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第六十二話

(´・ω・`)お待たせしました、六章開始です

「はい、じゃあ集まったみんなー、しっかり軍手をして、落としたくない物、ゲームやスマート端末は先生達に預けてくださいね。親御さんの皆さんも同様にお願いします」


 土曜日の午前一〇時。我が家の裏に広がる広大なサツマイモ畑に、近隣の小学校の一年、二年生が、親御さんと一緒に集まっていた。

 各学校の担当教師やシュヴァ学から派遣されてきた教員が手伝ってくれてはいるのだが、その中には俺を始めとしたクラスメイトも混じっていたのだった。


「おーおー始まったな。んじゃ俺はあっちの二年生の方の手伝いに行ってくるから。カナメ、行こうぜ」

「うん。ふふ、凄いや。こんなに自然に囲まれた場所が近くにあったなんて。また今度遊びに来て良い?」

「おう。秋になったらキノコ狩りでもしようぜ。俺詳しいんだ」

「奇遇だね、僕も小学校の頃は得意だったんだ」

「わ、私もキノコ詳しいから行くね! それにしても……こんなに沢山子供がいたんだねー、近くに」

「ええ、驚きました。確か……この海上都市に一校、そして本土の最寄りの小学校からも来ているんですよね? ふふ、なんだか大勢の子供を見るのは初めてなので、凄く新鮮です」

「私は里で小さい子沢山見てたからそうでもないけど、なんだか懐かしくなっちゃうなー」


 今日手伝いに来てくれたのは、セリアさんとコウネさん、そしてカナメの三人だ。

 サトミさんにも声を掛けたのだが、やはり海上都市からグランディアに毎日通っている彼女には、休日出勤というのは厳しいらしく、お断りされてしまったのだった。

 って……当たり前だろ。聞く前に気が着け。芋ほりで子供の面倒とか重労働だろう。


「じゃ、私達は一年生の畑に行ってくるね」

「ふふ、焼き芋楽しみですねぇ」


 大勢の子供と親御さんが、広い畑にそれぞれの持ち場として割り振れられた地点へと親子で向かう。そして俺も手伝いのお兄さんとして、見回りをするという訳だ。

 いやぁ……改めて俺って田舎っこだったんだな。芋ほりなんてやった事あって当たり前だと思ってたわ……普通に親御さんも未経験なのが当たり前なんですね。


「すみません、お兄さんちょっと教えて貰えますか」

「はいはい、どうしましたお父さん」


 考えている傍からまたしてもキッズのパパンからヘルプが入りました。


「どうしましたか?」

「さっきからこの葉っぱの蔓を引っ張っても、蔓が切れてしまって」

「なるほど。蔓は一本ずつじゃなくて、ある程度纏めて掴んで、それで一気に引っ張るのではなく、ゆっくり力を入れて徐々に引っ張り上げてください。それでも絶対に土の中に芋は残りますので、穴の中を優しく掘って探してくださいね、残った芋が隠れていますから」

