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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
六章

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第七十四話

「SSの実力は……やっぱり私達とは違うわね……」

「本来、選ばれた生徒だけが入れるクラスなんだもん。Sクラスがこれまではそういう役割を持っていたと思うと……」

「……実際、Sだけじゃない。俺達のクラスにも……明らかに軽い気持ちで通っていた人間はいたからな……」


 女子四人の試験が終わる頃には、会場の反応はどこか神妙な物になっていた。

 隔絶した強さを目の当たりにし、打ちひしがれる人間も少なくはなかった。

 だが……たぶん、これこその理事長の本当の狙いだったのかもしれない。

 だからこそ、二年、三年に覚悟のない生徒が一人も残っていないのだろう。これまで、俺達のように実力を見せつけてきた生徒がいたのだろう。


「さ、次は男子ね。ふふ、四人共期待してるからね」

「男子最初は俺か。へへ、とりあえずコイツのお披露目だな」


 そう言うと、アラリエルはいつもは使っていない『ライフルタイプのデバイス』を取り出した。

 なんというか……デバイスというよりも実銃チックな見た目をしている。


「マジでスナイパーになったん?」

「ああ、少し前にな、キョウコとデバイス制作の実験? みたいなのに付き合って俺用に開発してもらったんだよ。これなら俺の魔力にも魔法にも対応してくれる」

「少し前の短期休暇であったでしょう? ユウキ君が参加しなかった催しの」

「ああ、そういや俺、ハワイの現場検証に行ってたんだっけ」


 という事になっているが、実際にはオーストラリアにいました。


「んじゃま……サクッと終わらせてくるか」


 やべぇ、ライフルかっけぇ。俺刀も好きだけど、ああいうでかい銃も好きなんだよな。

 地元の祭りだと、未だにエアガンやらモデルガンのクジとかやってるし。当たった事ないけど。



『では、アラリエル君の試験を開始します』


 試験開始と同時に、アラリエルがよく使う、黒い黒曜石のように艶めく物体で出来た壁がマシンの前に聳え立つ。

 だが、強度はあっても衝撃には弱いのか、強く殴られ、大きな音をさせ砕け散ってしまう。

 が、その破片がそのまま宙を漂い、そのままマシンにまとわりつくように飛び回り始めた。

 それに、目を奪われてしまった。気が付くと、フィールドのどこにもアラリエルの姿がない。


「あれだけでもう結構痛い砂嵐みたいな感じだな。アラリエルどこいった?」

「ユウキ君、上だよ上。屋根の上に移動してる。凄いね、空中での姿勢制御ならたぶん、僕よりも上手だよ、彼」


 カナメに言われ、スタジアムのひさし部分を見ると、デバイスを構えたアラリエルがいた。

 そのまま、発射された黒い光の弾が、渦巻く黒い破片にぶつかり、何度も跳弾しながらマシンの体表を削り取っていく。

 破片が弾の衝撃で更に砕け散る。渦巻く破片が、まるで本物の砂のように細かくなりながら、跳弾が何度も何度もマシンを削り取り、砂と化した黒い欠片がさらにヤスリのようにその傷を広げる。

