という訳で俺の人生が狂いだしたようです
はいはいコンニチワ。最強の駄文書きことタイヤです。
また懲りもせず見切り発車とか気にしない。気にしない。
「…え、なんで地面が遠く見えるの?成長期で大きくなり過ぎたの?俺?それになんか暖かい風が…ってええ?!どどどどどどドラゴンんんんんん?!」
若干の現実逃避の後、俺はやっと現状を正しく把握した。
俺がいるここは地上よりはるか上空、それも恐怖と畏敬の存在であるドラゴンに服をくわえられているだけという状態なのだ。
普通?そんな訳があるか!十分異常事態だ!エマージェンシーだ!
ちなみに、暖かい風というのはそのドラゴンの鼻息である。
こんな状態ではいつ落ちてもおかしくはなく、また、いつ喰い殺されるかも分からない。
…いやいやいやいや、きっとあれだろ。うん。あれだ。このドラゴンは古代の勇者の使い魔で、到着したら「おぬしには力がある。よってわしの能力を渡し、次現れる魔王を年老いたわしに代わって成敗してくれ。」…みたいなノリになるんだろ。いやむしろそうだといってくれ!(必死)
グルルル…
ドラゴンの涎が俺の肌を濡らす。
オマエ、巣で食う気満々かあああああああああああああああああああ!!!!!
「うは、もう無理…(ガク)」
そうして俺は諦めるのかの如く、意識が遠のいていったのであった。
▲▽▲▽▲
ここはドラゴンの多くが生息している特別な山脈。
名前は特にないが、『龍渓』という名称は一般人にも広く知られている場所である。
まぁ魔境としてだが。
そんな場所でとある女性が森の中を駆け回っていた。
年齢は二十歳ほどであろうか、蒼く長い髪は薄暗い森の中にいるにも関わらず、輝いて見える。
凹凸のハッキリしたプロポーションに切れ目気味の瞳が印象的な女性である。
現在は残念ながらボロいポロシャツを着ているのだが、衣装が衣装なら貴族の令嬢と言ってもおかしくはないほどだ。
「やっぱ朝の運動サイコーだ!」
…口調も口調ならのようだが。
あ、仕草もか。
まぁそんな感じで駆け回っている彼女だが、ただの運動という訳ではなく、しっかりとした理由をもってこうして駆け回っているのだ。
「お、ドラゴンの巣だな。卵でもねえかな?ま、最悪成龍の一匹ぐらいはいるだろ。」
そう。朝食探しだ。
彼女の名前はカンナ・フィルトリアス。
最も最近に発生した魔王を退けた後、暗殺未遂をきっかけに失踪した女勇者だった。
▲▽▲▽▲
「お、着いたのかな?」
再び目覚めた俺は完全に悟りを開き――人はそれを諦めたという――、もはや他人事の用にそう呟いた。
(だってドラゴンだぜ?国一つを一匹で滅ぼせるのが平均的な強さなのに、むやみやたらに抵抗したら死期を早めるだけじゃないか。)
そんなことを考えながらも、急に上空で停止したドラゴンが次に何をするか観察していると…
グォウ…グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「え?ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
森に向かって急降下しやがりました。本当にありがとうございます。
しかも並みの速さではない。
先ほどまで何故かまったく感じていなかった風を切る感覚が体中に感じ、見える景色が色だけに変わっている。
(あれ?これはさっそく死亡フラグか?)
