第六十九話
秋休みが終わり、今日から四学期となった。十一月中から一月末までという、微妙に中途半端な期間だが、今日から本格的に進級試験対策をしなければいけない。
それと並行して、来週から受ける講義内容の決定や、研究室を移籍する場合の申請も必要になってくるのだ。
今回は始業式のような物もなく、自分達のクラスルームにで軽い説明がされる。
「さて、四学期だ。前回の研修では我々学園側の不手際で危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ないと思っている。が、それと進級試験は関係がない、という事だけは先に言っておく。お前達も他の一年同様、学期末に試験を受けて貰い、そこで――退学か進級かを判断される事となる」
「おい、救済処置とかはねぇのかよ」
「ない。云わばこの学園に入れたことそのものが、救済処置以上に恵まれているのだからな。この環境で学んでいたにも関わらず、一定の評価を得られないようでは、この先も成長の余地なし、ということだ」
「チッ……マジかよ」
アラリエルの質問は、俺達の内心を代弁してくれたような物だった。
マジか……緊張して来たんだけど今から。
「試験はただ一つ。お前達一人一人のオリジナルの技を皆の前で披露する事だ。既存の技ではないオリジナル、それも……『ミスティックアーツ』として認められるような完成度の物をだ」
ミスティックアーツ、即ち秘儀。どこの流派の技でも、既存の魔導や魔法でもない、自分だけの技。
組み合わせやアレンジでも一応合格はさせてもらえるそうだが、クラスがSSから下がる事も十分にありえる、と。
逆に、審査員をうならせる事が出来れば、来年度からクラスのグレードを上げて貰える事もあるのだとか。
「コウネとユウキは既にオリジナルと言える技を幾つか持っているが、それでもより上を目指す事をおすすめするぞ」
技……風絶もある意味俺の決め技なんだけど、それでも更に上か……。
いや、これでも合格は出来そうだけど、これってまんま魔導なんだよな。
剣術と組み合わせるか?
なんかこう、ゲームの奥義開発みたいで少しテンションが上がってるのは秘密。
他の皆は真剣に悩んでいるのに、俺だけテンション上げて話しかけまくるわけにもいかないか。
「それと並行して、来週から受ける講義の内容を決めて提出するように。出来るだけ早く出した方がいいぞ、定員だってあるんだからな。まぁある程度お前達は優遇されているが、進級できなければ意味もないし、さらにランクが落ちて評価が下がる事もある」
「あ、俺もう出来てるんで提出します」
俺はすぐにジェン先生の端末に俺のデータを転送する。ビバ都会。面倒な配布物が殆どないのだよ、この学園は。
「お、そうか。どれ……お前正気か? 今までと全然違うじゃないか」
「やー、色々思うところがありまして」
「……分かった。この内容で受理しておく」
どうやら俺の他にはまだ提出していないようで、それ以上ジェン先生は反応する事なく、教室を後にした。
「ミスティックアーツ……流派の技が使えないとなると、新しい技を組み合わせで生み出す他ないか……」
「俺はなんとかなりそうな気がする。雷の適正を得たから、これをなんとか利用して……」
「カイはそれでいいかもしれないな。しかし私は魔法が不得手でな……」
「私はどうしよう? 力でごりおしってだけじゃダメだよね? 魔法なら得意なんだけど……」
「私はそもそも戦闘力が低いですからね、なんとか工夫を凝らさねば難しいでしょう」
先生がいなくなると、早速みんなが技の開発にあーでもない、こーでもない、と相談を始めていた。
「ユウキ君は焦っていないね。それに講義ももう決めたって?」
「そういうカナメこそ、落ち着いてるな」
「まぁ僕はもともと対人畑の人間だから、常に新しい技は考えているんだ」
「へー、ならそこまでそっちも焦っていないんだな」
さすが元チャンプ、どっしり構えていらっしゃる。
「それで、講義内容はどんな感じなんだい?」
「ああ、はいこれ」
「これは……ジェン先生が驚くのも当然だよ。『グランディア民俗学』に『紋章学』に『魔術理論』に……『古術学』? これ全部君とは無関係の内容じゃないか」
「でも研究室は引き続きジェン先生のところを受けるぞ。それに、実戦戦闘理論の研究室って一年間しかいられないんだろ? 来年、一年に混じって他を色々見学して決めるよ」
そう、俺は前回での反省を生かし、古い呪術の知識を得るために『古術学』という、マイナーな講義を受講すると決めていた。
そして『グランディア神話学』である程度基本的な向こうの神話を学んだ俺は、今度は向こうに住む種族やそれぞれの大陸の事を詳しく学ぼうと『民俗学』にシフトチェンジしたのだ。そうすれば……もしかしたらイクシアさんの事もなにか分かるかもしれないし。
『紋章学』と『魔術理論』は、単純に俺が伸ばしたいと思ったから。剣術の方はもうすでに、自由に自分で何でも再現出来そうなくらいだし、改めて学ぶ必要もないと感じた。
ただちょっと惜しいのは『デバイス工学』を辞めた事。これは、そろそろメカニック志望ではない俺には興味のない内容に移りつつある関係だ。だが、キョウコさんと一緒にいるのは楽しかったので、残念だったりする。同様に神話学セリアさんと一緒だったし。セリアさん、民俗学にチェンジするつもりはないだろうか?