「なるほど……よし、ありがとうございました」


 そうして、無事に芋を掘り起こしたお父さんと、土をまさぐって残りの芋を探す子供。

 いいな、ああいう光景って。


「カナメの方はっと……ちゃんとやれてるな」


 そして、このイベントを最も楽しみにしていた、誰であろう我が家のお母さんエルフことイクシアさんはと言うと――


「はい、じゃあ芋は私の背中の篭に入れてくださいね。ふふ、自分で入れますか? じゃあかがみますのでどうぞ」

「ありがとう! えい!」

「綺麗に入りましたね。ふふ、じゃあどんどん掘ってくださいね」


 畑全土を周り、子供と触れ合いながら芋を回収する係をしていました。

 もうデレデレである。いつもクール美人で表情の変化が少ない彼女だが、今日はもう遠目からでも分かるくらいデレデレである。可愛い。眼福。

 そのまま彼女を目で追っていると、一つのグループ、小学一年生がいる方の親御さんグループの元で足を止めていた。どうやら知り合いのようだ。ちょっと様子見をば。






「イクシアさん! 聞いたわよ、ここってイクシアさんの畑なんですって?」

「はい。この土地の管理をさせて貰っているんです。息子と二人暮らしなんですよ」

「そうだったのね。芋ほりなんて私初めてで……貴重な体験をさせてもらってありがたいわ」

「そう言って頂けて幸いです。ふふ、みんなもお芋、掘れていますか?」

「うん! いくしゃーさんありがとうございます」


 どうやら、イクシアさんのママ友というヤツらしい。そういえば、前にお茶をしたりしているとか聞いた事があるな。

 そうか、一年生の息子さんがいる人だったのか。

 その後も、同じくママ友と思われるお母さん方がイクシアさんの周囲に集まる。

 そして、そんなイクシアさんの背負い篭に芋を入れようと、子供達がどんどん近寄って来る。

 幸せそうだ……だが、そんな幸せオーラ満載な空気が、唐突に壊されたのであった。


「――息子でしたら、今二年生の畑の方に――っ!」

「きゃ! 大丈夫イクシアさん、よく避けられたわね……」


 突然、背後から投げられた芋が、勢いよくイクシアさんの後頭部に飛んできたのだった。

 どうやら篭に入れようとして投げ込んだらしく、投げた正体は同じく小学一年生の子供だったようだ。


「ごめんなさいね、私が立っていたから入れられなかったのですね。はい、どうぞ。しゃがみますので入れてください」

「……立てよ、投げるから。お前が動いたから入らなかったじゃん」

「……ダメです。人の頭にぶつかっていたかもしれませんから。どうぞ、入れてください」


 悪ガキ降臨。が、周囲のお母さんは、怒るというより『めんどうなことになった』という顔をしていた。はて……なんだこの反応は。

 すると、この悪ガキの保護者と思しき一人の女性が現れた。


「あらあら、うちの子が何かしまして? ……あら? そちらにいるのはタツヤ君のお母さん方じゃないですか。ふふ、お久しぶりですね伊藤さん」

「え、ええ。お久しぶりです。そちらの……カズヤ君は相変わらず元気ですね」

「ふふ、そうなの。本土の『グランディア騎士養成学園初等部』でも凄く褒められていて。ふふ、皆さんとはお久しぶりになりますね、本当に。ほらカズキ、遊んであげなさい」

「分かったよママ」


 あからさまに、他の子供達が怯えているような表情を浮かべながら、そのカズキ君のご機嫌をとるように遊んでいる。

 なるほど……あれですな? きっと私立に受かった我が子が上だと思い、普通の小学校に上がった子供やその母親を見下しているパターンですな?

 なるほどなるほど。


「ちょっと“加島”さん、お宅のカズキ君がお芋をイクシアさんの頭に何度もぶつけようとしてたんですよ?」

「あら、そうなの? 偶然じゃないかしら。子供のした事だから許して下さらない?」

「ええ、大丈夫です。それよりも……大丈夫ですか? 他の子供を虐めているように見えますが」

「遊んでいるだけですわ」

「そうですか」

「それより初めましてね? カシマと言います。貴女は?」

「ササハラ・イクシアと申します。本日はご参加して頂きありがとうございます」

「あら、どうしてお礼を?」


 もう俺が見ていなくても大丈夫かな。これ以上はなんだか俺が過保護みたいだし。

 そうして、ママ友さん達の微妙な派閥争いのような現場から離れて、本来の業務に戻るのだった。








「実はこちらのイクシアさん、今回の畑を提供して下さっているの。秋宮の学園長さんとお知り合いみたいで」

「はい。土地の管理を任されております。カシマさんは本土からいらしたのですね? ご足労、感謝します。この後は掘った芋をみんなで洗って、焼き芋の準備をしたいと思いますので」

「秋宮の……そう。それで、伊藤さんと知り合いみたいだけれど、お子さんはもしかして……」

「あ、違うのよ。イクシアさんの子供もたぶん本土の方じゃ……」


 どうやら、このカシマさんという方は、幼稚園時代のママ友さんだったらしいのですが、お子さんが皆とは違う学校に入学したからと、疎遠になっていたそうです。

 元気な子供です。やんちゃ盛りです。しっかりとカシマさんにはお子さんを見ていてもらいたいのですが……ああ、芋の蔓を振り回して走り回っている……危ない危ない。

 つい、目で子供達を追っていると、再び加島さんから質問が入る。


「本土? じゃあ貴女のお子さんも騎士学校初等部に?」

「え? いえ、私の息子もこの海上都市の学園に通っていますよ」

「え? イクシアさんのお子さん、うちの子と同じ学校だったんですか?」

「いえ、うちの息子はシュバインリッターに通っていますが。ほら、あそこで子供に芋ほりを教えているところですよ」

「ええ!? イクシアさんの息子さんって!? ええ!?」


 何故、こんなに驚かれているのでしょう?


