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聖女と騎士の前日譚

今回は前日譚の聖女側です。

「明後日、聖女エルシア・ハートを筆頭としたアザゼル・クロムウェル討伐作戦を執り行う」


王都からの王命に周りの人達は沸き立つ中私と、私と共に作戦に参加する王国第一騎士団長のアルベルト・オリエスは暗い顔をしていた。


「なぜ我々が()()()()()()を討伐しなければならないのです?彼の事は皆わかっているでしょうに」


「いや、この国の連中はそんなことわかっちゃいないんだよ、エルシア」


「なぜ?確かに先制攻撃は魔族側からだったかもしれないし、今でもその憎しみの連鎖は続いている。でもそれは彼とその領地の者達からは一切ない。むしろ有効的な関係を築こうとすらしてくれているというのに、この国はそんな優しい心を持つ彼さえもただの排除すべき敵としかみなしていないのね…」


エルシアの言葉に、アルベルトは返す言葉もなくただ黙ってエルシアのほうを見ているだけだった。そしてまたエルシアも、アルベルトは理解者だとわかっているためこれ以上の愚痴はこぼさなかった。しかし、この後に何気なくつぶやいた一言がこの後の世界の運命を変えることとなるのだった。


「はあ、こんなことになるくらいならいっそ聖女なんてやめてしまいたいのに」


それは心からの言葉ではあったが、ただ何気なくつぶやいただけだった。でもその言葉に反応したのはアルベルトだった。


「……エルシアにその気があるのなら、方法はあるよ?だけどこれは大きな賭けになるけどね?」


「はい?どういうことですか?」


「アザゼルがあの時のアザゼルのままならこの賭けは成功すると思うよ?」


「だからどういうことなのです?」


「彼は敵味方関係なく基本的に助けたがるだろ?」


「そうですね。彼ならまず間違いなくそうするでしょう」


「そして今回の場合俺達王国騎士団も介入するとなれば彼はどうするかな?」


「どうするの?」


「まああくまでも俺の予測だけどね?おそらく彼は何らかの方法で俺達騎士団とエルシアを引き離して一対一の状況を作ると思うんだ。そこで彼に協力、もしくは保護を求めたらいいんじゃないかな?」


「そんなことが可能なのでしょうか…」


「まあこれが勇者とか賢者なら絶対に無理でしょう。でも聖女であり、彼と面識もある貴女ならばそれができる可能性もあるでしょう」


アルベルトの話を聞き、確かにと思いながらエルシアは8年前の事を思い出していた。



8年前の雪の降り積もる1月のこと。既に聖女の力を行使し始めていたエルシアはこの日も魔族との戦いのために戦場へと駆り出されていた。そしてまだ騎士団副団長だったアルベルトとともに魔族の出現した地点へと向かっていたときだった。


「この辺りで待ち伏せていれば何かしらに遭遇できるのではと思っていたが、まさかこんな重要人物と遭遇できるとは」


目の前に現れたのは一人の男だった。エルシア達は急に現れたその男に警戒を強めるが、この男相手に警戒ごときでは意味がなかった。


「そんなに肩肘張ってても意味ないですよ?私の攻撃はすでに始まっているのですから」


その言葉と同時に襲ってきたのは大量の蝙蝠型の魔物だった。そこでアルベルトは現れた人物の正体を知るのだった。


「まさか、こんなところで戦うことになるとは…吸血の王(ヴァンパイアロード)


「ほうほう。私の事を知っている人間もいるのですねぇ?」


「それはそうだろう。何せ十三魔皇の中でも吸血の王と言えば最凶の魔皇(バッドエンドデビル)の呼び声高い相対すればまず助からないと言われる者だからな、知らないわけがない。今回だってお前を討伐するために勇者パーティーに加え聖女まで出したんだからな」


「そうでしょうねぇ。私を相手にするならばそのくらいの戦力は必要でしょう。でもまさか聖女がここまで幼いとは思っても見ませんでしたがねぇ。さすがの私ですら少しの罪悪感を感じてしまいますよ」


「かといって見逃すなんてことはないんだろう?」


「ええ、もちろんですとも。いくら幼いとはいえ敵は敵。いずれ強大な力を持ってしまうならばその前に危険な芽は摘んでおくに限りますからねぇ!」


そう言うと周りの蝙蝠が一斉に襲いかかってきた。エルシアとアルベルトは2人なのに対し蝙蝠は数百匹にも上り、戦力差は明らかだった。そして戦闘開始から十分ほどが経過した頃にはエルシア達は既に満身創痍となっていた。


「うーん、聖女とその護衛ということで少し期待をしていたのですがここまで弱いとは思ってもいなかったですねぇ。私は弱いものをいたぶるのは好きではありませんのですぐにかたをつけさせてもらいますよぉ!」


吸血の王はそう言うと魔法の詠唱を始めた。アルベルトは必死に吸血の王に攻撃を加えるが詠唱が止まることはなく、遂に魔法が完成してしまった。


「これで終わりですよぉ!」

凶闇の封獄(ダークデリート)


