第七十二話
「……フッ!」
覚えた呪文とそれにこめられた意味を脳内で何度も反復し、そして自分の踏み込みと抜刀と共に発動をイメージする。
すると、空いた畑の地面に、今俺が駆け抜けた通りに直線が引かれていた。
だが……分身的な何かは現れてはくれていないようだった。
「やっぱダメかー……最近ゲームの画面とかそういう記憶も薄れて来てるからかねー……いや、そもそもこれ難易度くっそ高い魔導なんだっけ……」
魔導書をコウネさんとイクシアさんに解説してもらった翌日、俺は学園で講義を終えるとすぐ、自宅の畑に戻ってきていた。
いよいよ俺だけのミスティックアーツを完成させる為、まずはこの分身もどきを習得したいのだ。
「お疲れ様です、ユウキ。調子はどうですか?」
「あ、イクシアさん。畑の手入れならお手伝いしますよ」
「いえ、様子を見に来たんです。例の風による分身“分け身風”の練習ですか」
「ワケミカゼ……そういう名前なんですか?」
「昨日はコウネさんが居たので黙っていたのですが、あの魔導書の内容に少し心当たりがあったので。その魔導、私なら使えますが、本当に覚える気ですか? 注目を集めますよ?」
「ええ!? 使えるんですかこれ!? というかそもそも俺の技は端っから注目されてるんで……今更ですよ」
イクシアさん万能すぎでは。いや、そもそも飛行機から生身で滑空とか平気で言っちゃう人だったな……。
「魔力の高まりを身体の中で感じてください……。これは、これまでの魔導とは難易度がまったくの別物ですからね。魔力を全身に行き渡らせるのです。まるで、自分の中に自分と同じ形の魔力の塊を生み出すように」
「お、おお……そこまで集中する必要があったんですね……」
「……この魔導の考案者は……あの魔導書の著者でしょう。恐らく、常軌を逸したレベルの天才だったと思います。私も少しあの本を読みましたが……私でも辿り着けそうにない理論が幾つも書かれていましたから」
まじでか! イクシアさんクラスでも無理とか、あの魔導書っていつ書かれたものなんだ。
「意識を、身体を動かすのと同時に飛ばす。それが発動のイメージです。では……いきます!」
その瞬間、イクシアさんが空いた畑の中を疾走し、土が巻き上がり軌跡となる。
だが驚いた事に、同じ速度、同じ規模の軌跡が別な方向にも生まれていた。
そだれだけじゃない、走るイクシアさんと同じフォームの、緑の透き通った人型も走り抜けていたのだ。
魔力の光が……人の姿に!?
「っ! ふぅ……これ、止まるのが難しいですね。実際に自分以外が使うのを見た事がない魔法なのでちょっと制御が難しいのですが、どうでしたか?」
「お、おかえりなさい……イクシアさんかっこよくてどうにかなりそうです……」
「そ、そうですか? かっこよかったですか? ……ふふ、そうですか」
あ、凄い照れてる。耳がピコピコ動いてるし頬が少し染まった。
「イクシアさん、魔法の最中に剣を振ったりとか、出来そうですかね?」
「可能ですね。発動した段階である程度は制御も楽になりますから。恐らく他の魔法を使う事だってできますよ。見ていてくださいね」
嬉しくて気分が乗ったのか、ちょっとウキウキした様子でもう一度見せてくれるイクシアさん。
集中している彼女が、走り出す前に小さくなにかを呟き、腕を振るう。
すると、一度だけ見せたことのある、青い炎を剣の形に放出する魔法を使い、そのまま先程の分身を見せてくれた。
猛烈な速度と熱が、畑に焦げた直線を描く。そして驚いた事に、分身の方にも、確かに焼け焦げた跡がしるされていた。
「あっちにも炎が!?」
「上手くいきましたね。魔法で生まれた分身である以上、同じく魔法であるこちらの魔法も再現出来るんです。きっと剣を使っても、同じように切り裂いてくれるはずですよ」
「なるほど……」
「ふふ、同時に攻撃する魔法にするつもりですか? 攪乱にもなりますし、ただ風で切るよりも広範囲、大人数を攻撃出来ます。私はそれで良いと思いますよ」
