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第五十八話

(´・ω・`)本日の分投下開始です

「では、行ってきますイクシアさん」

「少し顔色が悪いですね……緊張しているのですか?」

「ですね……初めてではないですけど、知り合いのいない中で海外ですから」

「今回は船には乗らないのですよね? 良いですか、もし飛行機が落ちそうになったら、しっかりと機内の指示に従うのですよ? ユウキは風の魔法が使えますから……そうです、滑空の魔法を今度教えます。少し難しいですけれど……」

「大丈夫です、飛行機は落ちません!」


 緊張の理由は護衛対象の所為です……けど内緒なんです。


「ユウキ、戻って来るのは来週ですよね。学園の始まる前ですし、必要な物があれば連絡してくださいね? 私が買っておきます。そして、しっかり毎晩寝る前には連絡をしてくださいね? 時差はありますけど、ユウキからの電話ならいつでも出ますから」

「わ、分かりました……では行ってきます」


 やはり過保護なイクシアさんに見送られ、学園に来ている迎えの車に乗り込むのだった。

 空港で一緒の護衛官さんと顔合わせの後飛行機で移動……羽田空港でいよいよ護衛対象の二人と顔合わせか……うー胃が痛い!




 そうして空港で、早速俺は共に任務に就く護衛官さんと顔を合わせる事になった。


「初めまして。海上都市特捜部護衛官の『リズ・スカーレット』です。貴方がササハラユウキ君で間違いないかしら」


 そして待っていたのは、意外にも純日本人ではなさそうな、金髪に青い瞳をした、少し恐いと思ってしまうような、キビキビとしたお姉さんだった。……雰囲気的にはニシダ主任に少し似てるかも。


「初めまして、ササハラユウキです。今日から宜しくお願いします」

「ええ、宜しく。任務概要は既に聞いているわね。詳しくは機内で。政府専用機だから他の乗客はいないわ、安心して。大体一〇分程度で護衛対象の二人と合流する事になるわ」

「分かりました」


 さすがの速さである。凄いなぁ……ハワイ行くときも思ったけど、交通の便が良すぎる。まるで世界が縮まったかのようだよ本当。いつか旅行に行きたい。

 機内に移動すると、民間機とは違い、普通に応接間のような空間が広がり、なんだか場違いな気がしてきてしまう。俺、洋画でこういうの見た事ある……!


「ふぅ。海上都市の空港内も基本的に政府関係者しかいないのだけど、人の目もあるものね。改めて今回の任務、一緒に頑張りましょう、若き英雄クン」

「出来ればなにも起きないでいてくれると良いんですけど……首相と海外のお偉いさんが護衛対象とか昨日知った身なので……」

「そうなのね。まぁ、基本は移動だけよ。首相達と無理に話す必要もないのだし。ただ、聞かれた事には出来るだけ答えてあげて頂戴ね。今回、民間人の貴方が同行を許されているのは、ひとえにその知名度と実力によるところが大きいのだから。恐らく興味津々よ」

「う、肝に銘じておきます……」

「さ、じゃあ着替えて頂戴。荷物は既に預かっているのだけど、警護官としての制服も支給されているわ。ドレッサーは向こう」


 段々と緊張感が増してきました! そして制服に袖を通し、いよいよそれがピークに差し掛かろうとしたところで、飛行機が高度を下げ始めたのであった。




 羽田空港に降り立ち、すぐさまリズさんに連れられ外へ出ると、そのままリズさんはタラップの横に直立不動で待機をし始め、俺もそれに続く。

 するとすぐ近くまで車が近づいたかと思うと……ついに、黒い背広姿の、ニュースで見た事のある、俺とは一生無縁だろうな、と思って来た……国のトップが降り立ったのであった。


「チョウ主席、どうぞお先に」

「これは感謝しますカシマ首相。ふむ……もしや、君がササハラ君かね?」


 うわ、ヤベエ話しかけられた。


「おお、君が噂のササハラ君か。今回はよろしく頼むよ」

「はい。ササハラユウキです。まだ学生の身ではありますが、御身をお守りする為全力を尽くす所存です」

「なるほど、良い若者だ。まったく、我が国にもシュヴァインのような教育機関を設立したいものだよ」

「では、中で少し話そう。お先に失礼するよ」


 胃が痛い。っていうか主席さんって日本語話せるのか……。


「さぁ、私達も乗り込むわよ。飛行機の確認が済み次第離陸するわ」

「はい……」

「災難ね、貴方も。目的地まで六時間のフライトよ、頑張って頂戴」

「はい……その間の休憩はやっぱり……」

「ないわね。交代で座っての警護になるわ。大丈夫?」

「体力的には」


 その時間、どうか話しかけられませんように!