その魔法を見たエルシア達はここで終わりなんだと人生を諦めていた。そして闇の中に閉じ込められるというその時だった。


疾風迅雷(しっぷうじんらい)!』


何者かによってエルシアとアルベルトはその場から連れ去られたのだった。


「逃げられてしまいましたか。でもあの魔法どこかで見た事がある気がするんですがねぇ…」



そして戦闘から数時間後、エルシアとアルベルトが目を覚ますとそこはどこかの建物の中だった。


「ここは…」


「目を覚ましましたか。僕の領内で殺戮なんて見たくないですからね。まずはお詫びを、吸血の王の事を予測できずすみません」


「いろいろと気になることばかりだが、助けてくれた君は何者だ?」


「ああ、名乗ってないですね。僕の名前はアザゼル、アザゼル・クロムウェルです」


その名を聞いたアルベルトは咄嗟に剣を持ち警戒を強めた。


「なぜ十三魔皇である君が俺達を助けたんだ?何か取引でもしたいのか!」


だが、アザゼルはそんなアルベルトに敵意を向けることもなく話し始めた。


「僕にそんな意志はありません。僕にとって人と魔族の争いほど醜い物はないと思っていますから。それに、吸血の王は僕の領地に無断侵入の上で君たちを殺そうとしていました。それをこの地を治める僕が見逃すわけがないでしょう」


「だが君たち魔族にとって聖女は憎むべき敵ではないのか?」


「まあそうなのかもしれませんね。でもそれは自分に起きたことではありませんし、そこで争うから憎しみの連鎖は止まらないんです。なら僕がするのはただ1つ、敵味方なんて関係なく守ることです」


その言葉を聞いたアルベルトはひとまず剣を収め話をすることにした。


「ひとまず君に敵意が無いことはわかった。それで、ここはどこなんだ?」


「ここはクロムウェル城の救護室ですよ」


「言われてみれば…周りに救護具があるな。それに俺達の傷も治っている」


「とりあえずは僕が完全回復(パーフェクトヒール)を使ったので問題はないと思うんですけど」


アザゼルの言葉にアルベルトは疑問の目を向けた。


「完全回復だと?それは聖女の啓示を受けた者しか使えんはずだぞ!」


「そうなんですか?じゃあ違うのかな…ともかく僕の治癒魔法で身体の傷は治しているので大丈夫ですよ!」


「それならいいんだが…そうだ。早く我々も自分達の領域に戻らなければ」


そうアルベルトは焦り始めたが、エルシアは動こうとしなかった。そしてアザゼルと話し始めた。


「ねえ、アザゼルさん」


「なんでしょうか?」


「私ね?本当は聖女なんて役職嫌なんです」


「エルシア!?」


「そうだろうね」


「傷ついていくみんなを見るのも嫌だし、魔族と戦わないといけないということ自体も嫌なんです」


「僕も同じだ。成り行きで魔皇になったけれど、他の魔皇はどんな方法で君達人間を殺すかしか考えない。僕の目的は人間と魔族の共存なのに」


「アザゼルさんもそうなんだ」


「うん、そうだよ。でもね、エルシア。君の力が無ければ失われていく命もある。助けられる命があって助けられるだけの力があるならそれは使わないともったいないでしょ?」


「そうだね…」


「じゃあこうしようか。もし君がまた本当にどうしようもなく今の地位が嫌になったなら、僕のところに来て?そして僕と一緒に暮らそう」


「いいの?」


「もちろんだよ。僕も僕の領地のみんなも歓迎する。そしてアルベルトさん?あなたもここに来るといい」


「でも俺は…」


「あなたは僕達魔族と戦うことには躊躇いはないかもしれないけど、この聖女()が苦しんでいる姿を見るのは嫌なんでしょう?」


「確かに…」


「それにあなたはなんだか僕の部下のオズロックと話が合いそうだしね」


「それはどういう…」


「おっと話の途中で申し訳ないんだけど、ここに吸血の王が向かってきてるみたいだ。僕の魔力探知の範囲にはあいつ以外に敵性があるやつはいないみたいだ。幸いこの城には抜け道がある。そこを使って逃げてくれ」


アザゼルはエルシア達への提案を終えると向かってくる脅威を感知しエルシア達に逃げるように告げた。


「でも…」


「いいから早く!アルベルト?早くこの子を連れて離れるんだ!」


「わかった。この恩は忘れない」


「僕も忘れないから…そうだ、最後に一つだけ。こんなことを今言うのもおかしなことだけど、エルシア。僕は君に一目惚れしたみたいだ」


「ふぇ?」


アザゼルはそう言うと部屋を飛び出し城外へと駆けていくのだった。



それ以降エルシアは、アザゼルの事をずっと考えながら聖女としての任務を遂行していた。しかし、あれから8年。エルシアはもう限界だった。そしてアルベルトもまた、苦しんでいるエルシアを見るのは限界だったのだ。そんな折に出たアザゼルの討伐作戦が出たのだ。

そして、昔の事を鮮明に思い出したエルシアはどのように一対一の状況を作るかアルベルトと作戦を練るのでした。



いよいよ、聖女と第一騎士団によるアザゼル討伐作戦の遂行当日となり、エルシア達はアザゼル領へと侵攻を開始するのでした…

いよいよ次回アザゼルとエルシアが8年ぶりの邂逅を果たします。是非見てくださると嬉しいです。

そしてこの作品が面白いな、早く続きが見たい!という方、そうではない方も是非下の評価ボタンや感想などいただけると嬉しいです!よろしくお願いしますm(_ _)m

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