第六話
私は、幸せだったのだろうか?
この期に及び確信を持てない自分が情けないとも思うけれど、それだけきっと、やり残したこともあったのだろう。
視線の下には、息を引き取った自分の身体。
皺にまみれ、穏やかに眠るように目を閉じる自分の姿を見て、ようやく理解した。
私は、間違いなく幸せだったのだと。
ベッドの周囲に集まる、沢山の子供達。自分の家族を持ち、それでも私を母と慕う沢山の子供達。
……血の繋がりなんて関係ない。私は、これだけの子供達に家族を作る喜びを伝えられたのだ。だからそこに後悔なんて……。
「後悔なんて……ふふ、本当におばあちゃんになったんですね私。六〇〇と四三年。随分と、長く生きました。もしも次があるのなら……今度は自分で子供を産んで……違いますね。どんな形であれ、私は何度でも子供と共にありたい……のでしょうか」
家族と過ごす幸せ。子供と共にいる事の幸せ。
人の温もりを教え、教わり、共に歩む幸福。
私はそれを何度だって味わいたい。
子供が未来へ向かう手助けをする事が、自分の生きがいだったのだから――
身体が、魂が天に引き寄せられる感覚がする。
部屋を抜け、屋根を抜け……建物が小さくなっていく。
園の外にも人が集まっているではないですか。
大げさです。老婆が一人天寿を全うしただけだというのに、なんですかこの騒ぎは。
天へと上るのが分かる。そして――
「へぇ、じゃあ近々大金持ちじゃないのササハラ君! 是非これからも秋宮カンパニーを御贔屓にね? オーダーメイドを頼む時は私を通してくれてもいいのよ? 私が注文取った事にしたら業績アップになるから!」
「露骨に大人の汚い部分見せつけないで下さいよ引率の人間が……でもオーダーメイドかぁ……あ、でも東京で暮らすならアパートとか借りないとだし、その支度金とか……」
「よかった。落ち込んでいないか心配したんだよ? 召喚の恩恵が得られなかったみたいだから……」
「いやぁ、このバングル貰えたからそれでチャラって思う事にしたよ。これ凄い便利」
「あーそれね。確かうちで開発中の可変型抑制バングルよね? よく貰えたわねぇ……下手なウェポンデバイスより高いのよ、それ」
「うへ、マジっすか。大事にしないとなぁ」
「そういえば召喚の時にも言われていたけど、抑制って?」
「簡単に言うと魔力的な重りみたいな? 身体強化の効率を下げて、逆に発動すると疲れやすくなるんだよねこれ。トレーニングも兼ねて使ってたんだ」
「へぇ……」
「ちなみに、本来はコントロールが生まれつきできない人の為の補助具です。この子みたいな使い方は間違ってもしちゃいけません。一部のプロバトラーかオフ期間の鍛錬でやるっていうのは聞いた事あるんだけどね」
そう、なので僕も真似してみたんです。最初は魔法が使えないのも、コントロールが出来ないくらい勢いよく魔力を出しているからなのでは? って思ったんですけどね。
今では脳筋よろしく、ひたすら身体強化の練度上げの為に使ってます。
「さてと。じゃあ召喚実験も無事に終わったし、明後日には帰る事になるけど……」
「あ、じゃあ明日は自由行動になるんですかね? ちょっとこの近くの武器屋見に行きたいんですけど」
「それなんだけど……ごめんなさい、海上都市のショッピングエリアは明日だけ封鎖される事になっているのよ。このホテルの中にもウェポンデバイスショップはあるから、ダメ?」
「え……? 封鎖って、何か事件ですか?」
「ユウキ君テレビ見てないでしょ? たぶんニュースでやってると思うよ」
するとサトミさんが、部屋に備え付けのバカでかいテレビを付けニュース番組を映し出した。
ああ……この大画面で美しいグラフィックのゲームがやりたかった……。
『――からの会談が続いておりますが、関係者によりますと、議論は平行線と言われています。さて、そんな議論とは裏腹に、代表団の家族同士の交流は順調に深まっているようで、なんと明日、セリュミエルアーチ王国の第二王女ノルン・リュクスベル・ブライト様が、秋宮カンパニーの――』
「ほらこれ、明日グランディアのお姫様がお買い物するんだって。安全の為に区画全部封鎖するって昨日から言ってたよ?」
「ほほー……お姫様ともなるとそこまで厳重になるんだねぇ」
「そりゃそうよ。それに同行者は秋宮カンパニーの総帥の妹様よ。私が初日に支社に呼び出されたのもその関係って訳」
「ま た 秋 宮 か」