「あ、なるほどそういう見方も……」
実は、そうじゃない。俺はそういう事の為にこの魔法を習得しようとしている訳じゃないのだ。
それにしても……イクシアさんのその魔法、かっこいいなぁ……。
「イクシアさんのその魔法って、俺じゃ使えませんよね」
「そうですね……ユウキでは炎を放出出来ませんし、紋章にしてまでこの小さい規模の魔法を使うのは効率も悪いですから……」
「じゃ、じゃあ風で再現は……?」
「出来ると思いますが、切り裂く事に特化させるのなら、デバイスで攻撃した方が良いと思います。どちらかというとデバイスを補助する魔法ですね、習得するとしたら」
「あ、なるほど。ところでその魔法、なんていう魔法なんですか?」
俺には使えないことが分かったが、イクシアさんの得意魔法のようだし聞いておきたい。
すると、無邪気に聞いたつもりだったのか、イクシアさんは少し迷った風の素振りを見せる。
「……名前は“ウルトリクスイグニス”と言います。あまり、良い意味の言葉ではありませんけれど」
「ふむふむ……」
ぐぐりぐぐり。あ、ラテン語かこれ。意味は……復讐の炎なのか……?
ちょっとイクシアさんのキャラからは想像もつかない名前なんですがそれは……。
「若いころ、私も色々してしまったものです。若気の至り、という物ですね」
「な、なるほど……」
詳しく聞かないでおきましょう……なんか恐い。
イクシアさんが戻った後も、ひたすら彼女に聞いたコツを頼りに練習していると、かすかにだが、俺が奔った場所とは違う場所に、刀で切り裂いたような跡が地面に残されていた。
まさか、少し出てた? これ、自分じゃ成功したかどうか見られないのが難点だな。
「けど……実際にイクシアさんが見せてくれたのは大きい……似たようなゲームの技も鮮明に思い出せたぞ……これなら、いけるはずだ」
翌日、俺は紋章学の講義が終わった後、教室に残りひたすらノートに紋章を描く練習をしていた。
「ユウキ、それって“名無しの賢者”の紋章術だよね? ただのボールペンで書いてるの?」
「専用のペンだと書いてる途中に別なのが発動して消えちゃうんだよね、これ。だから練習中」
「……ユウキ、ごめんね。それうまく描けてもノート程度の大きさじゃ発動しないんだ」
「はは、それも知ってるよ。ちょっとね、試したい事があるんだ」
「そっか。……さてはユウキの技開発だね? うーん、今から楽しみ」
セリアさんも言うように、この練習はあくまで形と書き順を身体に染み込ませるための物。うまくいっても発動なんてしないと分かっている。
けど、これはしっかり頭に叩き込まないと、俺が考えている技は完成しないのだ。
そして今日も、ミカちゃんの研究室に顔を出せない事を謝罪して、自宅の畑に戻り訓練に入るのであった。
「ユウキ、今日の御夕飯の買い物に行くのですが、一緒に行きますか?」
「あ、ごめんなさいイクシアさん、今日はちょっと訓練に集中します」
「そうですか。あまり無理はしないでくださいね、では何か食べたい物はありますか?」
「そうですねぇ……サンマ、サンマが食べたいです! 調理法は特に決めませんので」
「あの細長いお魚ですね。分かりました、いってきます」
畑に残るユウキに少し寂しさを感じながら、裏の町にある『ぶぅぶぅバリュ』に向かう。
そうですよね、進級できるかどうかの試験ですからね、あまり私が邪魔をしてはいけません。
……終わったら、一緒にグランディアに行けるのですし、その時に今日の分を取り戻しましょう。
「魔導に興味を持ってくれたのは嬉しいですが……大丈夫なのでしょうかね……」
彼に教えた魔導は、恐らく私の生前、神話の時代に生まれた高難易度の魔導。まだまだ初心者のユウキには、たとえ発動出来ても細やかな調整はまだ無理でしょう。
