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第六十一話

(´・ω・`)本日最後の投稿です

「――と、いう話を頂きました。そのうち裏山の見回りでもしないとですね。なんでも、自然環境の再現という事で野生動物も住んでいますが、結界により住宅街や学園敷地内に迷い込む事はないみたいですけど、山に入って遭遇した、なんて報告も過去にはあったようです」

「分かりました今すぐ分からせてきます」


 家に戻り、お芋掘りについてイクシアさんに教えると、すぐさま外に飛び出しそうな勢いで立ち上がる。

 待って、分からせるってどういう意味!? 相手熊だよ!?


「すべての熊を契約で縛るだけです。人間を襲ってはいけない、と」

「……そんな事も出来るんですか……」

「はい。小さな子供達がお芋を掘りに集まるなんて……そんな素敵なイベントの障害になるようならば、たとえ自然に生きる動物でも容赦はしません。大丈夫ですよ」

「そ、そうですか……ちなみに収獲っていつ頃になりますか?」

「そうですね……来週あたりならばもう収獲可能でしょう。来週の土曜日などはどうでしょう。お天気次第ですが、リョウカさんに提案してみてください」

「はは……了解です。サツマイモかー……焼き芋食べたいなぁ」


 そういえば一之瀬さんも焼き芋パフェなる物を食べていた気がするし。

 秋っていいな……食欲の秋だ。きっと魚も美味しいんだろうなぁ……。


「さて、では私はこれから山の中に術式を刻んできます。眠らせた熊を一網打尽です。夕食前には戻りますので」

「え、本気で行くんですか……?」

「はい。行ってきます」


 あーあ、本当に行ってしまった……。子供好きにも程があるよなぁ……。

 一先ず俺も、理事長に芋掘りの日程について連絡をしておくのだった。




 翌日。三学期が始まる。

 前期後期で分けられるのが当たり前の世代なのだが、以前は一、二、三で分けられるのが通例であったらしい。

 そしてここシュヴァ学においては、なんと四学期まであるのだそうな。

 クォーター制? とか言うらしい。グローバル化うんぬんってパンフレットに書いてあった。つまり、この後もさらに短期の休暇を挟むんだとか。

 ……大学ってわけじゃないけど、シュヴァ学って休暇多くない? いや設備も講義内容もずば抜けて良いのは分かるけれど。


「それじゃあ休暇明け早々だが、今日は講義の予定を組んでもらうと同時に、来月の実務研修の内容についても発表しておく」


 教室にクラスメイトが集められ、早々に実務研修の内容を発表するようだ。

 もうこっちは休み中も任務だったので、なんだか最近働いてばかりだな、と感じる反面、クラスメイトとどこかに行けるという事実に少し心が躍っていた。


「四学期中は実務研修がない代わりに、二期生に上がる為の試験の対策に重点を置く。つまり三学期のこの実務研修が今年最後の研修だ。心して聞くように」

「え、そんな試験あるんですか? 落ちたら留年ですか!?」

「……カイ。お前は学園パンフレットをしっかり読め。留年はない、退学だ。試験の内容は個人個人が全員、独自の『ミスティックアーツ』を生み出し実演してみせる事。まぁこのクラスの人間ならば余裕だろう。少なくともユウキと一之瀬、カナメは既にそう呼べる技を持っている」

「……自分だけの技を編み出す、ですか。流派の技ではいけないんですよね」

「そうなる。まぁ今はこの話題はここまでだ。研修の内容を発表する。今回は来年度にグランディアで戦闘をする事を踏まえての予行練習もかね、人外との戦闘が予見される物となる。つまり、日本国内で発生した魔物、怨霊、クリーチャーへの殲滅作戦だ。場所は京都の山中。グランディアと通じて以来、歴史の深い神社仏閣が多い関係で魔物の発生が頻発している封鎖区画での作戦行動となる」


 え? 日本って魔物いるの? 聞いた事ないんだけど。

 待って、でも仏閣とか神社って言った? それってもしかしなくても霊じゃないの?