まぁもうそういう世界だって納得してるんですけどね。ああ、なつかしや。
小学校の頃よく使ってたっけなぁ……秋宮消しゴム。略してアキケシ。
角つかっても折れにくくて人気あったっけ。
そんな懐かしい思い出に浸りながら、この観光? の楽しみの一つであった異世界産の武器めぐりという希望が打ち砕かれた俺は、ちょっぴりガッカリしつつ、ショッピングエリア以外で商売してる場所がないか調べようと心に誓ったのだった。
「おはよーユウキ君。ほら見て見て、名前つけたんだ。ピコルって言うの。昔飼ってたインコの名前なんだけれどね?」
「インコがフェニックスに生まれ変わったとな。いや、可愛いと思います。っていうかちょっと羨ましくなってくる」
「ふふ、ごめんね? でも嬉しくってさ……どこでも一緒なんだもん」
朝起きると、既に朝食のビュッフェに出かけた明海さんの姿はなく、朝は食べない派というサトミさんだけが部屋に残っていた。
小さなフェニックスと戯れている姿は、非常に魅力的であります。微笑ましい。
なお、俺は昨日の実験の影響が多少あったのか、微妙に体調が優れないので朝食はパス。
「今日は自由行動だけど、ユウキ君どうする? 私はちょっとホテルの中の本屋さんに行こうと思っているんだけど」
「あー……俺はちょっと出てこようかな。ショッピングエリアの外にも店はあるっぽいし」
「あ、そっか。でも危ないかもしれないよ? 警戒してるって事は、警戒するだけの理由があるって事かもしれないんだし」
「うーん……でもなぁ。大丈夫、暗くなる前には戻るよ」
「そう? じゃあ気を付けてね?」
実は昨日ネットで調べてみたんです、グランディアで使われている武器について。
基本構造はこちらのウェポンデバイスと同じ。魔力で攻撃力を高め、力の込め方で殺傷能力を抑え、神経への一時的なショックを与えるとか。
勿論、これはそのまま殺傷能力に変換する事も可能だ。
地球産のもリミッターを外せば殺傷能力を高められるそうだが。
「昨日ほら、隣の列にグランディアの学生がいたでしょ? カッコいい武器呼び出していたから憧れが強くなってしまってさ」
「あー……ごめん記憶にないや」
こやつ、意外と大物なのでは。
ショッピングエリアと呼ばれるくらいだから、恐らくその一帯は店だらけなのだろう。
だが、きっと他の区画にも一件や二件くらいあるだろう……と思っていた時期が僕にもありました。ないわ。まったくないわ。ギリギリどっかの会社がガレッジセールやってるだけだったわ。
「うーん、異世界の品を扱う店か……ショッピングエリアになら何件かあったと思うけどなぁ」
「やっぱそうっすよね。すみません、色々聞いちゃって」
「いいよいいよ、こっちもいらない品処分出来たし」
で、そのガレッジセールでお買い物。筆記用具とか業務用のリュックとか結構良い物が格安で手に入りました。丈夫だし、通学用のカバンにしよ。
「あ、ちょっと君! 店を探してるって言ってたけど、質屋はどうだい? もしかしたら面白い物が流れているかもしれない。あそこは確かショッピングエリアの隣の区画だったはずだ」
「え! 本当ですか! ありがとうございます!」
「今地図データを……よし、これだ。この場所にあるから行ってみると良い」
聞いてみるもんだ。早速、教えて貰った場所へと向かう。
やはり今日一日厳戒態勢に入っている所為か、昨日までに比べて明らかに人の数が少なかった。
まぁ海上都市の外にも店は沢山あるのだし、観光客はそっちの方に流れたのだと思うが……俺はね、どうしても見てみたいの。異世界の品という物を!
そして歩く事三〇分、目的の場所に辿り着く。
細い裏路地を進んだ先という、いかにもな雰囲気のそのお店。
ドラマとかだとこういう場所にヤのつく自由業の人の事務所とか、怖い感じのお兄さんがたむろしてたりするんだと思います。
「えーとなになに? 『貴方の半身をお金にします』なんとも物騒な。臓器でも売れってか」
辿り着いたお店。そんな謳い文句の書かれた看板に引きつつも、店の扉に手をかける。
「あれ、開かない」
ガチャガチャしてもあきません。Closedの札も下がっていないのにあきません。
するとその時――扉そのものから声が聞こえてきた。
『今日は臨時休業だとよ。帰んな』
「うお!? 喋った!?」
『おう、喋るぞ。帰れ帰れ。わけー人間が買えるような品もそもそも扱ってねぇ。ワリィな』
これが異世界の品……? それとも精霊とかいうやつだろうか?