「貴女エルフですよね? ということはあの子は?」

「ええ、私の養子になります。ふふ、愛しい息子です。最近はきっと反抗期に入ってしまったのでしょうか、中々一緒に眠ってくれないんです」

「……イクシアさん……そっか、そういえば前に一八歳になるって言っていたわね……私はてっきりエルフの一八歳かと……」

「あ、そういえば今年入学したばかりって言っていましたね。なるほど……確かに入学したてですね。私てっきり小学校の事かと」


 何やら、行き違いがあったのでしょうか……?

 すると、質問をしていたカシマさんが、何かに思い至ったのか――


「ま、まぁシュヴァ学もピンキリですけれどもね。ふふ、うちの子も将来的にはシュヴァ学に入学させたいと思っているんですの。本当、シュヴァ学に初等部や中等部、高等部が無くて残念だわ」

「そうなんですか。では、そのうちユウキの後輩になるかもしれないんですね」

「……ユウキ? イクシアさん、息子さんの名前ってユウキ君って言うんですか?」


 すると、伊藤さんが確認をしてきました。はい、ユウキです。

 ササハラユウキは私の息子です。芋ほり名人のユウキです。

 見てください、子供達に囲まれながらあんなに大きな芋を掘り当てました。

 待っていてくださいね、ユウキ。あとで大きな焼き芋にしましょうね。


「ふふ……シュヴァ学とひとくくりにしてはいけませんことよ? どこのクラスを出たかで進路も大きく変わるんです。世間の評価は絶対、その事を御存じかしら?」

「まぁ、そうなんですか?」

「貴女、そんな事も分からないのかしら。特定校からの受験の際には、無条件でBクラス以上に割り振られるっていう暗黙のルールがあるんですのよ。ふふ、うちの子も将来はBもしかしたらAやSだってありえるんですのよ」

「なるほど、そうなんですね。すみません、自分の息子の通う学園だというのに疎くて。よく理事長さんとお話する機会がありますので、今度尋ねてみようと思います」

「んな!?」


 すると、何故か背後にいた伊藤さん達から忍び笑いが聞こえてきました。はて? 私は何か面白い事を言ってしまったのでしょうか?


「ササハラさん、あなたのお子さんは何クラスなんですの?」

「ユウキですか? それならSSクラスです」

「……は?」

「カシマさん、聞き覚えないかしら……ササハラユウキよ、ササハラユウキ。三ケ月くらい前に話題になっていませんでしたっけ、ワイドショーで」


 ああ、そういえば少しテレビで見た記憶がありますね……今でも思い出します……ある日、テレビを着けたら爆発した橋が映し出され……凄惨な事故現場が中継されて……そして……その時に『犠牲になった生徒』として……ユウキの写真が映し出されて。

 あの瞬間、私の世界は一瞬で闇に落ちました。そして気が付くと、私は半狂乱になって、学園の中で大声を上げていた。

 本当に世界が終わったと。このまま私も死んでしまおうと。本当の絶望を味わいました。

 思い出すだけで……あの時の感情を思い出すだけで、涙がこぼれそうになる。


「小さな英雄ササハラユウキ! まさかイクシアさんの息子さんだったなんて! びっくりよねー!」

「本当本当! 今度会ってみたいわー!」

「あ、それでしたら今度と言わずに今すぐ。ユウキー! すみません、少しこちらに来て頂けませんかー!」


 私もあの時の事を思い出し、ついついユウキ分を補給したく、遠くにいたユウキを呼び寄せてしまいました。

 はて……カシマさんはどうしてそんなに真っ赤な顔をしているのでしょうか。

 それに皆さんもどうしてそんな笑いをこらえているような……はて……?








