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12話 嘘

「……んー」

「あら、起きた? ライナス」

「お姉様……帰ってきてたの?」

「うー……」


 寝ぼけ眼で目を開けたライナスとルシアはベッドから飛び起きた。


「ルーカスさんは?」

「もう帰ったわ」

「えー」


 眠っている間に帰ってしまったルーカスに、ライナスは不満そうに口をとがらせた。そんな彼の目は赤く腫れている。まだぼんやりしているルシアも同様だ。


「ねえ、姉様……。ドレスを作ってきたんでしょう?」

「そうよ、ルシア」

「たのしみねぇ、パーティ。いいなあ、素敵ね」

「ルシアも大きくなったらね」

「うん、うふふ……」


 ルシアはベッドの柱によりかかりながらパーティの様子を想像しているようだった。……これで、良かったのだ、とアンジェは思った。ライナスは子供らしく表情がころころ変わるようになったし、ルシアは楽しい想像がいっぱいできるようになったみたいだ。あの時、ルーカスの手を取った自分の選択は間違っていなかったと。


「じゃあ、夕食まで私は部屋にいるわ」

「うん」


 アンジェは双子達の様子を確認したあと、自分の部屋に戻った。


「ん……?」


 だが、自室に戻り何か違和感を感じたアンジェは部屋を見渡した。……特に荒らされた様子は見当たらない。


「気のせいかしら」


 叔父ブラッドリーが首都に来たという連絡はまだ受けていない。


「ちょっと神経過敏になりすぎね」


 アンジェはまだあの男に怯えている自分に苦笑した。そしてユーリの手紙を取り出す。そうそう、彼には心配をかけてしまったみたいだから、今日のグレンダとの仕立て屋での攻防を面白おかしく書いておこう。そう思ったアンジェはペンをとった。


「社交界デビュー……か……」


 華々しい夜会、茶話会、演奏会……これからアンジェは着飾って、ルーカスとそれらに出席する。ただ黙って立っているだけでも目立つ上に、王太子殿下のお気に入りの彼と。


「大丈夫かしら」


 アンジェだって令嬢としての嗜みやマナーを身につけてきた。外国語だってできる。それになによりあのカーライル公爵未亡人のグレンダが後ろ盾についている。それでも、アンジェは不安だった。


「ちゃんと婚約者に見えるかしら……」


 アンジェは立ち上がって鏡台の鏡の中を覗いた。やせ細りきっていた頃と比べて肌つやも良くなってきた。きっと、大丈夫。アンジェはひたすら自分にそう言い聞かせた。




「ねぇ、ルーカス?」

「なんです、グレンダ」


 翌日、グレンダはエインズワースの屋敷の応接間で、お茶を飲みながらルーカスに尋ねた。


「そろそろ、あの娘の正体を教えてちょうだい」

「……グレンダ」

「彼女は……へーリア駐在外交官、ハンティントン男爵の娘で……」


 聡明な彼女が単純にアンジェを気に入ったからといって、思うがままになるはずが無かったか、とルーカスは思いながら答えるとグレンダはそれをピシャリと遮った。


「そういうことはいいの。アンジェの態度はあなたに見初められた幸福な婚約者とはとても思えなかったわ……あなた、まだ外交官の仕事をしているの?」

「……それが王命ならば」


 そのルーカスの答えを聞いたグレンダはふう、とため息をついた。


「殿方は勝手ね……では婚約は嘘なのね」

「彼女に近づく手段のひとつです」

「そこまでする理由は……?」

「それは言えません……グレンダ、貴女でも。いえ、知れば危険です。余計に言えません」


 ルーカスはそこは譲れなかった。グレンダは親戚にあたるとはいえおいそれと口にするようなことでもない。


「あの子は最初見た時は野良猫かと思ったけれど、知性と教養と美しさを兼ね備えたきちんとしたお嬢さんだわ。彼女と結婚したいと思う男性は他にもごまんといるでしょうね。その彼女を振り回すのなら……覚悟は出来てるのでしょうね?」

「……いずれ報いは受けます。ですから今はご容赦を。貴女を敵に回したくない」

「ふん……しかたないわね」


 グレンダは不満そうにしながらも頷き、席を立った。そして去り際にルーカスに言った。


「……あまりあの子を泣かせないでね」

「ええ……」


 グレンダの言葉にルーカスは目を伏せた。すべてが終わって、その時がきたら……彼女を自由にしなければ。


「憂鬱だな……」


 ルーカスは思わずそう呟いていた。

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