「ハッ!もしかしたら思い切り俺を叩きつけるつもりなのかっ!」
冗談(だと思いたい)半分で言った言葉は遠からず当たっていたようだ。
ガツンッ
目を瞑っていた俺が、硬くない何かに当たった感覚。
しかし衝撃は音に比べてかなり小さなものだった。
例えるならば水の中で走るときのような抵抗ほどである。
そしてその後、ドラゴンは減速しだした。
恐る恐る目をあける俺。
ドラゴンは上に大きく穴があいた洞窟、おそらくドラゴンの巣であろう場所にゆっくりと下りだしていた。
(うわついにご到着かよ。死ぬなら楽に死にたいなぁ…)
そんな事を考えていると、どうやら地面に着いたようだ。
ドスン
ドラゴンの巨体が地面を揺らす。
そしてドラゴンは首を振ると、俺を放り投げた。
いやードラゴンって結構でかいのよ。
数字にすると体長20mぐらい。
つまり
「うわああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
死ねます。
だが、俺の悪運も相当のようだ。
運良く、生えていた茂みに突っ込みスピードが落ちたお陰で、なんとか一命と意識は取り留めた。
だが、ドラゴンもここで見逃してくれるとも思わないし、何しろ足の骨が折れたようでまったく動かない。
「ぁぁ、俺の人生もここで終わりか…。」
トドメを刺すつもりか、だんだんとドラゴンが近づいてくる。
不思議と痛みと恐怖はない。
あるのは諦めの感情だけ。
「はぁ。」
思い切りため息をつく。
気分は完全にギロチンを前にしたルイジィ16世さ。あれ?14世だっけ?まぁいいや。
そんなことを考えていると、ついには目の前にドラゴンの口が来ていた。
ドラゴンが口をあけると、そこにはナイフのような牙と油のような匂いがする。
(終わった…)
俺が完全に絶望したその時、迫り来るアギトが不意に横へ吹っ飛んでいった。
「は?」
思わず声を出してしまう俺。
ドラゴンの体重というのは人間とは比較にならないほど重い。
それがいとも簡単に吹き飛ぶということがあるのだろうか。
いや、普通はないだろう。
「ドラゴンは丸焼きがうまいん…は?おいガキ!オメエなんでこんなところに居る?!」
…やはり、この女性は普通ではないみたいだ。(確認)
まぁドラゴンを吹っ飛ばすようなヤツが普通だったら嫌だがな!
「さぁ?気がついたらこうなってた。」
どうやら今回の件で、俺も随分と肝が据わったらしいな。
ふっ。ドラゴン吹っ飛ばすようなヤツにタメ口なんて普通はできないだろう。(ドヤ顔)
「ハァア?!って流石にまだ逝かねえか。」
彼女が後ろを振り返る。
そこには怒りを露にしたドラゴン。
口にはチラチラと炎が溢れている程ご立腹だ。
しかもその炎はただの炎ではない。
魔法の心得の無い俺でさえ、視認できるほど高密度な魔力がそれに練りこまれているのだ。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
ドラゴンは巣が振動するほどの咆哮を上げ、思い切り空気を吸い始めた。
そう、それは誰でも知っているブレスの予備動作だ。
ちなみにあれだけ高密度のブレスだと、周囲一帯は灰燼に帰すだろう。
(今度こそ死亡フラグか?)
ぼんやりとそんなことを考える。
だが、残念ながら今日は俺のフラグたちの命日だったようだ。
「ちっ。ブレスかめんどくせえ。」
俺の目の前に居た彼女が不意に視界から消える。
そして瞬間的にドラゴンの眼前に移動していた。
「『悪食』」
それから後は、もはやただの作業であるようだった。
彼女が腕を振ると、その延長線上にあったドラゴンの頭が“消滅”したのだ。
そう、まるでそこに最初から何もなかったかのように。
「は?」
ドラゴンの首から噴水のように血が飛び出してくる。
そして、ドサアアンと地響きを立てながらドラゴンが倒れ伏した。
「はっ。やっぱ雑魚いなー。」
(…いやちょっと待て。ドラゴンって生態系の頂点に立つ生物だぞ!それを一瞬にして殺すってオイオイオイ!洒落にもなんねえよ!)
生態系の頂点に座すドラゴンをそう評価した彼女に、内心で(現実で言ったらヤバそうだしな!)ツッコミを入れた俺。
いきなりだが、ドラゴンについて少し詳しく説明してみよう。
ドラゴン。それは太古より伝説とされてきた種族であり、一部のドラゴンは能力値だけなら神の領域にさえ手が届くというほどだ。
無論、現存する生物には余程のことがなければ殺されるようなことは無い。
つかオリハルコン性の剣でも傷つかず、魔法も基本属性はほぼ無効にするような鱗でほぼ全身を覆ってたらそうなるわな!
まぁ、簡単に言えばチート。普通の人間どころか、S級以上の高位ハンターでも生き残るのが精一杯になるだろう。討伐に至っては、その難易度は鼻の穴にメロン突っ込むことと同じ位である。(意味不明)
ようは言いたいのは、俺の反応が普通だってことだ。
そしてこの女が異常だってことだ。
閑話休題
「さて」
ドラゴンをあっさりと殺した彼女は俺の方に振り返った。
うん。見た目だけなら美人なお姉さんだ。見た目だけなら。
彼女は動けないでいる俺の眼前に、再び瞬間移動さながらのスピードで戻ってくる。
「で、ガキ。おめえなんでここに“居れる”?」
「…は?」
いれる?居るから居ますが何か?
