コスモスは手にした瞬間に散りゆく
僕はとあるネットゲームに嵌っている。そこでのプレイヤーネームはサフランだ。由来は、本名の黒田和樹から、くろかずでクロッカス。それだと捻りが無いので、同じクロッカス属のサフランという訳である。
実はゲーム云々よりも、そこで出会った人と相性が良かったから続けているのだが。
「秋桜さん。一緒にレベリングに行きませんか」
「クロッカスさん! 私も今度のイベントを見据えてレベル上げをしたいなと思ってました。ただ、この後は約束が」
申し訳なさそうな秋桜さんも可愛い。まあ、予定が有るのなら仕方が無いか。
「では、また今……」
「三人ではどうですか?」
所が、秋桜さんは食い気味に提案して来た。それ程一緒に行きたいと思ってくれているのだろうか。
「それでも良いですよ」
内心は舞い上がりつつも、紳士的に答える。
僕は、ダンジョンの入り口で秋桜さんを待つ。
「お待たせしました!」
遠くから手を振って近付いて来る秋桜さんの隣には、ごつい体格の人がいる。このゲームは性別が無いので、皆中性的な容姿のアバターだ。身長や体格は自由に設定できるので、個性はそこで出す。
「あっ、秋桜。この人が例の人? ふうん」
何だか全身を嬲るように見られて心地が悪い。
「もう、失礼でしょ。サフランさん、こちらは合歓です」
「あっ、初めまして。今日は宜しく」
何だか、仲良さげなのが気になったが、無難に挨拶を交わす。合歓、他に読み方があったような……。
「秋桜。僕から見ても良い人そうだと思う」
「そうでしょ」
二人は脇を肘でつつき合っている。
その後も、距離感の妙に近い二人が気になって、単純なミスを連発してしまう。
「あの、お二人はどういった関係なのですか」
もう帰ろうかという段階で、堪らず僕は聞いてしまった。
「えっ? 私と合歓は兄妹ですよ」
秋桜さんの答えに安堵と共に、失礼な質問だったと反省する。
「すみません」
「そうだね、僕達だけ知られるのも不公平かな。という事で、今度三人でリアルで合おうよ。僕も、サフランがどんな人か気になるし」
合歓さんの提案に秋桜さんも遠慮がちに賛成した。となれば、僕に否応は無い。
次の週末に駅前で待ち合わせとなった。
「やっほー! 僕の事が分かるかな?」
可憐な少女が駆け寄って来る。
「コス……」
「初めまして。僕は酒木合歓! ゴウカだよ! で、こっちがお兄ちゃんの」
「私がコスモスで、酒木秋桜と言います」
僕っ娘の後ろのごつい男の挨拶で、僕はその場に崩れ落ちた。