それこそ、私が使うところを何度も見て、ようやくコツを掴める程度。私ですら、あの魔導はそう易々と扱える物ではありませんから。
「良いお手本になれるような人、映像でもあれば別ですが……そんなもの存在しませんし」
古の時代なら、恐ろしい程の魔導、技を操る人間が何人かいたと、私は知っています。
そういう人物の動きでも見ていたら、きっと変わっていたのでしょうが……。
「おや……コウネさん、コウネさんではありませんか」
「あ、ユウキ君のお母さん!」
スーパーに向かう途中、ユウキのクラスメイトであり、私のお料理友達でもあるコウネさんと行き会いました。
どうやら、不動産屋さんの掲示板を熱心に眺めていたようですが……本当にコウネさんなら一緒に住んでも良いと思っているのですけど……。
彼女は、今回の一件でユウキの婚約者……という嘘をご両親につくといいます。
お互い憎からず思っているのでしょうが……コウネさんがユウキに向けている愛情は、どちらかというと私と同じ、どこか息子や弟、家族に向けているそれと似ているように感じました。
そして私は『お母さん』という呼び方に内心喜びながら、彼女と対応する。
「お買い物ですか? 良ければ一緒にいきませんか?」
「ええ、勿論。コウネさんは空き家を探していたのですか?」
「はい、そうなんです。予算の方は問題ないのですが……キッチン周りを改装する為に、色々条件があるので……次の休みに直接案内してもらって中を確認してみます」
「そうなんですか。ユウキはああ言っていましたけど、本当に家に住んでも良いのですよ?」
「あ、ダメですよお母さん。ユウキ君も言っていた通り、間違いが起きたらどうするんです? ユウキ君だって可愛いですけど、しっかり男の子なんですから」
「ふふ、そうですね」
そう笑い合いながらスーパーに向かい、今晩もうちにご飯を食べに来るように誘うと、嬉しそうに来てくれる事になりました。これはセリアさんもうかうかしていられませんね。
……まぁ勝手に私が想像しているだけの妄想なのですけれど。
ふふ、ユウキは学園の誰かと結ばれるのか、それとも他の誰かと結ばれるのか、今から気になってしまいます。親として少し寂しいのですけれどね。
「そういえば今日はユウキ君、お留守番ですか?」
「ええ、やはり進級の為に新しい技を開発するのに集中しているらしくて」
「そうなんですね……前に私が教えに来た時の魔導、あの風の魔導で切り裂く技、あれで十分だと私は思うんですけど……もっと上を目指しているんですね」
「そうみたいです。魔導書にあった魔法も再現を試みていますし、一体どうなることやら。コウネさんの方は調子どうですか?」
「そうですねぇ……私は幾つか技のストックがあるので、それを組み合わせて何か作ろうかと」
「魔法剣士としてはコウネさんはユウキの先輩ですからね。さすがです」
「いえいえ、それほどでもありませんよ」
実際、彼女はただの人間です。寿命も平均的なヒューマンと同じか、少し長い程度でしょう。
なのに、この年齢であそこまで完成されているのは『流石シェザード家の人間』という事なのかもしれませんね。
遺伝、血統は絶対ではありません。ですが絶無、無関係でもありません。
間違いなく……彼女は血の才を受け継ぎ、それでもなお努力を積み重ねる人でしょう。
いつも楽しそうなのは、もしかしたらそれこそが才能なのかもしれません。努力を楽しいと感じられる人間……。
「本当、地球の大型スーパーは楽しいですね! こんなにたくさん商品を手に取って見られるのはグランディアだと中々ありませんから!」
「そ、そうですね」
あ、少しはあるのですね。私の時代とはやはり違うみたいです。
そうして一緒にユウキリクエストのサンマを買い、二人で店頭のモニタに映る料理動画を眺めて、今夜の献立はどうしようかと語り合う。……楽しいです、凄く。やっぱちうちの子になりませんか? それでユウキと結婚して……結婚して……?