「――とまぁ、そんな理由で大幅に講義を変えてみた訳だ」
「なるほどね……今回も僕とはどれもかぶっていないけれど……この古術学っていうのは興味湧いたかも。候補にいれようかな」
「いいんじゃないか? 前みたいなピンチがもうないとは限らないし」
「そうですわね、私も同じ考えでその講義を受けるつもりでした」
すると、いつのまにか現れたキョウコさんが自分も受けるつもりだと言う。
ちょっと嬉しい。
「なるほど、確かにデバイス工学はそろそろユウキ君の知りたい内容から逸脱しつつありますものね。頃合いだったのではないでしょうか。ただ、確かに肉弾戦に関係する講義が一つもないのは意外でしたわね」
「まぁ、その辺りは自主練で賄えるかなって。それにジェン先生の研究室もあるし」
すると、今度はセリアさんが話に加わって来た。
「あ、民俗学だ。私も受けるよ、それ。それに……紋章学も私、また受ける事にしたんだ。戦士に転向しても、せっかく得意な分野だもん、錆びさせるのはもったいないからね」
「おー、大魔導師セリアさんに色々教えて貰うとしようかな」
「またまたー。あ、でも色々聞くならコウネの方がいいかも? ユウキと同じく魔法剣士タイプだし」
「あ、コウネさんも同じ講義受けるのかな?」
そうだった、我が師匠コウネさんも来年は同じ講義を受けるのだろうか?
話に入って来ていなかったコウネさんの方を見ると――
「え、私ですか? うーん……私実はまだ何も決めていないですよね……でもユウキ君はもう、魔法の発動も始動に必要な動きも身に着けましたし、きっと大丈夫だと思いますよ?」
「えー、コウネさん受けないかもしれないのか……残念」
「ふふ、ごめんなさい、まだ決まっていなくって」
そう言って、コウネさんは足早に教室を去っていった。
うーん……この間から少し様子が変というかなんというか……。
花火を見ていた時も、何か様子がおかしかったような……。
「コウネ、やっぱり忙しいのかな? たぶん来年から裏のシンビョウ町に空き家を借りるつもりなんじゃないかな? 寮の部屋から荷物出してたし」
「お、ついに料理したい欲を存分に満たされるようになるのか」
「だと思う。よくユウキの家に作りに行ってたらしいし」
「らしいね。俺がいない間に結構イクシアさんとやってたみたい」
しかし残念ながら、俺が戻った時にはもう料理が殆ど残っていない。それがコウネクオリティ! 腹ペコガールはいつだって全力だ。
ともあれ、今日は講義もなく、研究室に顔を出すだけで終わりという事もあり、俺達も教室を後にした。
「よく来たな。全員、もう進級試験の内容は聞いているな? この研究室は原則一年しかいられないが、お前達に最後の教えとして、ミスティックアーツの開発について学んでもらう。が、カナメとササハラは、私と一緒に他三名へのアシストに回ってもらう」
研究室に着くと、早々にミカちゃん先生にそう告げられ、俺とカナメは先生と共に指導する側につくことになった。
どうやら、俺とカナメは既に自分の技を作り出している事から、教える事はないと思っているらしい。
「皆には既に教えられることは殆ど教えつくした。残りは、指導の経験をお前達に積ませる事と、実のある話し合い、開発の場を与え、助言を与えるのみだ。一年間、よく頑張ったな」
「サンキューミカちゃん。最後の最後まで色々やらせてくれて」
「本当にいい経験になりました。実戦での甘さが僕から消えたのは、ここのお陰です」
「感謝するぜミカミ。来年の一年にはちょっと可哀そうだな、くらべられるのが俺達なんだ」
「感謝します、ミカミ教官。私はここに来て、自分の知らない強さという物を学べました」
「私も途中からですけど、凄く勉強になりました。感謝します、ミカミ先生」
一年間の感謝の気持ちを述べると、ミカちゃんはキョトンとした顔をし――
「何を言っている、お前達の最後の大仕事が残っているだろう。来年度の生徒達の試験、VR室の清掃と気絶した生徒の運び出しがある」
「ゲ! そういや俺達の時も先輩たちがいましたね……」
「清掃員扱いかよ……」
……忘れてた。この人、もしかしてわざと嫌がる仕事をさせたいんじゃなかろうか……。
ともあれ、俺達のミスティックアーツ、所謂奥義の開発が始まったのであった。
なんかこの研究室に入ってる俺達だけ、こんなに恵まれていていいのだろうか?