 ようやくスタジアムにアラリエルが戻ると、マシンは既に外装をすべて失い、骨格だけの状態になり崩れ落ちていた。


「終了。ま、生き物相手に使ったらどうなるかはご想像にお任せするぜ?」

『試験終了。貴方も壊しますか……』

「悪いな理事長サン」


 ううむ……遠距離からでも発動出来る技なのかあれ……ちょっと敵にすると厄介だなぁ……逃げるしか対処出来ないんじゃないか? アラリエルを見つけられないと。


「お疲れ、アラリエル。すげぇな、あんなに魔法使いこなせんのか」

「仮にも魔導師だっつぅの。ま、今回は見た目ほど魔力は使ってねぇよ」

「凄いね、アラリエル。見直しちゃった」

「けけ、同じ魔導主体でもお前程派手じゃねぇけどな」

「ふふ、でも一番視覚的なインパクトはありましたよ?」


 確かに……というか残酷な絵面しか想像出来ないのだが、生き物相手だと。


「よ、よし! 俺の番だな!」

「おう、行ってこい! 凄いの期待してるぞカイ」

「ふふ、夏休み中に得た力。どこまで使いこなせるようになったのか、今一度見せて貰おうか」

「ああ……ユキさんとの戦いで俺も学んだ。速いだけじゃダメなんだ。アラリエルが今見せたみたいに……三次元的な動きを磨いたんだ」


 そう言いえながらフィールドへ向かうカイ。確かに俺、ユキとして戦った時は、リミッターなしなのを良い事に無茶な動きをしまくったよな。



『柳瀬カイ君の試験を開始します』


 文化祭での一戦で、カイは既に全生徒から注目されている。当然、期待も大きい中、初動からアイツは周囲を魅了するかのような動きを見せた。

 高速。いや光速。雷光を纏う超速度で、開始と同時にマシンに一撃をお見舞いし、空中に打ち上げたのだ。

 それだけじゃない。打ち上げ続けている。何度も、空中で打ち上げているにもかかわらず、高度を落とさずに幾度も雷光と共に空中へ舞い上がっていくのだった。

 差し詰め、雷を纏う龍が天へと昇るように。


「うっへぇ……マジで奥義じゃん……」


 天空高くへとマシンを打ち上げ続け、そして最後に……落雷と共にマシンを地面に叩きつけたのだった。

 空中放電すら起こすエネルギーが周囲を満たし、落下地点にはクレーターと焼け焦げた跡が残されていた。

 見栄えも破壊力も一流。ここにきて……俺以外にも『ゲームだったらなんか難しい条件満たさないと発動出来ないような技』みたいなのを使うとは、恐れ入った。


「理事長、壊しました!」

『だからどうして破壊報告なんですか……見事でした、カイ君』


 ここまでで一番のインパクトに会場が静まり返る。

 そう、あれでここにいる全員と同い年なんだ。もう張り合おうと、下手にからもうとする意志は消えるよな……Sクラスの連中が固まる観客席ではもう、完全に魂が抜けている様子だ。


「ふぅ……ただいま。どうだった? かなりイケてたんじゃないか?」

「ふふ、ああ。しかし派手が過ぎるぞ。だが間違いなく、周囲の期待を大きく上回っただろうな」

「だろだろ!? どうだユウキ、俺の技は!」

「いやー正直かなり驚いたわ。インパクトだけなら俺より上かも」

「インパクトだけって……ふふ、だが今は終わった身としての余裕があるからな。失敗すんなよ、ユウキ」

「ま、次は僕なんだけどね。どうしよう、僕って魔法苦手だし、地味になっちゃうかなー」


 いやいやいや……お前その地味とか言う以前に、肉体強化だけでこっちの魔導全部打ち破ったじゃないですか……地味になるわけがない。



『次は吉田カナメ君です。では、始めてくださ――』


 言い終えるや否や、フィールドからカナメがいなくなっていた。

 俺だけは分かる。アイツの武器の力で、驚異的な瞬発力で三次元移動が出来るんだ。

 空中で何度も自分の武器を固定させ、それをうんていのようにして掴み、跳び、さらに高度を稼いでいく。

 セリアさんの技にと似ているだろう。高所から一撃をお見舞いするという点においては。

 だが速度と破壊力が――桁違いなのだ。

 リョウカさんの『始めてください』の最後の発音が聞こえた瞬間にはもう、高所からの最大の一撃が振り下ろされていた。

 クレーターどころか地面にひびが入る。次に試験を受ける俺が困ってしまう程の。

 マシンは砕けるを通り越し、まるで砂利のように粉砕されあたりにちらばっている。

 セリアさんが範囲なら……カナメは単体への破壊力を極めた一撃だ。

 まぁ余波だけで周囲もダメージを受けそうだが。


「理事長先生、マシンとフィールド壊しちゃいました」

『……おかしいですね……おかしいですね……もう酷使が続いて結界がダメになっていたのでしょうか……すみません、さすがにここまで壊れると競技場の修復が必要です。今再生術式で治しますので、一時間程インターバルを設けたいと思います』


 ぎゃー! なんでそういうの挟むの! 流れで終わらせてくれよ俺も!


