表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

敬語でだらだら、でもリズミカルな文体でコメディ

不意にサポートAIが「アウアウアー」と言えと指示を出して来ました。その通りにすると、なんだか分からないけど上手くいってしまったのです……

 今の時代、ほとんどの人はサポートAIと契約をしています。AIと契約をして、アドバイスをしてもらったり、スケジュール管理をしてもらったり、調査をしてもらったりしているのです。

 無数のナノマシンを摂取し、脳内にナノマシンネットワークを形成する事で可能になった脳直結インターフェースで、脳で直にAIとのやり取りができるのでとても便利です。電車の時刻に間に合わせるようにスケジュールするといった些細な事から、受験で失敗しない為の計画立案及びに遂行の補佐、また、女の子とのデートに至るまで、幅広くAIは役に立ってくれています。

 最近では、理想的な異性を選ぶのにもAIはよく使われていて、何を隠そう僕自身もそうして彼女と付き合い始めました。付き合い始めてから判明したのですが、なんとそれは彼女の方も同じであったらしく、だからなのか予めAI同士で話し合いが行われていたようなのです。つまりは僕らは互いのAI同士の決定によって成立したカップルという事になります。

 AIの決定は完ぺきで、僕らは大変に上手くいっています。

 ――え?

 AIの指示に従っているだけで、本当にお前らは主体性を持って存在していると言えるのか? ですか?

 そうですね。それはちょっと難しい哲学的な話になりますね。簡単には答えられません。AIに従っているだけの僕らには主体性などなく、むしろAIの方が主体と表現する事だって可能なのかもしれません。

 ですが、果たして、それの何が悪いのでしょうか? AIに従う事で僕らは仕合せに暮らせます。仮に主体性がなかろうがなんだろうが、それで本人達が仕合せならばそれで良いのではないでしょうか?

 

 人間はかつて一夫多妻制だったそうです。恐らく、その痕跡は未だに残っていて、それがリーダーになりたがる人の心理にも影響を与えているのでしょう。一夫多妻制においては、オスはリーダーになれなければ自らの遺伝子を残せませんからね。

 ですが、当たり前ですが、リーダーになれるのは極少数の人間です。そして、そのごく少数の座を狙って無意味で度し難い悲惨な争いが起こってしまったりもするのです。ところがです。人類がサポートAIを導入してから、そのような事は随分と減ったのです。AIならば互いにとってより良い選択を導く事が可能で、それで互いを傷つけ合って自業自得で苦しむような結果を避けるようになったのです。

 互いの意思の齟齬や溝をAIが埋めてくれるとでも言いますか。

 或いは、全てをAIに任せてしまった方が、人類は仕合せになれるのじゃないか? なんて想像も思わずしてしまいます。

 互いの意思の齟齬が少なくなったという点については、僕は実感をしています。彼女との関係が上手くいっているのは、ほぼ間違いなくAIのお陰です。彼女が僕に何を望み、僕がどれだけそれに応えられ、彼女がどれくらい僕の嫌な部分や駄目な部分を許容してくれるのかも簡単に分かるのです。お陰で喧嘩も滅多にしません。

 AIに全てを任せていれば、きっと僕らは共に仕合せな人生を送れるでしょう。

 ある日のデートの事です。

 僕はその日、彼女に対して強く肉体的な欲求を抱いていました。原因は分かりません。きっとそういうコンディションだったのです。ただ、彼女がOKを出してくれるかは分かりませんでした。実を言うのなら、彼女と最後まで至った事は一度もないのです。どうしようかと悩んでいると、不意にサポートAIが「アウアウアー」と言えと指示を出して来ました。その通りにすると、なんだか分からないけど上手くいってしまったのです……

 流石にちょっと躊躇ったのですが、「アウアウアー」と言ってみると、彼女は「ムイムイラー」と返して来ました。意味が分からなかったのですが、彼女は微笑んでいました。そして、意味が分からなかったのですが、サポートAIが「OKのようです」とそう返して来たのです。

 そして、僕らは最後まで至りました。

 そんな事はそれからもちょくちょくありました。謎の言葉で上手くいく。或いは、AI同士には分かっているのかもしれませんが、僕らにはさっぱりでした。

 

 ある日、某国の首席と日本の首相が会談を行っている様子がニュースで中継されていました。かつては緊張関係にあった相手国との関係は現在はすっかり良好になっています。不意に相手国の首席が言います。

 「コナコナコナーナ」

 意味が分かりません。相手国の言葉なのかとも思ったのですが、同時翻訳もやはり同じ言葉になっていたので違うようです。そして、日本の首相はそれにこう返しました。

 「ナラステロー」

 やっぱり意味が分かりません。ですが、何故か上手くいったようで、互いに笑顔を浮かべて握手をしていました。

 或いは、AI同士には分かっているのかもしれませんが、人類にはさっぱりでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