少しモヤっとしますね、これが親の気持ちなのでしょうか。
「そういえば知っていますか? ここのスーパー、駐車場によく美味しいバームクーヘン屋が来るらしいですよ。ほら、そのスペースです」
「ああ、それならよく買いますよ。先週もここで新作のマロン味を買いました」
「え! それ雑誌で取り上げられていたんですよね、羨ましいですー。今度は私も並ばないとですね」
「ふふ、では今度買えたらコウネさんにもご連絡しますね」
「本当ですか!? じゃあ、私はお土産にお勧めの紅茶葉をお持ちしますね」
そうして、家に向かう裏山の道に入ったその時でした。突然、大気中の魔力、その元となる魔素が急激に震え出し、その濃度を低くしました。
恐らく高位の魔導師でしか気が付けない異常。それをコウネさんも感じ取ったのか、私と顔を見合わせる。
「お母さん、なにか変です……これ」
「っ! まさか!」
まさか、ユウキに何かあったのでは!? 私は急ぎ山道を駆け出し、我が家の畑に辿りつく。
するとそこでは、ユウキが大の字にあおむけで倒れていました。
「ユウキ! ユウキ、どうしたのですか!」
あおむけで、虚ろな様子で空を見上げているユウキに話しかけても、小さくなにかを呟くだけ。
どうしたのです……体内の魔力がほぼ尽きているではありませんか……!
「はは……出来ちゃった……精度はまだまだだけど……」
「ユウキ、どうしたんですユウキ。待っていてください、今家から回復薬を持ってきますからね」
「あの、ユウキ君のお母さん、あれ……」
すると、何かに気を取られていた様子のコウネさんが、畑を指さして声を震わせていました。
そこには……巨大な紋章が幾つも描かれ……いえ、描き損じた紋章が幾つも幾つも上書きされた跡が残されていました。
それも……たしかに発動した形跡もそこにはあります。まさか……この子は……。
「ユウキ、このまま寝ていてください。コウネさん、ユウキの事を見ていてくださいね」
この子は……なんて大それた事をしたのですか……そんな事、どうして思いつけるのですか……!
うーむ参った。魔力切れってここまで身体が動かなくなるもんなのか。
畑に大の字になり伸びていたら、イクシアさんと何故かコウネさんが慌てて駆けつけてきた。
「ユウキ君は無茶のし過ぎですよ。魔力を極限まで使い果たすと、それと一緒に命の力、生きていくうえで必要なエネルギーまで使い始めるんですからね、魔導って。気を失うのはもはや防衛本能なんですよ? その寸前まで消費したという事がどれだけ危ない事なのか」
「ごめん正直舐めてた。いやぁダメだね……何度も練習してガス欠気味だったところで成功しちゃったから、一気に持ってかれた……」
「……成功したって、何がです? 風の分身だけじゃありませんよね、これ」
「正解。まぁコウネさんならこれ見たら分かるんじゃない?」
「……正直信じられませんけれど、出来たんですか……?」
出来てしまった。分身を交えた高速移動により、ほぼ瞬間的に地面に紋章を描きこむ。
その効果で相手を捕縛、一切の身動きを取れなくするという実用がほぼ不可能、特殊なマジックアイテムの為の紋章と言われていた、古の紋章魔導を、実践で運用出来るようにしたのだ。
ただ、本当は捕縛した相手に叩きこむ最後の一撃に繋げる必要があったのだが、今回はこのザマだ。
「……紋章だけじゃありません。地面が暴風と風の斬撃でズタズタです……お芋がまだ残っていたらどうするんですか」
「大丈夫、それはないから。全部回収してうちの倉庫で寝かせてるから」
「あ、じゃあ明日はお芋でなにかまた作りますね?」
「ははは……コウネさんもう本当にうちの子みたいだ。じゃあ、明日はシチューがいいかな、俺」
「分かりました。……ただ、この技は恐らく私が想像しているよりとんでもない物になりそうです。出来れば……練習でもあまり使わない方がいいですね」
