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オサキ怪異相談所  作者: てくす
3/4

第三話 業漂う水

男女比 男性1:女性2:不問1


登場人物

尾先 仁狐

山本 茜

川原 美紅

美紅:『おちて ながれて 水の底』

『くらい みえない』

『光は何処に』



【間】



【電話中の尾先】

尾先:あぁ、わかった…

すまなかったな、色々と

一先ずこれで一件落着だ

また何かあれば連絡する、あぁ、それじゃ

……ふぅ



【尾先の家に、急いで来た茜】


茜:はぁ、はぁ……

尾先さん!聞いてください!


尾先:あぁ、俺も今聞いたところだ


茜:え?


尾先:コレだよ


茜:電話…?あ!骸さん!


尾先:そういうことだ

今回の件は、これで正式に一件落着だな


茜:よかった…詩織…


尾先:今は病院らしいな


茜:はい、聞いてます

今度、お見舞いに行こうかと


尾先:やめておけ


茜:え?どうしてですか!?


尾先:……はぁ

相手の気持ちも考えろ

会いたくないはずだろ?


茜:そ、それは…そうかもしれませんけど


尾先:…お前のその異常性は何なんだ?


茜:異常…?私が?


尾先:過去に何があったか知らない

必要以上に聞くつもりもないが

普通は自分を殺そうとした相手に情けも容赦もしないものだろう

この人はヤバい人だ、って距離をとる


茜:……


尾先:その執着心と言ってもいいほどの異常性がお前には見える

……単に友達思いの優しい子じゃない

お前のそれは異常だ


茜:…私、は…おかしい…ですか?


尾先:…あぁ


茜:…そうですよね

本当はわかってるんです

だけど…


尾先:まぁ、その話は追々な

とりあえず会うのはやめておけ

助かっただけありがたいと思ってそっとしておいてやれ


茜:わかりました…

あ、それで今日は


尾先:今日はもう帰っていい

俺も用事があってな


茜:それじゃあ、今日は怪異相談所はお休みですね


尾先:そのふざけた名前もどうにかならないのか?


茜:だって、尾先さんのやってること

そのまんまじゃないですか!


尾先:お前のネーミングセンスには頭を抱えるな

偽名の苺も字が似てるって理由で安直

凪は、まぐれで当たったが


茜:酷くないですか!?一生懸命考えたのに!

尾先さんだって、安直じゃないですか!

長い木でオサキ!って字変えただけじゃないですか!


尾先:勉強不足、出直してこい


茜:はぁ!?


尾先:じゃあな、気をつけて帰れよ


茜:あ!ちょっと!言い逃げだ!パワハラだー!



【次の日、学校】



美紅:おはよー!茜!


茜:おはよう、美紅


美紅:あれ?イライラしてる?


茜:え!?あー、うん、ちょっと


美紅:珍しいね?茜がそんな顔してるの


茜:バイト先でちょっとね…


美紅:あれ?茜ってバイトしてたんだっけ?


茜:え!?あー!そうそう、最近ね


美紅:どんなとこ?


茜:う、うーん…怪しいお店?


美紅:え…もしかして茜…夜の蝶に!?


茜:違う違う!そういうのじゃなくて!

ほら最近、幽霊に悩んでたでしょ?


美紅:あぁ!そういえば詩織から聞いたよー

あ、そういえば詩織入院してるらしいね

大丈夫かな?


茜:う、うん!大丈夫みたいだよ

あ、でね?その関係で知り合った人がいて

そのお店って言うのかな

幽霊専門の相談所みたいなところでお世話になってるの


美紅:本当に怪しいお店だった


茜:あはは…けど、私も相談して楽になったから、腕は確かかも


美紅:心理士みたいな人なのかな?

ふーん、じゃあ私も相談してみようかな


茜:え?美紅が?


美紅:うん

幽霊が見えるわけじゃないんだけどね

最近ちょっとおかしくて


茜:どんなふうに?


美紅:腰が痛くて、肩も凝ってる


茜:それは、整体に行った方がいいんじゃない?


