という訳であんたドSだよなっ!そして俺は不幸体質だよなっ…え?知ってた?
「ふうはははははーははははは!」
謎の笑い声を上げて龍渓の一角を走っているのはMr.ノーマルこと俺、ヴァレイだ。
え?何が楽しくて笑ってるんだって?
それは……
ギュオアアアアアア!
ジャリュウウウウウウウ!
ビェボオオオオオオ!
後ろに大量の魔物が追いかけてってうわあああああああああああああああああ(必死)
俺がなぜ、こんなバイオレンスで死と隣り合わせなマラソンをすることになったのか。その理由は数時間前に遡る。
▲▽▲▽▲
「まァとりあえず、状況の再確認といこうじゃねえか。」
蒼髪の超暴力的麗人ことカンナはひとしきり俺をシバいた後、俺が何とか口がきける状態になった頃にそう切り出してきた。
ってとりあえずじゃねえよ。コッチは意識が吹っ飛ぶところだったわ。
だが、言うとまたシバかれるのであえて言わない。
「とりあえずはこの卓越した容姿ぐらいしかない美少年の俺を、ドラゴンが根源魔力だかをあると勘違いしたせいでここに連れてこられて、訳も分からぬままにアンタにシバかれてる、という状況だ。」
「ドラゴンは勘違いなんかしてねーよ。ドラゴンの魔力に対する感受性は人間より遥かに優れているしな。」
あれ?美少年の件はスルーですか?ちょっとそれ俺がただの痛い人に見えるからマジ勘弁。
てかドラゴンの勘違いじゃ、ない?
「マジ?」
「マジ。」
オウム返しにそう返したカンナはさらに意地悪げに続ける。
「プラスして良い事教えてやるよ。根源魔力ってのはいわゆる己が出し切れていない魔力の塊だ。んでもってその出し切れないものは心身を鍛えることで常態魔力へと変換されていく。ま、オメーはまだ魔力を大幅に成長させられるってことだ。」
「ぶっちゃけ魔力とか商人の俺には豚に真珠、馬の耳に念仏、猫に小判って感じなんだけど。」
俺の言葉を敢然とスルーし、カンナはさらに続ける。
スルーとかヒドイ!
「さらに、だ。オメーの根源魔力ってのはオレにさえ底が見えねえ。つまり、これから心身を鍛えまくれば、ここから出れる可能性が出てきた訳だ。」
!!!!!
「マジか!」
俺はここから出れるのか!?そうか?そうなのか?そうだと言ってくれ!!!
「大マジだ。」
そう言ったカンナはニヤリと笑う。
そうかそうなのか…
「うっしゃあああああああああ!希望キタアアアアアアアアアアアア!!!!!」
キィィィィイイイイイタアアアアアアアアアアアアアア!!!
…え、黙れ?スイマセン。
でも脱出不可と思っていた地獄を、脱出できる希望が見つかったら誰でもこうなるっしょ!
「ただし…」
だが、そんな俺の歓喜をぶち壊すような一言を彼女は投下した。
「オメーが自力で鍛えようとしたら1000年はかかるがな。」
…
……
………
…………(;・д・)!!!!!
ええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!
「ちょっとまてえええい!それじゃあ意味ねえじゃねえか!出れたと思ったらミイラでしたじゃ意味ねえんだよ!」
ついかなり素の言葉遣いでしゃべってしまっているが、カンナはそこまで気にしていないようだ(まぁ気まぐれだろうけどな!機嫌悪いと絶対殴られるだろうし)。
むしろこの状況を楽しんでいるようにも見える。
「まぁミイラじゃあそもそも動けないけどな。」
そこじゃなああああああああああああい!
「でだ、実際その根源魔力を脱出レベルまで常態魔力に引き上げるのはオメーには無理だ。そうオメーにはだ。」
「それ結局出れねえんじゃん!嗚呼、俺の残りの人生さんさようなら~。」
あれ?なんか目から汗が。
…ぐすん。
だが、天はまだ俺を見放してはいなかったようだ。
得意の現実逃避(現実逃避が特技ってアレだけども)をしている俺を少し不満そうに見ていたカンナは「察しが悪いな。ったくちょっと戻って来い」と俺の脳天にチョップをかました。
本日三度目の芋虫です。本当にありがとうございました。
「~~っ」
もはや悲鳴もなくのた打ち回る俺に、カンナは面倒くさくなったのか、先ほどは使わなかった回復魔法を頭にかける。ちなみに今回彼女が使った回復魔法というのは、光を傷に向けて飛ばして回復させるようなものだ。
暖かな光が俺の頭から発し、どんどん痛みが引いていく。
…これ、まわりからみたらある意味不思議生物じゃね?
