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王子様も

(※柚葉視点)


(うぅ……やっぱり怖い)


 肝試しが始まってしばらく。

 私は暗くなった山道を一人でゆっくり歩いていた。


「ひっ!?」


 ガサガサっと、草むらが揺れる。

 ……これだけで怯えちゃうぐらい、正直暗いところは怖い。


(暗いところが怖いっていうより、お化けが出るのが暗い場所だから怖いって感じなんだよね……)


 昔、調子に乗ってつっくんと一緒にホラー映画を観てからだ、こんなに怖いって思っちゃうのは。

 あの時に観たお化けがどうしても頭から離れなくて……自然と今に至っちゃう。


「し、しっかりしろ私……ッ!」


 そう、今歩いているのは一年生のため。

 安全に楽しんでもらえるよう、私がこうやって見回っていないと。

 もしかしたらルートを外れちゃっている子がいるかもしれないし、暗くて怪我をしちゃった子がいるかもしれない。

 今のところすれ違った一年生は楽しそうに肝試しをしてたから大丈夫。

 この調子で、最後の組がゴールするまで見て回らなきゃ───


(あれから結構経ったけど……半分くらいかな?)


 定期的に、今回のために作ったグループチャットでは時々経過報告が行われている。

 というのも「いつの間にか終わってました!」っていうのをなくすため、あとは「この組が向かったはずなのにゴールしてない」っていうのを避けるためだ。

 ちなみに、この案を提唱して声をかけたのはしーちゃん先輩。私も、あーいう所を見習っていかなきゃいけないんだと思う。


(それにしても、本当に老朽化してる……)


 少し先の茂みにライトを当てる。

 管理されているとはいっても、ここはキャンプをする山だ。

 当然、整備されていない場所もあるし、変な地形だってある。

 私がライトを当てた先は、恐らく急な斜面があるかちょっとした崖がある場所。

 その証拠にフェンスが敷かれてあるんだけど───サビついていたり、穴が空いていたりとちょっと不安になる。全部が全部ってわけじゃないんだろうけど。


(まぁ、あんな場所普通は行かないよね)


 暗いし、何もないし。

 わざわざこんな時に行こうとする人はいないだろう。


(よしっ、気合い! この調子で、最後まで見回りするぞー!)


 私は気合いを入れて先を歩き始める。

 すると、少し離れた場所からまたしても音が───


「びゃっ!?」


 驚いて、思わず腰が抜けてしまいそうになる。

 だけど、私は思わず踏み留まった。


『……て……わよ』


 だって、その音は誰かの声のような気がして。

 私は不思議に思って、少し警戒するようにそっちを向いてゆっくりと音を出さないよう近づいていく。


『あんた、彼に告白されたからっていい気になってるんじゃないの?』

『ほんと、陰キャのクセにマジで鼻につく』

『わ、私は別に……!』


 耳を澄ましたから、声がようやく聞こえてきた。

 なんか揉めてる感じっぽい。それに、一つの声だけは聞き覚えがあった。


(もしかしたら、虐められてる……?)


 そんな気がする。

 だって、聞こえてきたのは愛羅ちゃんの怯えているような声。絶対に、この暗い場所が怖いからってわけじゃないと思う。

 その証拠に、他の女の子の声は強くて、聞いているだけでも身がすくんでしまうようなもの。やましいことでも、聞かれたくないことでもあるのか、ライトも点けてない。


(あんまり一年生の人間関係に首を突っ込みたくはないけど……)


 そもそも、彼女達がいるのはルートから離れた整備されていない場所。

 背中越しにはフェンスがあるはずだし、万が一にも何かあった時が大変だ。

 だから私は、持っているライトをその子達に向ける。


「こんなところで何やってるの!?」


 私がライトを当てると、女の子達は一斉に振り返った。

 その内の一人の肩が、愛羅ちゃんの肩に当たる。

 そして、当たった拍子で愛羅ちゃんの体が押され───


「……えっ?」


 《《愛羅ちゃんの体が》》、《《フェンスを壊して傾き始めた》》。


(や、ば……ッ!)


 私は急いで駆け出して、愛羅ちゃんの腕を掴んだ。

 近づいていたからよかった。そうでなかったら、傾いていた愛羅ちゃんの体がフェンスを越えるところだった。


(ほんと、危ない……ッ!)


 ギリギリのところに敷かれてあったフェンスの下は、先の見えない崖。

 下がどれぐらいあるのかも、ここからじゃ分からない。

 とりあえず、私は踏ん張って愛羅ちゃんの体を引き上げる。

 すると───


「…………ぁ」


 もう片方の手。

 踏ん張るために掴んでいたフェンスが……壊れた。

 突如襲ってくる浮遊感。

 幸いなのは、愛羅ちゃんを引き上げたあと。


 でも……これは本当に、


(大丈夫……絶対に後悔はしないっ)


 《《私の王子様だったら》》、絶対にこうするから。

 こういう結果になっても、このあとどんな結果になったとしても、私は私のしたことに後悔なんてしな───ッ!?


「ばッ!?」


 直後、私の体に叩きつけられたような激しい衝撃が襲いかかった。


『み、水瀬先輩っ!?』

『や、ヤバくないこれ?』

『早く逃げようよ、うちらがやったってなったら……!』


 それだけじゃ終わらない。

 私の体は何度も地面を転がり、切れたり擦れたり、ぶつかったりでどこが痛いのかも分からなかった。

 最後、思い切りお腹に木が当たり、ようやく転がる体が止まってくれる。


「げほっ、がっ……!」


 起き上がろうと思っても起き上がれない。

 それぐらい転げ終わってすぐの体は思うように動かせなかった。


「あぁ……」


 改めて全身を襲ってくる痛み。

 私は曇ってまったく綺麗でもない空を見上げて───


「痛いなぁ……もぅ」


 ふと、昔のことを思い出した。

 あの時の王子様つっくんも、こんな感じで痛かったのかなぁ……?

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