なんていえる筈がねえよなぁ…。ドラゴンを瞬殺するようなヤツに。
「いれる?居るから居ますが何か?」
あ、言っちゃった。
え、額に青筋浮かべながらなんでこっち来んの?ちょっとまっ…
▲▽▲▽▲
「気づいたらドラゴンに連れ去られてた、だァ?」
改めてマジメ(・・・)に一通りの事情を説明した後、女性はドラゴンを焼きながら俺に怪訝な瞳を向けながらそう言ってきた。
いやいやいや、そうとしか説明のしようが無いんだから仕方が無いだろ。てかドラゴンを食うのか?!
ってそんなことより…
「そもそもここってどこ?」
だってドラゴンなんて希少種族の生息域は限られてるからな。
運が良ければ(ドラゴンに連れ去られた時点で俺の運なんてたかが知れてるがな!)、転移魔法で直ぐにでも村に返してもらえるし。
だが、俺の淡い期待はすぐさま打ち砕かれた。
「魔域管理番号4。通称『龍渓』って言えば分かるか?まあ上位魔域だよ。」
淡々と答えてくれる女性。
そうか。『龍渓』なのか。そうなのか。
「って『龍渓』?!」
『龍渓』、それは女性が言ったとおりギルドが管理している魔域だ。
だが、その管理と言うのは管理番号が5より上の魔域とは決定的に違う。
それはギルド子飼いの冒険者が直接、そこに入っているかどうかの違い。
いや、“入れるか”“入れないか”の違いだ。
管理番号が5より小さい魔域にはすべて、神が設置したと言われる特殊な結界が張り巡らされている。
その結界というのは、『一定の魔力を持ち得ない者の進入を拒む』という物だ。
ちなみに一定の魔力というのは一般人の平均魔力が1とすれば約2000。
つまり常人の約2000倍だ。
幸いなことに管理番号が5より小さい魔域は、その数字が小さくなるほど必要魔力が多くなる、なんてことは無いのだが十分に多すぎる。
…ってあれ?なんで俺入れたの?俺の魔力なんて常人に毛が生えた程度だよ。両親も商人の家系で大魔術師なんていなかった筈なんだけど。
俺のそんな疑問に気づいたのだろう。女性が口を開いた。
「…知ってるか?低位のドラゴンってのは産卵のための栄養を蓄えるために比較的魔力の高い獲物を探す習性がある。恐らくテメエの魔力。それも表面に出やすい常態魔力じゃなくて命の危機がトリガーとなって出てくる『根源魔力』に引き寄せられたんだな。ま、ドラゴンを恨めや。」
いやいやいやいや、恨めってもう十分恨んだんだけど。…主に自分の運の無さを。
てかそうじゃない!
「ってことは俺はここから出れるのか?」
この魔域がいかに侵入者を防ぐといえど、現在俺はここに入れたんだ。だったら出ることもできる筈。
そう考えていた時が俺にもありました。
だが、現実はそうはうまくはいかないようだ。
女性は言いにくそうに(ドラゴンにかぶりついてるしな)口を開き、話し始めた。
「あー実はこの魔域ってやつはかなり厄介な代物で、脱出には進入のさらに5倍以上の魔力が必要とするらしくてな。俺でさえ出れねえんだわ。ここ。」
無論、「オメーが命の危機になって障壁に突っ込めばどうか分からないけどな。まぁ出れたところで瀕死だからすぐ死ぬだろうけど」と軽口も忘れない。
…いや、軽く言ってるけどそれ俺にとっちゃ死活問題なんですけどおおおおお!
「ちょっと落ち着こうか。うん。それはあれか?ドラゴンや大型魔物が跋扈するような場所にMr.一般人の俺が武器もなしに逃げ回れってことか?」
「落ち着くのはオメーだバカ。そういうことだ。まぁここにいる時点でオメーの魔力は俺と同等以上あるだろうけどな。」
バカって言われた!だけど泣かない!男の子だもん!
ってそっちじゃない!やっぱり俺の解釈で合ってるんじゃねえか!
