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一つの大きな勘違い

「ぎゃぁぁぁsksがdgっk、※□◇#△!」

 私は太ももにとてつもない激痛を感じて、目を覚まし、思わず言葉にならないうなり声をあげた。私は痛みを感じる太ももを見ようと、上体を上げようとするが、手首と首が何かに縛られているようで、体は上がらなかった。


 私はそのまま体を挙げようとした反動で、下の鉄板に頭を打ち付けたが、太ももの痛みがあまりにも大きすぎて、頭の痛みがかき消されてしまった。私は脂汗をだらだらとかきながら、体をひねろうとするが、足首と腰も縛られているようで、体の自由がないことを悟った。


 私は頭だけをあげて、自分の太ももを見てみることにした。すると、太ももには包丁が深く刺さっていた。その包丁は細い刃先は見えず、刃の三分の二は太ももの中に埋まっていた。見えている刃先は、自分の太ももから溢れ出す血でてかるほど赤く染まっていた。


 太ももに刺さった包丁の柄には、誰かの握る手があった。その手をたどって、手の持ち主を確認する。すると、その顔は、朝、私に声をかけた人物の顔だった。私はその時は思い出せずにいたが、今、はっきりとその顔を思い出した。


 彼は隣の家の旦那さんだ。


「起きましたか。


 ……なんですか、その顔は……不思議なことはないでしょう。あなたのしたことを考えればね!」

 彼はその言葉を言い終わると同時に、笑顔で勢いよく太ももに刺さっている包丁を抜き取った。すると、刺された時よりも激しい痛みが太ももから伝わってきた。私はもう一度、言葉にならないうめき声をあげた。血がドクドクと太ももから噴き出し、皮膚の内側から火を付けられているのかと思う程、熱かった。


 私は体をねじることができないもどかしさと苦しさで、どうにかなりそうだった。私はあげていた頭を下げて、悶絶しそうな痛みを耐えていた。


「うーん、正直、今回は白いバスタオルが干されておらず、赤いバスタオルだけが干されていたので、あなたが彼女に犯した罪の回数は一回だけなので、この一回で終わらせてもいいのですが……


 ……それじゃあ、面白くない。」

 そう言い終わると、さっき刺された太ももとは違う方の太ももに激痛が走った。私はこの痛みに耐えきれず、意識が遠くに飛んでしまった。


 その後、顔に突き刺さるような冷たさを感じて、目を覚ました。


「起きました? 続けますね。」

 彼はそう言って、私の上腕に包丁を刺した。私は口の中に残る冷たい液体に溺れ、息苦しさを感じながら、痛みを我慢した。腕を突き刺した痛みは、腕にかかった冷たい液体が染みて、さらに痛みが加速した。


 この液体は口の中に残る味から、水ではないことが分かった。油のようで、化学的な味、明らかに飲み込んではいけないものだ。彼は上腕に刺さった包丁を抜き取った。私はもう痛みの感覚が壊れてしまったようで、痛いという感覚が全て恐怖と言う感覚に変わっていた。


 彼が包丁を持って、微笑んでいる姿を見るだけで、頭の底から今まで感じたことのない恐怖が込み上がってくる。彼は私の上腕を突き刺した場所とは反対側にゆっくりと向かっていった。私は反対側の上腕も刺されるのだろうという恐怖に襲われた。


 私はおそらく数秒と満たないその移動時間が何時間にも感じられた。痛みのない間が一番怖い時間だった。私は何とかその痛みから逃れようと、体の拘束を暴れて外そうとするが、もちろん外れることはない。


 彼はその私の姿を見て、腹を抱えて笑っていた。私はその笑い声を聞いて、自然と目から涙が出てきた。私はそのまま、声をあげて泣きじゃくった。人間の享受することのできる恐怖の量を超えてしまったのだ。私は諦めて、泣いた。


「いや、面白いですね。泣き出したのは、あなたで四人目ですよ。」

 そう言って、彼は私の上腕を突き刺した。


「ハハハハハ、安心してください、突き刺すのはこれで最後です。これ以上やると、死んでしまうでしょう。


 実際、過去に十二回刺さなければならない人がいたのですが、彼は八回刺したところで、息絶えてしまいましたよ。


 本当にその人は残念でしたよね。だって、最後にこれ以上に楽しいことがあるっていうのにね。」

 彼は血みどろの包丁を鎌のような刃物に取り換えた。


「今まではあなたのことを憎んでいましたが、これからはあなたのことを感謝しましょう。


 だって、これから彼女は私を求めてくれるのですから。


 私は分かっているんです。彼女が生んだ子供たちは、私の子供ではないことを。彼女は私の殺した男達と子作りをしていた。最初はそのことに憤りを感じていました。でもね、彼女は私以外の男との子供ができたと分かったら、私のことを異常に求めてくるんです。


 彼女はきっと不倫をごまかすために、私を求めていたのかもしれません。でも、その時の彼女を私はたまらなく好きなんだ。とても可愛いくて、可愛くて……


 そんな彼女に愛される。そんな機会をくれたあなた達に感謝します。


 そして、最後に、私はあなたを愛したい


 なぜなら、私の愛す人が愛した人なのですから、私もあなたを愛さなければならないと思うのです。」

 私は彼の言っていることの意味がよく分からなかった。


「でも、勘違いしないでください。彼女はあなた自身を愛していません。彼女は私のことだけしか愛してなどいないのですから。


 でも、あなたは彼女に愛された。それはあなたの体を愛したんです。


 ただ、あなたの体の一部を擦りつけることを好いていたんです。だから、私もあなたを愛そう。」

 彼は私の上腕近くから、私の股下辺りに近づいた。そして、私のスーツのベルトを外し、ズボンを下げた。私はもがいて抵抗しようとしたが、もう体は自由に動かなかった。私は彼のなすままにズボンとパンツを脱がされた。


 私はもうそこから先を見ようと思わなかった。ただ、下腹部に痛みが走って、なんだか物足りないような感覚が残るだけだった。


「ああ……いいですね。これで彼女と同じになれる。」

 彼は血でドロドロになった肉片を持って、私の顔の前にやってきた。彼はその肉片を私の顔の上に持ってきた。その肉片から滴り落ちる血が私の口元に入ってきた。その血は、普通の血よりも粘り気が強かった。鉄臭い血の味と苦いような変な味がした。


「しっかりと喉を潤してくださいよ。この後は、焼けるような熱さにもだえることになるでしょうから。」

 彼はそう言うと、ポケットからマッチを取り出した。そして、彼は私の近くから離れると、私の足の近くに先ほどの冷たい液体をかけて、マッチに火をつけた。そして、私の体に向かって、マッチを投げた。


 私は放物線を描くマッチを眺めながら、昨日の彼女の言葉について考えた。


 私は彼女が殺人鬼だと勘違いしていたが、実際は彼女の夫が殺人鬼だった。


 そして、彼女はそのことに彼女は気が付いている。彼女は誰も知りえない殺人鬼の秘密を知っていて、その事実に興奮している。だから、私と彼女は似た者同士だったのだ。


 火のついたマッチが私の体の上に乗った。マッチの火が燃え広がる前に、私の体を改めて見てみると、私の血で全身が赤く染まっていた。きっとこれまでに殺されてきた男達は、このような景色を見て、彼女の干していた真っ赤なバスタオルを思い出していたに違いない。

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