他のクラスメイトや他のクラスの人間はどうやって開発するのだろうか……。
「ササハラ、カナメ。二人にはそろそろ全力で組手をしてもらう」
他のみんなと技の開発に勤しんでいると、ミカちゃん先生に突然そんな事を言われた。
「特別訓練所の使用許可を貰って来た。あの場所は通常、生徒は利用出来ないことになっているが……二人には必要だろう」
「特別訓練所? そんな場所、あったんですか?」
「あ、もしかしてあそこの事かな」
俺がユキとして先生達と戦った場所。そして、カイとの一戦で傷を負った俺が治療に使われた場所だ。
「む、それは私達も見学にいってもいいのでしょうか?」
「ダメだ。三人は引き続きここで技の開発に勤しんでもらう」
「えー……たぶん、あそこだよね? ミコトちゃんと一緒にユキさんのウォームアップに付き合った」
「ああ、あの場所か。ふむ……許可されないのなら、仕方ないか……」
「なんだ? お前らあの姉さんのウォームアップにも付き合ったのか?」
「ああ。結果は言うまでもないだろうが」
「惨敗、だったよねー……」
「ほう、二人はあの施設を使った事があったか。それに彼女とも戦ったと。……実は、私とジェン先生も二人がかりで彼女に挑んだのだが、結局負けてしまってな。良い機会だからと、私の教え子達が全力で戦えばどこまで彼女に迫れるのか、最後に見ておきたい。そして……これは正統な評価であり現実として受け取って欲しい。カナメとユウキだけなのだ。彼女に追いつける可能性を現段階で持っているのは。三人共、それを受け入れ、精進するように」
む……なんだか意外だな、そんな事を言うなんて。それに一之瀬さんでなくカナメを選んだ事にも疑問が……。
少しだけ悔しそうな表情を浮かべる三人を置いて、俺とカナメは特別訓練所へと連れていかれるのであった。
「……さて、ではカナメ。お前はそろそろリミッターを外すと良い。同年代相手に外すのは初めてだろう」
「いいんですか? これまで僕に全力を出させてくれるのは先生だけだって言いつけられていたんですけど」
「安心しろ。ササハラ、お前もだ。お前もリミッターをかけている事くらい分かっている。それを解除してカナメと戦え」
「え!? いや、ちょっと待ってください」
え? カナメもリミッターありだったのか? そんな素振り見せてこなかったが。
というか俺のリミッターって学園の敷地内だと、理事長の許可がないと外せないんだけど!
急ぎ、理事長に連絡をいれてみると――
『現在のリミッターはレベル五七〇。状況はこちらでも理解しています。一時的に四五〇まで解除しますので、それで戦ってください。今の貴方なら、それで入学時のリミッターなしの状態と同等と言えるでしょう』
まじでか。しかしカナメもリミッターをつけていたとは意外だな……。
「やっぱりユウキ君もリミッターありだったんだね。研修中と学園の中とじゃ動きの速さが違ったからね」
「そういうカナメは……あんまり変わってなかったよな」
「僕はそもそも、召喚した武器の影響で力が下がってるんだ。ただ……リミッターを無くすって言う事は、武器の力を全部使う許可を得たって事なんだ。この間の研修では全部守りに回してなんとか無事だったけど……今回は本気で戦うよ、ちょっと楽しみだな」
「マジかよ……」
フィールドに移動した俺達は、互いに武器を構え、先生の合図を待つ。
……確かに違う。今まで戦って来たカナメとはプレッシャーがまるで違う。
それどころか……今のところ、一番俺に近い場所にいると思っていたカイよりも、遥かに威圧感を感じる。これが……場数の違いなのか。
『それでは戦闘開始!』
瞬間、様子見なんてものもせず、カナメが二本の斧槍を構え、猛烈に突っ込んでくる。
速い、明らかにいつもと違う。すぐさま迎え撃とうとこちらも全力の踏み込みで居合いを放とうとすると、そこには既に誰もいなかった。
消えたのだ。その場所から唐突に。
「ガァ!」
が、その刹那、真横から強力な蹴りを入れられ吹き飛び、気が付いた瞬間にはもう一本の斧槍、デバイスの方が俺に止めをささんばかりに投擲されていた。
「っ! タァ!」
鞘で弾き返し、刀で風の刃を同時に放つ。
防御と攻撃の同時展開。だが、それですらカナメには通じず、またしても一瞬で姿を消していた。
なんでだ? そこまで速いとは思えない。さっきも見えていたが、瞬間的に加速?
