キューマ
一人の女子生徒が校庭の中心で仁王立ちをしている。女子生徒の名前は赤海行方。
赤海と対峙しているのは『ミーバ』と呼ばれる醜い化け物だ。両目が飛び出ており、両手が液状化している。そして背中にも太くてたくましい腕が一本生えている。
赤海は腰に差している鞘から刀を抜き、身体から『キューマ』と呼ばれる桃色の魔力を放出した。可愛い女の子しか持っておらず、可愛くない女の子は持っていない。
「ガルルルルッ!」
雄叫びをあげ、凄まじいスピードで『ミーバ』は赤海に接近する。発生した砂埃で赤海の視界は一瞬奪われかけた。
背中に生えた腕を『ミーバ』は勢いよく、振り下ろした。しかし、その腕は空を切り裂いただけだった。
「どこを見ている? 私はここだ」
赤海は『ミーバ』を上回るスピードで背後に回っていた。魔力を戦闘力に変換する『キューマ』を持っているからこそ『ミーバ』をも上回るスピードで動くことができる。これがなければ、瞬殺されただろう。
赤海は刀を横に薙いで『ミーバ』を真っ二つにした。
「ウギャアァァァァァ!」
切り口から黒い血が噴出する。赤海は後ろに跳躍し、黒い血を避けた。
黒い血に触れた地面は溶けてゆく。あれに一瞬でも触れれば、肌は溶けるだろう。
突如、パリーンと窓ガラスの割れる音が聞こえた。赤海は音のした方向に目を向けた。
泡を吹く『ミーバ』とそれに飛び蹴りを食らわせている女子生徒が校庭に落ちてきた。
女子生徒――早蕨紫は一回の跳躍で赤海の前に着地した。
「あ、赤海さん。『ミーバ』が怖くて私には戦うことなんてできませんよ!」
涙目で訴えてくる早蕨。
飛び蹴りを食らわせていたくせにと赤海は思ったが、言わなかった。涙目で飛び蹴りを食らわせる早蕨の方が怖いとも。
軽く見積もっても数十体以上はいるであろう『ミーバ』が金網を乗り越え、校庭に侵入してきていた。
「わぁ、たくさん侵入してきてますよ! 赤海さん一人だけで戦えますか?」
「なぜ、私だけで戦わせようとする? 早蕨も戦え!」
早蕨も『キューマ』を持っているから、『ミーバ』と渡り合えるはずなのだ。だけど自分を『か弱い女の子だから戦えない』と公言し、いつもみんなに守ってもらおうとする。そのため、顔は可愛いのに性格は可愛くないとみんなに嫌われている。赤海もあまり好きじゃない。
「え? 赤海さんはか弱い女の子である私にあんな醜い化け物と戦えって言うんですか? 酷すぎます!」
「でも早蕨は私に戦わせようとしているじゃないか」
「え? 赤海さんのどこがか弱いって言うんですか?」
キョトンした表情で早蕨は赤海を見つめた。
「お、お前なんか嫌いだ!」
赤海は涙を流しながら、『ミーバ』の群れに突っ込んでいった。
「ダメじゃない、早蕨ちゃん。あの人ああ見えてメンタル弱いんだから」
侵入してきた『ミーバ』を殲滅するために、校庭に集まってきていた女子生徒の一人が早蕨の肩を叩いた。
「私たちさ、早蕨ちゃんの事は嫌いだけど実力は認めているの。私たちじゃ力及ばない『ミーバ』でも早蕨ちゃんなら必ず倒してくれるって信頼しているの。だからお願い、戦って」
女子生徒はお願いのポーズを取る。『キューマ』のシステムは単純で可愛いければ可愛いほど、魔力は高くなり、それに比例し、戦闘力も上昇するのだ。
早蕨は女子生徒の中で一番可愛く、一番強い。赤海は二番目だ。
「仕方ないですね。嫌われているのは自覚していますし。今行きますよ、赤海さん」
早蕨は跳躍し、一体の『ミーバ』にカカト落としを食らわせた。
それをチラリと横目で確認すると、赤海は数体の『ミーバ』の間を凄まじいスピードで駆け抜ける。
全身から黒い血を噴出し、赤海の前にいた『ミーバ』たちは消滅した。
一方、早蕨は回し蹴りだけで『ミーバ』の首をはねた。そして近くにいた『ミーバ』を盾代わりにし、黒い血を防ぐ。その後盾代わりにした『ミーバ』を振り回し、迫ってきていた化け物を蹴散らした。
と次の瞬間、
「かはっ!」
苦しそうな声に二人は同時に振り向いた。
『そ、そんな』
同時に呟いた二人の声は震えていた。
女子生徒の胸を『ミーバ』の背中にある腕が貫いていたのだ。それは早蕨にお願いしてきた女子生徒だった。この女子生徒は数秒あるいは数分で絶命するだろう。
「た……ただで死ぬわけには……いかないわ」
女子生徒は最後の気力を振り絞り、『キューマ』を使って『ミーバ』の首をへし折る。女子生徒と『ミーバ』は共に倒れ、化け物は消滅し、女子生徒の遺体だけが残った。
死んだのは一人だけではなかった。避けきれずに黒い血を浴びてしまい、脳を溶かされ死んだ女子生徒が数名。
赤海は鋭い気迫で『ミーバ』たちを次々と切り刻んでいく。飛び散った黒い血は剣圧で吹き飛ばし、逆に『ミーバ』を溶かしていく。
二人はその後も迫り来る『ミーバ』たちを蹴散らしていく。
そして残るは一体のみとなった。
二人は一瞬にして、『ミーバ』に接近し、首を両側から手刀で切り落とす。
校庭での戦いは数名の犠牲者を出し、幕を閉じた。
赤海たちは戦死した友の墓を校庭の隅に建てた。花屋で買ってきた花束を墓の前に置くと、手を合わせて、数秒間黙祷する。
さらば、戦友。
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