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傍観者の興奮

 そうして、私は赤いバスタオルが干されるたびに、また、人が殺されると思い、隣の奥さんのお腹には、殺された男の子供がいる。さらに、隣の奥さんは殺された男の体から手に入れた局部でいたしている。


 私は揺れる真っ赤なバスタオルを見ながら、今言った一連の行動が行われていることを想像し、どんな世間の娯楽で得られる興奮とは違う異質で、とてつもない興奮を感じていた。


 私は赤いバスタオルが干されると、仕事を仮病で早退して、隣の家を監視するようになった。今から殺される男は誰なのか?この先、生まれる子供の親はどんな男なのか?そして、今から殺されると知らず、一時の快楽に喜んでいる間抜けな男の顔はどうか?


 私はその顔を見るだけで、笑いが止まらなかった。


 私はその男の顔をより近くで見るために、隣の家の玄関が良く見える所で待ち伏せをしていた。近隣の住民に怪しまれないように、うろうろと歩き回りながら、隣の家で今行われていることを想像し、うきうきしていた。


 そして、男の顔を見ると、笑いを抑えながら、自分の家に帰る。そして、抑えていた笑いを開放し、冷めやらぬ興奮に絶頂する。


 そして、しばらくして、出る連続殺人事件の記事を見て、もう一度興奮し、隣の奥さんが洗濯物を干さなくなって、興奮する。世界でただ一人しか得ていないであろう興奮に興奮する。




 そして、六回の殺人が起き、隣の家では六人目の子供が生まれた。


 私はその六人目の子供が生まれて、しばらくして、また赤や白のバスタオルが干されていないかを観察する。私はいつもこの時期になると、二、三年ごとしか起こらない興奮に飢え、もどかしい気持ちになっていた。


 しかし、今回は不思議なことが起きた。いきなり、赤いバスタオルが干されたのである。


 今までこのようなことはなかった。白いバスタオルが何回か干された後、ようやく赤いバスタオルが干されるのだ。


 つまり、今回はたった一回の逢瀬で殺そうとしているのだろうか。


 私はそんなことはどうでもよくて、ただ、不倫相手の顔を見たかった。私は会社に体調がすぐれないと連絡を入れて、自分の家にとんぼ返りした。そして、スーツを普段着に着替えた。一旦、自分の部屋から隣の家を観察して、誰かが来ないか見ていた。


 それらしき男が出てきたら、すぐに家を出て、顔を近くで見て、隣の家に入っていく男を確認した後、隣の家の近くをうろつく。何度も行われた同じことからこのようなルーティンが私には出来上がっていた。


 しかし、隣の家に怪しい人物は、夜になっても怪しい男は誰一人入ってこなかった。


 私は混乱した。隣の家の勝手口も見ていたが、隣の家の子供や奥さん以外入っている光景は見なかった。赤いバスタオルが干されているのに、怪しい男が隣の家に入っていかなかったのだ。


 私はずっと興奮を寸止めされているような気分で、気持ちが悪く、腹が立っていた。しびれを切らした私は、家を飛び出して、恥も忘れて、隣の家の柵に体を付けて、カーテンの隙間から隣の家の中の様子が見れないか目を凝らした。


 しかし、明かりがぼんやりと点いていることが分かるだけで、カーテンはきっちりと閉められていた。私は溜息を深くついた。


「何か、私の家に御用ですか?」

 いきなり後ろからかけられた女性の声に、私は体をびくつかせて驚いた。私は驚きながら、後ろを向くと、隣の奥さんの顔が見えた。


「いや、別に……。」

「……そうですか。


 ……いきなりですが、お暇ですか?お暇なら少し私の家で、話し相手になってくれませんか?


 今日はちょっと寂しい気分なので……。」

 そう言った彼女の瞳は、獲物を見つけたような肉食動物のようで、なまめかしく唇を舌で舐めていた。

 

 

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