そんなことを頭の片隅で考えつつ、なんとか現実に戻ってくることができたようだ。
カンナは俺の頭の治療を続けながら話を続ける。
「あくまでオメーじゃ無理だって言ってんだ。つまり、オレが協力してやればそこまで時間をかけずに…いや、そうだな。10年ぐらいで脱出できるようにしてやることができんだよ。」
脱出できる、という言葉を聞いた瞬間、オレは上体を0.02秒で上げた。
聞き捨てならんぞそれは!頭痛程度でのた打ち回ってる場合じゃねえよ!!
「どうかその情報についてもう少し詳しく教えていただけないでしょうか。聖母カンナ様。」
そしてそう言った俺は、即行で土下座した。
それはもう流れるような滑らかな動作で。
プライド?そんなもんは命の前じゃゴミ以下の価値しかねえんだよ!
そして、どうやら俺の捨てプライドの特攻は功をなしたようだ。
…捨てプライドの特攻ってなによ?俺が言ったけども。
話がズレたな。
カンナは歳にも似合わず(これは本人には絶対言えないな)図に乗った(これも言えん)ようで、その豊満な胸を張って調子にのっている。
ああースイカがー、と俺が土下座しながらこっそりと観察していたのは言うまでもないだろう。思春期の男だから仕方ない…ってとりあえず俺15だからね。
「ふふん!まぁ特別にちょっと詳しく説明してやるとな、俺が特別な時空間魔法を使ってオメーの鍛錬を超効率的に行わせることが出来るわけだ。だいたいフツーに鍛錬する100倍以上の効率でな。」
おお!時空間魔法とか使い手が大陸に1~2人居ればいいほうな習得が難しい魔法なのに、使えんのかよ!
だけども…
「ちょっとお待ちください?それってまさか疲労も100倍以上ってことはありませんか?」
そう。もしこれが当っているのならば、1分の運動が100分運動した時の疲労と同じになり、それでいて休憩で5分とるだけでも500分の休憩という事になってしまう。
これはむしろ効率が悪い。
だが、そんな心配も無用だったようだ。
「そこは問題ねえ。オレの魔法がその程度の問題点を克服して無いと思ったか。むしろ体力は回復しやすくなってるぐれーだ。」
ふたたび自慢げに胸をはるカンナ。
いやー下からってホント絶景だな…ってそうじゃない!重要なことは性欲じゃなくて脱出だ!!
「流石でございます大聖母カンナ様!(パチパチ)」
お世辞180%の言葉とともに拍手を送る。
もちろん商売で培った営業スマイルも忘れない。
だが、今度は胸を張らなかった。少し残念に思えたのは別の場所に置いておく。
彼女は急に表情を冷静な表情へと変える。
「まぁ煽てた(おだ)ところでなにもでないがな。…さて、茶番はこれくらいにして、それを行う上での条件についてだ。」
茶番ておい
俺の内心のツッコミに気付くことなく(気付いたら怖いけどな。てかある意味やりかねないな。)彼女は話を続けていく。
「条件は三つだ。一つ、オレの弟子として鍛錬をするため、その内容についての文句の禁止。二つ、朝昼夜の食材調達と調理。三つ、外に出れた場合にオレの名前を口にしないことだ。」
「…は?」
弟子?それに外で名前を口にしない?
「は?、じゃねーよ。当たり前だろ。こちとら慈善事業じゃねえんだ。本当なら1000億ぐらい金を積んでもこんなことさせねえんだから、寧ろ出血で失血死するほどの大サービスだ。しかもこんな美女と一つ屋根の下だぞ。血で海ができてると思え。」
…分かりにくいなあその説明。てか聞きたいのはそうじゃないし。
「そうじゃなくて、なんで弟子って立場でなおかつ外で名前を出しちゃいけないんだよ?まぁ食材調達と料理はなんとなく理由は分かるけども。」
めんどくさいんだろ?てかそれ以外になにがある。
「弟子って立場の方が何かとそれっぽいだろ?てか名前の事に関しては自分で気付けアホ。もう答えを言ってあるわ。…で、どうするんだ?ここでこの条件を飲んで外に出るか、飲まずに野たれ死ぬか。」
「そりゃもちろん飲む。」
彼女のテキトーな…いや、彼女らしい回答を聞き、多少呆れた顔をしながらも即答する俺。
まだ死にたくないからな。てかこの程度ならホントに俺がお得だ。
カンナは俺のそんな反応に満足したのだろう。口角を上げる。
「よし!じゃあテメーは今この瞬間から俺の下僕…じゃなかった。弟子だ!」
明らかに素で間違えたように言ったカンナ。
すかさず俺のツッコミが飛ぶ。
そのスピードはもはやマシンガンもかくやというスピードだ。(意味不明)
「おいちょっとまて下僕ってなんで間違えた?!下僕と弟子はかなり違うぞ!。」
だが、俺のツッコミはどうやら彼女にとってはどうでもいいらしい。(悲しい!)