「様子見……するか」
距離を取り出来るだけ全体を見通すように移動すると、ようやくカナメの姿を見失う理由が分かった。
「方向転換の速さがおかしいだろ、お前」
「凄いね、気が付くのが早い。位置取りもいいね」
まるで、途中に地面に固定されたポールでもあるかのように、それを移動中に掴み取り、くるりと方向を変えていた。
むしろ、その方向転換の瞬間に加速でもしているかのような速度だった。
こりゃジェン先生の移動よりもかなり速いぞ、瞬間的な加速だけならカイ以上だ。
そして、何がカナメのポールの役目をしているのか。それは――
「その斧槍の力か。……空間固定って感じか?」
「わ、凄い! 正解、初見で気が付くなんて」
「お前、その気になれば宙にも移動出来るだろ、その力で。……そんな力を隠してたのかよ」
「一応これ、グランディアの希少な財産だからさ。地球出身の僕が自由に外で使うには面倒な申請が必要なんだ。今少し前に申請したし、学園の中だからいいんだけど」
なるほど、そんな弊害がアーティファクトにはあるのか。
初めて、初めて今の自分が、同級生に勝てないと思わされた。
なら……知識と対応で食らいつく!
ゲームでしか使う事のない対応策、それが現実でも通じるのか、試してみる!
またしも攻撃を受け、弾き飛ばされダウンを貰うも、止めとばかりに迫って来たカナメにめがけて対空攻撃を最速で放つ。
見なくて良い。相手の行動が決まっている状況での対応なら、タイミングさえ計れば、そこまで見なくて良い。
リバサ対空。格ゲーの基本的な行動を織り交ぜ、反撃を試みる。
所謂623Pですわ。
「っ! っぶな……」
「もう少し楽しませてやる、カナメ!」
追いかけられない、目で追えない攻撃への対処法なんていくらでもあるだろ。
読みだけじゃない。読まれる事くらいカナメだった織り込み済みだろ。
だったら……置く! 選択肢を狭める事を優先する!
択を絞る為の立ち回りなんて……本当に格ゲーばっかやってた時以来かも。
明らかに戦い慣れている、そして俺では追いつけない機動力を持つカナメに少しずつ食らいついていく。
だが、それでもやはり決定打を与えられない。対して俺は、もう数回すでに良いのを貰っている。
この施設では五感が徐々に鈍って来るようにダメージが変換されるというけれど、確かに少し耳も遠いし視界も霞んできた。
けど魔力の残りはまだ余裕がある……大技に掛けるか。
俺は風絶をカナメがどんな方向に移動しても対応出来るように、発生させる場所を決めて抜刀の構えを取る。
これが最後の攻防だと思わせる。はは、カイと同じ手法だなこれ。
「一発逆転を狙う、ね。タイミング的にベストだと思うよ。じゃあ僕も……最大の一撃でお相手する」
二斧槍を止め、カナメはデバイスの方を手放し、アーティファクトだけを両手で構える。
初めてだ。いつもは一本で戦う時も、デバイスを選んでいるのに。
そして、カナメがまたしても消える。
追いかけない、目で追おうとはしない。あいつの言葉から、進路を予想しろ。
魔力の全てを出し切るように……全力の抜刀と共に風絶を放つ。
予定していた場所に発生するはずのソレを、全て上空に移動させる。
上空だ。あいつは必ず――いた!
