龍神と愛し子
あるところに一匹の龍神がおりました。龍神は寂しがりやでした。
ゆえに龍神は何人も生贄を娶りましたが、どの生贄も龍神と二人きりの日々に耐えきれなくなり命を絶ってしまったり、段々と生きる気力を失っていったり、あるいは逃げ出してしまいました。
その日は丁度千人目の生贄を娶ったところでした。
生贄は男の子でした。嫁入りという名目なので女の子が送り届けられることが多くありましたが、龍神としては寂しさをまぎらわせるならどちらでもよかったので喜んで今回も迎え入れました。
生贄は瘦せ細っていました。そして攻撃的でもありました。
従順な子よりもこういった子の方が懐柔のしがいがあるし、退屈もしなさそうだと龍神はほくそ笑みました。
生贄に食べ物を与えると警戒しながらも喜んで食べます。
その様子を見て龍神は微笑みました。
初めの三年はそうやって警戒心を解き、龍神の住む場所で採れる果物や獣を紹介することに使いました。
次の三年は生贄の身の上話を聞き、よしよしと撫でて心を開かせることに使いました。
また次の数年で龍神は生贄に自身の身の上話を語り始めました。
今までの生贄の話をすると、今度の生贄の顔はどんどん曇っていきました。
いつもの流れです。何人かの生贄はこうやって龍神が昔語りをすると、前任たちの凄惨な末路に怯えをなしたのか、自害してしまうのです。
楽しそうに聞き入ってくれた生贄も居ましたが、そういった生贄も何故か「少し旅に出ます」と言ったきり帰りませんでした。
いつでも逃げろ、そう思いながら龍神は語り続けました。
生贄は龍神が出かけている間に持ってきていた懐刀を研ぐようになりました。
ああ、そろそろ終わりが近いのだ、それまではせめて楽しく語らおうと龍神は覚悟を決め、その日も生贄を抱いて眠りました。
ある朝、息苦しさに龍神が目を覚ますと、龍神の喉元に生贄が刃を突き立てていました。
「なあ、これをするのは俺がはじめてか?」
泣きながら言うその目は嫉妬にまみれており、龍神にはそれが愛の告白のように聞こえました。
龍神はにんまりと微笑みました。
「いいや、十人目だ」
「そうかよ」
生贄は龍神が抵抗しないのをいいことに、龍神の鱗をびりびりと剝ぎ始めましたが、あることに気付き手を止めました。
「これも誰かが前にやってるのか」
龍神の体にはよく見ると傷跡が沢山ありました。
「左様だ」
「愛されてたんだな」
「ああ」
「でもどの愛もお前の寿命には勝てなかった」
生贄はうずくまり、声もなく泣きました。
「俺もきっと勝てない」
「俺がつけた傷だって、俺のあとに来る生贄にどうせ上書きされる」
龍神は不思議でした。何故誰もかれも唯一になりたがるのか。
もともとひとりとして龍神にとって他の者と全く同じ者などいないのです。
こうして抱いて慰めるのは何度目だろう、何人目だろう、と龍神は途方にくれました。