「ユウキー! すみません、少しこちらに来て頂けませんかー!」


 相変わらず芋ほりの極意を子供達に伝授しつつ、気が付くとどっちが大きな芋を掘り当てるかというゲームを繰り広げているところにイクシアさんからお呼びの声が。


「悪いな、ちょっと呼ばれたから兄ちゃんはここで一抜けだ」

「えー! なんだよユウキ兄ちゃん勝ったままじゃん!」

「ごめんなー。ほら、代わりに後で焼き芋するから、その時にもう一回大きさ対決な。ほら、じゃあ後は仲良く大人しく遊ぶんだぞ。カズキもみんなを虐めたりするなよ? じゃないと俺らみたいに強くなれねぇぜー?」


 さっきやたら騒がしいキッズがいたので、大人げなく俺とカナメが捕獲して分からせておきました。

 いやぁ……カナメ曰く、早い段階で魔力が身体に馴染み過ぎた子は、自制が効かなくて乱暴になりやすいらしいけど、やっぱり子供だな。ちゃんと話せばわかるじゃん。

 まぁ、もっとやべえヤツが世の中には沢山いるってカナメが物理的に分からせたからだけどさ。

 子供背負って空中散歩すんな。見つかったらどうすんだよ。


「俺分かった。カナメ兄ちゃんとユウキ兄ちゃんみたいになりたい。暴れない。強い騎士になる」

「よく言った! 騎士とか戦士は後ろを守るもんだからな。じゃあカナメ、後は任せた」

「うん。僕もそろそろ作業に戻るけどね」


 そうしてイクシアさんの元へ向かうと、先程のママ友ーズ+ちょっと違う派閥のお母さんと思しき人が待っていた。

 なになに、もしかして面倒事ですか。何かされたなら俺も男女平等精神発揮しちゃいますよ。


「どうしたんですかイクシアさん」

「ああ、ユウキ。すみません、私のお友達がユウキと会ってみたいという話なので」

「俺とですか? ……あ、もしかして五月の?」

「まぁまぁまぁ! ユウキ君! いつもお母さんと仲良くしてもらっている伊藤です」

「はい、初めまして」


 なるほど、ワイドショーを見ていたんですな。そうか伊藤さん……裏のスーパーの事とかイクシアさんに教えてくれた人だったかな。こちらこそイクシアさんがお世話になっております。

 とりとめのない話をしつつ、今日の芋ほりやら、手伝いに来ている皆の事やらを話していると、先程やや険悪な空気を醸し出しつつあった女性にも話しかけられる。


「あ、貴方SSクラスのユウキ君ね。SSクラスってどうすればなれるものなのかしら」

「えーと……今日来てる友達は全員SSクラスなんですけど……そうですねぇ、考えてみたら全員とんでもない経歴の持ち主ですね。あそこの水色の髪の女生徒とか、グランディアの大貴族中の大貴族の御令嬢で、あっちの学園で魔術、剣術ともに主席と次席で卒業してたりしますね。で、あっちの……俺より少しだけ、本当に少しだけ背の高い男子。今子供背負って歩いてる男子。アイツなんて去年のアマチュアバトラー大会の全国優勝者ですよ。それと……いた。あそこで子供達に囲まれてるエルフの女生徒。彼女もグランディアの名門校で魔術の首席だったかな……まぁ全員が選ばれし者って感じですよ。俺なんかがなんでSSに入れたのが謎ですよねー実際」


 いや本当の事話す訳にはいかないので適当に話を濁しておきましょう。

 が、それこそこの女性が聞きたかったことなのか、中々に食い下がって来る。


「そこを教えて欲しいのよ。なに、成績? それとも功績? 何かしたのかしら? ねぇ」

「いやぁ……ちょっと……」

「そんなの簡単ですよ。そんな僕達ですら、ユウキ君には勝てない。ユウキ君はそんな僕達全員、SSクラスの他の誰よりも強い。その強いという一点だけで、彼は全てを凌駕してるってだけですよ」

「やめろ持ち上げんな。ってかカナメも来たのか」

「うん、なんか面白そうだし」


 答えに窮していると、子供を背負ったままカナメがやってきた。

 って……片腕ごとにに子供二人、更に背中! 合計五人! この怪力めが! 身体小さいくせに! 俺より少し大きいだけなのに!


「まぁそういうことです。シュヴァ学は裏道、裏技が通用する学園じゃないので、アドバイスがあるとしたら……僕やユウキ君みたいに強くなる事だけだと思いますよ」

「……と、いうことになります。いやすみません、あまり参考になるお話が出来なくて」


 そうカナメが締めくくると、この女性は何かに気押された風に後退り、そのままカナメの腕にぶら下がっているお子さん、カズキ君を脇に抱えて去ってしまった。

 ふぅむ……よくわからないが退散したって事は良かったって事なんですかね?