「止まらないよ、それじゃあ!」
「ぐっ! おおあああ!!」
室内を埋め尽くす重低音。真空の塊と、それを取り巻く無数の風の刃。
密集したそこへ、カナメが上空からの落下をさらに加速させ、大振りな一撃を俺に振るう。
風絶が、はじけ飛ぶ。無数の俺の魔導を切り裂き、その神槍が俺に向かう。
スローモーションとなって確かに見えていたその一撃が、止まる事なく俺に向かう。
「――くそ、パワー負けか」
轟音と衝撃を受け、身体が宙を舞うのを感じた。
たぶん、これは余波だ。寸前で攻撃を俺の真横にずらしたのだろう。
だがその余波でこれ。最大の一撃を突破された以上、これは俺の負けだ。
「ぐっ……てて……」
着地に成功したのに、ガクンと全身の力が抜け膝をつく。
そして爆心地のようなカナメのいるであろう土煙の中、アイツは斧槍を支えに立ち続けていたのだった。
「はは……僕の勝ち……やるもんだろう?」
「……負けたわ。本当にちゃんと戦って学園で負けたの初めてかも。めっちゃ悔しいんだけど」
「……僕のほうこそ、ずっと君と戦いたかったけど、タイミングが合わなかった。勝てるかわからなかったんだけど……正直、勝てるとしたらもっと一方的な展開になると思ってた」
「へへへ、途中から戦いにくくなったろ。カナメを同等以上の相手だって見定めて、勝てなくても食らいつける戦い方にシフトチェンジしたんだよ」
「……本当、君の引き出しの多さには驚かされるよ。僕は発表する予定のミスティックアーツまで使って勝てたのに、君はまだ新技を開発していないんだもん……再戦、楽しみにしてるよ」
互いに満身創痍。カナメも俺の最後の一撃を掻い潜る為、直接邪魔になる魔導を切り裂くのみで、他はすべて喰らっていたという。
フラフラの足取りで、満足に前も見えていない中、俺達がフィールドの効果が適用されている休憩室で休む事にした。
「二人とも、良い戦いだった。ユウキ、お前にはキチンと納得する形で、同級生に敗北を味合わされるという経験をさせてやれなかった。それだけが、心残りだった」
「あ……そういやそうでしたね。俺、未だにカイには負けたと思ってませんから」
「ああ。そしてカナメは、友人に全力をぶつけるという事をこれまで出来なかった。この年度末だからこそ……その機会を与えられた。お前の最後に放った一撃、間違いなくその槍の力を最大限に利用した最強の一撃だ。ミスティックアーツとして十分に評価に値すると保証する」
「ありがとうございます。……本当に、今日はこれまでで一番充実した一日になりました」
そう晴れ晴れとした様子で答えるカナメに、嫉妬心が僅かに芽生える。
悔しい。リミッターの所為なんかじゃない、完全に敗北だ。
きっとユキやダーインスレイブとして戦えば、無理やり突破は出来るが、それは攻略じゃない。ただのズルだ。
やっぱり俺も……進級の為に本気で技を開発する必要があるな、これ。
「ササハラユウキ。お前が奮起し、新たな技を編み出す事に期待する。お前には全教員が期待している、私達を圧倒してくれ」
「プレッシャーかけるねぇミカちゃん……けどまぁ、良い起爆剤貰ったよ。もうカナメ含めて全員を一撃で終わらせるような最大の奥義を生み出したいと思います」
「言うね、ユウキ君。けど……本当にやりそうだから恐いな」
ある程度回復をしたところで、皆の待つ研究室、訓練場へと戻る。
どうやら三人共個人で練習しているらしく、こちらに気が付くと集まって来た。
「おかえり、二人とも。良い戦いは出来たのか? その……気になってしまってな」
「ふふふ……なんと全力で戦ってカナメに負けました。正直悔しすぎてどうにかなりそうです」
「な!? カナメ、お前本当に……!」
「ふふふ、進級試験用の技を使わせて貰ってね。一応、本来は発表までは秘匿すべき物だから、今回はみんなには見せられなかったんだ」
「なんだ、ユウキお前負けたのかよ。俺らも成長してるって証だな」
「いやー負けたけど、もう負けないわ。間違ってもアラリエルにまで負けないように頑張るわ」
「んだと! おら、おら、どんな風に負けたか言ってみろおら」
「どうしよう、ユウキに勝てるような技じゃないとダメって事だよね、考えようによっては。うーん……頑張らないと」
俺の敗北とカナメの技は、三人にも良い影響を与えているようだ。
……本当、こりゃ負けられないな。今度は再現なんかじゃない……絶対に勝てる技を考えないといけないな……。