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第八十七話

(´・ω・`)お待たせしました

 もうかれこれ何度目になるか分からない、秋宮財閥直轄の研究施設。

 しかし、今日俺はいつもニシダ主任が取り仕切っている区画ではなく、さらに建物深部、エレベーターで地下に移動した先にあるという、特殊な区画に連れてこられている。


『じゃあユウキ君。今から徐々に戦闘場内の魔力濃度を上げていくから、身体に異常が現れたらすぐに教えてね』

『本日は突然の呼び出し、申し訳ありません。新学期に向けて準備も大変でしょう。ただ……これはどうしても必要な実験なんです』

「了解っす。けど……こんな区画もあったんですねぇ」

『ええ。ここは、地球上で再現出来るギリギリの濃度の魔力を発生、維持する事が可能なんです。ただ、地球の魔導具の大半は、高濃度の魔力を浴びると動作不良を起こしてしまいます。ですので、こうして地下深くにこの実験室があるんです』

『他にもまぁ、上では見せられないような兵器の実験とか色々ね? 安心して、ここへは基本、限られた人間しか来られないから、何が起きても大丈夫よ。私の助手ですらここへは来られないんだから』


 なるほどなるほど……核シェルターみたいな? いや違うか。けど魔力って拡散しやすい物らしいし、高濃度を保つのって案外難しいのかもなぁ。


『では、これより魔力濃度を上げていきます。ユウキ君は、現在のリミッター【550】で可能な限り身体強化を行ってください。また、途中少しでも異常があればすぐに申し出てくださいね』


 地球に戻り三日。来週からはもう新学期が始まるというタイミングでの実験だが、果たしてどんな意味のある実験なのか。

 いつも以上に厳重な守りがされた実験室に、徐々に魔力が高まって来る気配を微かに感じる。

 ……俺、こういうの感じ取れるようになったのか。

 意識を集中させ、全身に魔力を行き渡らせる。

 筋肉が張るような感覚と共に、いつもとは少し違うような、いつも以上にスムーズに強化がされていくのを感じる。


「異常じゃないんですけど、いつもより効率が良いです。魔力濃度のお陰かもですけど」

『了解。じゃあこちらからリミッターを下げるわ。【200】まで低下。強化を続行して』


 むむ……なんだか……少し身体に違和感が……。

 それを申し出ようとした瞬間、先に実験室に響いていた音が止み、実験中断の宣言がされた。


『こちらでも確認が取れました。ユウキ君、身体を見てください。微かにですが身長が変化しています』

『……本当だったんですね』

「うお!? まじで微妙な変化が!」

『ユウキ君、戻ってきてください。ニシダ主任から説明があります』


 何が何だか分からないが……とりあえず身長が少し伸びたんで小躍りして喜んでいいですか?




「お疲れ様。総帥の話を聞いた時は俄かには信じられなかったのだけど……確かにここの設備であの程度成長出来たのなら、セカンダリア大陸まで移動すれば……身体が成長しても不思議じゃないわね。ただ、ここでの魔力はあくまでグランディアの魔力を再現しただけ。恐らくいくら濃度を上げても、そこまで成長するとは考えられないわ」

「今回の実験のポイントは、ユウキ君の身体が魔力により体格が変わるか否かの確認でした。今後、任務の際に大きな魔力を帯びた場所での戦闘も考えられますからね、それに合わせてダーインスレイヴの装備を調整、可変が効くように改良する事が目的です」

「まぁ……一度限界を超えて膨らんだ風船は、例え空気を全て抜いても元の状態に戻らない、少し伸びた状態になるのと似たような状況よ。ユウキ君は魔力に左右されやすくなったって訳。……聞いてる?」

「……元に戻った……ぬか喜びだった……」


 五センチくらい伸びたんだよ。さっきまで少し視線が高かったんだよ……。

 それが実験室から出たら、シュルシュルって小さくなって……。

 これでもしも勢い余って元の身長より小さくなったらどうしてくれるんですか!