随分口が悪いというか口調が荒っぽいが……ちょっと感動。
すげぇ……ファンタジーしてる……ハリー〇ッターみたいだ!
「すげえ気になるけど、やってないなら仕方ないな。またいつか来るよ」
『おう、稼げるようになったらまた来いや。じゃあな』
路地裏の最深部にあるファンタジーな質屋……凄い浪漫あふれているじゃありませんか。
立地的にはそれこそ、ショッピングエリアの真後ろ。なにかしらの店の裏口が並ぶ通りだ。
いやぁ……買い物は出来なかったけど、良い物見れた。俺、絶対いつかあそこで買い物してやる。
そう思いながら路地を抜けようとしていたその時、唐突に真横から強い衝撃を受け吹き飛んでしまった。
「いでえ! なんだ!? おい誰だよいきなり!」
「ちっ、人がいやがったか」
扉が勢いよく開いたのだろう。めっちゃ痛い。キレそう。
「謝れよ、誰かいたら危ないって考えないのかお兄さ――」
その時、その扉を開いた男の手にウェポンデバイスが握られ、起動をし始める姿が目に映った。
っ! まさか強盗!?
すかさず距離を取り、逃げる準備をする。やべ、サトミさんの忠告に従っときゃよかった。
やっぱ今日は危ない日だったのか。
「ワリィが、ちょっと眠っててくれや」
「……強盗……だと思ったけど、お連れさん、なんかでっかい袋担いでません?」
逃げる隙を伺おうとしているうちに、扉からもう二人ほど、覆面の男が現れた。
その二人は、大きな袋を担いでいる。まるで……人間にかぶせたかのような形の。
「あー……俺も覆面かぶっときゃよかったかね。坊主、やっぱ寝るんじゃなくて死んでくれや。任務はどうでも良いが、俺の顔見られるのは予想外だったわ」
「だったら初めから覆面してくださいよ、理不尽すぎませんかね」
「そりゃごもっとも。良し分かった。記憶がぶっとぶくらいどついてやるからそれで勘弁してやる――よ!」
そいつは勘弁。お喋り好きで助かったよ人攫いさん。
バングルの抑制をすべて外し、そのラフな格好で腹筋チラ見せしてるところに拳を叩き――
「ヒュウ、なんだ坊主、お前やるねぇ?」
「な!?」
防がれていた。ウェポンデバイスではない、本物の片手剣で。
そしてもう片方の手にはウェポンデバイス。見たところボウガンのようだった。
「……お前ら、先に行っとけ。適当な場所で撤収。姫さんはまぁ……適当にな」
「姫さん? おいおいおい、まさかアンタらそれ!」
「っと、悪いな、オラァ!」
剣の薙ぎ払いと、間髪入れずのヤクザキック。
それを防ぎつつ、今度はなんとかこの路地を抜け出せないか壁を蹴る。
だが――追いつかれ、蹴り落されてしまった。
「ダメージゼロか。やるねぇお前。こりゃ俺も途中で引き上げる事になりそうだ」
「……いや、たぶんもう引き上げる事になると思うっす」
「あん?」
次の瞬間、路地の外から大きな金属音が鳴り響いてきた。
壁蹴りで逃げられなさそうだったんで、ちょっとエアコンの室外機を一つ……盛大に外にむかって投げ飛ばしてみました。
こんだけ厳重な警戒してんだ、さすがに物音に気が付いて集まって来るだろう。
……正直、こっちは素手なので戦えるとは思えません。
一方的に命の危険に晒されながら戦う覚悟もありません。
だが……好き勝手やらせるってのも癪に障るんだよ!
「隙あり!」
「どわ!?」
瞬間、今度こそ綺麗に割れた腹筋に拳を叩き込もうとするも、またまた剣で防がれてしまった。
だが――ざまぁみろ、くの字に曲げてやった。
「はぁ!? おま、お前どんだけ……くそ、今日はここまでだ。じゃあな坊主」
「ああ、早くどっか行ってください」
「追いかけねぇのか?」
「だって恐いし。それに……お兄さん最初から俺の事殺す気なかったでしょ」
「……まぁな。こんな狂言みたいな任務で、カタギの人間殺すなんざ主義に反する」
「さいですか」
そう言うと、男はまたたくまに壁を蹴り路地から消え失せた。
今から……間に合うかな。あの連れ去られた人の方には。
正直このまま逃げ出したかったんですけどね、さすがに寝ざめ悪いっていうか……もしも姫さんだったら……取り返しのつかない事になりそうで。
「……人がいないから分かりやすいな!」
前方、大きな袋を車に詰め込む二人組発見。そのまダッシュで車に飛び蹴りを食らわせる。
すると間髪入れず、先程エアコンの室外機をぶん投げたお陰で集まっていた警備の人間達が、今度はこちらへと集まって来た。
「覆面ズ出てきなさい。誘拐は失敗だと思われます」
「……」
運転席と助手席の二人が無言でうごかずにいる。なんだ、どうするつもりだ?
