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婚約破棄された上に濡れ衣を着せられた悪役令嬢は、聖女の「予言」のカラクリを見抜いて反撃します

作者: エフピロ
掲載日:2026/04/16

「カティナ・アルヴェリオ! 君との婚約を破棄する!」


 白昼の学園の中庭で、私の婚約者である第二王子ヴァルター様が吠えた。


「それで、その横の女とくっつくというのですか、ヴァルター様。本気ですの?」


 うちは国随一の権勢を誇る公爵家。

 王家がわが家をないがしろにしたら、国を揺るがす事件になる。

 それをわかっているのかいないのか、ヴァルター様は私のその言葉に語気を強める。


「その言葉づかい! 負けん気の強さ! お前など王家の妻に相応しくないのだ! この可憐な聖女エチルを見よ! ああ、なんと素晴らしい女性だろう」


 あー、こうならないように生きてきたのに。

 これがゲームの強制力、ってやつ? マジだる……。


 私は、この世界に生まれ変わった、いわゆる転生者だ。前世の記憶もばっちり残っている。


 ここはゲームの中の世界で、私は悪役令嬢になる子に転生したらしい。でも実は私はこのゲームをやったことがない。詳しい友人から聞いておおまかな話やキャラの名前くらいは知っていた、というレベル。


 だから、ただ穏便に、波風を立てないように生きてきた。公爵家の令嬢なんて普通に生きていれば幸せになれる恵まれた立場。だからそれを目指していた。


 なのに、この人は私のハッピーモブ人生を狂わせようとしている。何してくれてんの。


「王家の妻……貴方がわが家に入るお話でしたのに。なにをおっしゃっているのやら」


 第二王子は男子のいないわが家に婿養子に入る予定だった。


「うるさい! 僕は王位継承権を持つ王子だ。王になる資格だってある!」


「そうですわ、ヴァルター様。貴方様こそ王になる器のお方」


 聖女エチルが煽る。この子、たしかゲームの主人公のはず。ヴァルター様とくっつきたがるのは運命っちゃ運命か。


 しかし、王になるってまさか第一王子と争うつもり? 本気? つきあっていられないわ。


 証人、たくさん。

 私、被害者。

 よし。


「ああ、なんということ! 王子に浮気をされ、このカティナ・アルヴェリオは一方的に婚約を破棄されました! そういうことなら仕方ありません、身を引かせていただきましょう」


 私が幸せになれるなら相手はヴァルター様でなくてもいいのだ。親が決めた婚約だけど、むしろ王族とかめんどくさい。いちから結婚相手を探せるなら、逆に嬉しいくらい。


 そう宣言してその場をあとにしようとする私を、エチルが呼び止める。


「待ちなさい、悪女カティナ! 貴女の罪を償いなさい!」


「は?」


 悪女? 罪?


「貴女は取り巻きと共謀し、恋敵の私や後輩を退学寸前まで追い込み、生徒会と対立。しまいには実力行使で害そうとするも、間一髪、このヴァルター様に止められる! これが貴女の未来の罪です!」


 周りがざわつく。

 ぜんっぜん身に覚えがないし、未来って。

 ただ婚約破棄をしたら悪者になるからって、さすがに無茶苦茶すぎじゃない?


「そんなことしていませんし、しません! 何をおっしゃっているのです?」


「これは聖女の予言。貴女は悪役令嬢なのですから!」


 ん?


 悪役令嬢なんて単語、この世界にはない。

 ということは、もしかしてこの聖女も転生者だったりする!?