「そうか、東北からこちらに引っ越したのか。中々生活環境の変化は大変だろうに」

「い、いえ。秋宮の総帥さんが便宜を図ってくれましたので、それほどではありません」

「そうか、彼女が……。君は誰かに師事していたのかね? 中々非凡な才能を秘めていると話題だよ」

「亡くなった祖父に少々剣術を。ですが基本は我流となります」

「ふむ、私も質問していいかね? 君の卒業後の進路などは聞いてもよいかね?」


 めっちゃ話しかけてくるやん!!!


「卒業後は秋宮で働く事も視野に入れていますが、はっきりと決まった進路はまだありませんね。出来れば、養母と共に過ごせる職に就きたいと考えています」

「なるほど。ふふ、もっといろいろ聞きたいところだが、これ以上はやめておこう」

「そうですな。ただ――最後にもう一つ。君は、秋宮の生徒であり、同時に石崎財閥の人間にも深い関りを持っている。その立場にもしも苦しむ事があれば、ここに連絡してくれたまえ。いつでも、待っているよ」


 ……なんだろう、今の俺ってそんな面倒そうな、それこそ首相が連絡先を渡すような立場なのだろうか……。

 そうして六時間。時折他愛のない質問に応じながら、現地時間の午後二時、初めてのオーストラリア大陸に到着したのだった。




「お疲れ様、ササハラ君。この後はホテルに移動、今日一日は中で過ごしてもらうわ。警戒態勢にあるけれど、とりあえず一息ついて頂戴。ただし、建物外へ出る事は禁止されているわ」

「了解しました。では今日はこの後自由行動……ホテル内限定なら、って事ですか?」

「そうなるわね。ただ、貴方を見ている人間だっている。くれぐれも節度を持って動く事。それと……たぶん必要ないけれど、通訳の必要があるなら私を尋ねて。隣の部屋だから」


 移動用の車内。護衛対象の二人とは別の車内で、リズさんにこの後の予定を聞かされる。

 なお、道中の危険もある為、しっかり首相達の車の後ろに張り付いての移動となっております。


「……災難だったわね、本当。けど貴方……本当にただの一般人なのね。特別な訓練を受けている訳でもなくて。心労、お察しするわ」

「え、ええ……本当にただの学生ですよ、俺は」

「ただ強すぎる力を持っている、ね。今日はこの後しっかり休みなさい。ほら、横になってもいいのよ、他の目もないのだから」

「運転手さんの目がありますので」

「これ向こうからは見えないようになってるから。周囲の監視は私に任せなさい」

「や、しっかり仕事はします。ホテルまでどれくらいです?」

「一時間ってところかしらね。日本とは土地の広さが違うのよ。空港から都市部までの距離もそれなりにあるのよ」


 なるほど、と感じながら周囲を見回す。

 そこで気が付いたのだが……結構日本語の看板が多い?

 もしかしてそういう土地なのだろうか? チャイナタウンみたいなノリで。


「グランディアでの使用言語はその殆どが日本語と酷似している。その関係で、グラディアと交流が深い国では日本語の識字率も使用率も高いのよ? 割と常識じゃない?」

「あ、そうでしたね……」


 その辺は初耳ですが、たぶん俺が元々は別な世界にいたからなんですかね。

 そうか……だから翻訳は必要ないって話なのか。

 そうして、やや間違った使い方の日本語の看板などを眺めながら、問題なくホテルに到着。

 首相達はそのまま打ち合わせがあるからと専用のフロアへと向かい、俺は用意された自室にて横になるのだった。

 そっか、オーストラリアって日本と時差が一時間程度しかないのか……これならハワイよりはマシかな、身体の疲れは。


「いやぁ……こういう任務とかこれで最後にして欲しいなぁ……ノルン様も偉いんだろうけど、異世界の人だからまだ実感がわかないというか気持ちが楽と言うか……」


 さすがに自国、そしてお隣さんのトップと同じ空間にいて平気な程一般人やめていませんので。あー疲れた……本番は明日からなのにすっげー疲れた……。

 ベッドで伸びていると、室内にノック音が響く。


「はい、どちら様ですか?」

『ごめんなさい、リズよ。少し話せるかしら』


 なんじゃらほい。ユウキ君は絶賛お昼寝モードだったのですが。


「失礼するわね。休むところだったのかしら?」

「大丈夫ですよ、ただのんびりしてただけですから」


 制服から私服に着替え、幾分恐そうなイメージが薄れたリズさんがそこにいた。

 ……なんていうんだろう、理事長とはまた違った迫力がある。美人? いや、なんだろう? こう、近づきがたい美女オーラというか……セレブっぽいというか……。


「入ってもいいかしら?」

「あ、どうぞ」


 リズさんはベッドに腰かけると、そのままこちらを手招きする。

 ふむ?