「確かに……コツは掴んだけど、一日三回くらいまでしか練習しないようにする。別な部分の練習にするよ」
「まだ何かする気なんですか……」
少しすると、イクシアさんが大きな水筒を持って戻って来た。
中身は勿論、毎度おなじみイクシア印のエナジードリンク。美味しい上に即効性ありの優れものだ。
幾分身体も軽くなり、頭もしゃっきりしたところで起き上がる。うん、もう平気だ。
「ユウキ……これは貴方の技の結果ですか……」
「ごめんなさい、一応作物が植えてある方には被害は出ていないのですが」
「それでも、ここまでの広範囲の技、本当に必要なのですか? これは……進級うんぬん以前に……人を警戒させるレベルの技です『私の基準からしても』。
それって、神話時代でもそう言われる程の技って事ですか……。
「空き地だからこそこの程度の被害で収まっていますが……この魔力の残留濃度、何よりもこの畑は先日の芋ほりの際、焼き芋で引火したりしないように結界で守護していました。その結界が著しく損傷しているんです。これは……恐らく仮に強固な砦があったとしても……そうですね、規模的にはユウキの通っていた高校。あのレベルの建物なら一瞬で瓦礫にしてしまいますよ」
「ゲェ!? そんな事になってるんですかこの技!」
「まぁ! 結界越しで外にいた私達に異常を感知させたんですか!?」
「ええ。ユウキ、この技を公開するのなら……相応の覚悟をしてください。強すぎる力は、時に人を縛る。貴方なら理解出来ますね?」
そこまでの……技なのか。今の俺は学園の敷地内にいる。つまりリミッター有りの状態だ。それでイクシアさんにここまで言わせるとなると……俺はどこまで強くなったのだろうか。
もしも今リミッターを外したら……俺一人でどこまで出来てしまうのだろうか。
「そろそろ日も落ちてきますし、家に入りましょう? ユウキ、先にお風呂に入って来て下さい。土塗れですよ」
「あ、そうですね。本当、ご迷惑をおかけしました……」
「これからは無理な練習はダメですからね」
そうして、俺はお湯と共に汗と土、そして疲れを洗い流し、湯船に浸かり一息つく。
うーむ……技の開発って事で大分気合い入れたわけだけど、気分的にはゲームの奥義というか、決め技というか、ゲージ消費して凄い攻撃しますよーというか。
「これならカナメにも勝てるかねぇ……」
まぁ結局は俺の原動力は『リベンジ』なんですけどね。次は負けないぞカナメ。
紅葉も深まり、そろそろ冬支度の必要が出てきた今日この頃。
進級試験を明後日に控えた俺達は、今学期最後の講義を受ける為、再び第三校舎にやってきていた。
そう、最後の講義は古術学です。先生が少し特徴的ですが、割と楽しい授業ですな。
元の世界でも割とメジャーだった『呪いの藁人形』やら『こっくりさん』といった、フォークロア、いわゆる都市伝説めいたオカルトの解説がメインで、とても面白いのだ。
「――って、訳なのよ。やぁー……君達ちゃんと話聞いてくれるし講義に積極的だし、なんだか段々楽しくなってきたわね。来年度もよろしくね。絶対進級してよね」
「勿論ですわ」
「全力を尽くします。とても興味深い講義ですし、参考になります」
「ランドシルト先生は安心してくださいな。俺達に限って進級出来ない生徒なんているわけないですよ」
「ササハラユウキ君、それフラグって言うらしいわよ。まぁ……そうねぇ、貴方達『は』大丈夫だと思うけど……うちの学園って、一期生だけがやたらと多くて、二期生から半数程度になるのよねぇ……理由、分かるわよね? 察して頂戴、理事長のセリフ取りたくないから」
「……え?」
「まさか……」
「ふふ、それでこそ秋宮ですわね」
ちょっと待て、それって……毎年そんなに大量の退学者が出てるって事なのか!?