 え? なんでホラー? 俺嫌だよそれ。参加しないよ?


「ジェン先生、魔物ってどういうのですかね」

「そうだな、低級のアンデットや、変質した野生動物になる。一応、現地の人間により封鎖された結界の中になるが、広大な土地だ。増え過ぎると問題になるからな。今回は一部の浄化も任務に含まれている」

「先生俺ホラー無理なんでなんとかなりませんかね?」

「ならないぞ? 頑張れユウキ。全員、予め神職の人間から加護を受け取る事になる。最悪の事態は免れるから安心しろ」

「やだー! 俺絶対行かない! 絶対行かないから!」

「じゃあ退学になるな。それでいいのか?」


 嘘だろおい!? なんだよその実務研修、おかしいだろ!?

 俺を絶対脱落させるという強い意思を感じるんだが!? ちょっと理事長に抗議しないと!


「まぁ心構えはしておくように。例によって詳細は後日改めて伝える。じゃあ受講スケジュール組んでおくように。解散」


 嫌じゃ……嫌じゃ……そんな研修行きとうないのじゃ……。

 思わず変な言葉使いしちゃう……やめてくれ……。


「んだよ、ユウキお前アンデットが恐いのかよ、ガキじゃあるまいし」

「やめろ……やめろ……その口撃は俺に効く……やめてくれ」

「ちょっと意外かな。ユウキ君、恐いものなんてないと思っていたよ。前にホラー映画見てなかった? 映画館で」

「あれはイクシアさんの付き添いだから……あれめっちゃ恐かったから……」


 クラスの男子連中がここぞとばかりにいじって来る。が、我がフェイバリットフレンドカイはそんなからかいをせず――


「なんだ幽霊なんて恐いのかユウキ! あんなのただの魔力と思念の結合体だろ? 魔法の一種を恐がるってどういう事だよ!」

「うるせーチクショー! 恐いものは恐いんじゃい! 幽霊ならまだいいよ、我慢できるよ。でもゾンビとかも出てくるかもだろ!?」


 普通に笑って煽って来ました。テメェ後でぶっとばす。


「ふむ。ササハラ君の心配も尤もだな。京都の封鎖区域といえば、かつて武将や農民により滅ぼされた仏閣が集中している区域も含まれている。無縁仏、打ち捨てられた遺体も眠っている可能性もある」

「やめて! 一之瀬さん具体例出すのやめて!」


 ちくしょう、今この一瞬だけでこれまで築き上げてきた『やる時はやる実力者、次代の英雄ユウキ君』なイメージが崩れ去ってしまった!


「やだーやだー……なんか後方支援な仕事あればそれに徹したいんだけど……」

「……霊魂はプラズマにより分解出来るという説もありますわね。それを応用し、空気清浄機に除霊の機能を持たせる、という冗談めいた製品もかつて我が社で作られていましたわ。気休めかもしれないけれど、電気の魔術に秀でた私と行動してはどうかしら」


 すると救世主キョウコさんが登場した。そうする。俺もうずっとキョウコさんといる。


「な、なら私も少しなら雷の魔術が使えるよ?」

「残念、私は氷特化ですね。ユウキ君頑張って?」

「マジか。じゃあセリアさんも今回は前衛やめて後ろにいてよ。そしてコウネさん使えねぇ」

「ふんぬ!」

「痛いごめん」


 コウネさん良いパンチ持ってますね……。


「ケケケ……ユウキにこんな弱点があったなんてな。だが言われてみたら、このクラスに神官に近い適正の生徒っていないよな。日本ってそこまで信心深くないんだったか?」

「ふむ、割と宗教を信じる人間は多いが、我々の年代では少ない印象だな。一応、私は刀剣を使う祭事に携わる関係で少しは魔払い、厄除けの心得はあるが」

「え、マジで! じゃあ一之瀬さんずっと一緒にいて!」


 ここにも救世主が! そうか、一之瀬さんはサムライじゃなくてホーリーナイトだったのか! それいいね! もう全部任せちゃう!


