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第四話

(´・ω・`)今回は書き溜めた一章分を毎日投稿、それが尽きたらまた暫く書き溜めて連日投稿にします

 全校生徒が集められた、未だ冷房が完備されていない体育館で、全開にされた窓から蝉の声が鳴り響く。

 体育館、別な場所にあったんですね。俺はてっきりあの訓練場を使うものだとばかり思っていました。

 という訳で終業式。前期の終わりを迎えたわけだが、同時にこの日は期末テストの返却日でもある。

 俺? ここ一カ月以上すごい勤勉な生徒でしたから。それに勉強の内容が面白いので割と余裕だったりします。

 だがしかし、元の世界と同じ国語や数学の成績は平均よりちょっと高い程度でした。総合で見れば良い方なのだが。


 そして、問題の成績順位発表。正直このシステムはある意味晒し上げのようでどうかと思うのだが、とりあえず今回も我らの学力的なカーストが決まる悪魔の儀式が始まっていた。

 張り出されている犠牲者一覧に目を通していくと――


「ショウスケすげぇな、学年一位じゃん」

「まぁいつも通りだな。だが教科別で見れば、戦術学は座学、実技考査ともにお前に負けているじゃないか。ふむ……数学と国語の成績に自信がないというのは本当だったか」

「絶賛勉強中だよちくしょう」

「ふむ? 受験には使わないのにか?」

「は? 嘘マジで?」

「ああ。大学ならまだしも、訓練校には使わないだろう? いや、場所によっては最低限の基礎知識は求められるが……さすがにこの高校に通える人間なら問題ないぞ?」


 嘘やん! 最近訓練の時間減らしてまで参考書見ながら問題集必死こいて解いてたんだが!?

 なんだよ、そういうの誰も教えてくれなかったじゃん! そうだよそれくらい常識なんでしょうね! ……まだ暫くはこういう事、起こりそうだなぁ……。


「ユウキ、ちょっといいか? 生徒指導室まで来てくれ」


 するとその時、担任の先生からお呼びがかかる。もしかして東京行きの事だろうか?


「先生。またユウキが何かしでかしたのでしょうか?」

「またってなんだよ。違いますよね? 俺怒られるわけじゃないですよね?」

「ははは、心配するな。コイツの東京行きについての話だ。しかし、最近ショウスケと一緒にいる事が多いからか、ユウキの成績がグングン伸びているぞ。先生、てっきりショウスケも東京行きを考えているとばかり思っていたが」

「いえ、俺ではまだまだ通用しませんよ。座学の成績には自信がありますが、それ以外ではまだまだです。ただ……いつか都心、いえ、グランディアに携わる職に就きたいとは考えています」

「ん、そうか。俺も三年生は何度か受け持ってきたが……ショウスケ、ユウキ。お前達二人はその中でも印象的だ。依怙贔屓みたいで気が引けるが……期待、しているからな」

「うぇープレッシャーかけんなよ先生。これで俺、召喚で皮のズボンとか引き当てたら帰ってきづらいじゃないっすか」

「くく、その時はその時だろう。先生、有り難う御座います。では、俺はこれで失礼します」

「ああ。夏休み中、くれぐれも事故に気を付けるんだぞ」


 先生に連れられ生徒指導室へと向かうと、予想通りサトミさんがいた。

 やはり、東京行きの話だろう。


「遅れてすまないなヨシカゲ。じゃあ夏休み中の予定をこれから話すから聞いてくれ」

「はい、先生」


 俺はてっきり、東京に行ったその日に召喚実験を行い、一日か二日自由行動をとった後で帰還、なんて短期間のスケジュールを予想していたのだが……どうやら違うらしい。


「召喚実験は全国から推薦された学生、それに有償で以前から予約していた人間も来る都合、いつ順番が周るか分からないんだ。一応地方から来た学生という事で優先されるとは思うが、二、三日は変動するかもしれないから、一週間は向こうで過ごしてもらう事になるぞ」

「マジっすか。ホテル代とかどうなるんです?」

「安心しろ、学校が出す。国からも補助が出ているはずだから……たぶん先生が教育委員会の集まりとかで泊まるようなホテルより豪華なはずだぞ」


 うっひょマジで! あれか、五つ星とかそういうヤツですかね!?