しかも一年から二年になる時に!? やべぇ……やべぇよ……。
「さっきのランドシルト先生の話、本当なのかね……さすがに半数以上ってのはビビるんだけど」
「ふむ、ササハラ君は万が一にも落とされるような結果しか残せないのかな?」
「む、一之瀬さんわざとそんな事言って……驚くような新技見せるからね、期待していてよ」
「ふふ、すまない。君は私の一種の理想像なんだ。弱気な君はあまり見たくなかったんだ。当日、期待しているからな」
「ちょっと照れるんだけど。俺の方こそ一之瀬さんは俺の憧れなんだけどね。刀の扱いだって、俺の師匠は一之瀬さんなんだから」
「む、そうなのか」
「お二人はまぁ大丈夫でしょう。問題は私では? 私の能力は戦闘向きではありませんし、何か搦手で試験をかき回すくらいの気概がないといけませんから」
「ぬぅ、キョウコさん大丈夫そう?」
「人事は尽くしました。ただ私は天命を待つつもりはありませんわ。結果を引きずり落とすつもりです」
「ふふ、さすがだなキョウコは。では明後日、大講堂でまたな」
「ええ、大講堂で。明日は来年度の入試、筆記試験で休校ですものね。なんだか懐かしいですわね、まだ一年しか経っていないのに」
「あー確かに」
まぁ俺は受けてないんだけど。アリバイ作りで適当に東京のホテルで待機していただけでした。
「あ、そういえば俺入学式も夏休み終わった後の始業式にも出てないから大講堂入るの初めてだ」
「そういえばそうでしたわね。結局、アナタはどうして入学式に出席出来なかったんですの?」
「ん? そりゃあれだよ、ええと……」
「君には後ろ盾がなかったから、だろう? 君はカイのように有力な人物の後ろ盾もない状態でSSという待遇だった。確かに入学式の場にいると、何か面倒事に巻き込まれる可能性もあっただろう」
「そう、それそれ。いやはや……懐かしい」
「なるほど……今や、貴方の後ろにはこの学園の看板がついているような物ですものね。それにセリュミエルアーチのお姫様や……私達クラスメイトも」
「そうだ。君はもう、多くの仲間に囲まれている。もう、あんなのけ者のような扱いは私達もさせないさ」
「いやぁ嬉しい事言ってくれるね二人とも。んじゃ、明後日またね」
……そっか。俺、いざって時に味方になってくれる人、こんなに増えたんだな。
理事長だけじゃない。みんな、俺の仲間だったんだな。
「明後日はそのみんなの度肝抜く奥義、お披露目しちゃうからなーマジで」
講義も終わり自宅へと戻ろうとすると、珍しくバトラーサークルのコンバットスーツに身を包んだコウネさんとカイと行き合った。
「お、二人ともこれからサークル?」
「いや、今日は早めに切り上げたんだ。進級対策もっとしたかったんだけどな」
「ふふ、カイはもうほぼ完成しているではありませんか。きっと審査員や他の生徒さんは驚くでしょうね」
「コウネは結局俺達の前では一度も練習してなかったよな……どこでしてるんだよ練習」
「あ、それ俺も気になる。俺もてっきりカイと練習してるんだと思ったのに」
「いえいえ、実は都市部のシミュレーター施設や、ユウキ君の家の畑で練習してるんですよ」
「え、うちの!?」
何それ知らなかった。そっか……俺のいない間に料理だけじゃなくてそんな事まで。
「は、畑で? どうなんだ、それって」
「ですがユウキ君もそこで魔法や今回のミスティックアーツの練習をしているんですよ?」
「まぁそうだけどさ。明後日、いよいよお披露目だな」
「ああ、そうだな。今回は俺、かなり自信あるんだよ。進級に順位なんてないけれど、周囲の反応で大体どんな評価か分かるよな。ユウキ、今回は俺、負けないぞ」
「お、言うねぇ。ただなー……今回ばっかりは俺、想像以上にやばいの完成させちゃったんだよなー」
「ふふ、確かにユウキ君の技、全貌はわかりませんけれど……かなり話題になりそうではありましたね。カイもそれに匹敵しそうではありますが」
「な! コウネ知ってるのか!? ユウキどんな技使うんだ!?」
「コウネさーん、口外禁止で」
「ふふ、そういうことです。明後日までのお楽しみですよ」
うん、完全に俺達は合格できるものだと確信している。
結局、研究室でアラリエルとセリアさんにも指導していたけれど、本当に触りの部分と考え方だけ。その後二人がどう発展していったのかは不明のままだ。
まぁ、その二人も余裕そうな様子だったから心配はしていないけど。
しかし……半数近くが留年もなくそのまま退学か……やっぱり少し緊張するな。
まぁきっと明日受験に来る高校生の方が緊張しているでしょうが。