「よし確保。貴方やっぱり小さいわ。資料で見たよりも小さい。本当に一八歳なの? 可愛いわね、少し抱かせて」

「どわ!? やめてください、ちょっとなんなんですか!」

「お仕事モードはオフよ。本当に可愛いわ、このまま押し倒しちゃおうかしら」

「やめてくださいってば! 本気出しますよ!?」

「それはやめて、はい解放。冗談よ、ちょっと我慢していたのは本当だけど」


 え、なにこの人恐……目がマジだ。完全に獲物を狙う獣の目だ、野獣の眼光だ……。


「正直ちょっと反対だったのよ。いくらシュヴァ学の生徒とはいえ、一八の子をこんな任務につけるのは。それが更にこんなに可愛いんだもの、心配しちゃうわけよ。元々日本人、アジア人は童顔が多いとは思うのだけど……貴方相当よ? 本当は飛び級だったりしない?」

「あんまり人のコンプレックスを刺激せんでください……セクハラで訴えますよ」

「だからごめんなさい。でも本当可愛い……ねぇ、貴方戦えるの? 実戦のデータは回されてこないのよ、こっちには。春先の事件は知っているけれど」

「じゃあ……腕相撲でもします? たぶん両手使おうが体重かけようが勝てませんよ」

「あら、言ったわね? じゃあはい、手出して」


 なんともエキセントリックなテンションのリズさんとテーブルを挟み、いざ勝負。

 背か? やっぱり背か?


「ああ……手も柔らかい……」

「ムニムニせんでください。じゃあレディ……」

「ストップ。景品つけましょう景品。私が勝ったら膝枕させて頂戴」

「んじゃ俺が勝ったら昼飯おごってください。ルームサービスにオージービーフのTボーンステーキっていうのがあったのでそれ食べたいです」

「ふふ、いいわよ。じゃあ……レディゴ!」


 やたら短くて不意打ち的な掛け声と同時に力が加わる。

 うわ、卑怯過ぎないこの人!? 初対面の時の印象と一八〇度印象がかわったんですけど!