 しかし私はその悪役令嬢にならないように生きてきた。悪いことなんてなーんにもしてない。きれいさっぱり潔白である。


「ヴァルター様。予言ということは私は今は無実。さすがにこんなことをおっしゃるのは私が罪を犯してからにしてはいかが?」


「それはその通りだ。だがエチルの予言はとてもよく当たる。せいぜい気をつけることだ」


 ゲームをやってた転生者ならこの世界の出来事を知っているのだから、予言モドキをするなんて容易いこと。この女、そうやってヴァルター様の信頼を得たのか。


「残念ですが、私に対してはその予言は当たりませんわ。私はイジメや悪いことをするつもりなんてありませんから」


 断言する私。

 エチルはヴァルター様の後ろで悪そうなニヤケ顔をしていた。

 ……イラッとするなあこの子。


   *


 そして一ヶ月ほど経ったある日。

 昼食をとっている私のところにやってくるヴァルター様とエチル。


「カティナ! 言ったそばから悪事に手を染めたな!」


「は? なんですの?」


 あれからとっても平穏に過ごしていた私には、言いがかりもいいところ。


「一年の女生徒に酷いいじめをしているそうじゃないか! 本格的に見損なったぞ!」


 いやいや、あんなこと言われて一ヶ月でそんなことするバカいるはずないでしょ。


「何かの間違いでは。私はそんなことはしておりませんわ」


「いいえ、一年のフレア・ストック男爵令嬢。私たちは直接お話を伺いましたから間違いありませんわ」


 エチルがまたニヤニヤしながら出てくる。


「なんでも、貴女と取り巻きに生意気だと囲まれて、髪や服を切り刻まれたと。その上、まだ学園に来るなら公爵家の力で男爵家を潰すと脅したそうではないですか。最低ですわね」


「ああ、涙ながらに訴える彼女が嘘をついているとは思えなかった。人としてやってはならぬことをしたな、カティナ!」


 そんな事はやっていない。何かの間違いだ。


「ふん、そんなわけありませんわ。そもそも私はそのフレアさんとは面識もありませんのよ。直接確かめて参りましょうか」


「良いだろう。我々も同行しよう」


   *


「ひ……ひいぃっ!? 学園もこうして退学いたしますから、何卒、何卒家だけはご勘弁ください……!」


 寮で荷造りしているフレアさんと顔を合わせた途端、彼女は真っ青になり震えだした。


「ええと、貴女と私、お会いしたこともないと思うのですけれど?」


「!? ……は、はい、そういうことにせよと申されるなら、そのように致しますので、どうか、どうか……」


 ダメだこりゃ。

 本当に私を見て怯えている。

 これもゲームの強制力? いやそんなまさか。


「ほーら、この外道! 悪魔! 貴女なんかがヴァルター様の婚約者だったなんて信じられません。この、学園の面汚しめ!」


 エチルが好き放題言ってくる。

 いや、何かおかしい。

 だって実際に会ったこともないわけで。


「カティナ! 生徒会の会長としてもお前の学園在籍を認めるわけにはいかない。学園長に退学を進言する!」


 決意に燃えた顔をしたヴァルター様。


「いや、これはおかしいですわヴァルター様。やってもいない罪で退学にさせられるなど……」


「黙れ! お前にはこのフレア嬢が嘘をついているように見えるのか!」


 確かに、こんな演技ができる役者は元の世界のどんな映画でも見たことがない。それくらい真剣に怯えている。

 その奥でニヤニヤしているエチルが本当にウザい。


「……ちょっと確かめたいことがありますわ」


 まだ何かをいいたそうなヴァルター様を置いて、私は学友たちのところへ急いだ。



「皆さん、ちょっといいかしら」


 教室にいた仲の良い四人に声をかける。

 噂が回っているのか、私を見て他の生徒たちがわれ先にと教室から姿を消す。


「フレア・ストック男爵令嬢という一年生、皆さんご存知かしら?」


 お互い顔を見合わせる四人。


「い、いや、カティナ様。貴女のご命令であんなことをしたのに、ご存知も何も……」


「そうですわ、おおごとになって、私たち全員これからどうなることかと怯えていますのに……」


 なんだ、これ。


 私の知らないところで、私の知らない事実が積み上がっている。


「詳しく聞かせてちょうだい。いつ、私が何をしろと?」


「本気でおっしゃっているのですか? 一昨日、夕方に私たちを集めて生意気な一年に礼儀を教えてやると言っていたではありませんか」


「言葉で注意するのかと思ったらハサミを取り出されて。カティナ様があのようなことをなさるとは……」


「まさか、今更責任逃れをされようとしているのではありませんわよね? この件は公爵家が握り潰すとお約束してくださったではありませんか」


 ……どうやら、この子たちの中でも『事実』のようだ。

 そんな、バカな。あり得ない。一昨日の夕方は、私は生徒会からの依頼により家の書庫でこの国の公爵家の働きを整理するための資料を作っていた。公爵令嬢の私にしかできない頼みと言われて。


 依頼は、副会長から直々に頼まれた。会長のヴァルター様でないのは気まずいからかと思っていた。


 まって?


 生徒会からの、依頼?

 私名指しで?

 


 バン!