 美味い飯とか食えるかな? お金持ちのお姉さんとの出会いとか期待して良いんですかね?


「それで引率の人間についてなんだが」

「あ、先生がついてくるんですか? それとも私の担任の先生でしょうか?」


 あ、そうだった。そうだよな、あくまで学業の延長線上なんだから引率、いるよね。

 うーむ、お姉さんとの出会いがなくとも、サトミさんと仲良くなれるかも、なんて考えていた訳だが。

 いや、別に他意はないんです。異性の友達ってなんか憧れるし。


「いや、先生達は夏休み中も仕事が多くてな……今回は研究所の関係者……まぁ秋宮カンパニーの職員さんが引率してくれることになっているんだ」

「うわ、また出た秋宮カンパニー!」

「うわって……術式の研究は秋宮財閥が多額の出資をしているんだ、当たり前だろ? 今回の引率だって、秋宮傘下の訓練施設の職員さんだぞ? ユウキ、最近よく利用してるんだってな? あそこ」

「……あそこも秋宮だったのか……もう日本牛耳るとか余裕なんじゃないっすかね?」

「ははは、確かにな。じゃあ詳しいスケジュールはこのしおりに書いてあるから、しっかり目を通して準備をしておいてくれ。先生からは以上だが、何か質問はあるか?」


 こちらは特になし。チラリとしおりに目を通してみたが、特に気になるところはない。

 するとサトミさんが声を上げる。


「あの、召喚の順番が来るまでの間は自由行動になるんでしょうか……?」

「そうだな、引率の方が一緒なら出掛けても構わないぞ。ちゃんと相談する事」

「分かりました、もう質問はありません」

「同じくありません」

「そうか。じゃあ、二人も東京では気を付けるんだぞ。なんてったって今じゃ東京は世界中どころか、グランディアからも多くの人が集まってきているんだからな」


 生まれてこの方県外に出た事がない人間なので、ちょっとワクワクしとります。

 ただでさえ東京は大都会というイメージがあったが、この世界では……恐らくもっと人が多いのだろう。

 大丈夫か、俺。迷子にならないか?






 そうして、高校生活最後の夏休みが始まった。

 東京に向け出発するのは明後日なのだが、本日夏休み一日目、その引率を引き受けた訓練施設の職員と顔合わせがあるという。

 待ち合わせ、というか訓練施設に集合という話なのだが……。


「お、来たわねユウキ君! まだ閉館中だからスタッフ用の入り口から入って頂戴。一緒の子ももう中で待ってるわよ」

「あ、受付のお姉さんじゃないですか。もしかして引率って……」

「そうよー、私よ私。これでも一応、秋宮カンパニー本社から派遣されて来てるのよ?」

「なんだ、ならもっと早く教えてくれたらよかったじゃないですか」

「いやぁ、驚かせたくって」


 いつも受付で対応してくれるお姉さんが引率でした。あれ? もうお姉さんとの出会いって希望が果たされた気がするんですがそれは。

 お姉さんに連れられスタッフルームに連れられると、サトミさんがいた。


「あ、おはようササ……ユウキ君」

「一瞬パンダの餌の名前が聞こえた気がする。おはよう、サトミさん」

「あはは……まだちょっと慣れなくて」

「あらー初々しい。さ、じゃあ自己紹介から始めましょ。ササハラ君も私の名前、知らないでしょ?」


 はい。ネームプレートもついていないので、いつもお姉さんとしか呼んでませんでした。


清水明海シミズアケミよ。年齢は秘密。一応、秋宮カンパニーの社員。ついでに言うとこの施設の所長だったり」

「え! 凄いです、女性でこんなに若いのに……憧れちゃいますね」

「ふふん、そうでしょう? どう? びっくりしたササハラ君」

「うん、普通にびっくりした。俺、てっきりただの案内役のバイトだと思ってた」

「……まぁそう思うわよね」


 そして俺達もフルネームで自己紹介をする。と言ってもアケミさんは俺の事、フルネームから住所、身長体重から幻力、得意武器まだ全部知っているのだが。

 が、サトミさんはここの施設を利用したことがなかったらしい。


「サトミちゃん知ってる? ササハラ君ね、この施設で一番強いのよ? 大学の戦闘サークルとか、アマチュアバトラーの人も結構来るんだけど、負けなしよ? 初めて来た時は結構負けてたけど」

「そ、そうなんですか? ササハラ君、学校でも強かったけど……そんなに強かったんですね」

「持ち上げないで。落とされた時ショック死しそうだから」


 よせやい照れくさいやい! 後お姉さん色々言い過ぎ!