「ただいま。やっぱり地味になっちゃったね」

「どこがだよ! フィールドぶっ壊しといてその言い草はないだろ!」

「……凄まじいな。これが……私達と対人戦を全力でさせてもらえない理由か」

「うーん……ちょっと違うと思うよ。武器の所為だと思う。ただ、今回はしっかり申請も出していたからね、全力を出せたんだ」

「……ちなみにカイ、俺少し前にカナメにガチで負けたから、俺」

「……マジでか!? くっそー……まさかカナメがここまで強かったなんて……破壊力だけで見たら間違いなく俺以上だろこれ……」

「うーん、でもどうせ、ユウキ君ならあの一戦からすぐに対抗策くらい思いついてるでしょ?」

「まぁうん。んじゃ修繕が済むまで、少し精神集中でもしてくるかな」


 一応、大量に魔力使うんで。


「ふむ、君がそんな事をするとは珍しいな。……ふふ、ならば控室は君が使うと良い。私達は少し修繕を手伝ってくる」

「うん、悪いねみんな。なんでトリの上にインターバルありなんだよ本当……無駄に緊張するじゃん絶対」

「ごめんね? でもいいじゃないか、これでより一層注目されるよ」

「だから嫌だって言ってるんだろうが!」


 カナメは天然なフリしたドSなんじゃないかって近頃思うようになりました。








 フィールドが術式の力で修復されている中、消費される魔力の補填の手伝いを買って出ていたクラスメイト達が、この後に控えているユウキの技について語っていた。


「しかし、集中したいと彼が言い出すとは思わなかった。どんな技なのか想像も出来ないな」

「コウネはどんな技か想像出来てるんじゃないのか? 一応少しだけ開発に協力したんだろ?」

「うーん……協力というかなんというか……事故現場に遭遇した?」

「あ、私も少し心当たりあるよ。なんか紋章術に関係してるっぽい」

「へぇ、アイツ魔導主体でやるのかよ?」

「どうだろう? 彼の事だから、僕にリベンジする事も考えて技を作ったんじゃないかな? 不慣れな魔導で僕に勝てるとは彼も思っていなさそうだけど」

「俺は……出来ればユウキには剣の技を使って貰いたいな」

「ふふ、心情的には私もそうだな。彼がどんな剣術を生み出すのか、楽しみだ」

「まったく……これはあくまで彼の技なのですよ? どんな物でも私達が関与すべきではありませんでしょう。まぁ……確かにある程度の派手さを求めてしまうのは否めませんが」


 そんな話をクラスメイトがしている中、観客席にいる他の生徒達は、やはりSSクラスというのがただのお飾りや権力、コネでは到達できない場所なのだと、改めて思い知らされていた。

 中でも、決して優遇されている立場ではない下位クラスの人間は、憧憬にも似た念を抱いていたが、同時にそれが『決して自分達では近づけない高み』という事実を突きつけられていたようで、どこかあきらめにも似た思いを抱かせていた。