すると次の瞬間、俺の背後から無数の光の矢が現れ、車の前部分を完全に破壊してしまった。
「被害者を確保しろ! 反応は後ろだ!」
「発見しました! 睡眠魔法を受けている様子です!」
「了解、すぐに治癒師に回せ!」
瞬く間の逮捕劇……いや、殺したのか、犯人を。
あっという間に犯人達が跡形もなく消え、後部座席から袋を取り出す警備の人間。
……魔法、すげえ。車の爆発の危険とかそういうの一切心配しなくていいのかよ。
「君、この車を足止めしていたね? 何を知っている」
「あ! あの、違うんです! 俺、変な男に襲われて――」
たぶん、俺はあの男より、むしろ警察関係の人間に疑われるのが恐かったのだろう。
全て、事のあらましを全て洗いざらい吐き出すのだった。
取調室。まさか実際にお世話になる日が来るとは思っていませんでした。
海上都市にもしっかり警察署があり、その特殊な土地柄故に大変立派な建物でした。
そして取調室も非常に厳重で物々しく、正直今も心臓がバクンバクンです。
「確認が取れたよ。確かに君は巻き込まれた……それどころか犯人一味と交戦もしていたね」
「あ、監視カメラとかあったんですね!?」
「ああ、建物の内部にね。君、随分高く跳べるみたいだね。七階のオフィス内にあるカメラにばっちり映っていたよ。室外機を壊す瞬間もね?」
「あ……あの……器物損壊とかに……」
「いいや、あれは非常事態だった。実際、そのお陰で無事にお姫様を保護できた。君は何も悪くない。ただ、上からの指示でね、君を今すぐ帰す訳には行かないんだ」
取り調べ担当の刑事さん? それともSPか何かだろうか。立場役職不明のおじさんが、ニコニコしながらも、申し訳なさそうに話してくれた。
よ、よかった……これで前科持ちになっちゃったらもう受験どころの話じゃないじゃないですか。
「ふぅむ……君強いんだねぇ……機動隊とか、ゲート警護隊とか興味あったりしない? 専門の学校とか今願書受付中だけど」
「あはは……実はまさに受験対策で東京きてたんですよね。ごめんなさい、そっち関係の進路には進む予定ないんです」
「んーそっか。でも、いつだって良い。卒業した後だろうが転職だろうが、君みたいな子は歓迎するよ。はい、これ名刺ね」
「あ、どもっす……あ……海上都市警護部司令さんですか……」
「そ。結構偉い人。でも、そんな僕よりずっと偉い人が、君をまだ帰しちゃダメってね? ごめんよ、お腹空いていないかい? なんならテレビみたいにカツ丼取ろうか?」
あ、食べたい。ようやく体調も戻って来て、お腹空いてきたんです。
まさか本当に『お願いします』と言われるとは思っていなかったのか、面食らいながらも注文してくれる司令部長さんでした。
「あーうまぁ……衣ザクザクで程よく汁すって……卵めっちゃ味濃いしトロトロだぁ」
「美味しそうに食べるねぇ。おじさんも食べたくなってきちゃった。今夜行こうかな」
「絶対食べるべきっすよ……近所の格安チキンカツ丼弁当とは比べ物にならないっす」
「ははは、まぁねぇ。それ、接待で使う料亭で作ってるヤツだからね」
あーなるほど。そういう店もでもかつ丼ってあるんだなぁ……幸せ。
幸せを噛みしめていたその時だった、この至福の時間を中断するノック音が。
「どうぞ入ってください」
「あ、やべ、食っちゃわないと」
急ぎかっこむ。が、次の瞬間扉から現れた人物を見た瞬間、むせて呼吸が止まってしまった。
……ん、なんとかセーフ。飲み込んだぞ。
「あ、お食事中でしたか? 申し訳ありません、また時間をおいて――」
「い、いえいえいえいえ! 大丈夫です、すみませんこちらこそこんな場所でご飯なんか食べてしまって!」
現れたエのはル、昨日フ、エルフだエルフだテレビで見た姿とエルフだエルフだ変わらない、グランディアからエルフだ生エルフだ来たというお姫様ご本人だった。
思考がヤバいことになってる。直に見る生のエルフのお姫様にもう脳がもうダメ。
うっひょう本物だ! めっちゃ美人! ゲームのリアリティなんてもう掠んじゃうね!
