Act.2 「とらのあな6F。グールに抵抗する逃げ遅れた者達。。」
「グ、グールだ!!」
「店長、助けはまだか!?」
「さっき警察に電話したんですが・・・。拙い、弾が切れる!!」
とらのあな6F。
逃げ遅れた数人の客とそれを庇った店長が、レジに隠れながら2体のグールと応戦していた。
店長はレジ裏にある、グール出現児緊急用拳銃のベレッタ92 法執行官モデル(FS Vertec)を打ち続けていたが、既に予備マガジンの12発目を発射していた。
数十分前の事である。
客の一人が同人誌の裏側を捲っていると、突如呻き声を上げて倒れたのだ。
異常に気付いた一人の店員が近づくと、その客は目を血走らせながらガブリ。
店内は騒然とし大パニックを起こして今に至る。
不幸中の幸いか、虎の穴はグール排除登録をしており、緊急用拳銃が配布されていた。警察に電話した時に、コードを教えられロックを解除。
代表者であるサバゲー大好き店長が、その引き金を引く事を託されたのだった。
警察は、数年前から出没する伝染性の不死の狂人、通称 《グール》排除の為の《掃除人》に応援要請したのが10分前。
普段は秋葉原のメイドカフェ『ぷぎゃ@メイド』の店員として働き、副業で掃除人をする神楽亜利亜が出動した。
△
カチッ、カチッ
「あぁ!!弾が切れたぁぁ!!」
眼鏡を掛けた冴えない雰囲気の店長は、ピンク色の「ハイパー店長」と書かれた鉢巻と法被を脱ぎ、グールに向かって射撃をしていたが、遂にその弾倉が空になったしまった。
「何やってんだよ店長!!ちゃんとコメカミ狙えよ!!」
「違うだろ?!脊髄だ」
「ちょっと待て、それは進撃の方だろ?!俺は銃じゃ足止めにしかならないって聞いたぞ?!刃物だ刃物!!」
レジの下に隠れる一般客は、互いのグール対処法の相違に熱を上げていた。
しかし刻一刻と、銃撃の止んだグールは静止していた動きを再開し、足を引きづりながらゆっくりと、しかし確実にレジに向かっていった。
全身に浮き上がった血管。
眼球が落ちそうな程に見開いた目。
顎が外れるほど開かれ口。
尋常じゃないほど溢れさせながら涎。
「ゲレェェェェェェェェェェシァァァァァァァァァロォォォォォォォォォォ」
まさに狂人と呼ぶに相応しいその出で立ちで、レジの下に集まる人間に襲い掛かる。
「くそ、俺は来週結婚するんだ!!脳内で!!だからお前先に喰われろ!!」
「ふざけんな僕だって、この後デートなんだ!!画面越しで!!君が死ねよ」
「俺は所帯持なんだ!!嫁を食わせなくちゃなんない!!フィギアだからなんも食わんがな。店長!!お前が責任持って活路を開け!!」
「・・・・・・わ、分かりました。せっかく出来た彼女が居ますが、ここは私が引き受けますので、皆さんその間に逃げてください」
身勝手な欲望と、現実に居もしない大切な人を言い訳にして、責任を逃れ合いながら、客の満場一致で店長がレジの前に立った。
「お前のだって、どうせ二次元の彼女だろ?!」
一人の客がそう言うと、ロケットペンダントを開いて写真を見せた。
そこには一人の美女の可愛らしい笑顔が写っていた。
店長はメガネを外すと、さっきまでのオタク臭が消え、整った顔が表れた。
「高校の同級生です。ダメな俺がほっとけないって、世話を焼いてk」
「「「リア充曝発しろーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!そして壮大に死ねーーーーーーーーーーー」」」
店長は最期の話を途中で打ち切られ、客に背中を蹴られた。
その反動で、グールの前で体勢を崩しツンのめる。
「ごしゃあああああああああああああああああああああ」
目の前の新鮮な肉に、かぶり付くように襲いかかるグール。
「オワタ。ナム」
整った顔になってもオタク精神をもった店長が、最期の言葉を呟いた。
その時。
チン、とエレベーターのドアが開いた。
「まだ早いんじゃないの?!その台詞ぅ」
そして体操服姿でM4を構えた一人の少女が現れた。
「掃除人亜利亜様、到着ぅ♪」
そしてその銃口がグールに向かって火を噴いた。
次回
亜利亜無双。