「な……そう言われると……少し照れるな」

「あーやだなー……来月にならないで欲しいよ本当」


 とりあえず、講義の予定を組んだ俺は、予告通り理事長室へと向かいましょうか……たぶんどうにもならないかもだけど……。




「失礼します、ササハラユウキです」

『入ってください』


 もはや我が家の二階よりも来る頻度の高い理事長室。

 本日の理事長は仮面あり、そして掃除中なのかポニーテールでした。

 凄い、新鮮! でもそれどころじゃない!


「どうしたのですか? 平日に訪れるなんて」

「はい、直談判に来ました。来月の実務研修について」

「直談判……何か不都合でもありましたでしょうか……」

「大ありです。正直俺、ホラーダメなんです。お化けもゾンビも怖いです」


 もはや恥も外聞も捨てて正直に言う。頼む……せめて後方支援を……。

 しかし、理事長は仮面越しにも分かるくらい、良い笑顔を浮かべ――


「実習地の変更は出来ません。せっかく、一足早い修学旅行気分を味わってもらおうと決めた場所ですし、封鎖地域も本来日本政府の許可がなければ立ち入り出来ない場所です。今回、日本有数の霊場である富士の樹海や恐山に匹敵する歴史ある場での実習が出来るのです。ここを蹴るなんてとんでもありません」

「そ、そんな! だったらせめてバックアップとして……少し離れた場所でオペレーターみたいな事を……」

「それはキョウコさんやコウネさんにお任せします。頑張ってください、きっと今のユウキ君に近寄る霊なんていないでしょう。なにせ貴方のお母さんはイクシアさんです。親の加護は強いですから。ね?」

「そんなー!」

「……なんだかセリフを取られた気がしますね。とにかく、頑張ってください。苦手を克服し、一回り大きな姿を見せてください」

「……本当に背が伸びるとしても遠慮したいですよ……」


 ダメでした。いや分かってはいたんだけどさ……仕方ないんだろうけどさ……。


「ところで、お芋掘りの日程ですが、来週の土曜日ですよね? 近隣の幼稚園と小学校にチラシを配っておきます。定員は四〇名程を予定しておりますが……そうですね、小学生は低学年、すなわち一年生を対象にする予定ですが、敷地の広さ的に問題はありませんでしょうか? 恐らく親御さん達も訪れる事になりますが」

「あー、結構多いですね。けどまぁ空き地自体は広いですから、入りきらないようならジャガイモ畑の方に回ってもらうって手もあります。当日は秋宮の方からも人を出してもらえるんですよね?」

「ええ。幼稚園の経営も小学校の理事も秋宮の人間ですから、当然あちらの職員に協力してもらいますよ。あくまで畑の貸し出しとして、ユウキ君やイクシアさんの負担にはならないようにします」

「了解しました。イクシアさん、凄く喜んでいましたよ、子供が大勢来るかもしれないから、と」

「ふふ、それはよかった。この海上都市は一応自然を取り入れていますが、その殆どがシュヴァ学の演習目的で、一般には解放されていませんからね。都心部や海上都市に住む子供達に自然に触れる機会を設けようと思っていたんですよ」

「なるほど……あ、では話は以上です。面会、有り難うございました」

「いえいえ。そうですね、そんなに心配なら、イクシアさんに対アンデッドについてアドバイスをもらうと良いでしょう。彼女は神話時代の魔導師、何か対策もあるかもしれません」

