第四話 箱の中身
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男女比率 男性2:女性1:不問2
登場人物
尾先 仁狐
山本 茜
骸
凪
四月一日
:
:
四月一日:『箱を作ろう 中には何を詰めようか』
『一つ、二つ、三つ…』
『いっぱい詰めれば できあがり』
【間】
茜:いやぁぁぁあ!
尾先:ほら、お前の仕事だぞ
茜:む、無理!無理です!
尾先:はぁ…俺は嫌われてるからなぁ…
茜:凪!凪!!
凪:いや、ごめん茜、僕は幽霊だから無理だよ
茜:嘘でしょ!?
凪:幽霊ってさ、あんまり幽霊同士で関わらないんだ
茜:この前、クダ様と結界張ったりしてたのに!
尾先:非常事態に加えて、お前が命令したんだろ?
茜:命令!?命令なんてしてません!
尾先:あー…、あぁいうのは命令になるんだよ
お前が"お願い"と思っても命令になる
茜:へぇ…そうなんですね…って!
そんなことはよくて!どうするんですか!コレ!
骸:お困り?苺ちゃん
茜:ふえ!?…あ!骸さん!?
骸:はい、骸です
お困り?
茜:困ってます!
骸:蛙の霊だね、怖がらなくてもいいのに
蛙っていうのは…
茜:そ、そんなのどうでもいいから
早くどうにかしてください!
骸:オサキ
尾先:はぁ…どうぞ、どうぞ
骸:じゃ、遠慮なく
【カエルの霊がいなくなる】
茜:カエルの霊くらいなんとかしてくださいよ!
尾先:お前が言うか!?
茜:私、本当にカエルだけは無理なんです!
たとえ幽霊でも無理です!
尾先:お前なぁ…
凪:一件落着、よかったね茜
茜:凪も助けてくれたらよかったのに!
凪:流石に茜が死にそうなら助けるけど、あれくらいじゃ、ね
骸:でも、おかげで僕はありがたいよ
貴重な霊体を捕まえられたからね
尾先:引き取りご苦労、釣りはいらんぞ
骸:お釣り?今日の依頼を鑑みても…
お釣りどころか追加請求のはずだよ?
茜:依頼…ですか?あれ?なにかありましたっけ?
尾先:あー、そうだった
その蛙のせいで言い忘れてた
今日は調査の依頼があってな
茜:調査…なんか探偵とか刑事みたいですね!
骸:幽霊の調査なんてやらないからね
時々あるんだよ、こういうことが
茜:てことは、本当に警察とかから依頼が?
凪:そういうのどうなの?実際
霊的に言えば迷惑なんだけど
尾先:別に荒らしたりしないさ
心霊スポット巡りの学生じゃないしな
あと、警察かどうかも怪しいがな
依頼主を特定しようなんて思わないし
茜:それで、なんで骸さんも?
骸:ほら、僕ってよく見えるから
オサキが見えない時のサポートだよ
それに、今みたいになると…ね
茜:今?
凪:茜、知らなかったの?
こいつ、人間霊以外に好かれてないよ
まぁ、それもこれも家系の問題だろうけどさ
尾先:と、いうことだ
俺に対処できない時の保険
本来、その役はお前にしてほしいが、また蛙の霊が出てきても困るしな
茜:無理ですね、絶対
尾先:っと、そろそろ行くか
場所は西央商店街の先の廃墟だ
わかるか?
茜:あ、知ってます
元々病院だったんですよね?
骸:そうそう、病院じゃなくて診療所が正しいけどね
調べてみると面白いよ
あれは自宅と隣接した診療所なんだけど
夜逃げか、はたまた霊の仕業か
家財道具、全部ある状態で廃墟化してるんだ
茜:私が小さい時から、気味悪いなぁって思ってた場所ですね
尾先:昔からある廃墟に何かが住み着いている…
その可能性を調べろって事らしい
骸:オサキ、ちょっと話したいことがあるんだけど
尾先:ん?…あぁ
すまない、先に行っててくれ
すぐに追いつく
何かあれば凪も居るし大丈夫だろう
凪:僕を便利屋に使わないでもらいたいけど
茜:次はちゃんと守ってね!