美紅:そうなんだけどね

胸の張りが時々あるの

あと、気分が悪くなることもちょっと


茜:…その人は、男の人だから

別のところに行くべきじゃないかな…?


美紅:そういうのじゃないよ、絶対

だから不思議なの

別に運動したってわけじゃないのに疲れたりするから


茜:…わかった、私から少し話してみてもいいかな?


美紅:うん!お願いするね

茜、2限は何?


茜:私は空きだよ

ていうか今日はもう、なし!


美紅:そっか、じゃあまたね!


茜:うん、いってらっしゃい

……うーん、尾先さんに話していいものか


凪:茜、茜


茜:…え?誰…?


凪:こっちに来て、茜


茜:幽…霊?だけど嫌な感じはしない


凪:早く


茜:っ…行ってみよう



【間】



茜:誰なの?ねぇ!返事をして!


凪:僕だよ、茜


茜:え!?…子供?


凪:酷いなー、僕だよ

凪、だよ


茜:凪!?え、嘘、だって凪は


凪:狐は人を化かす怪異だよ

これくらいできるさ


茜:びっくりした…でも、どうして急に?


凪:うん、僕は茜以外の人間に興味はないからさ

別にどうでも良かったんだけど

さっきの人、茜の大切な人でしょ?


茜:美紅?そうね、大切な友達だよ


凪:だったら教えてあげる

茜って人間の幽霊は見えづらいんでしょ?

だから、教えてあげる

あの人間にはちゃんと憑いてるよ


茜:え!?憑いてる!?幽霊が?


凪:うん、今はまだ大丈夫そうだけど

病気じゃないから、いつ悪化するか分からない

急いだ方がいいよ

あれは多分、手に負えない


茜:手に負えない…?


凪:あの人間、最悪死ぬかもってこと


茜:えっ…


凪:とりあえず、僕が伝えたかったことは伝えたからね

それじゃあ


茜:あ!待って!

この前はありがとう、凪のおかげで助かったから


凪:ううん、僕は茜を助けられて嬉しいんだ

茜の為なら命を差し出すよ


茜:え…どうしてそこまで


凪:誓いだから


茜:誓い…?


凪:それじゃ、またね


茜:あっ!

…誓いって…何だろう

って、美紅のことが心配だ…

早く尾先さんの所に行こう!



【間】



尾先:なるほどな


茜:見てもらえますか?


尾先:凪、出てこい


茜:え?


凪:僕は茜以外の命令を聞くつもりはないんだけど

あと、様を付けたほうがいいんじゃないかな?僕はキミの狐じゃない


尾先:生憎、俺は大丈夫なもんでな


凪:尾先、ね

真怪にまで影響するのは不服だね


茜:真怪…?


尾先:怪異の分類だ

そこは自分で調べられる

人が勝手に分類して、都合が良いから使ってるだけだ


凪:人間はよく考える生き物だからね

使えるものは使うさ

さて、お前が言いたいことは解っている

だけど、僕が教えることはない

自分でちゃんと見た方がいい


茜:凪は何が取り憑いてるのかわかるの?


凪:僕も幽霊だからね

解る、というより本来見えていないとおかしいんだ

茜が生きているものが見えるように…ね


茜:あっ、そっか…なるほど

すごくわかりやすい


尾先:ま、予想が正しければ対応できるが、腑に落ちないこともある…


茜:腑に落ちない、ですか?


尾先:あぁ…まぁ、いいだろう

明日、連れてこい


茜:いいんですか?


尾先:あぁ、報酬はいただくさ



【次の日】



美紅:てことは、聞いてくれたんだね

ありがとう


茜:ううん!


美紅:で、えっと何だっけ?オサキ?さん?


茜:そう、変な人だけど大丈夫だよ


美紅:少し楽しみ


茜:えっ…


美紅:だって茜がお世話になってる人だし、興味あるじゃん?


茜:べ、別に変な意味はないからね!?


美紅:変な意味って?


茜:もう!からかわないでよ!


美紅:あはは!…って、ここ?