「そうですね……了解しました。これで失礼します」




 午後の講義は相変わらず単位を少しでも稼ぎたいからとびっちりこなす事になったが、もうそろそろ停学分は取り返しただろうか。

 そして今日、久しぶりに全員の揃ったミカちゃんのところの研究室で、一之瀬さんと手合わせしていた。


「っ! ここまでにしよう。春に比べてかなり刀の扱いが上達したな、ササハラ君。強化を抑えて剣術のみで戦っているはずなのに、気が付けば私もひやりとする部分が多くなってきた」

「良いお手本が近くにいるからね。じゃあ、次回からはいよいよ強化ありでもっと本格的に手合わせしようか」

「そうだな。少々恐くもあるが……」


 いよいよ刀の扱いも、あの一之瀬さんが認めてくれるようになったところで、さらに上の手合わせをしようと提案したところだったのだが、こちらの手合わせを監督していたミカちゃんが――


「いや。ユウキと一之瀬は一先ず対人、対モンスターの訓練を中止とする。ここからは、一年の昇格試験、ミスティックアーツの開発と訓練、そしてアラリエル、セリアへの指導をメインとする。自己の力の探究と他人との開発。そこに重点を置く」

「えー! なんでだよミカちゃん。ちょっとくらい良いだろ?」

「ただ戦うだけならどこででも出来るだろう。ここにいる間、少しでも将来に繋がる指導をしたいというのが私の考えだ。一之瀬とササハラは既に戦闘面においては完成に近い部分まできている。故に、独自の技の開発と周囲への指導の経験を積ませる」

「なるほど。了解しました教官」

「んー、了解。あれ? じゃあカナメには指導しなくていいの?」

「ヨシダは既に技の開発をすませて自己研鑽に入っている。アイツの場合、そもそも対人の訓練は必要がない。プロのバトラーが学生の身分になったような物だからな」

「あー……確かに一学期の頃からカナメの相手、ミカちゃんがよくしていたっけ」


 言われてみれば。対人畑の人間だもんなぁカナメは。


「で、技の開発って具体的にはどうするん?」

「一之瀬とササハラは既に大抵の剣術は修めているだろう。独自の技、理論、術を組み合わせて一つの技を編み出す事になる。ササハラは強化に物を言わせた技が多いが……それだけではあまり良い評価は得られないだろう。少し、視点を変えて考えてみると良い。それこそ、セリアやアラリエルに指導する過程で良いヒントを得られるかもしれない。二人とも術者としての適性も高いからな」

「なるほど……」


 ということはそろそろ新しい技の再現を試す時が来たと。

 うーん……身体強化で再現出来る物結構多いけど、特殊な効果となるとなぁ。

 この間ユキとしてカイと戦った時には、それこそ限定的にだけど空間を切断なんて物が出来てしまったけど。


「ふふ、ササハラ君も悩む事があるのだな」

「そりゃあ新しい技となるとねぇ」

「ユキさんに相談してみてはどうだ? 彼女がエキシビションで見せた技、あれなんかは完全に彼女のオリジナルの技だろう」

「あ、うん。たぶん」


 いやぁ……似た技ならそれこそ我が心の師匠、青い鬼ちゃんも使っていましたが。

 って、もうユキとして使ってるならアレは使えないか……風絶もあれはほぼ魔導だしなぁ。

 組み合わせたらなにかいけるか?


