょうど次の町に行く馬車を発見し、乗り込んだ。一人旅になり、今までのことを思い出していた。
なぜここに来たのかが分からない。
今までの生活にそんなに不満はなかったと思う。
異世界にすごく興味を持っていたわけでもない。なのにここに居る。
なんか運命に導かれていると言えばしっくりくる気がする。
「まあいいか」
思考を放棄する。
「それよりも、次の町に向かった後、何をするか考えようかな」
馬車に揺られ、携帯食を齧りながら、お尻が痛いのを我慢しつつ、寝てしまった・・・
*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*:;:*
次の町はいわゆるファンタジーに出てくるような壮観な町であった。
防壁で囲まれ、ウォーレンの町よりも大きな鉄の門が存在した。
中央には高い塔の様な建物があり、一見お城の様であった。
その周囲には立派な屋敷がならんでいた。
馬車の業者に聞いてみると、この町は王国の旧首都であったそうだ。
今では遷都されていて、以前の王城には侯爵が住んでいるそうだ。
産業は鉄工業が盛んで、周囲の山岳より鉄鉱石が手に入る。それで鉄の武器を作り輸出しているそうだ。
周囲のモンスターはスケルトン、リーダーやジェネラルもいるそうだ。
キングが出現したときは騎士団が向かい、討伐する。騎士団の名前は「黒薔薇の騎士団」というらしい。
ということで、この町の住人は職人と戦士が大多数を占めるらしい。
門をくぐり、町を見渡す。やはり石造りの家が多く、少し高い建物が多いため、全体が見渡せない。
迷子になりそうだ。誰かに町の地図を聞かないと、どこにも行けそうもない。
きょろきょろと案内図を探し、道行く人にいろいろ聞いてみた。
「あの、すみませ・・・」
「・・・」
みんな忙しそうに歩いていて、話しかけることもできない。
とりあえず、お店の人に聞いてみることにした。
「こんにちは」
「あいよ、なんか買うかい」
「ギルドの場所が知りたいんですが」
「このリンゴ、1個50ゼニーだよ」
「あの・・・」
まずはなんか買わないといけないらしい。
リンゴを1個買い、ギルドまでの道を教えてもらった。
門の前に雑然と並ぶ建物を抜けると、町の中心に向かう大通りへ出た。
門前の建物は、大昔の混乱時に、ほぼ違法に建てられたらしい。そのため町全体が確認できなくなったようだ。
ただ利点はあり、モンスターが門を抜けた後、この建物でいったん受け止めることができるそうだ。
大通りを歩き、ギルドへ向かう。
ギルド職員に町のことに関して教えてもらうのだ。
「こんにちは、この町は初めてなんですが、いろいろ教えてもらっていいですか?」
「いらっしゃいませ。旧都ヘンゼルへようこそ。今はそんなに忙しくないから担当の職員を向かわせますね。あちらへ座って待っててください」
職人と戦士の町らしく、冒険者は少ないようだ。ギルドへ来る人々はあまり多くない。
テーブルに着き、軽食とお茶を頼んだ。サンドイッチと緑茶が来た。ちょっとお高めである。
軽くつまみながらお茶を飲む。少しして少し若いお姉さんがやってきた。
「こんにちは、クラインといいます。ギルド職員で町の案内係をしてます」
「こんにちは、ジュンイチといいます。この町は初めてですので、いろいろ教えてもらえればうれしいです」
僕は雑貨屋、武器屋、防具屋の場所や宿屋の位置、宿のランクなどを教えてもらった。黒髪の女性のことも聞いてみたが、仲間の場所は分からなかった。物価は武器や防具は他のところより安いのだが、食品・雑貨は高めとのことだった。
クエストは多くないが、スケルトン討伐を中心に鉱石運搬や商人の護衛などがあるようだ。ただ、この町ではシルバープレートにならなければほとんどクエストが受けられない様だった。
「今までのクエスト完了で、ランクアップできますか?」
「討伐数を確認して参りますので、少々お待ちください」
クラインは僕のプレートを持って窓口にいったん引き込み、数分してやってきた。
「討伐数は足りているようです。後は簡単な筆記試験と戦闘試験をしてもらいます」
試験があるようだ。
「いつ受けられますか?」
「今からでもいいですよ。ちょうど空いていますし、テスト員もいますから」
「じゃあお願いします」
この町でしばらくは活動しなければいけないだろう。金稼ぎができなければ在住できない。僕はランクアップ試験を受けることとした。
筆記試験はぎり合格であった。ほぼ”常識”問題であったが、この世界の常識に疎い僕としては分からないところも少なくなかったからだ。クラインの温情を持った査定で、筆記試験は合格にしてもらった。
「ぎりぎりですが、合格とします。ただ後で2階にある冒険者マニュアルは読んでおいて下さい」
「・・はい」
ちょっと情けなかったが、合格は合格である。ふんっ。
次の戦闘試験へ向かう。相手はバスターソードを持ったゴールドプレートだそうだ。
怖い。
「あー、よろしく。ここのギルマスのトーマスという。俺に勝つ必要はないぞ。スケルトンの少し上位レベルで攻撃するから、数回俺に攻撃を当てれば合格としてやる」
「よろしくです」
武器はギルドから借りた短めの木刀を2本、更に投擲用に3本ベルトに刺した。
「じゃあ、いくぞぉ」
気の抜けた言葉とともに、袈裟切りで向かってくる。
数歩下がり、両手の木刀を投げつける。スキルの影響で相手の頭部、右足へうまく投げれた。
もう1本を更に頭部へ投げ、2本を持ち向かって行く。
流石ギルマスで、3本の木刀を簡単にさばく。しかし、上下上へと投げつけたため、ちょっとのスキができる。
低い姿勢で右足を狙う。
「っし」
「ぼこっ」
いい音がし、右足に当てれた様だ。
「おーいい筋しているじゃないか、もう少し本気出してもいいなぁ」
殺気がした。少しじゃなく、当てたのがいらついたようだ。
「ぼこんっ」
僕は頭に痛みを覚え、気を失ってしまった・・・




