第4話:奥多摩のエコハウス。命を削る『バグ』の代償
経験したことのない、狂おしいほどの飢餓感。
全身の細胞が「栄養をよこせ」と絶叫していた。私は震える手でリュックからスナック菓子を取り出し、袋ごと口に押し込んだ。噛むことすらもどかしく、ボロボロとこぼしながら胃に流し込む。
菓子を三袋、水を一リットル飲み干して、ようやく視界のブレが収まった。
「はぁっ、はぁっ……。なんなの、これ……」
地面に這いつくばりながら、私は残酷な事実に気がついた。
エネルギー保存の法則。無から有は生まれない。
私が出したあの強力な雷撃。それは、空間から都合よくエネルギーを取り出す「魔法」などではなかったのだ。
システムのエラーによって物理法則を書き換える「管理者権限」。
それを物理世界で実行するための電力は、すべて「私の体内に蓄積されたブドウ糖や脂肪」――つまり、私自身の命を異常な効率で変換して抽出されていたのだ。
もし調子に乗ってあの場であと数回放電していれば、私は新宿を抜ける前にショック死、あるいは餓死していた。
「魔法、なんかじゃない……。自分の命を、燃やしてるだけだ……」
私は絶望的な気分で立ち上がり、再びボードに乗った。
目指すのは西。奥多摩の山奥だ。
人が消える少し前、ニュースで「外界のインフラから完全に独立した、最新の自給自足型エコハウスの展示場」が完成したと報道されていたのを覚えていた。太陽光と地熱で電力を賄い、雨水を自動で濾過するシステムが備わった「要塞」。
世界がどうなったにせよ、あそこなら生きていける。
夕方。数時間の危険なドライブの末、私は目的のエコハウスに辿り着いた。
鬱蒼とした森の中に建つ、木とガラスでできたモダンな平屋。屋根の太陽光パネルは生きており、近づくと自動で玄関のLEDライトが点灯した。
「生きてる……システムが、生きてる」
私は窓ガラスを割り、中に転がり込んだ。
空調の効いた快適な室温。キッチンには、展示用として大量に備蓄されていた銀色のパッケージ『完全食ブロック』が山積みになっていた。
私はその一つを破り、貪るようにかじりついた。パサパサで味気ないブロックだが、今の私にとっては命を繋ぐ唯一の燃料だった。
安全な拠点と、当面の食料は確保できた。
しかし、世界を統べるシステムから見放され、使えば命を削る『バグ』を抱え込んだ14歳の孤独なサバイバルは、ここからが本当の地獄の始まりだった。