「じゃ、顔合わせはこんなところね。そろそろ施設も開けるけど……どうする? 訓練してく? 今日はサービスするわよ」

「あ、じゃあ俺はやっていこうかな」

「あ、私は明日の為に買い物とかいかないといけないので……」

「了解。じゃあ、明日またこの場所にね。駅まで車で行くわよ」


 という訳で今日もしっかりと訓練を積み、そろそろバングルを三つに増やそうかなと考えつつ帰宅するのだった。

 ……相変わらず魔法は使えないくせに、身体強化の練度だけはグングン上がりおる。

 もしかして今全部はずしたら……一人ドラゴン〇ールとか出来たりしないかね?

 もしかしたらリオちゃんとももっと良い勝負が出来るかもしれない。

 いつかリベンジしたいな、あのちびっ子には。




 東京出発当日。寝坊した、なんて事はなく、しっかりと明海さんの車で県中央の駅へ。

 あの新幹線にのるのか……対G訓練とか受けなくて平気? 中でピンク色のミンチが完成なんてスプラッタな展開とか勘弁してください。


「ええと……あった。ササハラ君通路側、サトミちゃんは窓側。私は通路挟んで隣ね」

「夏休みだけあってすっげぇ混んでますね……」

「そうね。でもこの車両、学生と引率オンリーなのよ? これも秋宮の計らいね」

「やだもう恐い。ところで……これって東京までどれくらいかかるんですか?」

「ざっと一時間半かしらね? まぁそれまで互いの交流でも深めましょう」


 うっそだろ! 俺の記憶が正しければ三時間以上かかるはずでしたが!?

 ちなみに料金を聞いてみたところ、知ってる代金の三分の一でした。

 ……科学力の差が割と大きいっすわマジで。

 そして、本当に軽くおしゃべりをしていただけで我々は東京へと到着してしまいました。


「見たことはあったけど……駅ってこういうおシャンティな建物なんだな本当は……」

「あはは……地元だと無人駅いっぱいあるもんね」

「ふふ、確かにそうね。ただ目的地はここからまだあるわよ。ここから専用バスで海上都市まで行くんだから」


 東京駅。TVで見たことはあったのだが、この世界では更に規模が大きくなり、モノレールまでもが通っている。

 そして今出てきた『海上都市』こそが、俺の知る東京との一番大きな違いだ。

 グランディアと繋がるゲートが海上にある関係で、その周辺に人工島が作られ、国際空港まで作られているのだが、その空港から東京へアクセスしやすくする為、元の世界では東京湾の沖だった場所に、巨大な海上都市が作られているのだ。

 そんなアホな、とも思ったのだが、魔術魔法が存在するお陰でこの世界の科学力は元いた世界の比ではない事を、先程の新幹線で身を持って体験した訳だし……なんとかなっちゃうんだろうなぁ。どうせ秋宮だろ、そうに決まってる。


「モノレールは一般のお客さんで満員だからね。召喚実験に参加する人間専用のバスがあるのよ。さて、じゃあ私とは一回ここでお別れね。引率の人間はまとまって移動しなきゃいけないから、向こうのホテルで会いましょう」

「了解っす。んじゃサトミさん、行きますか」

「はい。では明海さん、またホテルで」


 新幹線で移動してきた生徒達が集まるステーションへと向かう。

 地元だけじゃない。途中の駅で乗り込んできた県外の他の生徒も多く集まっており、もしかしなくても全員……こっちの訓練校に入学する為の対策で召喚に挑むんだろうな。

 倍率……めっちゃ高そう。凄く狭き門だって話だし、こっちの高校でエリート街道突っ走ってる人間も受験するだろうし……何よりも、グランディアで過ごした事すらある学生だっていると聞く。なんなら、実際に魔物と戦った経験がある生徒ですらいるって話だ。


「さすがに緊張してきたね、サトミさん」

「う、うん。ここに居る人達、みんなライバルになるかもしれないんだよね」

「ですです。俺やだなー目の前で誰かがとんでもない物召喚して、その次にしょっぼい物呼び出すって展開」

「うう……私も想像しちゃった」


 そしてバスに乗せられ、都市の中を進む。

 すげぇ、車線多い! それに自転車専用道路……自転車? あれなんか浮いてない? 光ってない? なにあれ欲しい、通学に便利そう!

