旅立ちの日
以前投稿していた児童向けの童話を再投稿してみました。
目覚まし時計の音が鳴ると、1匹の犬が目を覚ましました。
「ケンタ、起きなさい。朝よ。今日は旅に出るんでしょ? 外でミミィちゃん、待ってるわよ」
「うーん……もう朝?」
「もうとっくによ。ほら、起きて。せっかくのお天気なんだから」
「おはよう、ママ」
ケンタはまだ少し眠そうな声でそう返しましたが、表情にはどこか楽しげな気配もありました。
「昨日のうちに準備、全部しちゃったんだ。旅っていうか、いろんな街をまわって、ご飯食べたり観光したり、遊んだりするだけなんだけどね。夢みたいな旅行だよ」
「いいわねえ。あたしなんて、旅なんてずっと行ってないわ。うらやましいくらいよ」
「ミミィと行くの、ちょっと緊張するけど楽しみだよ。あの子、しっかりしてるからさ」
「そうね、ミミィちゃんは礼儀正しいし、元気もあるし、いい子だもの。ケンタがちゃんと協力すれば、きっと楽しい旅になるわよ」
「うん、大丈夫! ちゃんと荷物も見直したし、地図も持ったし……あ、でも財布入れたっけ?」
「ほら見なさい。まだ眠い頭でチェックしてないでしょう? ほら、朝ごはん食べたらもう一度確認しなさい」
ケンタは階下に降りると、用意されていた朝食をぱくぱくと食べました。
「ママのごはん、やっぱり一番だなあ。旅に出たらしばらく食べられないと思うとちょっと寂しいかも」
「もう、嬉しいこと言ってくれるじゃない。じゃあ今度帰ってきたときは、ケンタの好きなハンバーグ作ってあげる」
「ほんと? 約束ね!」
朝ごはんを終えたケンタは、歯を磨き、顔を洗って、最後にリュックの中をもう一度だけ点検しました。
準備が整うと、リュックを背負って玄関へ向かいます。
母親のマルシアがそこに立っていました。
「じゃあ、お母さん、行ってきます」
「うん。ケンタ、気をつけて行ってらっしゃい。ミミィちゃんと仲良くね。疲れたら無理せず、休むのよ」
「分かった。ありがとう!」
そう言って、ケンタはマルシアに向かって手を振り、
家を出て、右手のまっすぐな道を進んでいきました。
待ち合わせの場所に向かっています。
「ケンタ! こっち、こっち!
おはよう!」
元気な声が響くと、1匹の白いうさぎの女の子――ミミィが手を振って待っていました。
「おはよう、ミミィ! 待たせちゃった?」
「ううん、大丈夫。こっちもちょうど着いたとこ。ね、今日はどこから行こうか?」
「うーん、やっぱりまずはモンシロ町かな。シュークリーム食べたいし!」
「ふふ、やっぱり食べ物からなんだね。じゃあ行こう。」
「うん。」
ふたりは笑い合いながら、朝の道を歩き出しました。
非常に短い1話完結の短編となります。