「さて、じゃあ一之瀬とササハラの二人は今日はここまでだ」

「あ、ちょっとセリアさんに用事あるから少し残ります」

「分かった。ではここの片付けを任せる」


 っと、実はもう一つ用事が。いやぁ……芋ほりの手伝いでもお願いしようかと思いまして。

 幼稚園や小学校の教師も来るという話だが、絶対人手足りなさそうだし、農作業に慣れた人材が是非とも欲しいところなのだ。幸い、セリアさんの地元は農業が盛んみたいだし。

 ……しっかりバイト代支払うから手伝ってもらえないだろうか。




「え? お芋掘りのバイト? 別にいいよ」

「本当? 小さい子供とか多いけど大丈夫?」

「うん。地元に小さい子沢山いたし。そっかー懐かしいなぁお芋掘り。ねぇアラリエルはやらない?」

「パス。育ちの良い俺様は土に塗れたりはしないんだ」

「だ、そうです。私だけで大丈夫?」

「んーサトミさんにも声かけてみるかなぁ……」


 一発OKでした。さすがセリアさん。すると、同じく訓練を終えたカナメがそれを聞きつけ――


「ユウキ君、僕も良いかな? 僕の家は農家じゃないけど、農家に囲まれた田舎育ちだからね。手伝えると思うよ」

「お、マジでか。助かるよカナメ。じゃあ来週の土曜日、頼める?」

「問題ないよ。ユウキ君の家に遊びに行くのは初めてだからね、少し楽しみだよ」

「そんな楽しみにする物でもないけどな」

「ふふ、そっか。僕サツマイモが好物だから楽しみだよ。焼き芋食べたいな……掘って終わりじゃないよね? 焼き芋、やるよね?」

「どうなんだろ。山の中だし防災的に厳しいかも?」

「むぅ……魔法でどうにかならないかな、結界とかで」

「うーん、相談してみるよ」


 労働力さらにゲット! そうか、カナメも地元、一緒だったもんな俺と。

 なんだかそんなイメージ湧かないくらい線の細い都会っ子に見えるけど。


 労働力の確保にほくほくしながら、訓練帰りに軽く飲み物でも買おうと食堂へと向かう。

 残念、イクシア印の魔剤は我が家の冷蔵庫から遂に品切れになってしまったのである。

 すでに夕方も近く、さすがに夕食を提供する事のない食堂は、この時間はがらりと空いている。

 何故か食堂にしか自販機のないので、一先ず俺は『おい、お茶飲めよ』というやや喧嘩腰な商品名のそれを購入し、席に座り一息つく。


「焼き芋ねぇ……そういえば東北のどっかで芋煮会とかもあったよなぁ……」

「なんですか? その素敵な響きの会は。どういった集会なんです?」

「うわ出た」


 神出鬼没。食べ物の陰ある所に彼女アリ。いつの間にか隣にいた人物が突然話しかけてきたが……確認するまでもなくそれはコウネさんだった。

 サークルの帰りだろうか? 少し顔が赤くお疲れ気味だ。そして案の定、スポーツドリンクを『両手』に持っていた。つまり二本飲むと?


