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晶の標  作者:
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第五十八話 提案

「私達に」

「講座を?」


 顔を見合わせる私達を前に、ハーバー侯爵は少し困ったような難しい顔をして腕を組まれました。


「既に君達も判っているだろう、アカデミーと君達との力量の差を」


 私もここまでとは思っていなかったのだが、とハーバー侯爵は深いため息をつかれます。

 確かにここ数日の補講で、アカデミー生のレベルがどの程度かは把握していました。

 しかし、ここは教育機関であると共に研究機関でもあります。

 まさかとは思いますが……。


「研究者の力量も推して知るべしだよ」


 その声はハーバー侯爵のものではなく、扉の方から聞こえてきました。

 視線を向けると、そこには二人の人物が。


「アレク兄様、それにオスカー様も」


 二人は部屋に入ってくると、さも当然のように空いていた椅子に腰を下ろします。


「君達はアカデミーの学生だ。保護者抜きで話を進めることはできないからね」


 私達の疑問を含んだ視線を受け、ハーバー侯爵は謎解きをして下さいました。

 アレク兄様を見ると、後は任せてとばかりにウィンクしてきます。

 その表情に私達はほっと一息つくことが出来たのでした。


        ◇        ◇        ◇


「これでかなり時間に余裕が出来たんじゃないかな」

「「ありがとうございます」」


 ハーバー侯爵との打ち合わせが終わり、私達はハイネマン教授の研究室でお茶をしていました。


 履修予定科目の大半はレポートという名の知識を提出することで免除され、それを元に講師が授業を行うようになります。

 こうすることで、私達が直接学生一人一人の相手をする必要がなくなり、時間に余裕が持てるようになるのです。

 実技科目もオブザーバとしての出席のみでよくなり、今後はヴィーラント先生とパラッシュ先生のサポートをすることになりました。

 その代わり、騎士科の実技にも参加することになったのはご愛嬌ですが。


 直接受け持つ科目は、私が無属性魔法と魔法陣、ニナが闇属性魔法と魔草栽培の二科目ずつで、オブザーバ兼資料化の担当者がつくことになっています。

 五年経ったら私達は卒業してしまうので、その後は彼らが授業を引き継ぐことになるとのこと。

 ハーバー侯爵としては、卒業後も研究者としてアカデミーに残って欲しかったようですが、そこは入学前のお母様の言葉を盾に引いて頂きました。

 五年後に改めてお願いすることにします、とハーバー侯爵は諦めていないようでしたけど……。


 ここまでの条件ではあまりにも私達に利があり過ぎるので、アカデミー側からの要望を二つ受けることになりました。

 一つは生徒からも要望があったらしく、放課後の模擬戦を続けること。

 一日一戦位なら然程時間は掛からないし、私達同士の模擬戦もやっていいとのことなので、快く引き受けることにしました。

 もう一つは、生徒や研究者からのお悩み相談の時間を設けて欲しいというもの。

 これも間に内容を整理する担当者をつけることで私達の負担を減らして下さるそうなので、とりあえずやってみましょうということになりました。


「資料作り等は大変そうだけど、大丈夫かい?」

「筆記したり、纏めたりするための補佐を付けて下さるそうなので」

「至れり尽くせりだね」

「それだけ、お二人の知識が欲しいのですよ」


 私も含めてですがね、とオスカー様は笑って仰います。


「さて、それじゃあ僕は仕事に戻るかな」

「ありがとうございました、アレク兄様」

「可愛い妹達のためならこれ位なんでもないよ」


 お礼を言う私達の頭をぽんぽんと撫でながら、アレク兄様はにっこり微笑まれました。


「君達はこれからどうするんだい?」

「折角時間が出来たので図書館に言ってみようかなと」


 いろいろあって、行く機会の無かった図書館。

 コンラート小父様からのプレゼントでもある地下の禁書をそろそろ閲覧したいなと二人で話していたのです。


「そうか、遅くならないように帰るんだよ」

「「はい」」


 私達はお茶の後片付けをし、アレク兄様とオスカー様にもう一度お礼を言ってから図書館へと向かったのでした。


        ◇        ◇        ◇


 史書の方に学生証を提示し、地下の禁書を閲覧したい旨を伝えると、一瞬びっくりされましたが、直に地下への階段がある部屋へ案内して下さいました。


「戻られるときは、こちらをお使い下さい」


 小石大の魔晶石を受け取って疑問符を浮かべる私達に、地下に行かれてみればお解かりになりますよ、と史書さんは笑って仰います。


 その答えは直に判明しました。

 単純に地下としか聞いていなかったのですが、階段を下りたその先に、書架と共に更に地下への階段が存在していたのです。

 恐らく、図書館の地下深くまで続いているのでしょう。

 私とニナは顔を見合わせ、そして渡された魔晶石に視線を移しました。


「暫く通うことになりそうだね」

「うん」


 とりあえず今日は地下一階の本を読むことにした私達は、ティンクとヨミを呼び出しました。

 知識欲旺盛な二人は書架に並ぶ本を見て、目をきらきらと輝かせています。


『今日は時間もあまりないからこの階だけだよ』

『『はーい』』


 言うが早いか、二人は早速手近な本を手に取り、ぱらぱらと捲るように読んでいきます。

 いや、知識に蓄えていると言った方が正しいでしょう。

 そんな二人を微笑ましく眺めていたら、ニナが私の肩をぽんぽんと叩きました。


「私達も読みましょうか」

「そうだね」


 試しに取ってみた本には東の大陸に関する最近の歴史が先史古代語で記されていました。

 なるほど、一般の人には読めないから禁書扱いなのですね。

 苦笑を浮かべていると、ティンクが物欲しそうな目で私と見ています。


『この本を見たいの?』

『うん』


 渡してあげると嬉しそうに抱えて閲覧席に向かっていきました。

 見れば、ニナも気になる本を見つけたのか、ニコニコしながら、ページを捲っています。

 私も何か見つけようと書架を眺めていると、他の本とは若干異なった装丁の本が目に留まりました。

 背表紙には特に何も記述されていません。

 何の本なのか気になった私は、内容を確認しようと思い、手を伸ばしました。

 しかし途中で何らかの魔力を感じ、手を引っ込めようとしたのですが、本の方が勝手に書架から飛び出してきて、私の手に収まってしまいます。

 嫌な予感がして、本を書架に戻しますが、手を離すと再び飛び出してきて、私の手に載ってきました。


「どうしたの、コユキちゃん?」


 二回程繰り返したところで、ニナが気づいて私に問い掛けてきました。


「本に懐かれたかも?」


 私は少し困ったような顔でそう答えたのでした。


次回予告:「第五十九話 禁書」

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