 生徒会室の扉を勢いよく開ける。中には会長のヴァルター様、騎士団長の息子の副会長、宰相の息子である書記、そして、生徒会には無関係なはずの、聖女エチル。


「ほーら、予言した通り、カティナさんいらっしゃったでしょう?」


 エチルがまたニヤニヤと笑う。


「何をしに来た、カティナ。エチルの予言の通り、我々が依頼もしていない仕事の確認に来たのか」


 ヴァルター様が険しい顔をする。

 それがエチルの『予言』か。

 そうか、そういうことか。


「そうですわね、副会長様から口頭で依頼されましたが、覚えがないのでしょうね」


 私の言葉に副会長が色めき立つ。


「なにを!? 俺がそんなことするわけねえだろ! 会長の敵に仕事の依頼などするものか!」


 また、演技には見えない反応。

 私の中で、推理が進んでいく。


 つまりこれは、私が本物の副会長から依頼されたのではなかったか、本物の副会長の記憶が変えられているか。あるいは、私の記憶が変えられているか。そのどれかだ。

 ということは、フレアさんや友人たちもそういうことなのではないか。

 いずれにせよ、とても「予言」などというものではない。


「そうですか、ごきげんよう!」


 私はバンとドアを閉め、その場を後にした。


   *


 私は一目散に学園長室へ急いだ。

 退学が決まる前に先手を打たなければならない。


 さすがにドアをバン、とはせずノックする。

 許可を得て中に入ると、白髪で長い髭を蓄えた老人、学園長が椅子に腰掛けていた。


「アルヴェリオ公爵令嬢、何用かな。君の事件は聞き及んでおる。その関係かね」


「はい、学園長。機会をいただきに参りました」


「機会、ですか」


「件の話、私には身に覚えがありません。事件の時間、私は『生徒会からの依頼』でこれを作っておりました。……証明できるのは家の者しかおりませんが」


 私はまとめた公爵家に関するレポートを出す。


「ほう、確かにこれは依頼でもされなければ作らない資料でしょう。しかし事件の時に作った証拠がなければ難しい」


 わかっている。だから、もう一度だけチャンスがいる。そのために来た。


「はい。ですから、私に無実を証明するための最後の機会をください。それがダメなら退学でもなんでも決定に従いましょう」


 学園長は私の目を見てしばし考える。


「ふむ。我々も君の普段の行いからは君があのようなことをするとは思えなかったのは事実。しかしどうするつもりか?」


「ええ。真犯人の目星はついておりますの。その者がもう一度動くように仕向けたいので、『私が退学には至らない』と生徒会に伝えていただきたいのです。あとは、私の見聞きしたことをそのまま学園長にお伝えできる方法があると助かります」


「ほう。真の犯人が生徒会にいると」


「いえ、生徒会に近いところに、ですわ」


 エチル。あの女しかいない。


「そうですか。……わかりました。ではこのブローチをつけておいてください。私や、幾人かの教員がそれを通じて様子を見聞きできますし、記録もできます。生徒会には今夕までには伝えましょう」