 そんなおのぼりさん全開モードな僕ですが、どうやら周りにも似たような人が多いみたいなので一安心です。

 そうして、見たことのある物、ない物。そして全く知らない物がひしめく大都会の中をひたすすみ、いよいよ俺の知らない世界、海上都市へとバスが進む。

 うへぇ……こんな長い橋、大丈夫なのか? 地震大国日本ぞ? 壊れない?


「……見えてきた。なんだあの大きさ、まるで第二の東京じゃないか」

「ええと、東京の四分の三の大きさみたい。グランディアから移住してきた人の半数が住んでいて、魔術魔法関連の研究所の大半もあそこにあるんだって」

「ほほー……何か面白い物でも売ってないかな、グランディア産の武器とか」

「あると思うよ、私も術式リンカー見てみたいんだー」


 おのれ、魔術師タイプか! 魔法のコツ教えろください!


 どんどん近づいて来る海上都市。そしてチラリと気になったこの世界の東京湾。

 あ、普通に海が青い。クリーンなエネルギーに満ちた世界、万歳。

 そしてバスは、高層ビルが立ち並ぶ地区を通り過ぎ、ホテルが集中する区画へと差し掛かる。

 観光スポットとして人気らしく、北海道、京都を抑えて海外からの観光客数No1という話だ。

 尤も、内部に入る為には厳しい審査が必要という話だが。

 するとその時、バスの中にアナウンスが鳴り、それぞれの学校名が読み上げられ、その学校の生徒が下ろされる。

 どうやら、学校ごとに泊まるホテルが決まっているらしい。さすがにホテルまるまる貸し切りは難しかろう、シーズン的に。


「うわぁ、凄いホテルだったね今の。私達はどんなところなのかな?」

「ちっさい民宿。カプセルホテル。ビジネスホテルのチェーン。ネカフェ。さぁ、好きな宿を選んでね!」

「い、嫌! ないよね、そんな事ないよね?」


 サトミさん、反応がいちいち可愛いからからかい甲斐があります。

 そうしてどんどんバスの乗客が減っていき、ついに残りは俺達と同じ県の人間だけが残る。

 そして、最後にバスが到着したのは――


「ま た 秋 宮 か !」

「わ! 凄い、秋宮カンパニーのリゾートホテルだよ!」


 これまでのホテルに輪をかけて立派な、超巨大ホテルへと到着しました。

 そういやショウスケがリゾート部門もあるとか言っていたな……。


「お、来たわね? じゃあチェックインしましょうか。ただ、私この後この地区にある支社に顔出さないといけないから、ちょっと今日はホテルの中で過ごしてもらうけど……大丈夫?」

「はい、勿論です! ホテルの中だけでたぶん、地元の繁華街より栄えていると思います」

「あはは……そうなのよね。ユウキ君も、ここの訓練施設は御贔屓の秋宮の最新モデルの貸し出しもしているから、試してみたら?」

「あ! それは超テンション上がりますね!? 了解しました」


 やべぇ、俺たぶんこのホテルの中だけで夏休み過ごせる自信あるわ。

 もしかしてゲーセンも……い、一応UFOキャッチャーとかメダルゲームなら元の世界と変わらずにあるから……。

 アケミさんに続きチェックイン。広さおかしい。ロビーだけで学校の体育館二個分の広さなんですが。


「ふふふ……最上階のペントハウスに行きましょう」

「ペント……なんだって?」

「ユウキ君、スイートルームのさらに上のグレードだよ……凄い、たぶんもう一生泊まる事ないと思う」

「ふふん、一応本社の人間だからね、私。コネよ、コネ」


 ちなみに俺達と同じホテルの学生達は、スイートルームに宿泊するらしい。

 至れる尽くせりじゃないか。

 八九階まであるという頭のおかしい高さのホテル。エレベーターに乗り込むと、あっという間に到着のアナウンスが。

 曰く、魔法による反発を利用した……よく分からん。とにかく早い!