「……元気出してください。もしかしたら、今度は身体そのものが成長しやすくなったのかもしれませんよ?」

「……そんな慰め……装備については了解っす。じゃあ……今日はこのチョーカーを預けたらいいんですね?」

「え、ええ……その、なんだかごめんなさいね。じゃあ、今日の実験はこの辺りに――」


 若干テンション低めに話を聞いていた時だった。

 厳重な警備のされたこの研究室に、突然第三者の声がした。


「そうか、今日は戦闘訓練を見られないのか。無駄足……でもないか?」

「っ! 誰です!」


 拡声器や通信ではない生の声に、リョウカさんが鋭い声を上げる。

 俺もすぐに武器に手をかけ、周囲を警戒していると――


「まぁ、一度は自分の目で見ておきたかったからな」

「っ!」


 俺の真後ろから、声がした。

 慌てて逃げるようにして振り返ると、そこには、どこにでもいる一般人のような、スラックスとシャツという出で立ちの、少しだけ目つきの悪い男が立っていた。


「……驚かせないで下さい。事前に連絡くらい入れられたでしょう? ヨシキさん」

「……兄さん。相変わらず神出鬼没なんだから……」

「良い訓練になる。潜入は俺の得意分野じゃないが、ここまでノーアラートノーキルで到達したぞ」


 ん? なんだかそのフレーズ懐かしいぞ。っていうか……え、お兄さん!?


「あの、侵入者ではないんですよね?」

「そうですよ。あまり私の生徒を驚かせないで下さい」

「まったくよ……来るなら来るって連絡くらい入れなさいよ」

「神出鬼没がモットーです。それに……別に顔を見せに来た訳じゃないさ。この青年を一目見てみたくてな、寄った」


 どうにも、掴みどころがない人のようだが……なるほど、確かに主任に少し似てるかも。

 目つきが恐いけど、イケおじって感じだ。たぶん三〇前半くらいか?


「……それで、貴方の目から見てユウキ君はどうですか?」

「戦うところを見た訳じゃないからなんとも。けどまぁ……風の噂で聞いたぞ、青年。『緋色の剣聖』と引き分けたって? 大したもんだ、まだ若いのに」

「え……あ、いや……それほどでも……」


 あの事件を知っている? それどころか、ユウリスが俺だと知って……?

 噂ってなんなんだ?


「……現状、世界で七番目に強い男だ。それと引き分けたんだ、誇って良いぞ。君は着実に『秋宮が振るう未来の魔剣』になりつつある」

「っ! あの、主任のお兄さん……なんですよね? その、どこまで俺の事を知って……」

「ん-? まぁ……『全部だ』そして、同時に君に釘を刺しに来た訳でもあるんだけどね」

「釘を……? 力に溺れるな、って事ですか?」

「ん-、そんな感じ。もし、君が自分の力を正しく理解し、正しく利用し、正しく活用して正しく道を間違い、そして正しく世界の調和を乱すのなら、その時は俺が直々に――」


 その瞬間、膝の力が抜けた。

 まるで崩れる様に尻餅を付き、見上げる様にヨシキさんの顔を見る。


「俺が君を殺す。その影響も痕跡も、何もかもを等しくこの世界から微塵も残さず消し去る。……だから、どうか俺にそんな事をさせてくれるなよ、青年」


 冷たい、冷たすぎる目。今まで見せていた、どこか人懐っこそうな、飄々とした調子を消し去り、心の底から冷え切るような、そんな気迫を向けられ、情けない話だが……喉を鳴らす事すら出来なかった。


「……そこまでです。あまり、私の未来の部下を脅かさないで下さい……『ジョーカー』」

「!? じゃあこの人が……!」

「正直あんまりその呼び方好きじゃないんだけどなぁ……」

「それは私も同意。自分の身内がそんなコードネームで呼ばれるのはね? だったら兄さん、大人しく正式に秋宮の部隊に所属したらいいじゃない。ほら、一応そういう部隊もあるんだから。『USM』知ってるでしょ?」

「いや、それはない。……俺がお前の下に付かない理由は、知っているだろ、リョウカ」

「……貴方はあくまで調停者。その時がくれば『私をも滅ぼす』から。ええ、知っています」


 ……俺は、なんとなくこの人が『ジョーカー』と呼ばれている理由が、分かった気がした。

 この人の言葉はただの脅しなんかじゃない。本当に終わらせる事が出来るんだと、たとえ相手が秋宮財閥であろうと消し去る事が出来ると、本気で思っている人間の言葉なんだと。


「けど実際、いつの間にか各国も俺の事を『ジョーカー』って呼び始めているし、ちょっと今更改名も出来ないし若干へこんでるのは事実なんだけどな。その青年なんて『ダーインスレイヴ』だろ? 俺もそういうカッコいいのにしろよ」


 ……でも、なんとなくだけど、ちょっとだけ考え方が俺に似ているような気もする。

 分かる。『ジョーカー』だとちょっと安直すぎますよね。


「数あるカードゲームの中でも最強。有名どころですと『ページワン』におけるジョーカーは、文字通り『出されてしまってはどうしようもない、勝負が決まってしまうカード』です。言いえて妙だと私は思ったんですけどね?」

「知ってるか? 世の中にはジョーカーが二枚入ったデッキもあるんだぞ?」

「もう、あげ足取らないで下さいよ」

「ふむ……豚足のから揚げか。美味いかもしれないな。圧力鍋で一度柔らかく炊いてから……」

「そんなー!」


 あと、さっきから思っていたんだけど、ヨシキさんって物凄いリョウカさんと仲良くない?