「うそ……全然動かない……ふぬ!」

「両腕使っても無理でしょう?」

「ど、どうしてよ! この! この!」


 ついに立ち上がり全力で身体を倒してきますが、余裕です。

 ふはははは! これが俺の実力なのだよ! 普段同じクラスの人間としか戦ったりしないけど、これが現状の俺の力なんだよなぁ。


「膝! 枕! させ! ろ! くぬ! この! この!」

「んじゃステーキごちでーす」


 ふんぬ。身体ごと引き倒させて頂きました。


「ぐー! 本当に強いのね貴方……なによ、年上は嫌いなの?」

「いや大好きですが。ただセクハラしてくる人はのーせんきゅーなので」

「じゃあランチでも一緒して親睦を深めましょう。今ルームサービスを頼むわ」


 いやぁ……本性隠す大人って恐いわー……首相よりも主席さんよりも恐いわー。

 ちょっと身の危険感じちゃったよ。








「そろそろ周囲の木々や葉も色づいてきましたね……」


 ユウキを見送り、日課の畑仕事を済ませながら周囲を見渡し、時の流れの速さをひしひしと感じる。

 早い物です。春先に畑を作り始めてから、もうこんなに時間がたっていたんですね。

 収獲の終えた夏野菜の枝を刈り取り、整地する。そして土のコンディションを整える為の薬を蒔き、一息ついた。


「今回は六日間でしたか……オーストラリアってどこにあるのでしょう」


 私は家に戻り、作業服から着替え、一先ず買い物に出かけるべく、シンビョウ町へと向かうのだった。




「あらイクシアさん! ご無沙汰していますー。あまり学校の行事でお見掛けしないのだけど……もしかしてうちの子と違う学校だったのかしら」

「伊藤さん。お久しぶりです。そうですね、どうやら違う学校だったようです。思いのほか、本土の沿岸近くには学校も多いみたいですね」

「そうよねぇ……正直子供の進路の事でこんなに早く悩む事になるとは思わなかったわねー」


 裏町へ向かうと、最近予定が合わずお茶をする事が出来ない、ママ友である伊藤さんと行き会いました。

 なるほど、彼女やそのご友人達のお子さんとユウキは別な学校だったのですね。

 ユウキのお友達が増えると思っていたのですが……。


「ところで、そちらの学校も秋休みがあるのかしら」

「あ、ありますよ。今日からお休みです」

「まぁ、そうなのね。うちは明日からかしら。ところで……お子さんはお留守番かしら?」


 留守番ではありませんが……そうですね、確かあまり口外してはならないということですし……。


「ええと、学校の行事で一週間程外泊になりますね」

「まぁ一週間も!? 心配ではないかしら……?」

「心配です、本当に。信頼出来る相手の引率とはいえ……」

「そう……もしかして……ああ、低学年の少年少女自然の家研修かしら? 確かそんなイベントに参加しないかってチラシ、うちの学校にもきていたわね……」


 よかった、ごまかせましたね。ふむふむ……色々な行事があるのですね、学校というものは。ユウキのところにはないみたいですが、少し前に『ウンドウカイ』という行事もあったそうです。私も、ユウキの為に大きなお弁当を持って応援にいきたかったのですが……もしかして先日のエキシビションマッチがその一環だったのでしょうか。


「さて、じゃあ一緒にスーパーまで行きましょう。今日は冷凍の魚介が安いそうよ」

「ふふ、わかりました。行きましょうか」


 ああ、早く帰ってきてくださいユウキ。冷凍のシーフード沢山買っておきますからね、帰って来たらシーフードグラタンです。






 自分で認めるのは非常に癪だが……あくまで、あくまで仮にこの女性をジャンル分けするとしたら、もしかしたら俺がそういう存在にカテゴライズされるのかもしれない。

 そう、つまり……。


「ふふふ、美味しい? 緊張してる?」

「あの……人の食事風景そんなにまじまじと見られると食べにくいんですけど」

「だって、可愛いんですもの。こんな大きなお肉に、夢中でかぶりつくなんて」


 そう……このリズさんは……間違いなくショタコンだ。って誰がショタだ!


「本当、正直一八のガキなんかと一緒だなんて、変に調子に乗ったヤツなら嫌だなって思っていたのよ。でも貴方なら歓迎よ……どうしてそんなに髪の毛が細くてさらさらなのかしら。それに華奢だし……さっき腕相撲で負けたのがまだ信じられないわ」

「……リズさんはお昼食べないんですか」

「もうある意味お腹いっぱいよ。そうね、夜に立食会があるから、その時に。一応、大臣の秘書官としてのカモフラージュもかねて選ばれたのよ、私」

「ああ、いかにも外交向けの美人秘書って感じですもんね」

「あら嬉しい。美人だなんて。ちなみにユウキ君は制服のまま大臣じゃなくてチョウ主席の傍にいて貰うわ。今夜、グランディア側からの特使が到着するから、その交流会もかねているの」

「へぇ……って任務に関係ある大事な話なんじゃないですか。もっと早く言ってくださいよ」

「ふふ、どうせただの食事だもの。そうね、相手方の護衛にも向こうの学生がついているわ。学生同士で交流でも深めたらどうかしら?」

「向こうも学生って……そんなに人材不足なんですか、向こうも」


 大人の護衛ってそんなにいないんですかね?


「なにを言っているの? 地球と違って向こうの若い子なんて、みんな大人顔負けの強さを持っているわ。特に護衛に選ばれるようなエリートだもの」

「へー……そういやうちの学園でもグランディア出身の生徒ってSSかSクラスにしかいなかったような……」


 リィク君とかもそうだったし、コウネさんやセリアさん、アラリエルだってそうだ。

 やっぱり地球よりも戦いが身近なのかねー。というか歴史が違い過ぎるのか。


「本当、美味しそうに食べるわね。そんな分厚いステーキ、夜ご飯食べられなくならない?」

「こう見えて育ちざかりなんで。若者の胃袋なんてこんなもんですよ。あー美味しい……」

「ふふ、そう。もう少し見ていたいけど、夜の衣装選びもあるから私は失礼するわね。また、夜に」

「はいはい。あんまりセクハラしないでくださいよ。普通にチクりますよ、理事長含めて上の人間全員に」

「……黙っていてくれたらいい事してあげるわよ?」

「うわ……」

「ドン引きしないでよ、冗談よ。じゃあねユウキ君」


 …………いや美人だけどさ、性格に難があり過ぎるでしょう。

 そうして俺は、食べ応え抜群のステーキをたいらげ、シャワーを浴びてから仮眠を取るのであった。




 部屋の電話コールに目を覚ます。急ぎ受話器を取ると、リズさんからだった。


『そろそろ身支度しておいて。会場へ向かうわよ』

「了解です」


 急ぎ着替えて部屋の外へ向かうと、リズさんがまるで『これからちょっと社交界でてっぺんとってくるわ』と言わんばかりの、気合の入った淡い金色のイヴニングドレスを身に纏い、ばっちりメイクを施した状態で待ち構えていた。