 最上階にはどうやらそのペントなんたらという部屋しかないらしく、フロア丸ごと一つの部屋であり、同時に屋上になっている部分が庭になっているそうだ。

 ほぼ庭付き一戸建てのような感じです。

 オラこんたすげぇどこ初めで来ただぁ……。


「わぁ……! 凄い、海が見えるよユウキ君!」

「そりゃ海上都市ですから」

「そ、それもそうだね。でも凄い……人工の砂浜って聞いていたけれど……日本じゃないみたい」

「実際ほぼ日本ではないけれどね。一応日本の国内ではあるけど、各国の研究所に大使館まであるし、見た目ほど綺麗な場所じゃないのよ、政治的には」

「でしょうねぇ……最寄りの国が日本なのと、何故か向こうの言語が日本語とほぼ同じなお陰で優位性はありますが……良く思ってない国も多いですよね」

「そういうこと。それに……何故か秋宮財閥とグランディアの権力者が蜜月の仲って言われているくらい、仲が良いのも影響しているのよね」

「また秋宮か! なにか関係でもあるんですかねぇ異世界と」

「さてねぇ……ま、私もその会社に所属している身だけどね」


 荷物を下ろし、パリっとしたスーツに着替えたアケミさんは、そのまま支社へと向かって行った。夕方過ぎには戻ると言うので、それまではホテルの敷地内でなら好きにして良い、と。

 なので早速訓練施設、最深のVR設備から武器まで取りそろえられているというそこへ向かう事にした。


「あ、私も行って良いかな? 身体を動かして慣らしておいた方が、良い結果に繋がるかも、なんて」

「確かにね。じゃあ俺も着替えるからサトミさんも着替えなよ。もう学生服じゃなくても良いんだし」

「う、うん」


 一応、ホテル到着までは学生服でした。移動中もしっかり生徒としての自覚を持つようにうんぬんかんぬんという理由で。

 という訳で、あまりおのぼりさんみたいな恰好にならないよう、いつも通りのラフな格好に着替えて参りました。ラフであり、裸婦では断じてありません。


「お待たせ、大丈夫かな? 気合い入り過ぎてないかな……都会だからってちょっと張り切りすぎちゃったかな……」


 現れたのは、白いお洒落なスリットの入った半そでワンピースに、いつもはおさげにしている髪をストレートにとかしたサトミさん。

 化粧もしているのだろうか、いつもより大人っぽいじゃごぜぇませんか。

 ……うっそ、ちょっとときめいた。クラスの男子連中にスクショ見せたら盛り上がりそう。


「良い感じです、少なくとも俺が緊張するくらいには似合ってます」

「ほ、本当!? じゃあ行こう、私も最新のデバイス使うの楽しみなんだ」

「む、サトミさんはデバイス呼び派か」

「あ、うん。だって武器ってなると……戦いの道具っていうか、もっと野蛮な武器も全部ふくまれそうなんだもん」

「えー……武器って響きに浪漫感じるんだけどな、俺は」

「そこはたぶん、ほら、男と女の違い、っていうのかな?」


 なるほど。だが俺は断固武器派。百歩譲ってウェポンデバイス。ちなみにこれが正式名称。

 やっぱり武器じゃないか。はっきり分かんだね。




「ほほー! 凄い、めっちゃ広い! うおお、強そうな人めっちゃいるじゃん」

「ユウキ君嬉しそうだね? ふふ、もしかしたら負けちゃうかもだし、応援するね」

「へへへ、望むところですわ、んじゃ武器借りにいきましょ」


 早速受付へ向かいレンタルリストを見せられる。

 通常、年齢制限、幻力(内包魔力の強度や総量)、学校での成績などを考慮して貸し出してもらえる武器が決められる。

 が、そこにさらにレンタル料金というものが発生するので、俺はいつも一番古い秋宮モデルを愛用していた。まぁ、整備不良がありそうなら別な物も使うのだが。

 だがしかし! なんとここの施設は全ての代金が……ホテル宿泊費に含まれている!

 つまり、俺は普段手が出せない高級品、最新式、グランディア産の武器にまで手を出せる!