茜:あははー…不気味だよね


美紅:いかにも!って感じ


茜:じゃあ、行こっか




【尾先の家に入る二人】




茜:尾先さーん、連れてきましたー

あれ?尾先さーん?


美紅:入って大丈夫?

もしかして、留守だった?


茜:いや、そんなはずは


美紅:あれ?


茜:ん?どうしたの?


美紅:え、いや…なんだか身体が軽くなったような


尾先:それは魔除けのお香のおかげかな


美紅:え!?


茜:ちょっと、尾先さん!それやめてください!


尾先:俺は何もしてない


茜:えっと、この人が尾先さん

で、この子が友達の


尾先:名前


美紅:あ、川原美紅です


尾先:ふーん、なるほどね

さて、俺のことはどこまで聞いてる?


美紅:変な人だって聞いてます


尾先:…山本茜…?


茜:違っ!だってどこまで説明していいか分からなかったんですもん!


尾先:お前な…まぁ、いい

とりあえず話を聞かせてくれ


凪:(茜)


茜:え!?


美紅:え?どうしたの急に


茜:あ、ごめん!なんでもない

(…凪?これはどういうこと?)


凪:(テレパシーみたいなものだと思っていいよ、頭の中で会話してる

今、何か見える?)


茜:(ううん、やっぱり私には見えなかったよ)


凪:(僕は茜の守護霊のような立ち位置だから、ここの臭いに耐えれるんだけど

普通の霊は入って来れないみたいだ)


茜:(そうなの?)


凪:(あの男、気に食わないけど本物だね

とりあえず、今お友達には霊はいない

身体が軽くなったのはそのせいだね)


茜:(そうなんだ、けど凪が大丈夫で良かった)


凪:(だけど、注意して)


茜:(え?何を?)


凪:(扉の前にずっといる、出てくるのを待ってる)


茜:(あっ…!!)


凪:(見えた?)


茜:(扉の前が…なんかぐにゃぐにゃしてる…?)


凪:(なるほど、そう見えるのか

その感覚、普通の霊じゃなくて悪い霊って覚えておいて

生き物に悪影響を及ぼす霊体の感覚)


茜:(わかった…ありがとう、凪)



【間】



尾先:それは整体に行った方がいいんじゃないか?


美紅:茜にも言われました、けどそうじゃないですよね?


尾先:幽霊でも見えるのか?


美紅:いえ、見えません


尾先:なら、どうしてそう思う


美紅:茜がここを紹介してくれたからです


尾先:胡散臭いと思わないのか?


美紅:だけど、茜はそれで元気になりましたし

感覚…ですけど、そういう病気とかじゃないとわかるんです


尾先:山本茜より、随分頭が良いな

見た目は天然そうなのにな


美紅:ギャップ萌えってやつですね


尾先:ハハッ、気に入った

それに、色々経験値もありそうだ


美紅:経験値?ですか


尾先:あぁ…茜、そろそろお前も参加しろ


茜:あっ、ごめんなさい

何かわかったんですか?


尾先:あぁ、予想通りだ

川原美紅、お前に取り憑いている霊は子供の霊だ


茜:子ども…ですか?


美紅:こ…ども…


茜:美紅?


尾先:……

それで、何か心当たりはあるか?

話によれば、最近違和感を感じだしたんだろ?

それを感じる前、心霊スポットに行った…とか、いつもと変わったことをしてないか?


美紅:いえ…別に…


尾先:旅行でもいい

普段と違うことをしていないか?


美紅:あっ、そういえば

彼氏と釣りに行きました

私は近くで見ていただけですけど


尾先:場所は?


美紅:えっと…どこだっけ

ちょっと、聞いてきていいですか?


尾先:あぁ、構わない


茜:子どもの霊ですか


尾先:…あぁ


茜:尾先さん?


尾先:厄介にならなきゃいいが


茜:そんなにヤバい霊なんですか?


尾先:いいや、本来その霊は…

いや、この話は後にしておこう


茜:え?


