まるにっ! きゃらめーきんぐ
まだ一話しか投下してないのにお気に入り入れてくれてる人がいた。めちゃくちゃ嬉しいです。
ご期待に沿えるよう頑張っていこうと思います!
『ハル』
アバターネームを入力する。
親友にも呼ばれ慣れた、少女の渾名だ。四月生まれの自分にはぴったりだとも思う。
アバターネームを入力し終わると、ハルの目の前でぽむぅ!という効果音と小さなかわいらしい爆発が起こった。
おそらく演出であろう煙が少しずつ姿を消していくと、中からツインテールの小さな美少女が現れた。背中には透き通った羽根があり、黒色のゴシックドレスに身を包んでいる。いかにもといった感じの妖精さんである。
「はろはろ~☆ 私はColorful days onlineのシステムサポートをしてるAIのナナちゃんでっす! ゲーム内のイベントとかいろんなところで会うと思うから、これからよろしくね~☆」
語尾に☆がつくようなきらきらしたしゃべり方をする妖精を前に、少しだけ拍子抜けするハル。人によってはゲームを始める前に此処で苦手意識すら持ってしまいそうだ。
ハルはそんな妖精を前にして。
(ツインテのゴシックドレスの明るいキャラって案外似合わないものですね)
とか思っている辺り、苦手意識などは皆無であろう。
「さてさて~☆ これからハルちゃんのゲームでの設定を一緒に決めていこうと思いま~す! 覚悟は良いかな? 決まって無くてもイッちゃうよ~☆」
ウザイ。
ハルの妖精への感想はこの一言に尽きた。世の中の男性達はこういうのが好きなのだろうか。
実のところこのナナという妖精、開発陣にすら不評である。じゃあ何故使っているのかと言われれば、βテストに参加した一部のプレイヤー達の強い要望だったりする。その点ではハルの考察は間違ってはいない部分もあるのが皮肉くさい。
「じゃあまずは初期種族ね! これは人間で固定だよ~☆ ある条件をクリアするとアタシみたいな妖精だったり、エルフだったり獣人だったり魔族だったりっていうゲームの中の住人達と同じ種族にもなることが出来るからなりたかったら頑張ってね☆ キラッ☆」
自分で言ってしまうあたり残念な妖精である。こんな妖精ではあるが、最新の技術と高性能なAIが積み込まれているのだから、その事実を知っているハルにはゲームへの期待が少しだけ高まっていたりする。
俗に言うNPCたちも、一人ひとりすべてにこのようなAIが搭載されているらしい。βテストを受けてきた人たちの話で残念なのはこの妖精だけらしいということがわかっていなければハルはここでゲームをプレイするのをやめていたかもしれない。
ちなみに初期種族が人間なのはβテストのときも同じだったようで、不確定な条件ではあるものの他の種族への変更が出来ているらしい。
「次はーそうだな~……見た目とスキル構成、どっちを先に決める?」
「見た目で」
ナナの問いかけに、ハルは間髪いれずに答えた。その瞬間にハルの目の前の空間に20インチくらいありそうなディスプレイが現れ、そこには見慣れた、けれど第三者視点での新鮮な自分の姿が映っている。
一般的には容姿の決定もスキル構成もどちらも時間がかかることが多いのだが、仮想現実という特性状容姿にはかなりの制限がかかり、リアルの体から変更可能なのは実質色だけとなってしまっている。
当然ハルは、時間のかからない容姿を先に済ませてしまおうという考えだったりする。
現在のハルのアバターはリアルのハルの髪形だけが変わったものになっている。髪形はたぶんヘッドギアをかぶる際にポニーテールを解いたためだろう。黒髪ロングに変わっていた。
それ以外は女の子としては長身でそれなりにメリハリのついた体型や、ちょっとコンプレックスな釣り目もそのままの自分の体。
服装はこのゲームの初期装備であろうホットパンツに厚手のシャツである。
ハルとしてはこのままでも別段問題ないのだが、何もしないというのもあれな気がして髪の色を黒髪から濃い目の青色に変更する。
「決まった? ほとんど変わってないけどほんとにそれで良いの? 私だったらオッドアイにしたりとかいろいろしちゃうけどな~。カッコいいじゃんオッドアイ☆」
「余計なお世話よ。見た目はこれで決定だから、次に進んでもらえるかしら?」
ハルはそう言ってこのおせっかいなAIに次に進めるように促した。
「じゃあスキル構成ね~☆ この空間で出来ることは、『武芸の心得』と『魔法の心得』のどっちかを選ぶことだけだよ。あとはゲームを実際に始めて好きなスキルを手に入れて、好きなことをすればいいんじゃない?」
「あら? それだけなの?」
「それだけ~☆」
ハルの疑問も当然のものだろう。一般的に、スキル構成は時間のかかるものなのだ。ただ、あくまでそれは『一般的に』であって、Colorful days onlineでは違ってくる。
このゲームではプレイヤーが行った行為からスキルが生まれ、スキルを育てることによってアーツという派生の技や魔法が生まれてくる。
たとえば、『剣』スキルを育てると『スラッシュ』というアーツが生まれ、『火魔法』スキルを育てると『ファイアーボール』というアーツが生まれるといったシステムになっているのである。また、アーツには熟練度もあり、熟練度を挙げることによってアーツの威力や使い勝手が良くなるらしいのだ。ナナの言葉をまとめるとこういうことらしい。
「要は、どっちの心得をとるかによってスキルの手に入れやすさが違ってくるって事☆」
「そうね。じゃあ私は魔法の心得にしようかしら」
言いながら、ハルは間違いなく武芸の心得を習得するであろう親友のことを思い浮かべる。
間違い無く突っ込んでいくタイプなのだ。あの子は。
「決まったみたいだね~☆ それじゃあ改めて」
一瞬だけこのおちゃらけた妖精さんはまじめな顔をして、けれどどことなく嬉しそうにいった。
Colorful days onlineの世界へようこそ
と。
ご意見ご感想お待ちしています!
いちおう確認はしていますが、誤字脱字の報告とかもしてくれたら助かります