凪:…はいはい
【現場へと向かう二人】
茜:それでね、凪
凪:あんまり、喋らない方がいいよ
僕は他の人には見えないんだからさ
変な目で見られるよ
茜:あ…それもそっか
……あれ?
四月一日:一つ、二つ…
茜:なんだろあの人、何か…
凪:茜
茜:え?
四月一日:ん?…あぁ!!苺さん!
茜:え!?
四月一日:その節はありがとうございました!
茜:え、いや、何なんですか!?
四月一日:あ!すみません!
以前、えぇっと…オサキさんのとこで
お世話になったんですよ!兄が
茜:尾先さんの?
四月一日:えぇ!ずっと悩んでたみたいで、兄から話は伺って
凪:おい、お前それ以上近づくな
四月一日:…なんや、ちょっと話しとるだけやろ?
空気壊さんでくれよ
凪:得体の知れない奴と話なんてする気はない
四月一日:あぁ、自己紹介したらええか?
せやなー、俺としたことが忘れとったわ
なんせ、山本茜ちゃんに会えたんやから
茜:え…な、何で私の名前…
いや、そもそも偽名も知ってるって…!
四月一日:偽名まで可愛いんやからー!
ええ名前やん?俺は好きやで
凪:ふざけるなよ
茜、行こう
四月一日:だから、空気壊さんでくれよ
まだ話の途中やん
茜:な、凪…
(あれ?ちょっと待って…
凪は幽霊だから見えないはずなのに、この人、見えるどころか話までしてる…?)
…あ、あなた、誰なんですか?
四月一日:なんや、寂しいなぁ…
俺はこんなにも茜ちゃんのこと知っとるのに
茜:だから!どうして私のことを!
あ
四月一日:(遮るように)知っとるよ、山本茜
友達に呪いかけられて苦しかったなァ
くねくね見た時もキツかったやろー?
初めて本物の心霊スポット行った時は、霊体に囲まれて叫んどったなぁ…
最近じゃ、友達が水子に憑かれて大変やったもんなー…
あぁ、あの子大丈夫やった?肉体的にも精神的にも…
結構トラウマやったと思うでー
まだ色々あったなぁ、確かー…
茜:な、なんで…全部知ってるの…?
凪のことも見えてるし…あなた一体
凪:行こう、茜
大丈夫、僕がいるから
四月一日:何で知っとるか?
ハハ、知っとるよ、当たり前やん
茜:当たり…前?
凪:茜!
四月一日:呪いは俺が渡した
くねくねは俺が作った
水子も俺の所有物
心霊スポットは近くにいたから見てた
茜:え…?
四月一日:気づかん?そっかー、そうやなぁ
きっかけは呪いの子だった
まさか覚醒するとは思わんやん?
そら興味出るやろ?
それに今は狐まで引き連れて
茜:何言ってるの…?
じゃ、じゃあ詩織にあの人形渡したの
四月一日:せやから、俺って言っとるやろ?くねくねも、水子も俺や、俺
好きな子に意地悪したくなるってのが、男の性やねん、許してな?
凪:お前…殺すぞ
四月一日:怖いなぁ、狐にそんなん言われたら、本当になりそうでかなわんわ
凪:ふざけるなよ、茜に指一本でも触れてみろ
お前を殺す
四月一日:触れへん、触れへんって!
今日はプレゼント渡そう思ったんや
お詫びの品!な?
凪:要らない渡すな消えろ
四月一日:お前にやるんちゃうわ、ボケ
凪:お前…!!!
尾先:茜!
茜:尾先さん!
骸:凪、離れて
凪:聞けない、コイツを殺す
骸:無理だよ、離れて
凪:…!!チッ
尾先:お前、誰だ?
四月一日:狐憑きに怪異屋まで!こりゃ大収穫や
骸:嘘をつくな、知ってたんでしょ?
四月一日:あー…もしかして調べとった?
骸:ハハ、どうだろうね
四月一日:ふぅーん…ま、ええか
俺は四月一日
しがつついたち、って書いて四月一日
これでええか?骸さん
骸:はは、偽名だね、お揃いだ
四月一日:光栄やな、そんなん言ってもらえて
骸:その関西弁、よしなよ、気持ち悪い
アニメの影響かな?イントネーション変だよ
四月一日:ワイは立派な関西人やで?