「イクシアさんの背負い篭、ほぼ満杯じゃないですか。一度戻りましょう」

「あ、そうですね。これでだいぶ掘り終えましたし、そろそろ次の準備に入りませんと」


 この後は、みんなで芋を洗った後、一人一個か二個選んで、焼き芋の準備に入る予定だ。


「では、私は作業に戻りますね。伊藤さん、皆さん、この後もどうか楽しんで行ってくださいね。ではまた後程」

「ふふ、ええ。ありがとうイクシアさん。なんだか胸がすっとしたわ」

「ええと……どうしたのでしょう? ああ、ここは空気が良いですからね。どうぞ、リフレッシュしていって下さい」


 なーんか俺が見ていないところで面白いやりとりがあったような気がする。




 軽く土を払った芋を大きなコンテナに詰め込んでいると、一年生の畑に回っていたコウネさんとセリアさんも戻って来た。

 どちらも、疲労の色よりも楽し気な色の方が濃く顔に出ていたが、コウネさんはむしろ、芋に向かい蠱惑的な……というかよだれでも流しそう顔を向けている。

 ええ……生のサツマイモにそんな視線向ける人いる?


「だいぶ集まったね。たぶん、そろそろ引率の先生が芋ほりの中断を宣言するんじゃないかな」

「だな。じゃあ水場の方の用意してくるか。セリアさん、コウネさん。キッチンペーパーとアルミホイルの準備、お願いね」

「ええと……これと、これ?」

「アルミ箔ですね。これ、実はグランディアには輸入品しかないんですよねー……」

「では、私は念のため篭を背負って畑をもう一度巡回してきますね」


 この後は芋を洗って、濡らしたキッチンペーパーで包んで、さらにその上からアルミホイルで包む。

 その後、地面に並べて、その上で焚火をする、というものだ。

 マンガみたいに枯葉の焚火中に芋をぶちこんでも焼き芋なんて出来ないのです。


「カナメって地元の小学校でこういうのやったことある?」

「うん、あるよ。収穫祭でやったね。懐かしいねこういうの」

「だな。まさか俺もこの歳になってやるとは思わなかった」


 そう笑い合いながら作業を進めていると、仮設テーブルやらビニールシートを設置し終えたコウネさんとセリアさんが戻って来た。

 二人にもこの後の流れを説明すると――


「なるほど……濡れた紙の水分で保湿と軽い蒸し焼きの状態にしつつ、炎の熱で徐々に水分を飛ばしていくのですね。これは……甘さを引き出す良い調理法ですね、ユウキ君」

「なるほど、そうなのか」

「なるほどねー……私のとこだと魔導具の中に放り込んで終わりだけど、なんだかこれだとレクリエーションって感じで楽しいね。今度真似しようかな? 紙と耐熱性の高い物があればいいんだよね?」

「葉っぱで何重にも包めばそれで大丈夫そうだけどね」


 広まる焼き芋文化。いやどんなだ。


「地球の……とりわけ日本の果物や野菜は品種改良がよくされていますからね……今から本当に楽しみですね……あ、後程ユウキ君の家のキッチンをお借りしても? 今日のお礼にサツマイモ料理を御馳走しますよ」

「あ、じゃあ俺大学イモで。作れるって言ってたよね」

「ふふ、勿論。ああ……なんて幸せなのでしょう……こういう生活、憧れてしまいます」


 その内貴族辞めて農家のお嫁さんにでもなってしまうのではないだろうか。

 ……さすがにないか。ないよね?

 そうして準備を進めていき、無事に子供達が自分達の芋を地面に並べ、そしてイクシアさん指導の元、安全な結界に包まれた炎が轟々と燃えあがるのだった。


「ユウキ、これくらいの炎で大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。なんだか楽しみですねー……昔もこうやって一時間くらい待ったものです。当時は学校のグラウンドでやったんですよ。で、待ってる間に遊んだりして」

「ふふ、残念でなりません。その頃からユウキの傍にいられなかった事が。でも……これで、少しはその時間を体験出来たのでしょうかね。お芋、美味しく焼けるといいですね」

「はい。……俺も、イクシアさんとこうやって日常を過ごせるのが凄く嬉しいです」


 揺らめく炎に照らされた横顔が、なんだかロマンチックで。

 もしも今が夜なら、もっとロマンチックなのだが、残念ながら今は昼。けれども、これでよかったのかもしれない。もしも夜だったら、俺は雰囲気に飲まれ……いや、たぶんイクシアさんの横顔に見惚れて何もしゃべれなかったんじゃないですかね?


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