尾先:場所が近ければ今から行くぞ

早く終わらせてしまおう


茜:あ、はい

ありがとうございます


尾先:……あぁ


美紅:お待たせしました

場所は…ここです


尾先:仔攬池(ことりいけ)…なるほどな


茜:ここから30分くらいですね

中学の頃、男子がよく行ってました


美紅:あ、私の中学もそうだったよ

彼氏も結構行ってたみたい


茜:私は釣りしたことないな


美紅:私も実際にしたことはないよ


茜:ついて行くだけ?


美紅:うん、そうだよ


茜:それ、楽しいの?


美紅:うーん、ついて行ったの、この一回だけだから

どんな感じか見てみたいって私が言ったし


茜:そうなんだ


凪:(尾先、茜を巻き込むなよ)


尾先:(凪か…あぁ、そのつもりだが)


凪:(僕は茜さえ無事ならそれでいい

他の人間は知らないからな)


尾先:(お前が自分で見ろと言った意味が解ったよ

あれは…業が重すぎる……今回の場合、特にな)


凪:(人間は愚かだよ、全く)


尾先:(あぁ、そうだな)

よし、今から行くぞ


美紅:池にですか?今から?


尾先:あぁ、今すぐ行って除霊する


茜:大丈夫そうなんですか?


尾先:待ってろ、準備してくる


美紅:また、あそこに行くんだ


茜:どうしたの?


美紅:ううん、ここで除霊?っていうの?

お祓いみたいなことすると思ってたから


茜:私もそう思ってたんだけど

時々、現地に行くこともあるんだ

そこじゃないとダメな時があるらしくて


美紅:じゃあ、私はそのパターンだったってことね


茜:そうみたい

私もよくわかってないんだけどね


美紅:けど、いい人そうじゃない?オサキさん


茜:え!?どこが!?


美紅:ちゃんと人を見てる

気配りも上手そう


茜:ぜっんぜん!そなことないから!


美紅:あはは!


尾先:待たせたな、行こうか


茜:あっ!尾先さん!


尾先:なんだ?


茜:ちょっと、こっちに…

……あの扉の前どうするんですか?


尾先:あぁ、クダに頼んである

出ても大丈夫だ


茜:よかった…


尾先:見えるのか?


茜:いえ、雰囲気しか分からないです

あとは凪に聞きました


尾先:さっきのコソコソ話はそれか

……茜、…友達の力になってやれよ


茜:え?それってどういう…


尾先:よし、行くぞ




【池へと向かう3人】




茜:(友達の力になるってどういうこと?

もしかして、何かよくないモノが)


美紅:茜?


茜:え…?


美紅:どうしたの?眉間に…シワ!


茜:あ痛っ、…ごめんごめん、考え事


美紅:私のこと?


茜:へ?


美紅:ふふっ、なんでもなーい!


茜:あっ!美紅、待って!


凪:(へぇ、勘が鋭い子だ

確信を持って言ったよね、今の言葉

なんだろうね、この感じ

全部分かってるような雰囲気も…

尾先も、なーんか感じてるみたいだし

ま、いいか…僕は僕の使命を果たせばそれでいい)



【間】



尾先:よし、ここでいい

今から除霊をするが、確認しつつ行う

答えたくないものには答えなくていい


美紅:…はい


尾先:まずは、場所はここでいいな?


美紅:釣りをしてたのは少し奥ですけど


尾先:その時に何かしなかったか?

ゴミのポイ捨てや池を荒らしたり


美紅:してないです

逆にゴミを拾ったくらいですよ


尾先:わかった

今、体調の変化はあるか?


美紅:お店に行ってからは調子がいいくらいです


尾先:あそこは店じゃなくて俺の家なんだがな

…お前に憑いている霊は、水子の霊だ


美紅:っ……


茜:水子…?


凪:(堕胎や、流産、死産…生まれてきて間もなく死んだ……そんな霊を水子として纏めるんだ)


尾先:さらにこの場所、仔攬池

名の通り、子を取る池だ


茜:子を取る?


尾先:姥捨山(うばすてやま)は分かるか?


