紙と封筒が消えた。
5年前、母の葬儀から1年後に一周忌が執り行われた。親戚も大勢集まってくれた。その翌日に、妹は私と弟、そして父を集めてA4の紙を2枚見せた。一枚目には母の遺産目録、2枚目にはその分割案が書かれていた。
母の遺産は思っていたより多かった。総額4200万円。そのうち1500万円は実家マンションの半分の権利。10年前にここを買ったとき、父親と共同所有としたのだ。残りのほとんどは、祖父の遺産分割を受けたものらしい。
その紙はFAXによく使われた感熱紙だった。妹は税理士によるレポートと説明したが、信じられなかった。
財産の項目に"銀行預金 北海道相互銀行など"と書かれていたが、その"など"の説明は無かった。また、銀行による残高証明などのていじも無かった。
法定相続では配偶者1/2 ウチの場合残りを兄弟3人で等分することになる。しかし、彼女は母の看病の寄与分として2000万円を要求した。更に、よくお見舞いに来てくれたとして、母の弟夫婦に100万円の分割を提案した。
何よりも遺産目録の証跡が提示それていない。それを求めても回答は無かった。寄与分の根拠の説明も無かった。
とりあえず、スマホで写真は撮った。その場で紙は渡せないと言う。その場にコピーが無いとの理由だった。飛行機の時間も迫っていた。とりあえず検討するから、そのコピーを郵送して欲しい。更に、その資料を作るに当たり、根拠となる資料があるハズだから郵送して欲しいと伝えて、実家を出た。
これから4年間、妹には何度となく文書や電話などで送付を依頼したが送られて来なかった。最後には着信拒否となってしまった。
その後、父から何度となく、"お前はあの件を未だ認めないのか?"と問われた。"数分間、紙を見せられただけで1000万円単位の承認は出来ない。とにかく、関係資料を送ってくれ"と返答を続けた。そこが認知症、忘れた頃にまた父は電話をかけて来る。
その紙はしばらく、実家の父の手元にあったようだ。証跡はともかく、そのA4 2枚だけでも欲しかった。認知症の彼はもう文字を書けない。一人暮らしの父に返信用封筒もつけて、その紙を送るように依頼した。ヘルパーの人に投函だけしてもらうつもりだった。認知症が進行してる父に電話でも指示して封筒に入れてもらう寸前だった。そこに妹が入室して来たらしい。妹は実家の鍵を持っている。"何やってるの?"と妹の声が聞こえた。少しバタパタする音があり、その紙と返信封筒はこの世から消えてしまった。