骸:素性を明かさないことは評価するよ
けど、もっと練習した方がいい
四月一日:こら、えらい言われようやな
尾先:茜になんの用だ?場合によっては
四月一日:それさっき話したんやけど
空気読んでくれよ、狐憑き
尾先:人をイラつかせるのが得意なようだな
凪に代わって殺してやろうか?
四月一日:おー、怖
せやけど、ええんか?俺は人間やで
茜:尾先さん!この人が全部やったって!
詩織の呪いも!くねくねも!美紅のことも!全部!
尾先:落ち着け、茜
…どういうことだ?説明しろ
四月一日:茜ちゃんの言う通りや
全部、俺
それで分かるやろ?
骸:どうやら僕が調べてた奴のアタリが出たね
ま、全部俺は嘘だろうけどさ
何人かいるでしょ?
四月一日:さぁ?
尾先:ふざけたことしやがって…
何が目的だ
四月一日:需要と供給やん、そんなの
アンタらと一緒
欲しいやつがいるからやってるんや
尾先:ふざけるなよ、お前のやってることは、この世の規律を乱す
無闇にばら撒きやがって
四月一日:俺に言うなよ、欲しがったやつに言ってくれ
好きでやっとんちゃうで?
骸:くねくねも…かい?
誰が欲しがったんだい?あんなもの
四月一日:あー…それは俺やな
茜ちゃんのために用意したんや
茜:私の…ため?アレが…?
四月一日:嬉しかったやろ?
折角、呪いに打ち勝ったんや
次はもっと強いやつ倒したいやん?
凪:我慢できない…コイツは殺す
止めるな、人間共
止めるなら、全員纏めて殺す
茜:凪…
凪:茜にふざけた真似しやがって
殺すだけじゃ足りない…
茜、心配しないで、そこで…えっ?
尾先:っ!?茜!捨てろ!
茜:え?…え?何これ…
四月一日:一つ、二つ…
茜:なにこれ…こんなのいつ…?
四月一日:箱を作ろう、中にはあの子を詰めて
一つ、二つ、三つ、四つ…
茜:離せない…だめ…動けない…
骸:凪!
凪:え?…あっ…ッ!!
四月一日:いっぱい詰めれば出来上がり
尾先:テメェ!!!なにしやがった!?
骸:凪
凪:ダメだ…遅れた……進行は抑えた…だけど…
茜:!?アッ…痛ッッ…あぁぁああ!!
凪:!?茜!茜!
骸:離れて
尾先:…どうだ?
骸:少し考えさせて
尾先:…お前、何考えてやがる
どういうつもりだ
四月一日:趣味、興味、知的探究心、性癖、考え無し、勝手に、あとは…うーん……あぁ!霊の仕業!とか
尾先:まだふざける気か?
悪いが、気が長い方じゃないぞ
四月一日:理由とか意味なんていくらでも作れる
せやな、じゃあ一番しっくりくるやつ言うわ
性能調査、これでええやろ?
尾先:性能調査だと?
骸:コトリバコ…だね
尾先:まさか…作ったのか?
凪:そんなモノあるわけ無いだろ!都市伝説、空想の呪具だ!
怪異なら解る、けどこれは呪具だ!どうやって作るって…
四月一日:新解釈
尾先:…何?
骸:……
四月一日:新解釈怪異譚……面白いやろ?
ずっと憧れとった、夢に見とった
いつか必ず出逢ってやろう、見つけてやろう
最初はツチノコかな?いや、ネッシーでもいい
口裂け女もいいな、きさらぎ駅にも行ってみたい
やったー!オバケが見えるようになったぞ!おお!次は呪いだ!……なんて
知れば知るほど、見えれば見えるほど
世界の怪異は謎と不可思議と恐怖を振り撒く…
尾先:何が言いたい?
四月一日:逢いたいから作りたいになったのはいつかな
いや、最初からかも知れない
自分だけの怪異を作ってみたい
いや、新しい怪異に変換するのも面白そうだ
止まらない、止まらない止まらない止まらない!!
……ただ、それだけだ
茜:お腹…が…アァッ!!