「細かいこたぁ気にすんな。ほら!じゃあさっそく外出るぞ!」
と部屋から出ていってしまった。
…てか部屋の外はすぐに森なのね。若干道になってるようだけど。
仕方なく俺は彼女を急いで追いかけるのであった。
▲▽▲▽▲
そこはただただ何も無い白き空間であった。
「え?なにこれ?」
カンナを追って走っていた俺は、スピードを落とし、やがて立ち止まる。
周りには先ほどまであった木々も無く、青く広い大空や雲の一つさえ無い。
明らかに人工的、それも魔法で作られたものだ。
そうか。これが…
俺がこの空間の正体に感づいた瞬間、その姿は無いが、もはや聞きなれた声が響いた。
「ようこそオレのオリジナル時空間魔法『想像と時空の間』へ。」
ただただ白い空間。これがカンナの言っていた特別な時空間魔法の正体だ。
だが、これが空間を作ることが本領発揮、という訳では無いんだろうな。
俺がそう考えていると、どうやら彼女から鍛錬の仕方の説明があるようだ。
ここでは授業を受ける立場であるので、しっかりと聞く姿勢になる。
「まずここがどんな空間かと言えばな、まぁ簡単に言えばオレの頭ん中だ。」
…まさか今頭の中真っ白なのか?
俺がそんな疑問を持つと、驚くことに答えが返ってきた。
「んな訳あるかバカ。ただ単にオレの脳の情報を写し出していないだけだ。証拠に…」
彼女の声が消えた。そして同時に、俺の体が背中を引っ張られるように宙に浮かび上げられた。
ほんの数時間前にあった暖かい風と共に。
え?これはアレですか?まさかのアレですか?
ギギギギギという音が聞こえそうなほど震えながら目線を後ろに向けると…
D☆O☆R☆A☆G☆O☆N☆D☆A☆!
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
それも模様まで同じいいいいいいいいいい!
俺の脳内がパニックで埋め尽くされていく中、前回は意識が落ちたが今回は何とか持ちこたえる…いや、持ちこたえさせられているといった状態だろうか。
流石に生物界の頂点に立つドラゴンに咥えられているといっても二回目であり慣れた(いやそれも嫌だな…)のかも知れない。
自分で、ある程度の冷静さを保っていることに驚いて咥えられていると、不意に俺の右腕に魔力が込められ、それを思いっきりドラゴンの腹に体ごと捻って反転するかのようにして拳を叩き込んでいた。
普通ならその拳ははじかれてしまうのがオチだ。
しかし
グロオアアア?!
驚いたような声を上げるドラゴン。
そう。それは、まるで豆腐をつぶすかのようにドラゴンの腹にめり込んだのだ。
ドラゴンの腹部というのは他の部位に比べ、比較的柔らかい部位に入るのだが、それでもめり込ませるにはかなりの大物の武器とありえないほどの腕力が必要になる。
だが、もちろん俺は素手であり、武術の達人なんてこともない。
普通ならありえない現象なのだ。
そもそも勝手に右手が動き出すとか言葉で聞くと中二病だけど、現実ではありえないホラーな現象だけど
もな!
「?!?!?!?!?いやなんでええええええええええええええ?!」
っておい!台詞にするつもり無かったのに声にしちまったぞ!どうしてくれる!(知らん)
そんなことをしている間にも、俺は(てか俺の勝手に動く右手は)ドラゴンの腹部に突き刺した腕に魔力を込め始め…
ボウッ!!!!!!