「うひょう、これはもうテンション最高潮ですわ。じゃあ……秋宮の限定モデル……サムライエッジバージョンVだ!」

「あ、日本刀みたいなタイプだ。浪漫だね、刀。じゃあ私は……指輪とバングルのセットかな。秋宮は魔力誘導補正が強すぎるからUSH製で」

「玄人思考でびびった。っていうか誘導性なんか秋宮にあったんだ」

「あれ? かなり強いよ? 初心者用にって」

「へぇ、あまり感じた事なかったけどなぁ」


 武器……ウェポンデバイスの光刃や銃弾、矢の発生元はあくまで自分の幻力、俗にいう魔力だ。が、それを放出、維持には繊細なコントロールと瞬発力が必要だという。

 もしかして俺がこれまで戦えていたのはその力によるものだったのだろうか?

 ちなみにサトミさんのような魔術師型の人間は、直接自分で魔力を魔法に変換、その際の変換効率を上げてくれるのが術式リンカーと呼ばれる装備だ。

 コントロールや放出する為の穴のような物が大きな人間ほど向いているというが……もしかして俺、それが完全に閉じてしまってるとかなんでしょうか……?

 だが身体からは一応出ているはずなんだよなぁ。抑制バングルの効果もあるし。

 左腕に三つ並んだそれを撫でながら、やはり少しだけ未練がましく魔法に思いを馳せる。

 ううむ……氷の刀! とか、炎の刃! とかやってみたい人生だった……。


「おお、これがサムライエッジタイプ……美しい流線だぁ……」

「うっとり刀を見つめてるみたいで、完全に危ない人だね」

「否定はしない! だって見てよコレ、金属パーツが全部鏡面に磨かれて本物の刀そのものだよこれ。この戦いには影響しないのに、外見を刀に似せる為だけに施された浪漫加工! 惚れ惚れするじゃろう」

「確かに綺麗かも……これ、魔力光は……」

「ちょいと発動」


 その瞬間、いつもと違う、まるで身体から勢いよく引っ張られるような感覚とともに、過剰なまでに刃が白く輝きだす。

 うお、腕が持っていかれる。


「ちょ、なんだこりゃ! 制御効かないぞ!」

「まさか不良品……?」

「出力をもっと絞れば……ギリギリいけるか?」


 まるで勢いよく水が噴出するホースを持っているような感覚だった。

 これ、ちょっとやばくないか?