 学園長は引き出しから古い星形のブローチを取り出した。魔法のアイテムなのだろう。


「ありがとうございます。必ずや身の潔白を証明してみせます」


   *


 その夜、寮へ学園長が来訪した。


「カティナさん。貴女のお父さまが事故に遭われたとの連絡が入った。すぐにお家へお戻りなさい」


 私はその様子を胸につけたブローチで映す。


「まあ、本当ですか! 急いで戻ります」


「馬車は用意してある。急ぎたまえ」


 学園長は私を「カティナさん」とは呼ばない。「貴女」とも呼ばない。

 なにより、本物ならブローチで映す私を見てなにか一言あるだろう。とてもプライベートな話なのだから。


 これは、エチルだ。


 なるほど、「予言」の正体は変化の魔法だったか。

 でも、まだ動かない。動くのはもっと決定的な証拠を掴んでからだ。


「はい、ありがとうございます」


 私は素直に用意された馬車に乗り込む。

 そして、見送る『学園長』が見えなくなったところで停め、こっそり降りた。馬車にはいきさつを書いた手紙を添え、家まで行ってもらう。


 エチルは、聖女の力を悪用し、さまざまな人に化けて悪事を働いていたのだ。私や、副会長、先ほどは学園長に化けたように。


 あの女は必ず辻褄合わせの中心にいた。そしてあのあまりにも当たる『予言』。


 初めはゲームの知識で予言を当てているのだと思っていた。だけど私への生徒会の依頼について当てたのはやりすぎた。あれで仕組みがわかった。

 私を貶めることに気持ちよくなりすぎて見境がなくなったのだろう。

 人に散々濡れ衣着せてくれちゃって。許せない。


 いまの学園長に化けた演技は私を学園から遠ざけるため。つまり「これから動く」ということだ。この前の副会長と同様に。


 私はこっそり戻り、エチルの後をつける。

 もうエチルの姿に戻っている。


 エチルが人気のない教室に入る。私は窓から覗く。

 すると、そこにはエチルではなく「私」がいた。

 やはり。


 その「私」は反対側の校舎まで歩き、私のクラスの教室に入る。

 そこには学友たちがいた。


「カティナ様、こんな時間に皆を集めてどうされました?」


 友人が不審そうに問う。


「ああ、貴女。前からその態度が気に食わなかったの。ねえ、これで自分の髪を半分にしなさい」


 そう言ってハサミを取り出す「私」。


「そんなこと……! できるはずがありませんわ」


「あらそう。じゃあそっちの貴女、代わりにやって差し上げなさい。いうことを聞かなかったら、わかってるわよね?」


「カティナ様……! どうされたのですか? あの嫌らしい聖女にヴァルター様を取られたことがショックなのはわかりますが、いくらなんでも……」


「うるさい!! 早くやれ!! お前からその豚みたいな顔に似合う髪型にしてやろうか!!」


「ひ、ひぃ……!」


 「私」からとんでもない罵詈雑言を浴び泣き出す友人。嫌らしい聖女と言われ気に障ったか。

 このあたりが潮時か。もう証拠は充分だろう。


「そこまでよ、偽物!」


 私は勢いよく教室に入っていく。


「カティナ様!? え!?」


 二人の私を交互に見て、友人たちは目を丸くする。

 「私」ことエチルは、醜い邪悪な笑みを浮かべる。私の顔でそんな表情しないでほしい。


「あら、貴女が偽物でしょう? 私に化けて何の用ですか。悪役は悪役らしく地に伏せておりなさい」


 エチルの手が光ったと思ったら、身体にすごい重さがのしかかり、動けなくなる。これも聖女の魔法か。


「ぐぐ……エチル、何をしようとも貴女はもう終わりよ」


「あら、偽物さん。エチル? 誰のことかしらねえ。私はカティナ。公爵家の娘。偽物さんの髪の毛こそ先に切り刻んであげようかしら。手元が狂って髪の毛以外も切っちゃったらごめんなさいねぇ」


 友人からハサミをぶんどり、ニヤニヤしながら私に近寄る私。


「あなた……ただじゃおきませんわよ……」


「どうするっての、偽物さん? 悪役令嬢は退場の時間なのよ!」


 エチルが私にハサミを振りかざす!

 しかし、そのハサミが振り下ろされることはなかった。


「まったく、わが学園にこのような生徒が紛れていたとは。慌てて駆けつけましたがなんとか間に合いましたか」


 そう言ったのは、魔法でエチルのハサミを吹き飛ばした学園長だった。


   *


「っ……! なぜ!?」


 突然現れた学園長に驚くエチル。


 学園長だけでなく、少し遅れて大勢の教員がやってくる。どうやらブローチで情報共有されていた面々のようだ。


「エチル。学園長に化けて私のところに来たときから、全てが先生方に共有されていたのよ。観念なさい」


 私は胸を張って通告した。

 学園長がハサミを吹き飛ばしたときに私の身体の重さも消えている。


「なんだと、この……!」


 エチルの化けた「私」が光り輝き、その姿がヴァルター様の姿に変わる。

 そのまま走って逃げようとする。

 この期に及んでまだ正体を隠して逃げようとは、往生際の悪い!


「こら! 待ちなさい!」


 私は、その首元に腕を絡めて止める。

 力はエチルのままのようで、振り解かれない。


 そのまま、耳元で囁く。


「貴女、随分このゲームやりこんできたみたいね」


 ビクッ、として動きを止めるエチル。

 信じられないものを見る目で私を見る。底しれぬ恐怖の目。


「転生者が自分だけだと思ってた? 相手が悪かったわね、主人公さん」


「お前、どこまで……!?」


「さあね。でも、どうせ悪役令嬢が悪いことをしてなかったから予定が狂った。だからゲーム通りにしようとした。そんなとこでしょ? 私のモブ生活を邪魔しなきゃこんなことにならなかったのに」