骸:凪、なんとかなるかい?
凪:進行は止めてるのに…憑いた力が強すぎる…
茜:痛い…痛い痛い痛い痛い痛い!
骸:内臓が捻れるんだっけ?
へぇ、こんな風になるんだ
痛いよね、当たり前だ
凪:お前…!!
茜:た…助け…おさ…き…さ
骸:!
アハハ、ごめんねオサキじゃなくて
うん、面白いこと聞けたし
助けるよ、茜ちゃん
凪:本当か!?できるのか?
骸:ただ、もう少し結界を強めて
できる限り進行を遅らせてくれ
凪:わかった…!!
骸:オサキ、この前の話
水子は4人だったね?
尾先:あぁ、付喪神になったやつ含めてな
骸:最低でもシホウ、最悪ハッカイもあり得るかい?いや、性能調査だったね?
ハッカイはやり過ぎだ
ロッポウ辺りで手を打つかな
君、何処から集めてきたの?
四月一日:企業秘密
せやけど、もうそこまで読むんかい
ホンマ怖いなアンタ
骸:コトリバコは初めて見た
中身が複雑すぎて全体が見えないのも初めてだ
僕の眼でも見えない位、詰め込むなんて
人間のやることじゃあないよ
四月一日:この話作った奴には感謝しかないな
ただなぁ、作り方が現代じゃ無理やねん
人、殺さなあかんしな
尾先:!!まさか…お前…
四月一日:じゃあ、どうやって作ろうか
そうだ、幽霊ならどうだろう?
幽霊なら元々死んでいる、大丈夫だ
凪:ふ…ふざけるな…お前、何考えて…
四月一日:リサイクルや
死んで意味の無くなったヤツに、もっかい意味を与えてやったんや
凪:水子だぞ…?それ解って言ってるのか?
四月一日:コトリバコ知っとるんか?
元々、材料は死産した遺体とか女の身体の一部やで?
それ使うのは流石にと思って霊体にしてやったんや
凪:してやった…?お前は何様のつもりだ?
四月一日:しかも、一部や、一部
霊体なら全身入れて問題ないやろ?
その方が強くなるかもしれへんし、逆に呪いが弱まるなら改良の余地有り
それを試したかったんや
尾先:お前が人間じゃないのは分かった
それで何でコイツに渡した?何でコイツに関わる?
四月一日:そら、アンタらに近い存在になったからや
それこそただの興味と嫌がらせ
あ、あと女やからな
人間じゃないって酷い悪口は褒め言葉として受け取っといたるわ
骸:職業柄、君には興味しかないけど、悪趣味が過ぎるね、やり過ぎだよ
四月一日:そのくらいしないと怪異じゃない
人の生き死にこそ怪異だ
ただの箱如きで内臓が捻れ、千切れて血反吐吐いて死ぬ
しかも、それは女、子供にしか通用しない……
なんて箱、見てみたいと思うだろう?自分の目で
作ってみたいと思うだろう?自分の手で
尾先:お前は生かしておけない、危険すぎる
四月一日:人を殺すつもりないよ
アンタら居るから茜ちゃんに使ったんだ
死んだらアンタらのせいでよろしく
骸:ハハ、殺させないよ
四月一日:それも見てみたかったんや
茜:ァァ…!!ぐっウッ…ガハッ…はぁ…はぁ…
四月一日:あ、ほら
早くしないと死ぬで?
骸:オサキ、そいつ任せていい?
尾先:あぁ…茜を…頼む
骸:任せてよ
尾先:覚悟しろよ、四月一日
人も霊も踏み躙るお前に、相応しい最期を見せてやる
四月一日:くねくね一つ対処できないお前が?
あぁ、そうだ、アレも俺が作ったんだ!
凄かっただろ?新解釈怪異譚の初めに作ったんだ
話から不要な部分は取り払って進化させた!
どこにでも現れて、見た者全て変質させるんだ!
アレは傑作だよ!
尾先:クダ!!
四月一日:出た、狐憑きお得意の狐様だ
尾先:『許す』
【間】
骸:さて、どうしようか
凪:何か方法はないのか!?
茜:あ…ッッ!あぁあ!!