「どういう会なんです? いつどこでやるんです?」

「いやただの独り言だってば。東北のどこかで、そういう行事があるってだけ。何十人分も作れる巨大な鍋で、芋を使った鍋料理を作ってみんなで食べるんだってさ」

「なんということでしょう! そんな夢のようなイベントが!?」

「……とりあえずもし興味があるなら調べてみるといいよ」

「ええ、是非。ところで……何故一人でそんな話を? もしかして芋煮会に行くのですか?」

「いや、家の畑を貸し出して、近くの小さい子供の為に芋掘りの体験をさせる事になってさ。その事考えてた」

「まぁ……私も行ってもいいですか?」

「……ダメって言っても来るよね? でも当日子供達と一緒に芋掘りしたり、雑用したりする事になるよ? それでもいいの?」


 もう最近あまり意識していないが、この人大のつく貴族令嬢なんだよなぁ……。

 この間のエキシビションでご両親とユキとして話したけど……間違いなく理事長と対等か、それ以上の権力者っぽいんだよなぁ……その令嬢を畑仕事に駆り出すって……。


「? 別に構いませんけれど? それで、いつやるんです? 当日は何か料理をするんですか? 私、スイートポテトや地球の『大学イモ』なら作る事が出来ますよ?」

「マジでか。俺大学イモ好きなんだよなぁ……んじゃあ、手伝いお願いしてもいい?」

「勿論です。ふふ……お芋掘りなんて幼いころ以来ですね、楽しみです」

「へぇ、したことあるんだね」

「ええ。我が家は貴族としての政務の一環で、農村地帯を幾つも治めているんです。そこで、昔一度だけお手伝いをした事があるんですよ?」

「へぇー、コウネさんの家っていろいろ手広くやってるんだね? なんか『剣帝シェザード』とか文化祭の時に紹介もされていたけど」

「そうですねぇ、長年我が家は剣士を輩出しておりますから。私の父上も、若いころは公国の騎士団長を務めていた程ですから」

「マジでか!」


 あの親ばかっぷりを発揮していたおじさんが騎士団長とは……。


「ふふ、楽しみですねぇ。じゃあ私はこれにて失礼しますね。ふふふ……来月の実務研修も楽しみですね?」

「思い出させんな! くっそー……お守りとかいっぱい持って行くわ……」


 くそう、下手したら卒業までいじられそうだぞこれ……。

 そんな話題を最後の最後にしてくれやがったので、一人暗くなりつつある食堂に留まるのが嫌になる。急いで帰ろう、ちょっとこれは由々しき問題だ。




「――とまぁ、最低三人の労働力を確保した次第です。サトミさんはどうしようかな、もしかしたら忙しいかもだけど」

「そうですね……地球とグランディアの行き来は大変でしょうし……それでも、連絡を入れておいてはどうでしょう」

「そうします」


 帰宅後、早速芋掘りの相談をしてみる。どうやら彼女は……本気で昨日今日とで、山の中の野生動物に一種の暗示? のようなものをかけてきたららしい。凄い執念だ……。


「で、焼き芋……火を使うイベントも出来ないかと思ったんですけど」

「なるほど……山の中ですし、しっかりと炎を結界で覆う事になりますが、可能ですね。これなら子供の事故も木々に燃え移る事もないでしょう。明日、リョウカさんに提案してみます」

「分かりました。それで……ちょっと話が変わるんですけど――」


 さぁ今日の本題。対アンデッドの秘密兵器みたいなものはないでしょうか。

 来月の実務研修の内容と、そして既に知っているとは思うが、ホラーがダメな俺に対する対策はないかという、必死の問い。さぁ、なんと答えてくれますか!?


「簡単なことではありませんか。私がついていきますよ。私が一緒です、お母さんと一緒です。全然怖くないでしょう?」

「……割と本気で言ってますよねそれ。ダメに決まっているでしょう……」

「ダメですか? となると……やはりユウキが自分でアンデッドを散らす力を身に着けるか、強力な護符を持たせるしかありませんが……」

「それ! その強力な護符っていうのをお願いしても良いですか!? イクシアさんが作ってくれたら、きっと俺の事をしっかり守ってくれそうで安心出来ます!」

「むぅ……私が一緒の方が簡単ではありますが、分かりました。来月までに護符、用意しておきますね」


 よかった、安心とまではいかないけど少し気持ちが軽くなった。

 それにしてもなんで俺が係わると途端に……言葉は悪いけど……若干ポンコツ気味になるんですかイクシアさん……。

 そりゃ俺だって一緒にいてくれたら安心ですよ? でもどう考えてもそれは無しでしょう……。


「ふぅ……じゃあ俺はちょっとサトミさんに連絡してきますね」

「分かりました。じゃあそろそろご飯の用意をしますね? 今日はBBチャンネルでまた郷土料理が特集されていましたので、それを作ってみます」

「おー。最近どんどん料理が上手になっていますよね」

「ふふ、そう言って貰えてうれしいです。少し待っていてくださいね」


 ああ……今この瞬間の幸福感。これがいつまでも続けばいいのに……。

 なーんでこの世界はオカルトがそのまんま実在するんだよ本当……。


 こうして、俺にとってやや試練となりそうな三学期が始まりを告げたのだった。


(´・ω・`)五章はこれにて終了です

また、来月より暇人魔王の書籍化作業が始まる為、次章の投稿は遅れる見通しです

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