「モ、モブ……?」


「ここはゲームの世界。でも現実なのよ。あなた聖女とはいえ身分は低いくせに、公爵家にケンカ売って無事に済むと思わないことね」


 私はそういう現実の世界として生きてきた。しかし、エチルはゲームの世界として生きてきた。だから「ゲームの通りに」しようとしたのだろう。それが間違いだった。


 私はそのままエチルを組み伏せ、先生方に向く。


「この者は三年の聖女エチル! 魔法で化けているのですわ! どなたか、魔法解除を!」


「あ、ああ、わかった」


 魔法の先生の一人が、魔法を打ち消す術をかける。さすが先生、鮮やかな魔法。

 すると、そこに現れたのは憎悪に醜く歪んだ顔を晒す聖女様。うーん、聖女とは。


 それを見て、先生たち総出で取り押さえる。

 私は任せて立ち上がる。


「お前がぁ! ルート通りに動かないからだろぅがぁ!」


 取り押さえられながらも叫ぶエチル。


 おー、こわいこわい。

 あんな清楚な聖女様って顔してた人がこんなに醜くなれるとは。人生いろんな経験を積めるものである。


「皆さん、ブローチを通してご覧になった通り、この者は予言と称して皆を騙していた極悪人です! 予言が当たるようにさまざまな人に化けて自作自演していたのですわ!」


 私は閉じた扇でエチルをビシッと指し示す。

 我ながらここだけほんとに悪役令嬢みを感じる。やればできるものである。


 そこに学園長が前に出る。


「聖女エチル・トーレス。特例での学園入学をこの場で取り消す。加えてストック男爵令嬢への暴行・脅迫。また、王家ならびにアルヴェリオ公爵家の者を騙った詐称、そして学友を騙す詐欺。正式な裁きは国に委ねるとするが、学園はその罪を証明するだろう」


「違う! 私! 私が主役なのにぃ!!」


 私以外には意味のわからないことを叫びながら、エチルは連れて行かれた。


「アルヴェリオ公爵令嬢。君の名誉の回復は学園が総力を挙げて対応すると約束しよう。学内での一連のいざこざ、誠に申し訳なかった」


 頭を下げる学園長。私は笑顔で応える。


「はい、ありがとうございます。お友達の皆さんやフレアさんも、よろしくお願いします」


「もちろんです。最大限の配慮をいたします」


 よかったよかった。これで普通の暮らしに戻れる。


   *


「あら、ヴァルター様」


 翌日。

 ヴァルター様はエチルが退学……というか除籍された上に即時逮捕されたと知って、血相を変えてやってきた。


「これは一体どういうことだ!? お前の仕業だろ!」


 まだ夢から覚めてないみたいね、このお坊ちゃんは。


「私はあの女の被害者ですのよ? ヴァルター様がそそのかされなければフレアさんも私の友人たちも酷い目に遭いませんでしたのに」


「ぼ、僕だってあいつの被害者だ! 騙されていたんだからな!」


 へえ。

 そういうこと言うんだ。


「貴方は確かめもせずに予言とやらを盲信して私を断罪し、あの女を増長させた加害者です。フレアさんや友人たちに謝りましたか?」


「ぐ……それは、また改めて検討しよう」


 まったく。立場をわきまえろっての。


「それで? 今日は何のご用ですの?」


 一応聞いてみる。

 察しはつくけど。


「僕らは騙されていただけなのだから、元に戻るのが正しいだろう? また二人で歩んでいこうではないか」


 やっぱり。

 あんなこと言っておいて許されると思っているのかしら。


「あら、私は王家の妻には相応しくないそうですので。どうぞ相応しい方とご一緒になられては?」


「そんなことを言って、僕は第二王子だぞ? 僕と一緒になりたくない女などいるはずがない」


 まだ捨てた側だと思っている。

 可哀想なひと。


「何か勘違いをされているようですが。貴方はわが公爵家の夫としてふさわしくないのですわ。婚約は白紙ではなく破談。王家には今日にも公爵家からの正式な申し入れが届くかと」


 きっとこれで彼は政治的に終わるんでしょうけれど。知ったことではないです、はい。


「カ、カティナ。そんなことを言うもんじゃない。僕たちの仲ではないか」


「ごきげんよう」


 人生で最も完璧なカーテシーを決め、私は振り返り歩き始めた。


 さあ、ハッピーモブ人生の続きだ、続き!

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
変化魔法の探知や対策をしていなくて大丈夫かこの学校?。 聖女だけでは無く、ヴァルターも救いようが無い屑でしたね。
これ破断になるかは怪しいところですね。救いようのないバカをとにかく押し付けたいから反省した心を入れ替えたと公式発表して継続になりそう。やらかし王子なんて誰も 引き受けたくないから結局主人公がブタ引くこ…
王子、婿入り予定だったのに立太子宣言してたのか。やばい。あと聖女がいなくても怪しい壺買わされるタイプだから、普通に婿として欲しくない人材。取り巻きも何らかの処分が下ってそう。
感想一覧
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