第3話:死の街からの脱出と、暴走するインフラ
地下食品売り場での生活は、三日が限界だった。
電力が落ち、冷蔵ケースの生鮮食品が腐敗し始めた悪臭に耐えきれなくなったのだ。私はリュックにペットボトルの水と日持ちするスナック菓子を詰め込めるだけ詰め込み、分厚い防火扉に空けた「大穴」をくぐって地上へと出た。
夏の強烈な日差しに目が眩む。
視力が回復した私の目に飛び込んできたのは、ひどく歪んだ新宿の姿だった。
主を失ったまま交差点に突っ込んだ数百台の自動運転車が、巨大な鉄のスクラップの山を作っている。どこかで漏電したのか、遠くのビルからは黒い煙が上がり続けていたが、初期消火ドローンはネットワークの切断により完全に沈黙していた。
逆に、独立したバッテリーと単純なAIで動く清掃ドローンだけが、血の通わない規則性で瓦礫を片付けようとして壁に激突し続けている。
「……東京にいたら、死ぬ」
この巨大なコンクリートのジャングルは、100億人のインフラを維持するために設計された要塞だ。管理する人間がいなくなれば、あっという間に熱と暴走した機械の檻になる。
私は放置されていたオフロード仕様の電動ボード(パーソナルモビリティ)を引きずり出し、指先から微小な放電を流し込んで強制的にバッテリーをショート・起動させた。
『ピピッ。所有者未登録。セキュリティ・アラートを作動します』
「うるさいっ、黙れ!」
警告音を無視してアクセルを吹かす。
その時だった。甲高いサイレンと共に、四足歩行のAI警備犬が三体、瓦礫の向こうからものすごいスピードでこちらへ向かってきた。ネットワークから切り離され、暴走状態に陥っているのだ。
鋭いチタン合金の牙が、明確な殺意を持って私に迫る。
「こっちこないで……っ!」
私は恐怖のあまり目を瞑り、右手を突き出した。
バチィィィンッ!!
青白いプラズマの稲妻が迸り、先頭の警備犬を内部の電子基板ごと黒焦げにして吹き飛ばした。残りの二体が火花に怯んで立ち止まった隙に、私は電動ボードをフル加速させ、新宿の街から逃げ出した。
しかし、ボードで風を切って数キロ走ったあたりで、急激な異変が私を襲った。
「え……?」
視界がぐにゃりと歪む。胃袋を雑巾のように絞り上げられるような暴力的な痛み。手足の指先から急速に体温が失われ、冷や汗が滝のように噴き出した。
私はたまらずボードから転げ落ち、熱いアスファルトの上で激しく嘔吐した。何も食べていない胃からは、黄色い胃液しか出なかった。




