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晶の標  作者:
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第四十一話 煌き

『ローザ様、あの……』


 お屋敷から外に出たところで、立ち止まったローザ様に漸く声を掛けることが出来ました。


『後におし。とりあえず上までいくわよ』

『えええ』


 浮遊トライブンの魔法を使い暫く上昇したローザ様は村が小さくなった頃、実態に戻り、真紅の翼を大空に広げられました。

 私は纏っている空間に空気抵抗を無視する制御を加え、離れないようについて行きます。

 やがて星の輪郭がはっきりと判るようになったところでローザ様は上昇するのを止められました。


『この辺りでいいかね。この星をすっぽりと包み込むような空間を生成しな』

『そんな、無理ですよ』

『空間生成だけならそれほど魔力を消費しないはずだよ。いいからやりな』


 もう、どうなっても知りませんよ。


『ティンク、空間生成、範囲この星全体』

『了解~』


 これほど巨大な空間生成は始めての経験です。

 私はイメージを鮮明にするため、巨大な風船を膨らませてこの星を包み込む構図を頭に思い描きました。

 拡張した空間にこの数年間で蓄えていた魔力が急速に失われていきます。


『できたよ~』


 やがて星を包み込む巨大な空間が生成されました。

 心なしかティンクも疲れているようです。


『よし、水晶ゴーレムに指示しな、起動、展開、実行』


 ローザ様は矢継ぎ早に指示を出します。

 ここにきて漸く私にも一分一秒を惜しんでることが判って来ました。

 だから今は説明なんて必要ありません。


『ティンクいくよ、全水晶ゴーレムに指示、起動』

『了解~』


 星のあらゆる場所から何かが押し寄せて来るような感触。

 見下ろせば随所で埋み火のような光がちらちらと煌めき始めました。


『全水晶ゴーレムに指示、展開』

『いっくよ~』


 期待を込めた私の意識に答えるように、煌く光がどんどん大きくなってきました。

 どこにこれだけの数がいたのかと思えるほど沢山の水晶ゴーレムが私達のいる辺りまで上昇して来たのです。

 玉子大の水晶から伸ばされた手足が他の水晶ゴーレムのそれと魔力の線で結ばれ、星を包み込む巨大な網を形作っていきます。


『全水晶ゴーレムに指示、実行』

『やっちゃえ~』


 意識に反応して、水晶ゴーレムの水晶が一斉に光を放ちました。

 まるでこの星が太陽にでもなったかのような強烈な輝きが生まれます。


 どれ位の時間が経過したのでしょうか。

 やがて輝きは弱まり、星全体が柔らかな光に包まれていました。


 気がつくと、私達の周りで沢山の小さな光が煌いています。

 役目を終えた水晶ゴーレムが崩壊し、微細な粒子となって漂っているのです。


「お疲れ様、ありがとね」


 私が声を掛けると、誇らしげに明滅を繰り返し、やがて消えていきました。

 その明滅に何か意味があったのかは判りません。

 ただ、私にはお別れの挨拶のように感じられました。


『さて、戻るかね』

『はい』


 人の姿に戻ったローザ様が私に寄りかかっていらっしゃいました。

 途中から魔力の消費を感じなくなったのですが、恐らくローザ様以下始祖竜の皆様が肩代わりして下さったのでしょう。


『ティンク、私とローザ様の包む空間生成、制御マイスナー村へ転移』

『了解~』


 私はローザ様の肩を支え、我が家の庭を頭に思い描いたのでした。


        ◇        ◇        ◇


「あれは晶竜が作成した水晶ゴーレムだったのかい」

「はい」


 師匠は私のお話を聞き、なるほどねと頷かれました。

 魔力熱を理由に追加で三日のお休みを頂いたので、ゆっくり養生してもらいたいのですが、やはり今回の経緯は気になるようです。


「それでコユキが触ると動きだしたんだね」

「正確には私の魔力を感じて……ですけど」


 水晶ゴーレムはシンプルな造りで、魔素変異に順応出来るようにする全快フォルスタンディク・ヴェサルングの魔法をアレンジした魔法陣を内臓した水晶コアに、魔力線を構築する機能を持つ手足で構成されていました。

 明滅も晶竜さんの魔力を認識した際に反応するだけの意味しかなかったのです。


「それで魔素変異の発生条件は何だったんだい?」

「ああ、それは……」


 魔素変異は約五千年の間隔で、魔力が最も高まる満月蝕の前後数年以内に発生することが判っています。

 参考となる情報が少ないため、始祖竜の皆様もご存知なかったようです。

 この世界で五千年前というと、まだ人の歴史は始まっていなかったそうなので、気にしていなかったのかもしれません。


 始祖竜の皆様は高位の存在故、魔素変異が発生しても容易に順応されるそうなのですが、何故私が無事でいられたかが不思議でした。

 恐らく、魔素変異の時期が近いと考えた晶竜さんが私の体をこの世界に適合させる際に、順応出来るようにして下さっていたのではないかと思います。


「なるほどね」


 師匠はふぅ~と深いため息をつかれました。

 今回の事件は誰も真相を知らないまま、多くの種族が絶滅するかもしれない危機だったのです。

 宮廷魔術師として多くの知識を持ちながら、それでも対処出来ないことがあると改めて考えていらっしゃるのかもしれません。


 実際、私達の対応が間に合わず、各地で沢山の死者が出ていました。

 季節が冬であったことも被害を大きくした原因です。

 でも私はそれを気に病むことはもうしません。

 私達は出来るだけのことをやったはずだから……。


次回予告:「第四十二話 復旧」

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