 そうか……総理つきともなるとこのレベルが必要なのか……。

 チョウ主席ごめんなさい、付き添いが俺で。ただの警察が支給した制服でごめんなさい。


「どうしましたか、ユウキ君。では二七階の総理達の控室へ向かうわよ。その後、一緒に三〇階の大広間へ向かうわ。会場の警備はこちらの方が用意した人間が一二名、グランディア側が用意した七名。そして護衛の人間が私達を含めて四名よ」

「あ、はい。じゃあ行きましょう」


 いきなり仕事モードすぎて頭がついていかない。さっきまでショタコンお姉さんだったじゃん……女の人って恐いわぁ……。

 そして控室で、いよいよ本格的に夜会用に着替えた一国の主二人と面会する。

 うわぁ……俺ニュースでこういう場面見た事ある……まさかその場に俺がいることになるなんて。


「ミスタササハラ。会場では宜しくお願いするよ。我が国の人間も警備に入っているが、なにかあった際には頼らせて貰おう」

「は、了解しましたチョウ主席」

「ふふ、もう少しリラックスなさい。リズ君のように、ね」

「……はい。すみません、ちょっと口調を崩して感想を言わせて頂きます……あの人はもうこの夜会の正式なゲストにしか見えないので参考にならないです……」

「くく、そうだな。まったく、総理が少し羨ましい。とんでもない美女だ」


 でも俺に言わせたらイクシアさんの方が美人だね! ああいうドレス着て化粧をしたら、きっとイクシアさんの方がうんと綺麗に決まっている!

 そうして、会場へと移動した俺達は、物静かだが確かに感じる喧噪、矛盾した空気が満ちたその大広間へと足を踏み入れた。


「……凄い」

「ふふ、そうだね。こちらの国としても、色々とアピールしておきたいのだろう。ゲートから近い大陸でありながら、我が国をもしのぐ国土を誇り、さらにエアーズロックという地球最大級の霊場をも持っている。正直、霊場に関してならば我が国も負けていないがね、いかんせん位置が悪い」

「霊場……確かに中国ってそういう方面の歴史も古そうですもんね。陰陽うんぬんも元を正せばそちらの国から伝わった物ですし。仙人、仙術という概念もそちらが発祥でしょう? グランディアとの邂逅以前の地球において、神秘、呪術的な力の発展具合を見たら、抜きんでた物があると思います」


 ほら、それこそ久々にゲーム的思考ってヤツです。そうだよなぁ……元いた世界でも、そういう神秘性ってなると中国って強いもんなぁ。イギリスもなんだかそういうの強そうなイメージもあるけど。日本もそうだけど……どっちかというとオカルトとかお侍の色が強いイメージだ。

 ……って、なに一国の代表に向かって語ってんだ俺!!!


「ほう、中々そういった古代呪術の知識にも通じているのだね。本当に惜しい……そこまで我が国の強みを理解した若者が現代にいるとは……まぁ、正直に言うならば、まだ完全にこの国に地球における魔力の源としてのポジションを譲る気はないよ。それこそ、日本こそが現状グランディア相手にリーダーシップを取っている。だが……国土が少ない。だから私達中国がそちらと手を組むと言っているのだよ。霊場の土地なら余っている程だ」

「……そういう、ことでしたか」


 なんか上機嫌になったので結果オーライです。

 けどなるほどなぁ……地球元来の霊場かぁ……。日本だと……京都とか? 富士山とか? ダメだ思いつかない。地元の心霊スポットくらいしか浮かばない!


