横領の発見
人が亡くなると、その預金口座は自動的に凍結されるものだと信じていた。しかし、銀行が顧客の死亡を知り凍結処理するまでには数日かかることがある。葬儀費用など、当座の資金が必要なため、凍結される前に引き出すことはありえると聞いていた。だから、諸般の事情もあり、母の死後、遺産分割に積極的に動かなかった。それが誤りだった。
現実には、必ずしもすぐに凍結されるわけではない。事実、故人の死を銀行が知る方法は一般的になく、市役所などに死亡届が出ても、金融機関に通知されるシステムは存在しない。母の口座は5年経過しても凍結されず、誰かによって預金が引き出され続けていた。
父は認知症を患っており、介護認定2の段階が長かった。人の顔や名前を忘れやすく、妄想もひどかった。また、足も不自由で車椅子なしでは外出できなかった。近所であっても銀行のATMまで出かけてお金を引き出すことは不可能だった。
銀行担当者と相談の結果、母の預金口座の過去10年分の出納記録を出力してもらうことになった。同時に父の口座の出納記録も請求した。また、数枚の書類に記入し、実印を押印する手続きを行った。
銀行を出る時刻にはシャッターが閉まっており、通用口から出たときには夕暮れが迫っていた。急いで千歳行きの快速に乗り、機上の人となった。