茜:はい、聞いたことはあります


尾先:その逆だ

子を池に捨てたんだろう

事実か伝承かは知らんが、名は何か意味を持っているからな

事実、ここで大飢饉が起こったこともある

何百年も前に、育てられなくなった子を捨てる

なんて当たり前にあった話かもしれない


茜:そんな…酷い…


尾先:話だけ聞けばな

実際に体験してみないと、その時の苦しみなんてわからんだろ?


茜:それは…そうかもしれませんけど


美紅:……私に憑いてる霊はその時、捨てられた子ですか?


尾先:そこまでは俺も解らん

ただ、3人だ

腕、足、そして腹…


美紅:…今はどこに


尾先:気にするな、もう除霊するんだ


美紅:わ…私…


茜:美紅、大丈夫?


美紅:あ、あか…ね、私…


茜:美紅?


美紅:ウッ…うぇっぇぇ…


【何かを嘔吐する美紅】


茜:えっ…?


尾先:何!?茜!そいつから離れろ!


茜:で、でも美紅が


尾先:いいから離れろ!!


茜:っ…


美紅:はぁ…はぁ…ウッゲェぇえ…

あっ…お腹…痛っ…痛いぃ…!


尾先:クダ!凪!


凪:はぁ?なんで僕が呼ばれるんだ?尾先、言ったよね?僕は


茜:凪!お願い!美紅を助けて!


凪:……

茜に言われたら拒否できないよ…

ほら、クダさん尻尾貸して


『九ツ尾重(ここのつおかさね)


茜:美紅!美紅!


尾先:触るな!


茜:尾先さん、どうしよう、美紅が!


尾先:目から大量の涙、腹の痛みは陣痛だろうな

耳から血が出ているが…これは別か

口から吐いているのは羊水か?


茜:なんなんですか!?一体これは!


尾先:出産時の現象が起きている

泣くのは生まれてくる子ども

耳の血はその生まれてくる子についたモノだろう

陣痛と羊水に関しては霊障だな


茜:なんでこんなことに…


尾先:話の最中に、もう霊は除霊していた

あとは川原美紅の気持ち次第だったんだが

それにここまでの霊障があるわけ…!?それか!


茜:何かわかったんですか?


尾先:付喪神だ


茜:付喪神?


尾先:物に魂が宿るとそれは付喪神になる

だが本来、付喪神ってのは百年の歳月を要する

だからアレは付喪神に似た別の呪具だ


凪:尾先、早く何とかしないと死ぬよ

嘔吐のしすぎで脱水起こしてる

それにこれ、死ぬまで続くでしょ?


美紅:痛ぁぁ!ぅッッ…はぁ…はぁ…


茜:美紅!……尾先さん!


尾先:川原美紅の腕に付いているアレを切れ


茜:え?…アレってブレスレット?

けど、確か彼氏から貰ったって

外すだけでいいんですよね!?


尾先:命とどっちが大切か考えろ!

いいか、外すんじゃない!切るんだ!


茜:けど、切るって…


尾先:クダと凪の結界の中なら切れる

やれ!


茜:っ!!美紅、ごめんね?切るね?


美紅:ぁあっ…痛ぃ…痛いの!


茜:ごめんーーーー


【ブレスレットを切る】


尾先:こっちに投げろ!


茜:は、はい!


尾先:クダ!


凪:はぁ、疲れた

付喪神なんて、また趣味の悪いものを


茜:美紅!美紅!


美紅:あ…か…ね…


茜:よかった…大丈夫?もう痛くない?


美紅:うん…大丈夫…はぁ…はぁ…

……あっ…!


尾先:4人憑いていたってわけか

除霊の時の霊力で覚醒したか…


美紅:あっ、あの…そのブレスレット…


尾先:すまないがコレはもう呪具の一種だ

取り憑いた霊は除霊するが、これは返せない


美紅:赤ちゃん…が入っているんですよね?


尾先:……あぁ


美紅:返してもらえませんか?


茜:美紅?何言ってるの?

あれを持ってたら、また美紅が!


美紅:ごめん…ごめんね、茜

私…ね、昔


尾先:言うな

言わなくていい


美紅:……


尾先:…責任は取らない


美紅:え?