 だが……そんな思いをも、乗り越えろと。それでも足掻き続け、一流に至るのだ、という思いを抱いて欲しいと、理事長を始めとした教員たちは思っていた。

 だが――


「化け物が……あんな連中、学園に通う必要ないだろ。俺達のやる気を減らすだけだっつーの」

「適当に流すだけでもまぁ、合格出来そうだから良いけどな、俺達は」

「下級の連中が作った技をそのまま更に上手く真似りゃあ、選ばれるのは俺達だからな」


 少なくないのだ。SS程ではないにしろ、才能溢れる人間達がこの期に及びまだ慢心しているというは。無論――そういった生徒を見逃すリョウカではないのだが。

 評価を下す為、全員に支給された端末。その中には、高性能の盗聴機能も仕込まれていた。

 非人道的だが、そこまでする。秋宮リョウカという人間は、自分が自治を任され、権力を振るう事が許された『学園』という世界の中では、どこまでも冷酷になれるのだ。

 言うまでもなく、この会話を聞かれた生徒達は、この後退学処分となる。

 徹底的に浄化する。それこそが、この学園の二年、三年に進級させる為に行われている試験の正体だったのだ。

 実力とは……戦闘能力だけにあらず。用心深さ、思慮深さ、それら全てを兼ね備え、常在戦場の考えを持つ者だけが、初めて評価に値すると考えての事だった。


 やがて……戦闘場の修繕が終わり、最後の試験がまもなく行われるというアナウンスが流れる。


「いよいよ……ササハラユウキの試験が始まるな。噂じゃ、柳瀬に負けたって聞いたけど」

「仕方ねぇよ……文化祭の時だって、それにさっきの試験だって、とんでもない強さだったじゃないか」

「まぁ、結局身体能力の強化だけなんじゃないか? 俺、アイツと同じ魔力応用学の研究室に通ってるんだけどな、確かにヤナセより強かったが、それはあくまで肉弾戦オンリーの結果だったからな。さすがに全部ありだと……勝てないんだろ」


 人の口に戸は立てられない。既にユウキの敗北は噂として語られている。

 だが、彼が活躍したという事実もまた、生徒の記憶に新しい。故に知りたいのだ。

 最強のSSクラスに配属され一目置かれている、あの少年にも見える生徒が、どんな技を見せてくれるのか。

 それは、教員たちも同じ思いだった。


「ユウキは……少なくとも実習で誰よりも活躍している。私は正直恐いよ、アイツがどれほどの技を見せて『しまう』のかが」

「ふむ……まぁ確かにササハラユウキは強い。あのカナメをして、この試験に先駆けて技を使わせられたのだから。対人の経験は明らかにカナメが上。それでもなお、対等以上に戦っている。……リミッターをかけた状態でな」


 彼を間近で見てきた教員たちは、既に分かり切ってる。ユウキが学園の中で全力を出していない事くらいは。

 そしてそれを課しているリョウカ自体、うっすらと思っていたのだ。

『自分のリミッターの影響下においてなお、彼は他の生徒を置いて行くほどの技を生み出したのではないか』と。

 そして――


『これより最後の試験、佐々原ユウキ君の試験を開始します』


 ユウキがフィールドに現れる。さもすれば、この会場の中でもっとも背の低い、女子ですら思わず『可愛い』と感想を抱いてしまうような、どこかあどけない表情の生徒。

 自慢のデバイスを腰に下げ、彼と比べるとあまりに大きなマシンの前の前に立つ。

 そして――次の瞬間の光景に、一同が目を疑う。

 ユウキが、ユウキと同じシルエットを持つ半透明の幻影が、マシンを取り囲むように二体、本人を含めて、三方向にユウキがいる形となったのだ。

 その刹那、三人が同時にフィールドを縦横無尽に駆け出し、僅か一秒にも満たない間に、フィールド全てを利用して、巨大な紋章を描き、そのままその紋章魔導を発動してみせたのだ。

 最高クラスの魔導を使い、実用不可能とされていた失われた古代の紋章魔導をも実用に至らせる。

 その魔導の効果は――封縛。範囲内の存在を全て圧縮された風の中に閉じ込め、猛烈な暴風の中に捕え、身動きをとらせなくしてしまう、回避も離脱も不可能の魔導。

 だが、それでは終わらない。分身を維持したまま、ユウキは抜刀と共に魔導を放つ。

 同時に七つまで発動させられる『風絶』。圧縮された空気の斬撃の群れを『三人のユウキが7つずつ放つ』のだ。

 風の中に囚われ、空中に浮いたまま何もできないマシンの周囲に、二一もの風の斬撃空間を生み出され、それらが同時に、まるで吸い寄せられるかの様にマシンに殺到。

 その瞬間……もはや斬撃音でも、連続する音でもない、ただ『キン』という鋭く響く音がした瞬間――戦闘場全体に、微粒な粒子、砂よりも細かい塵のような物が降り注いだのであった。