右手から発生した魔力波が瞬間的に広がり、ドラゴンの体を内側から吹き飛ばした。
だが俺の体は、まるでそこだけに当らなかったように立ち続け(卑猥な意味ではない。)ていた。
代わりに俺の全身にその返り血が浴びたが。
ってうわ、鉄くさ!てか肉片気持ち悪っ!グロイグロイグロイ!!俺の今の状況って客観的に見れば右手が勝手に動き出す以上のホラーだよ!!
自身の不可解な状況にとりあえずツッコミをいれると、俺の額に張り付いた肉片を放り投げようと額に手を寄せる。
しかし
「あれ?」
手は俺の額を叩くだけ。飛んできて張り付いた肉片などどこにも無い。
気付くと、服についた返り血はおろか、右手にべっとりとついていた大量の血や腸らしき肉片さえない。
俺が混乱している状態の中、再びあの女声が聞こえてきた。
「どーだよどーだよ。俺の“想像”いや、“創造”は。」
どーだよじゃねーよ。俺今パニックだよ。
完全に内心で呟いていたのだが、どうやら心の中を覗かれているようだ。でなければ内心の呟きにツッコめる訳が無い。
彼女は悪戯を成功させた悪ガキのように「ははははははははは!」と笑う(なぜか床だか壁だかを叩く音まで聞こえた)。
もう訳わかんねーよ!
「あー、やっぱ人っておもしれーわ。くくくっ。…ん?ああそうか説明か。」
そうだよ俺が今最も求めているのは説明だよ!
「はいはいまったくうるせーな。」
「ひど!」
「まーさっきのはアレだ。俺の想像でドラゴンを創造して、なおかつオメーの腕を創造でオレが支配した。そんだけだ。」
は?いやちょっと待て。創造でドラゴンを創造しただと?それって…
「ただの嫌がらせじゃねえか!」
俺が連れ去られて殺されかけたせいでドラゴンにトラウマが出来たと思ってやりやがったな!
そしてその安易とも言える予想はどうやら間違っていなかったようだ。
これまでに無いほど明るい声で
「まあな!」
と返してきた。
俺の心の中に、イイ笑顔でサムズアップしているカンナの姿が浮かび上がってくる。
…ムカつくなあ。オイ。(イラ)
俺のこの言葉も聞こえているのだろうが、あえて隠しはしない。
だってホントにビビるんだよ!幸いトラウマにはなってねーけど!!
「くくくくく。あ、そうだ。今回はオレがちょっと手助けしてやったが、もう手助けはねえからな。」
???
なにそれ?
「まぁすぐに分かるさ。さて!鍛錬スタートだ!!」
「え、ちょっ俺何も説明聞いてな…」
俺の台詞が言い終わる前に、景色が見慣れてきた森に変わる。
ただ一つ違う点は、俺の目の前に涎を垂らした魔物たちが俺をジッと見つめていることだけだ。
……み、見つめたって何もでないんだからね!(ツンデレ風)
俺のボケに自分が吐き気を覚えながら、青くなって硬直しているとまた女声が聞こえた。
無茶苦茶楽しそうな声で
「さてーヴァレイ君!キミがこれからやるのは距離制限なしのマラソンだ!」
え、それって状況的にまさかの……
俺の頭に最悪の鍛錬の想像が浮かぶ。
もしこれが本当なら、俺は…
「そう!一週間以上何も食べていない腹ペコな魔物から逃げ回ってのな!!」
死にますな。ってイィィィィィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!(もはや断末魔)
「さて、死ぬんじゃねーぞお。レディ…」
「いやちょっとそれはマジで死「ゴウ!」…ぬって。ってうをおおおおおお!?」
彼女が合図をかけた瞬間、いっせいに走り出してくる魔物たち。
ギュオアアアアアア!
ジャリュウウウウウウウ!
ビェボオオオオオオ!
ぎゃああああああああ!
最後のは魔物の鳴き声ではない。俺の悲鳴だ。
体を反転させて街道らしき道を走りだす俺。
ちなみに余談だが、人は恐怖の限界を瞬間的に超えるとどうやら笑えてくるらしい。
「ふうはははははーははははは!」
俺はなぜかそんな風に笑い声をあげながら、逃げ出したのだった。
そうして冒頭につながるわけである。
ぶっちゃけ、走りながら笑うとか体力の消費半端ねえ(苦笑)
そんな地獄のマラソンから始まった俺の鍛錬。
これ、続くのか?いや、続け。続いて無いと俺死んだってことだろ。
「はーっはっはーははーっはっははー」
そんな感じで俺は鍛錬、ものすごく頑張ってます。
…死にたくねえしな!