生エルフ生エルフ生エルフ。
「貴方が、私を救うために戦ったと聞きました。是非、直にお礼を言いたくて、こうして無理を言ってしまいました。申し訳ありません。そして……」
お姫様は、その美しすぎる顔を悲し気に歪ませてしまう。
誰だ! そんな顔させてるのは! たぶん俺だ!
「本当に、本当にありがとう御座いました。本来であれば大々的に感謝状を差し上げ、褒章を授けたいところではあるのですが……今回の件は、内々で処理される事になるので、それも叶いません……ですから、何か望みがあれば、叶えられる範囲で、と」
「いえ、そんな……お礼なんていりません。ただの学生ですし……」
「いえ、ですが……」
「本当に大丈夫ですから……畏れ多くてそんな」
今望みを言ったら欲望駄々洩れしそうなんでなんも言えねぇ……。
耳触らせてとか耳触らせてとか。あ、でもせめて写真だけでも……。
「……あの、記念にツーショット写真を、っていうのはダメですかね?」
「ちょ、ユウキ君?」
「写真ですか? それだけでいいのでしたら……構いませんよ。あ、でもインターネットなる場所に載せるのはダメですよ? お友達に見せるだけに留めてくださいね?」
そう言いながら、お姫様ははにかみながらウィンクしてくれました。
まって心臓止まる。キュン死する。この先一生異性にときめく事なくなりそう。
「ふふ、では……司令部長さん、お願い出来ますか?」
「は、はい……いいんですか?」
「ええ、それが彼の望みでしたら」
「うわぁ……言っておいてなんですけど、本当にいいんですかね?」
「ええ、私にとっても良い記念になります。あ、司令部長さん、私の端末でも撮影してくださいませんか?」
「わ、わかりました」
立ち上がり、お姫様の隣へ。やばい、召喚の時の万倍緊張してる。
すると司令部長さんがスマホを構え、お約束の『はい、チーズ』の合図をした瞬間――
腕をお姫様に引かれ、腕を組む形で写真をとられてしまった。
やばい、俺今日ここで死ぬかも。
「ノルン様、さすがにそれは……」
「良いではありませんか。これで、きっと思い出に残ってくれるはずです。ユウキ様、今回の事は表沙汰にはなりません。ですが、私は今日の事を決して忘れないと誓います。ですから、ユウキ様も覚えておいてくださると嬉しいです」
「あ……はい……たぶん、これだけは忘れないと思います……」
そこから……ホテルに戻るまで、俺の記憶は飛んで行ってしまったみたいです……。
「明海さん、ユウキ君どうしちゃったんです? 戻って来てからずーっと魂抜けたみたいにフラフラ揺れてるんですけど」
「さぁねぇ……何かあったみたいだけど……」
「あー……お気になさらず……」
「明日帰るんだよ? 外でお目当てのお店が見つけられなかったら、せめてホテルの中で買い物して来た方よくないかな? お土産とか必要じゃない?」
「あー……そうだね。んじゃちょっと行ってこようかな」
お姫様、ノルン様だったか。可愛かったなぁ……眼福過ぎてこの後何か不幸でも起きるんじゃないかって不安になってしまう程ですよ。
ううむ、あれでもう三〇才越えてるとか、エルフの寿命って相当長いんだろうなぁ。
ぱっと見俺と同年代くらいにしか見えないのに。
それにしても……誘拐か。身代金目的であんな超が付くVIPを狙った割には計画がずさんすぎやしませんかね。逃走経路の人払いとか、逃げる為の足とか。そもそも三人だけってのもおかしな話だ。
「ふぅむ……一人だけ顔出してたのは用心棒だったのかね」
そういえば、あの腹筋チラ見せ兄貴も剣とクロスボウ、つまり遠距離武器だったな。
この間ホテルで手合わせしたお兄さんといい、あのスタイルって流行ってんのかね。
「あった、お土産屋だ。すみません、何かおすすめのお土産って――ほうほう、グランディアで人気のキャンディですか?」
とりあえず、適当に友達に配る為に三〇個入りの飴玉買って帰りますね?
(´・ω・`)いったいだれなんだ