「模擬戦の相手誰かいないか探してくる」

「あ、ここはVRで対人訓練も出来るって書いてあるから試してみたら?」

「おお……これが噂の……ビバ都会」


 ならばと早速トレーニングルームへと向かう。

 個人用とあったので、恐らくここで正解だろう。

 中は真っ暗。すでにVRシステムが起動済みの様子。

 すると、うっすらと周囲に光のラインが走り、まるで懐かしのゲーム画面、ワイヤーフレームのような空間が生み出された。

 すげえ……格闘ゲームのトレモみたいだ。


「相手は……人型か」


 いつの間にかいた相手。用意されたにしてはあまりにもリアルな人間。

 誰かモデルでもいるのか、三十代にさしかかりそうなお兄さんがそこにいた。

 使う武器は……銃と小型剣。これもこれで浪漫だ。

 開始の合図などはないらしく、おもむろに相手が銃口を向ける。

 確認と同時に動く足が、壁を蹴り、ひたすら射撃を躱す事に専念する。

 動ける。増やしたバングルが心配だったが、十分に戦える。


「ハッ!」


 出力をいつも以上に絞り、暴走を抑えた刃で切りつけると、剣ではなく銃でそれを防がれ、そのまま角度をかえて近距離射撃をおみまいされる。

 あぶな……かすったぞ今。

 再び乱射モードに切り替わる相手。それを回避しながら徐々に距離を詰め、そろそろダッシュ一回で距離を詰められる場所まで来たところで……もう一段階速度を変え接近。

 今度はあえて少し暴走してもいいように魔力を込め速度を上げた刃が、防ごうと出された銃を大きく弾き、相手の腕が跳ね上がる。

 だが、もう片方の小剣がギリギリ刃を反らし、距離をあけられる。

 ……つええ……AIってここまでやれるのかよ……毎日戦えたら最高じゃんこれ。


「……遠距離の封じ方とか歩法とかもうちっと考えるか」


 今一度剣を構え、相手の出方を窺う。だが、一向に動こうとしなかった。

 それどころか自分の銃の調子を見たかと思うと――


「オペレーター、訓練停止だ。デバイスが片方損傷してしまった」

「は!? え、人間!? え!?」

「ん? どうした?」

「あ、本物の人間……?」

「そうだが? どうした、何を驚いている」

「えっと……ごめんなさい!」


 すみません、部屋、間違いちゃったみたいです。




「ククク……そうか、ただの一般人だったか。てっきり訓練用に用意された人間かと思って相手をしていたが……まさか私をAI搭載のVRエネミーだと勘違いしていたとはね」

「ご、ごめんなさい……ちゃんと調べるべきでした」

「いや、こちらも人が来ると思いロックをしていなかった。お互い様さ」

「は、はは……あの、デバイスの方は……」

「構わないよ。あれは普段使わない物のテストだったんだ。だが……それにしたって中々やる。見たところまだ若いようだが」

「あ、高校三年生っす。ここに泊まってて……」

「ああ、もしかして召喚実験に推薦された学生さんかい?」

「あ、そうです」


 男性に連れられ、休憩スペースでおごられる。

 いやぁ……怒ってなくてよかった。あんな高そうなデバイス、弁償しろなんて言われたらどうなっていたことか。

 聞いたところ、彼は仕事でこちらに来ているバトラーらしい。それで、今はオフだからと、知人のデバイスの調整を行っていたとのこと。

 ごめんなさい知人さん。デバイス、ぶっ壊しちまいました……。


「そうか……まだ一八かそこらか」


 しみじみと頷く男性が、深く考え込むように静かになる。

 ……なんだろう。なにか気になる事でもあったのか。


「あ、ユウキ君いた! さっき入ったの対VRの部屋じゃなかったみたいだよーって……お知り合いの方、ですか?」

「ん? 彼女さんかい? ちょっと彼とお手合わせしてもらっていたんだよ」

「あ、違います。一緒に実験を受けに来た同じ学校の者ですから」


 否定が冷静かつ的確、しかも早い。

 ナチュラルすぎてちょっと傷ついた。


「さて、では私はそろそろお暇しようかな。君、ありがとう。お陰で有意義な時間を過ごせたよ」

「うっす。こちらこそありがとうございました」


 そう言って、男性は訓練施設を後にした。

 いやぁ……やっぱ強いなバトラーって。アレ絶対本気出してないでしょ。

 しかも自分の使う武器じゃないって話だし。


「やっぱり上には上がいるんだねぇ……」

「当たり前だと思うよ? じゃ、ユウキ君。次は私と模擬戦しよっか」

「あいあい。んじゃ俺が全力で逃げるから、魔法を当ててみてよ」

「ふふ、了解」








 男は、嬉しそうに笑う。

 そんな男の姿が気になったのか、いつの間にか現れたもう一人の男性が話しかける。


「機嫌よさそうじゃねぇか。人のモンぶっこわしておいて」

「クク、壊したのはあの少年さ」

「お前が乱暴に扱うからだろうが」

「ふむ? じゃあ何かい? 君の特注品は、少年の一撃程度、それも使い手が私でもあるに拘わらず簡単に壊れてしまうような代物なのかい?」

「っ……それは……」

「……あの少年、既製品ではあるが抑制バングルを三つ装着していた。その上で私と戦い、コレを破壊して見せた。お遊びとはいえそれが出来る高校生なんて、私は知らないよ」


 男と、現れたもう一人の男が同時に笑みを浮かべる。

 酷く機嫌が良さそうに、まるで面白いおもちゃを見つけた子供の様に。


「へへ……許してやるよ、そいつの事は。久々に面白い話が聞けた」

「ああ、私もだ。実に、面白い。彼がどんなモノを呼び出すのか、興味が湧いてきたよ」


 嬉しそうに笑う二人の男。だがその実、二人の目だけは笑っていなかった。


「ところで、君はまた暫く既製品で過ごす事になった訳だが、任務の方は大丈夫なのかい?」

「あん? どうせただの付き添いだ。失敗が決まってるのに装備に気を使う必要なんかねぇだろ」


 二人は、意味深な言葉を残し、そのまま人知れずホテルから姿を消したのだった。


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