「さて、主賓がやってきた。私も向かうとしよう。ついてきなさい」

「はい」


 そうして、新たに会場に入って来た……エルフの一団へと向かい近づいていく。

 丁度、リズさんと総理が挨拶をおこなっており、それに続き……たぶんオーストラリアの偉い人? が挨拶をしている。そして、チョウ主席がそれに続く。


「こんばんは、お初にお目にかかります『セシリア・アークライト』様。私、中華人民――」


 どうやら、向かう方の代表は女性のようだった。

 ノルン様に少し似ているが、外見上はもう五、六歳くらい上の……早い話がイクシアさんより二歳程上のような……正直かなり似ている、けれどもどこか近づきがたいオーラを纏ったような女性だ。


「初めましてチョウ主席。それに……随分と可愛らしい子供をつれていますのね。お子さんでしょうか」

「いえ、こちらは私の護衛です」

「あら、そうなの? 子供にしか見えないけれど……ふふ」


 そう言いながら、セシリアと呼ばれた女性は……どこかチョウ主席と俺に憐れむような瞳を向けながら小さく笑う。

 ちょっと撤回するわ。ぜんっぜんイクシアさんに似ていない。全然微塵も似ていない。


「それにしても……豪州との会談のつもりでしたのに、何故か他の国の代表が二人も。なんだか少し驚いてしまいましたわ」

「ははは、それは申し訳ない。なに、私はこの世界の一員として、見届けたいだけですよ、今回の会談を」

「ふふ、そう。ねぇアナタ。少し喉が渇いたのだけど、何か飲み物を持ってきてくださらない?」


 するとその時、セシリアなる現在俺の心象を下げまくっている人物に飲み物を持ってこいと言われてしまう。

 ……どう返すのが正解だ、これ。


「申し訳ありません。護衛として、主席のお傍を離れるわけには……」

「問題ないわ。私の護衛がついているもの。紹介しますわチョウ主席。私の護衛の『レオン・ネイルディア』です。我々の世界の教育機関『ラッハール高等騎士養成学園』の期待の新入生ですわ」

「ご紹介にあずかりました。レオンと申します。有事の際には私も動きますので、どうぞご安心下さい、主席様」


 ……もう勝手に感じが悪いヤツって認定していいですか。いやこの女性のせいであってレオン君? にはなんの非もないけど。

 ……レオン? なんかどっかで聞いた覚えがあるような。


「……ササハラ君、すまないが彼女に飲み物を持ってきてくれたまえ」

「……了解しました」


 仕方ない。俺は近くの給仕さんから、とりあえずアルコールの入っていない、マスカットジュースみたいなのを受け取って来る。


「お持ちしました、セシリア様」

「ふふ、ありがとう。……なるほど、確かに護衛の人間なのね、アナタも」

「……は」

「チョウ主席、よい護衛をお持ちですわね? ふふ……」

「……知っておいでですか、セシリア様」


 ジュースを受け取ったセシリアさんがそんな事を口にする。

 あれか、前の使節団の一件を知っているのだろうか。

 それについて主席は尋ねてみている。


「なんのことかしら? ただ、この子の魔力の質の話をしただけですわ。ふふ、質だけでしたら、レオンよりも上かもしれませんわね。将来が楽しみ」

「そう、でしたか。実はこの少年は、五か月程前にそちらの国からの使節団が日本を訪れた際、命を救った少年なのです。生憎、我が国の人間ではなく日本人なのですよ」

「使節団……ああ、あの者達ね。第二王女とそのとりまき」


 まるで取るに足らない存在であるかのように言う。なんだこの人……まさかノルン様よりも偉かったりするのだろうか……?


「そう、貴方があの者達の命を拾ったのね。面白いわね、こんな子供なのに。貴方、幾つ? 興味があるなら私の国の学校に通う気はないかしら? 中等部くらいかしらね、いまの内から育て上げれば、それなりの仕上がりになりそう」

「……申し出はありがたいのですが、今年で一八になります」


 もうマジで失礼すぎない!? 失礼っていうかこっちの地雷踏み抜きすぎじゃない!?


「まぁ! ではレオンと同じ年なのね。ごめんなさいね」

「……言われ慣れています」

「ふふ、そういう事ならレオン。この子と少し話してきなさい。護衛なら他の者がいるわ。少しでも他世界の人間と交流を深めておきなさい」

「は、了解しました。それでは、少し離れておきます」


 そう言いながら会場の端のほうに移動するレオン君。そして主席もまた、軽く頷き俺にそれに続くようにと指示を出す。

 ええ……こう見えて人見知りするタイプなのでやだなー僕。

 嘘です。なんか合わなさそうなので関わりたくないです。

 だがそういう訳にも行かず、会場の端に移動した彼の元へと向かうのだった。

 なーんかどっかで見た事あるんだよなぁ……この青年。


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