凪:茜!!
骸:コトリバコの効果は箱の中身によって決まる
これは即効性に近い、だからロッポウ辺りで間違いない
ただ、新解釈怪異譚…だっけ
そのせいで意味が変わっている可能性がある
凪:コトリバコの解呪方法は?
骸:儀式、破壊、封印…と言ったところだね
凪:できるのか?
骸:本来のコトリバコならね
凪:…クソ!!
骸:でも核は違えない
だから方法は間違ってない
ただ、それまで茜ちゃんが耐えれるかが問題だよ
凪:これ以上、僕の結界の効果は期待できない
これでも、全力でやっているんだ…!
骸:解っている
…そうか、あれがあった
凪:解決策があるのか!?
骸:ハハ、茜ちゃん
今日から好き嫌いは無くそうね
君は命を助けてもらうんだから
凪:どういうことだ?
骸:ほら、コイツだよ
凪:蛙の霊体…
!!そういうことか!
骸:うん、ガマの油は使えるよ
蟾酥とも言うけど、これには強心剤や麻酔、止血剤になる
だけど、これは霊体から取れた霊薬だ
効果なんかも、かなり強力だよ
凪:茜を助けられる…!骸!早くそれを
骸:ただ、強力すぎる
普通に使えば身体が崩壊するよ
そこで凪、君の霊力を使って中和してくれ
凪:中和?
骸:そう難しくないはずだよ?
君は百年生きた狐の霊だからね
凪:…なるほど…わかった
骸:使うときは一滴だけ丹田に、だよ
凪:大丈夫だ!
茜:あぁぁあ!痛い!ァッア!!
凪:待ってて、茜!今助けるから!
【尾先と四月一日、対峙する】
四月一日:へぇ…なるほど、憑依か!
尾先:『ニンゲンーー
我が主に楯突き、その不遜な態度…万死に値する』
四月一日:狐とヤるん初めてやからなぁ
楽しみやわ
尾先:『死ね』
四月一日:ええんか?殺して
そんなん望んでないんちゃうか?
尾先:『言葉を発するな、貴様に許した覚えは無い』
四月一日:はははは!ただ人の器、借りただけの霊体風情が
殺すってどうやって殺すんや?
噛みつくんか?その歯で?
狐じゃないで?よく自分の身体見てみーや
尾先:『ほう?愚弄するか…では、試してみるか?』
四月一日:後は、まぁそうやな
自分の主人に聞いてみるんやな
尾先:『貴様は万死に値する
それで意見は一致している』
四月一日:それでも殺したくないはずや、人間をな
尾先:『何が言いたい』
四月一日:そういう男だよ、尾先仁狐って奴は
尾先:『はっ!有耶無耶にするつもりか?
逃がすはずが無いだろう?』
四月一日:それでも俺は此処では死なない
例え九尾狐と対峙しても
尾先:『…何?』
四月一日:クダ…ね
上手いなぁ、流石や
そこら辺は感心するわ
そもそも俺は狐が嫌いなんや
せやから、堪忍な…!!
尾先:『自ら死を選ぶか?結局は阿呆だったというわけか』
四月一日:アホはどっちやろな
尾先:『死ね、人間』
四月一日:"男は女に逢い女は男に行き会う事あり"
尾先:『!?消えた…?』
……逃したか…あの一節、まさか
っ、茜!
【間】
骸:逃げられたみたいだね
尾先:茜は?
凪:大丈夫、もう苦しくないから
茜:ァァァアあ!!
凪:ウッぇっ…嘘…だ、こんなモノを茜に
尾先:ガマの油、なるほどな
骸:取り憑いていたモノが剥がれたみたいだね
これがコトリバコの中身ってわけか
凄いね、例え都市伝説の呪具だとしても、これほどの呪いを人に移せるなんて
霊体の凪が吐くほど醜悪…度が過ぎる
尾先:あぁ、だが今回のことで分かった
ふざけた野郎がいることがな
骸:調べててよかったでしょ?
追加報酬貰おうかな?
尾先:お前も無関係じゃないだろ
知られている可能性もあるぞ
骸:…そうだね、少し頭にきているよ
凪:茜!しっかりして!茜!