 ……マシンの、慣れの果て。粉塵と化す程の破壊力。そして何よりも――この結果を生み出すまでの所要時間、二秒以下。一般の生徒からすると、開始とほぼ同時に何かが降り注いだとしか認識できないのであった。

 無論、一般の生徒ではない者には、その動きが僅かにだが見えていたのだが――








 やべえ魔力すっからかん。急いでポケットの中から小瓶を取り出し、中身の『三倍濃縮イクシア印の魔剤』を飲み干し回復する。

 ふぅ……成功。やっぱりとどめの一撃を派手にしすぎただろうか。オーバーキルが過ぎる。

 でも、やっぱりインパクト的にあれは必要だと思うんですよね。

 フィールドに刻まれた、無数の深い切り傷が、こちらの技の威力を物語る。

 これなら、間違いなく合格だろうな、という満足感と共に、ベンチへと戻るのだった。


「どやぁ……俺の最終奥義の出来は」


 魔導師組の反応が宜しくない。無言でこちらを見つめるのみだった。


「ロストマジック……分け身を習得したのは分かっていましたけど……二人まで増やせたんですね、あれ」

「ユウキ! あれ魔導! 紋章魔導の『アトモス』だよ!? 紋章じゃ再現不可能だから……マジックアイテムで再現する事がなんとか可能な魔導兵器……なんで、なんでそんな事……出来るの……?」

「へ、さすがにやべぇぞそれ。お前、危険人物に指定されるぜこれ」

「うっそマジで……? もしかしてグランディア的にこれ不味いの?」

「ササハラ君の技のすさまじさは……恐らく今回の試験課題、標的では伝わりにくいのかもしれないが……単独で触媒なしで発動出来る技としての規模を大きく逸脱している。恐らく、相手があの動きの鈍いマシンではなくても、同様の効果を出すだろう」

「すげぇ……すげぇよユウキ……あんなのどうすりゃ耐えられるんだよ、避けられるんだよ……」

「まさかあれ、僕にリベンジで使うつもりとか言わないよね? あんなの喰らったらダメージの肩代わりなんて無意味だよ。一瞬でピンクのスライムシャワーだよ」


 ……ごめん、途中から俺もそうなりそうだなって思いながら開発してました。

 けど、危険人物指定っていうのはちょっと……マジで?

 未だざわめきが収まらない中、俺達は一先ず迎えに来たジェン先生に連れられて、自分達の教室に戻されたのであった。




「えー……まぁ結果が出るのは明日なんだが、もう言うまでもなく、お前達は全員合格だ。まぁ端っから落ちる人間なんていないと思っていたがな。だがなぁ……ユウキ、お前はこの後理事長室に来るように! あれは使っちゃダメだろう……っていうか使えちゃダメだろ……」


 教室に戻って第一声で合格を言い渡されて喜ぶみんなだが、俺だけはやっぱりこうなりました。

 えー……ダメなのかやっぱり。いやでも……一応誰でも見られる本に書いてあった物を再現、組み合わせた結果だし、正直悪いことをしたという気は一切ありません!


「正直、ユウキ以外の全員もある意味ギリギリだぞ。一個人、それもどこかに雇われている訳じゃない生徒の使う技としては性能が高すぎる。まぁ……そういう人間だからこのクラスに集められたんだけどな。お前達がその技で悪事を働かない事を願っているぞ」

「ふふ、安心してください。誰かが道を誤れば……私達全員でそれを正して見せます」

「けけ、全員一緒に道を踏み外したらどうするんだ、ミコト」

「ふむ、その時はきっと、私達が正しかったのだろう」

「まったく……じゃあ、今日はこれで解散だ。一応、合否の判定を正式に明日発表するから、ちゃんと出席するように。その後は……ちょっと早いが、補修の無い者は冬休みだ。今回は三月末までの中々長い休暇だが、くれぐれも羽目を外さないようにな」


 なんだか休みが多いような気もする……が、来年からはそうも言っていられないんだろうな……それこそ研修でグランディアに長く滞在する関係で、座学の方の単位が足りない、なんてことになりかねない。一気に休暇が少なくなる見通しなのだとか。