尾先:これを返して、また霊障があっても

俺は手出ししない、それでいいか?


茜:尾先さん!?ちょっと、どういう


凪:茜、大丈夫


茜:凪…


凪:あの中にはもう…何もいない


茜:えっ…何もいない?


凪:クダの結界に入れたあと別に移し替えたみたいだ

本当、嫌になるほど本物だね


尾先:お前の考えている人じゃないかもしれんぞ


美紅:はい、それでいいです

責任は私が


尾先:軽々しく背負うものでもないぞ?


美紅:それでも背負わないといけないものなので


尾先:…わかった、これは返す


美紅:っ!!ごめんね…ごめんね…


茜:美紅…



【回想】



尾先:さっきのコソコソ話はそれか

…茜、…友達の力になってやれよ


茜:え?それってどういう…



【現在】



茜:(尾先さんが言ってたのって、もしかして…)

っ!美紅!


美紅:茜…


茜:大丈夫だから、言わなくてもいいから

だから…


美紅:うっ…茜…うわぁぁん…あぁっ…


尾先:ふぅ…



【間】




尾先:それで、あれからはいつも通りってか


茜:はい、ありがとうございました

美紅のことも、それから、あの子のことも


尾先:川原美紅にも言ったが、お前たちが考えているそれとはまた別かもしれないぞ


茜:それでも、美紅が選んだので

少しは救われたんだと思います


尾先:川原美紅はずっと悩んでいたんだろうな

そういうタイプの子だ

全部忘れた方がいいってこともあるが、俺は嫌いじゃない


茜:はい…あっ、移し替えた水子はどうしたんですか?


尾先:あぁ、報酬だからな


茜:なるほど、骸さんですね


尾先:そういうことだ、付喪神になった水子なんて聞かないからな

今回の話もしてやったら、喜んで聞いていたよ、悪趣味な奴だ


茜:あはは…骸さんらしいですね

……私、ちょっと怖かったです


尾先:何がだ?


茜:凪からは手に負えないって言われてたし、尾先さんも腑に落ちないとか言って

みんな煽ってましたから


尾先:煽ってるわけじゃない

そうだな…

お前は子どもと聞いて何を思い浮かべる?


茜:え?子どもですか?

可愛いとか…あと無邪気ですかね?


尾先:そうだ、子どもは無邪気なんだ

字の通り、邪気が無いんだよ


茜:邪気が無い?


尾先:辞書に載っている素直とかの意味じゃなく、字の意味として、な

水子の霊ってのは邪気が無い

だから、霊障なんて起こらないんだ

取り憑くことはあるが、親と間違えたり

ただ、遊んで欲しいだけだったりな


茜:じゃあ、なんで美紅はあんなことに?


尾先:付喪神化した奴がいたことだろうな

元から憑いていた3人はすぐに消えたし

凪が手に負えないって言ったのは、解っていたからだろう


茜:そうなの?


凪:茜には悪いけど、僕は茜以外の人間はどうでもいいんだ

だがら、僕じゃなくて尾先に対応させた


尾先:全く迷惑な話だな


凪:その割には、しっかり面倒見てるくせに


尾先:人助けが趣味だからな

川原美紅が少しでも助かったなら

それでいいってことだな


茜:尾先さんらしいです


尾先:本当は全部忘れる方が幸せかもしれない

だが、背負うことに決めた選択を尊重したくなっただけだ


茜:そうですね…

私も美紅の決めたことは間違ってないと思います

あの、尾先さん


尾先:なんだ?


茜:…いえ、なんでもないです

(この人になら、私のことを話してもいいのかな……美紅が勇気を出したように…私も…)


尾先:…ははっ

その話は、追々でいい


茜:えっ…

…はい!追々話します!




【間】




美紅:『おちて ながれて 水の底』

『くらい みえない』

『光は何処に』


美紅:じゃあ、お母さん行ってきます!

……行ってくるね


【飾ってあるブレスレットに笑いかける美紅】


美紅:『光は此処に』

『あなたのそばに』



業漂う水 終

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