シロツメグサの記憶
なんでもなさすぎることがある日鮮明に思い出されて、それで走り書きのように書いてしまいました。
シロツメグサの記憶
川べりの野原には
さらさらと風がいつも吹いていた
自転車をパタンと倒し
ゆっくり一歩一歩、川縁へと草原を歩くと
甘い草と花の香りが
胸をキューンと熱くした
いつ行っても
誰もいなかった
私と草原と
川は空と雲を浮かばせて
ゆっくりと静かに鼻歌を歌いながら
どこかへと流れていた
そよそよと丈の高い草の砦の中
シロツメグサが真っ白に雪のように敷き詰められ
お客さんの私は靴を脱ぐ
招き入れられた神聖な場所で
私はおとぎ話のお姫様のように冠を編んだ
いく日か日が経ち枯れて色あせた冠はそれでも
陽だまりのようなとても温かな香りがしていた
夏になると芝に混じってあちらこちらに
シロツメグサが固まって咲く
庭に出ると真っ先に懐かしい香りが
私の記憶を目覚めさせる
バラでも百合でも向日葵でもない
目立つことも高貴な香りもしない雑草に近い花
不思議なことに母が花壇に植えていた
多くの美しい花のことは覚えていない
シロツメグサの香り、自転車、川辺り
抜けるような青い空、夏
今でも感じられる切ない甘い気持ちは
このなんでもない花の中にたとえようもなく
温かく詰め込まれていて
そのまますっぽりと昔を遡り、私だけの
温かな場所へ連れ戻してくれる