「来年からは研修内容も変わって来るが、同時にそれぞれの進路に向けて教育も変わって来る。今のうちから、キチンと自分の将来を考えておくように。お前達は来年から先輩だ。新入生の模範になる事を心掛けるんだぞ」

「へいへい。まぁ精々舎弟でも増やす事に専念すっかな」

「アラリエル……」


 和やかなムードのまま解散となるが、俺だけはそうは問屋が卸さない。いつも通り、理事長室に連行されるのであった。

 しかも……今回はジェン先生も同席だ。


「……ユウキ君、やってくれましたね……失われて久しい、今では過去のアーティファクトでしか再現不可能とされていた紋章魔導を単独で再現、発動してしまうとは……それにあの分け身の術は、そもそもが難易度が高すぎる魔導です。それらを組み合わせ、あまつさえあのような魔導まで……いいですか、この技は正式に地球、グランディアの両政府に報告、禁術として登録します。無断使用の出来ない物とする事を肝に銘じてください」

「ええ!? そこまでなんですか!? だって俺……魔導書に載ってたのを組み合わせただけなんですよ?」

「……そもそも、再現出来ない、資料的な価値しかなかったはずのモノなんです。具体例を出すのなら……原理だけなら調べればわかる物を組み合わせ、恐ろしい兵器を自宅で作り出してしまったのと同じ状況です。もっと分かりやすく言いましょう……個人が原爆を作って、平気だと思いますか?」

「アウトですね」


 すげぁ分かりやすい。そりゃアウトだわ。逮捕されてしかるべきだわ。

 うそぉ……俺そんなの作っちゃったのかよ……。


「なぁユウキ……それにリョウカさん。ユウキはこれから大丈夫なんですか? この件、遠からずグランディア側にも知られますよ、あんな大勢の前で使ったんですから」

「そうですね。ですから、咎められる前に自分からグランディア側に報告に行って下さい、貴方自身が。幸い、元々休暇中に向こうに行く予定でしたよね?」

「う……そうでした」

「そうなのか? なら、私も同席して……」

「いえ、今回は事が事です、私が付き添います。どの道、来年度からの実習の件で、向こうの人間にも挨拶に伺う予定でしたから」

「そうでしたか……」


 なんか……段々コウネさんの婚約異議申し立てだけじゃなくて、もっと面倒な事が次々と押し寄せてきたような気がするんですが……。


「では、明日また詳細について説明するので、コウネさん共々理事長室に来るように」

「了解です。って、コウネさんもですか?」

「理事長、なぜコウネも?」

「ああ、そういえばジェン先生は事情を知らないのでしたね。ほら、コウネさんの退学について、一時保留と本人から連絡が来ていたはずですが……その関係ですよ」

「なるほど……ユウキ、コウネが辞める事を知っていたのか」

「逆に先生が黙ってた事にちょっと腹立ってます」

「まぁ、本人の希望だったからな。しかし保留とユウキに関係はあるとは……」

「ふふ、まぁその辺りは生徒のプライバシー、という事で」

「了解です。じゃあ、ユウキ。正式にお前の技は禁術として登録する事になるから、登録用の名前、考えておくように」


 え、名前? それ俺決めちゃっていいの? すっごい中二ネームでもいいんですか?


「一応後々まで残る記録ですから、しっかりと考えた名前にしてくださいね。私のおすすめは『ぶぅぶぅブレス』ですかね。豚ちゃんの吐息が全てを切り裂き薙ぎ払う……なんと厳かな響きでしょうか……」

「理事長たまに頭おかしいって言われたりしませんか?」


 しまったつい本音が。


「……中々言いますね。とにかく、しっかりとこの件は家の人間と相談するように。分かりましたか? では今日はここまでです」


 いやぁ……調子に乗り過ぎた結果ですよねこれ……奥義習得にはリスクが伴うのはお約束だけど、おかしいなぁ……こんなはずじゃなかったのに。


(´・ω・`)これにて六章は終わりです

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