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相談

 週も折り返しを越え、あと一日で休日となる頃。

 昨日、またしても衝撃的な事実が明らかとなり、正直考えることでいっぱいいっぱいだった。

 何せ───


『柚葉には悪いけど、私は譲る気はないわ』

『だから覚悟しておきなさい』

『だてに、十年も《《片想い》》なんてしてないんだから』


 昨日の去り際、そんなことを霧島に言われたのだ。

 泣き腫らし、スタッフ達に心配され「泣かせたのはお前か!?」という疑いこそあったものの、最後にはそんな言葉をキッパリと残した。


(つまり、そういうことでいいんだよな……?)


 授業が終わり、昼休憩。

 柚葉は《《何やら用事があるらしく》》、自分も一人になりたかっため、誰もいない場所に足を運ぶ。

 肌寒く、花粉が入るかもと人気のない屋上で、俺は一人ぼーっと空を見上げていた。


(にしても、まさか霧島まで昔助けた人だなんて)


 子供の頃の記憶だから、初めてあった女の子の顔など覚えていない。

 柚葉はまだ幼なじみで何度も会っていたから分かってはいたが、霧島に関して言えば予想外だ。

 どうしてか、あの時聞いた占いがどんどん現実味を帯びていっているような気がする。

 占いなんて信じていなかったのに、これから毎週テレビに張り付いてチェックしてしまいそうだ。


「いや、それよりもこっちの問題だろ……」


 俺としては本当に気にしてほしくない。

 柚葉然り、霧島然り。相手が可愛いからお近づきになりたいという下心はもちろんあるものの、それだけで相対するのはどこか失礼なように思えてしまう。

 昔の姿が美化されただけ。現実を見たら後悔するに違いない。特に霧島とは今まで接点がなかったのだ、中身が知れて落胆することだってあるはず。

 だが───


『気にしないなんて、無理』


 彼女はそう言った。

 キッパリと、否定したのだ。


「あーっ、マジでどうすりゃいいんだかーっ!」


 俺はその場に寝転がる。

 早いところ昼食を食べなければいけないのだろうが、食欲が湧かない。

 今日は霧島も登校しているらしいし、鉢合わせる前に自分の中で整理しなければ───


「お悩みですか、入江さん」


 ふと、目の前に影が現れた。

 それが端麗な美少女の顔だと気づくのに、少しばかり時間がかかってしまう。

 その美少女は学校でも有名な人で、


「詩織、さん?」

「はい、詩織さんです」


 三大美少女様の一人が、徐に隣に腰を下ろしてきた。


「どうしたんですか、こんなところに?」

「こう見えても私、結構ここを使うんですよ? その、ありがたいのですが……昼休憩になると、かなりの人に囲まれるてしまいますので」


 流石は三大美少女様。お昼休憩まで人気とは。

 確かに、肩の力を抜くにはここは絶好の場所だ。足を運ぶ理由も分かる。


「……それにしても、入江さん」


 つん、と。寝ている俺の鼻を詩織さんが突く。


「悩んでいるなら相談してくださいと言ったではありませんか」


 なんで知っている……なんて、聞かなくてもいいだろう。

 自分で言うのもなんだが、明らかに悩んでいる風な態度をしていたのだ。

 見られていないからありのままでいたが、見られていたのなら気づかれてもおかしくはない。


「いや、昨日の今日の話なので……」

「あら、そうですか」


 俺は寝ているまま話すのは失礼だと思い、体を起こす。

 すると、詩織さんは弁当を横に置いて指を一本立てた。


「当ててあげましょうか?」

「はい?」

「入江さんが何にどうして悩んでいるのか」


 可愛らしく、詩織さんは立てた指を俺に向ける。


「ズバリ、来栖さんの王子様ヒーローが自分だと気づき、来栖さんもまた自分の王子様ヒーローが入江さんだと気づいた」

「ッ!?」

「それで、これからどうしたものかと悩んでいた、というところでしょうか?」


 ……この人はエスパーか何かなのだろうか?

 あまりにもドンピシャな予想で、思わず背筋が震えてしまった。


「な、なんで……」

「ふふっ、私は来栖さんの王子様ヒーローの話を知っていましたから。柚葉さんからもあなたのお話はお聞きしましたし、そうなのではないかと勝手に紐付けただけです。来栖さんは戸惑っている柚葉さんとは違って積極的ですから、それも悩みの一つですかね?」


 それにしても、普通は捜し求めている人間が同一人物など思わないだろうに。

 何せ、この街だけでも同年代は数え切れないぐらいいるのだから。

 でも───


「……詩織さんは優しいっすね」

「ふふっ、可愛い後輩の前だからですよ」

「後輩だからって……」

「まぁ、《《本当は下心がある》》のですが、今は気遣って先輩からのお節介だと思ってください」


 敵わないなぁ、と。

 どうしてか溜め息が出てしまう。

 きっと、今の発言は俺が気にしないよう《《気を遣って》》くれたのだろう。

 女の子を前に情けない姿など見せたくはないというのに、自然と口が開いて───


「……ほんと、分かんないんですよ」


 ポツリと、零すように口にする。


「俺にとっては単なる黒歴史です。でも、あいつらにとってはそうじゃなくて……その意識の違いに申し訳なさを感じてます。あいつらを落胆させるんじゃないかって……まぁ、そんな感じに」

「……………………」

「もちろん、柚葉や霧島みたいなことお近づきになって、恋人とかになれたら嬉しいですよ? そりゃ、俺も男ですから……ただ、こんな俺なんかでもいいのかなーってどうしても思っちゃうんです」


 柚葉は今まで俺を男として見てこなかった。

 霧島はちゃんと話したのがたった数回ぐらいだ。

 今の俺がきっかけになったわけじゃない。

 自分を卑下したくはないが、その部分が考えれば考えるほど浮き彫りになる。


「………………」


 俺の話を聞いて、詩織さんが黙り込む。

 その姿を見て、俺は焦ってしまった。


「あ、すみません! 今の忘れて───」

「では、入江さん」


 俺の話を遮り、詩織さんは真っ直ぐこちらを向く。

 そして、可愛らしいいたずらめいた笑みを浮かべるのであった。


「放課後、お時間いただけないでしょうか? 私と、《《デート》》をしましょう♪」

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