朝ご飯
かっこうの鳴き声が聞こえる朝。
ケンタは大きなあくびをしながら、ゆっくりと目を覚ましました。壁にかかっている時計を見ると、時刻は朝の7時。昨日は夜遅くまで起きていたというのに、意外にも早く目が覚めたことに驚きます。
ふと隣を見ると、そこにはミミィの姿が。
「えっ……ミミィ? もしかして、ずっとこの部屋にいたの? いつの間に自分の部屋から抜け出してきたの?」
ミミィはケンタの隣で、すやすやと寝息を立てています。その姿を見たケンタの頬がほんのり赤くなりました。昨夜の記憶はあまりなく、女の子とふたりきりで一緒に眠っていたという状況に、少し戸惑ってしまうのです。
やがてミミィが目を覚まし、ぽそりとつぶやきました。
「おはよう、ケンちゃん。なんかね、自分の部屋だとちょっと寂しくて……気づいたら、ここに来ちゃってたの。」
「びっくりしたよ……。言ってくれればよかったのに。
最初から同じ部屋ってことにしておけばよかったじゃん。そんなに恥ずかしがることないのに。」
「ケンちゃんには、女の子の気持ちなんてわかんないわよ。
旅の仲間だからって、男女ふたりで一緒にいたら、やっぱりそういう関係だって思われるんじゃないかって、どうしても気になっちゃって……でも、いざ一人になると、やっぱり寂しくて。」
「なんだよ、それ。じゃあ最初から来ればよかったのに。
僕だって、昨日は一人で寂しかったんだよ。」
そう言ってケンタはベッドから降り、窓の外を眺めました。
そこには広がる谷と、谷底を流れる美しい川の姿が。朝の光に照らされ、静かにきらめいていました。
そのとき、館内放送が流れます。
「朝食の時間になりました。一階のレストランにお越しください。」
「ねぇ、朝ごはんだって。行こうよ。今日の朝食、何かな〜。
こういう場所のバイキングって美味しいんだよね。」
「そうだよね。僕、ついご飯もパンも、スクランブルエッグも魚も取りすぎちゃうんだ。」
「いいのよ、旅の朝はお腹いっぱい食べるのが一番の幸せなんだから。」
ふたりは顔を洗い、支度を整えると、一階のレストランへと向かいました。
朝のレストランは宿泊客でにぎわっていて、その中に見覚えのある顔が――
「あっ、スケート場で会ったリスの男の子だ!」
すると彼のほうも気づいたようで、笑顔で話しかけてきました。
「やっぱり君たちだったんだ! 僕、コウイチっていうんだ。よろしく!」
「僕はケンタだよ。よろしくね。」
「私はミミィよ。」
「ふたりで旅してるんだね。いいなぁ……実は僕も、旅の仲間を探してたんだ。もしよかったら、一緒に行ってもいいかな?」
「もちろん! 仲間が増えるのは嬉しいよ。
よかったら一緒に朝ごはん食べよう!」
ケンタの提案で、3人は4人掛けのテーブル席を見つけ、荷物を置いて料理コーナーへ向かいました。
そこには、スクランブルエッグにウィンナー、ほうれん草の胡麻和え、かぼちゃのサラダ、目玉焼き、トースト……と、朝食とは思えないほどたくさんの料理が並んでいました。
ケンタは白ごはんといくつかのおかずを。
ミミィはパンとスクランブルエッグ、レタスのサラダ、ウィンナー、スープ、牛乳を。
コウイチは大盛りの白ごはんに納豆、鮭、ひじきのサラダ、スクランブルエッグ、かぼちゃのサラダ、牛乳を選びました。
3人で「いただきます」と挨拶して、朝ごはんを味わい始めます。
「コウイチはどこの町から来たの?」
「僕はモンシロ町出身だよ。隣の町で育ったんだ。モンシロ蝶の妖精とか、時々話しに来るんだよ。いいやつらさ。」
「でもひどいよ、あの時は。私たちのこと、雑草だって言って……。
私、ほんと、花をむしり取りたくなったもん。」
ミミィが怒りをあらわにすると、ケンタも頷いて言います。
「たしかに。勝手に“歌え”とか言うし、僕らは知らないのに。
それに……モンシロ町で会ったあの子が亡くなったの、すごくショックだった。」
「私も……あの子のこと思い出すと、涙が止まらなくなっちゃう……」
すると、コウイチがふと表情を曇らせました。
「もしかして……あのデパートの爆発事件のこと?
母親に殺されたってニュースで見た。
どんな事情があったとしても、子どもを巻き込んで死ぬなんて……絶対に、間違ってるよ。」
――そんなふうに、楽しい話も、悲しい話も交えながら。
新たに仲間となったリスのコウイチと共に、ケンタとミミィの旅は、また新たな一歩を踏み出したのでした。