茜:な…ぎ?わた、し…
あっ…痛みがおさ、まって…
凪:よかった…茜…
骸:茜ちゃん、そのまま動かないで
まだコトリバコはあるんだ
それを回収するまでは…ね?
尾先:どうする?壊せると思うか?
骸:新解釈…だっけ?
あまり刺激したくないね
怪異と違って、呪具だと暴発すると困るからさ
尾先:んじゃ、少し値引きしてくれよ
クダ、いけるか?
骸:ハコは頂戴ね?いいよね?
尾先:あぁ…クダ、封印だ
【間】
凪:気持ち悪っ、そんなモンまで集めるのかよ
骸:当たり前だろう?これは量産できるよ
ちゃんと調べないと、またコトリバコに出くわした時に困るじゃないか
凪:……
茜:ありがとう、凪
助かったよ…
凪:無理して喋らなくていい
じっとしてて
骸:フフ、茜ちゃん
今日から蛙に感謝だね
茜:…あはは…はい、そうですね
尾先:今日は帰るか
廃墟調査は日を改めよう
茜:すみません…私のせいで
尾先:お前のせいじゃない、気にするな
それにしてもアイツ…
骸:ま、それは僕も調べ続けるから
また連絡するよ、オサキ
尾先:あぁ、頼む
骸:うん!今日はいいことも聞けたし
気分がいいよ、僕は
ね、茜ちゃん
茜:え?…私、何か言いました?
骸:いいや、解らないならそれでいい
フフ、全く、怪異屋らしいよね
茜:はぁ…
骸:じゃあ、僕はここで別れようかな…
あっ、そういうことか
茜:え?どうしたんですか?
骸:本当に嫌な人間だね
わたぬきって日本で珍しい苗字なんだ
それで偽名にしたんだと思ったけど、腸抜、だったんだね
茜:わた…ぬき?
尾先:内臓を抜く、ってことか
コトリバコを使うことも計画的に用意していた
使えば内臓が捻れ、吐血し、ハッカイにもなれば、内臓が外に出てもおかしくないな
骸:それを作ろうとしている
新解釈怪異譚、危険だね
茜:私…みんながいなかったら…
凪:茜…
尾先:大丈夫だ、俺たちがいる
茜:尾先さん…
骸:じゃ、僕は帰るよ
またね、茜ちゃん
茜:本当にありがとうございました!
【別の場所で動向を窺う影がある】
四月一日:はぁ…、箱は回収でぎず、しっかり封印されましたとさ
めでたし、めでたしってか
にしても、ぬらりひょんは凄いなぁ
アイツらの目まで誤魔化して逃げれるんやから
謳えば使える妖怪の技!いいねぇ、もっと作ろう
骸:………ふっ
四月一日:…なんや、見えとんかいアイツ
六道は怖いなぁ…ま、ええか
帰ったらやることいっぱいやなぁー
『箱を作ろう 中には何を詰めようか
一つ、二つ、三つ…
いっぱい詰めれば できあがり』ってか
【間】
茜:……
尾先:怖くなったか?
茜:っ…はい、少し
尾先:巻き込んだのは俺だ
嫌なら明日から来なくていい
茜:違います!尾先さんのせいじゃない!それに言ってました
あの人が詩織に人形を渡したって
最初から狙われてたのは私だったんです…
だから……だから…詩織も、美紅のことも…
尾先:そうじゃない
誰でもよかったんだろう
もしかしたら、お前みたいに被害にあった人が、他にもいるのかもしれない
お前のせいじゃない、気にするな
茜:…はい…
…私は…許せない
尾先:……
茜:呪いを求めたのは詩織かもしれない
けど、あんなものを作って、渡して広めてるんだったら、私は許せない
尾先:あぁ…そうだな
茜:だから
だから、これからも尾先さんのところで色んなことを知りたい、知って私も力になりたい
尾先:茜……わかった、それから
何かあったら俺が守ってやる
茜:尾先さん…
凪:僕もいること忘れないでよ、茜
茜:うん!凪、これからもよろしくね
凪:うん
今日みたいな危険な目にはあわせない
僕が守る、君を、絶対に
尾先:よし、帰ろう
茜:はい!
箱の中身 終