 ……あれ? でも確か……この人奥さんが二人もいるって聞いたような。

 おのれリア充、爆発しろ! 間違っても口に出さないけど、恐いし。


「……けどまぁ、お前は本当に頭の切れるヤツだよ。確かに俺はジョーカーだ。なにせ……『勝負を終わらせる為にページワンとして使う事が出来ない。肝心な時に切ることが出来ない最強の札』だからな。今の俺にはピッタリだ」

「……ええ、本当に」

「だから……ユウキ君は未来のジョーカーになんてならなくていい。君は、俺以外の有象無象を蹴散らし、場を整える『エース』で良いんだ。まぁ、相打ちになる事もあるカードなんだけどね、エースって」

「なるほど……言いえて妙ですね。でも、現実はカードじゃないですよ? もしもエースが四枚、同時に反旗を翻してジョーカーに挑んだらどうします?」


 少しだけ、この最強と呼ばれる人に問いかけてみる。

 この人は、どんな答えを返してくれるのか。それが少し気になった。

 すると、ヨシキさんは笑いながら――


「そりゃルール違反だな。だったら俺もルールを破る。そうだな、もしもカードゲームだったら相手の眉間に『ストップ』って言いながら銃弾をぶち込むさ。つまり、結果は同じだよ。俺は絶対に負けない」

「……はは、でしょうね」


 今度は、喉を鳴らすだけの余裕はあったよ。

 ……心臓に悪いよ、この人と一緒にいるの。


「さてと、じゃあ俺は収録があるからこれで失礼するよ。目的も一応達成出来たし」

「お疲れ様です。では……また、近いうちに」

「たまにはうちにご飯作りに来てよねー。収録の余り持ってくるんじゃなくてー」

「あいあい。じゃあな、青年。もし次に会う事があったら、何か美味しい物作ってやるからリクエスト考えておいてくれ」

「は、はぁ……ではまた今度……?」


 そう言いながら、ヨシキさんこと『ジョーカー』は立ち去って行った。

 つかみどころがないというかなんというか……イマイチ立ち位置がわからない人だ。


「はぁ……ごめんなさいね、うちの兄が」

「いずれは正式に顔合わせをしたいと考えていましたが……突然で申し訳ありませんでした。基本的にあの男は無害、問題を起こさなければ良い隣人でいてくれますから」

「なんとなく、悪い人じゃないなっていうのは分かりましたけど……ちょっと恐いですね」

「ねー、アイツ目つき悪すぎるのよ。眼鏡でもかけろっていっつも言ってるんだけど」


 あ、そんなノリで大丈夫なんですか。眼鏡ねぇ……確かに似合うかも。






 実験が終わった俺は、久しぶりにチョーカー無しで過ごす事になり、若干浮かれつつも家に戻るのだった。

 あー、今思いっきりダッシュしたら、たぶんバスより速く速攻で家に帰れるのに。

 帰りの山道でその欲求を満たすと、丁度イクシアさんが裏の畑から作業を終えて戻って来るところだった。

 なんでも、今日は来年種を植える前に、しっかり土を回復させる必要があるからと、熱心に薬を蒔いたり色々していた。


「イクシアさんただいま戻りましたー」

「あ、おかえりなさいユウキ。実験はどうでしたか?」

「特に問題もなく終わりましたよ。なんでも、少し俺の身体が、周囲の魔力濃度に左右されやすくなったんだとか。それで装備の調整が必要だって事になりました」

「なるほど……つまりおっきくなったりちっちゃくなったりするんですね?」

「……ちっちゃくなんてなりたくないですよ。これはちっちゃいんじゃなくてデフォルトサイズなんです」

「ふふ、そうですね。ごめんなさい」


 まぁもっと語る事はあったけど……結構心臓に悪い出来事だったんで、わざわざ思い出さずにこの幸せな時間を享受したいと思います。

 ……あいかわらず農作業の時はそのダサイ作業着なんですね……。


「さて、ではお風呂に入ったら、裏の町に買い出しにいきましょうか」

「了解でっす」


 そうだ、買い出しついでに何かもう少しマシな作業服ないか探してみようかな。


(´・ω・`)ジョーカーさんやっと登場

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