「おおおおおおおおむあいぐあああああああああああああああああ!」
「…マジで黙れ。周りにキングウルフが寄ってきてんだよ。」
女性はめんどくさそうにそう言うと骨だけになったドラゴンを捨てる。
アンタの肉の匂いで寄ってきたんじゃないか?つか食うの早!
ってやっぱりそうじゃない!
「マジこ?」
キングウルフってA級冒険者でも苦戦するようなバケモノじゃねえかよ!
だが、この女性ドラゴンを素手で殺せるだけあるようだ。
女性は特に気にした様子もなく骨を足で砕いている。
裸足で。
…いろいろツッコミたいところがあるんだが、もうツッコまないぞ。
俺がツッコミをすることも疲れだすと、どうやら骨の処理も終わったらしい。
粉末状になった骨を広げるように足を動かした女性は不意に俺の手を掴むと、座り込んでいた俺の体を起き上がらせる。
足の事など考えず片手で思い切り。
ちょっ俺足骨折して…
そんなことを口に出す前に足に地面の感触があった。
コンマ数秒の差でくるであろう痛みに思わず声を上げる。
「痛てえ!…くない?」
え?なんで?俺の足って折れてたんじゃあ…
そんなことを考えていると、足元に魔方陣が浮かび上がってきた。
それも視認できるほどの高密度な魔力を放つ魔法陣がだ。
「話は後だ。とにかく周辺に4匹ぐらいいるから、狩るのもめんどくさいし家に転移するぜ。」
「は?転移?」
俺がそんなすっとんきょんな声を上げると、俺と女性の周りを白い魔力が覆った。
そういえば転移って体の細胞を分解してから再構築してるらしいけど、実際はどうなんだ?
そんなくだらないことを考えながら、俺の視界は白一色へと変わっていった。
…いやソコ、割と重要じゃね?
▲▽▲▽▲
気がつくと俺は、木でできた簡素でシンプルな部屋に立っていた。
当たり前だが、となりには手を繋いだ蒼髪の女性が同じようにして立っている。
…とりあえず異世界トリップじゃないからね?あ、分かってる?そうですか。って誰に説明してんの?
「さて、改めてちょっと話をしよーぜ。ガキ。」
女性は転移魔法という、初級魔法の癖して詠唱破棄するとアホみたいに魔力をもっていかれる魔法を使ったのにも関わらず、まるで何事も無かったかのようにそう言うと、どっさりと腰を下ろした。
俺の手を握ったまま。
もちろん、そんなことを想定していなかった俺はそのまま尻餅をついてしまう。
…いや、これを予測できたらある意味スゲーよ(真顔)。
「ぶふぉ!」
流石に想定していなかった(大事なことなので二回)痛みに、謎の声をあげてしまった俺。
だが、女性にとってはそんなことはどうでもいいようだ。
手を離し、体を俺の方に向けた彼女は、どんどん話を進め始める。
「まぁとりあえず自己紹介程度はしといてやる。オレはカンナってもんだ。ちょっとした事情があってここに住んでる。次、オメーだ。」
俺に向かって指をさす女性。
…ケツ押さえてもがいてる俺に謝罪しようって気は一切無いわけな。
まあ後が怖いし、ここは簡単に自己紹介しておきますか。
「いててて…え、俺?ヴァレイっていうしがない商人だよ。説明したとおり、訳も分からずここにいるかわいそうなどこにでもいるフツーな15歳少年商人。」
どうよ、この無難な自己紹介(ドヤ)
「ここにいる時点で、フツーなんて言葉は存在しないけどな。」
「あなた程異常でもないです。」
瞬間、俺の額に拳骨がぶつかり、後ろへ倒れこんだ。
拳骨による衝撃と、床に勢い良く頭を打ち付けた衝撃があああああああああ!
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…」
ケツと頭を器用に抱えて芋虫の如くもがく俺。
流石にドラゴン吹っ飛ばすほどの威力は出してないらしいけど、めちゃくちゃ痛いから!
…あれ?なんか赤い液体が額から出てるのは気のせいか?
そして、そんな様子に俺をした張本人は
「誰が異常だヴォケェ。」
やはり額に青筋浮かべながら笑っていた。目は笑っていない通り越して狩人の目だが。
やっぱこの人、マジこえええ!
自業自得?なにそれ?おいしいの?